レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
572 / 1,557
第12章 出向

座敷牢

しおりを挟む
 左側に並ぶ部屋はそれぞれ捜査関係の部署らしく私服、制服の署員がひっきりなしに出入りを繰り返していた。男はその部屋をまるでそんなものが存在しないと言うようにまん前を向いたまま歩き続ける。

 なかなかたどり着かなかったが、エレベータルームを通り過ぎて人気がなくなると男の足取りは急に遅くなった。いくつかの閉まったままの扉。そのどれを開くか迷っているように何度か身を翻した後、その中の真ん中の一番地味な扉を男は開いた。

「おう、来たか」 

 すでに東都警察の制服に着替えていたかなめが目に飛び込んでくる。黙っていれば制服が似合う彼女らしく襟に警部補の階級章を光らせている。

「そういえば大丈夫?神前……一応巡査部長扱いでよかったんだな」 

 カウラから誠に巡査部長の階級章が手渡された。

「それにしても……私は似合う?」

 カウラとかなめが警部補の階級章をつけているのに対し、アイシャのそれは警部のものだった。いつも東都警察の巡査部長の制服を着ているはずのラーナだが彼女の姿はなぜか見えなかった。

「おい、とっちゃん坊や。何でこいつが警部なんだ?」 

 誠をつれてきた男にかなめは喧嘩腰で食って掛かる。誠は止めようと手を伸ばす体勢で話を聞いていた。

「いやあ、僕は事務方だからねえ……」 

「事務屋だと現場のことがわからねえって言う気か?うちでさえ管理部門の大将はアタシ等の行動も把握済みだぞ。なんだか東都警察も……」 

「黙れ、西園寺!」 

 カウラが思い切りテーブルを叩く。

「一応、これでも仲がいいんですよ……ねえ?」 

 さすがにかなめの暴走が予想を超えていたのでフォローを入れるアイシャだが、にらみ合うかなめとカウラを珍しそうに眺める男の目に浮かんだ軽蔑のまなざし。こう言うことに敏感なかなめは怒りのようなものを覚えているらしいことは誠にも分かった。

「まあ……とりあえずこちらの部屋を使用してください。それと連絡は杉田と申すものが担当しますので」 
 それだけ言うと男は出て行った。いつもの面々だけになると誠達は部屋の様子を思い思いに見回した。

「用具室か。結構片付いているんだな。うちの部隊とは……」 

「でも本来人のいるとことじゃないんじゃないの?ここ」 

 カウラは何とか自分を納得させるようにつぶやくがそれをアイシャがぶち壊す。確かに何もなかった。端のほうに書類のダンボールが山積みにされ、とってつけたようにいつのころの時代のものかと聞きたくなる端末が置かれた机と椅子が四つ並んでいる。

 ノックの音がした。

「どうぞ」 

 アイシャが当然のように答える。入ってきたのはかなりくたびれた背広を着た定年間際と思われるやせぎすの男だった。

「杉田さんですね」 

 アイシャの言葉にそれまでの無表情が人懐っこいものへと変わる。

「ええ、まあ」

 杉田の返事にアイシャは満足げにうなづく。かなめは相変わらず不機嫌そうに周りを見回している。

「ひでえ部屋だな」

「実は……上からの指示でね。本来なら大事な助っ人だ。いい部屋を用意しておくべきなんですけどねえ」 

 杉田氏が口を開くまでもなく誠達はこの惨めな有様が東都警察上層部の意図だと言うことを理解していた。

 同盟厚生局事件。一応外面的にはテロリストによる法術データ強盗事件と言う発表で落ち着いているが、三ヶ月前のその事件は厚生局による違法法術研究の事故が原因であり、その為に東都警察と司法局実働部隊が対応に当たったことは司法関係者なら誰もが知っていることだった。

 その時、虎の子の法術対応即応部隊を投入しながら何一つ点数を稼げなかった東都警察が、暴走する実験体を対峙して見せた誠達に明らかに嫉妬していると言う噂は散々聞いていた。

 そしてその結果が目の前の哀れな現状だった。仕方がないというように顔を怒りで引きつらせながら椅子に座るカウラ。かなめはもう怒りを通り越して呆れてそのまま窓から外を眺めている。

「空調はちゃんと効くのね」 

 そう言いながらアイシャはそのまま奥の空調機を確認する。誠はただ黙って杉田の顔を眺めていた。

「ご不満でも?……まあ不満でしょうね」 

 急にそれまでの杉田の柔和な表情が緊張する。一応は東都警察の警察官。しかも見るところベテランであることは間違いない。にらみを利かせるように言われれば誠はただ黙ってうなづくしかない。

「……捜査関係の資料は閲覧できるのですか?」 

「当然です。ただし……プロテクトがかかっている部分については……」 

「安心しな。うち専属のハッカー吉田は本隊でお寝んねだよ」 

 半分やけになったようにかなめは叫ぶとそのまま近くの席に腰を下ろした。

「それではよろしくお願いします」 

 そう言うと杉田は見放すようにドアを閉めて消えていった。

「予想したよりはかなりましなんじゃないの?」 

 早速端末を起動させながらアイシャがつぶやいた。

「でもなあ」

「西園寺。結果で示せばいい事だ」 

 カウラの言葉にかなめは渋々うなづく。誠はただ不安で一杯になりながら自分の襟に巡査部長の階級章を取り付けていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

れすとあ ─モンキーガール、風になる─

海凪ととかる
キャラ文芸
 中学女子の100㍍走の記録保持者で、天才スプリンターとして将来を嘱望されていた大倉香奈 《おおくらかな》はスポーツ特待生として陸上強豪校への進学が決まっていたが、競技中の怪我で引退を余儀なくされ、燃え尽き状態で日々を過ごしていた。  香奈のクラスメイトで同じ中学出身である宮本佑樹《みやもとゆうき》は母子家庭で、パン屋に勤める姉の紗羅《さら》、不登校である小学生の妹の咲良《さくら》と一緒に暮らしている。ミニバイク『モンキー』を姉共々愛しており、整備を一手に引き受け、高校にもモンキーでバイク通学している。  ある日、登校直前までモンキーを整備していた佑樹は、学校の玄関で電車通学している香奈と会い、オイルで汚れた手を見られ、バイクの整備ができることを明かす。その時は特にバイクに関心はなかった香奈だったが、その日の放課後、偶然に紗羅の勤めるパン屋に寄り、そこにあった沙羅のモンキーに一目惚れしたことで、モンキーに乗るために二輪免許を取ることにする。  すでに廃番となっている旧車のモンキーをどうやって手に入れたらいいか佑樹に相談した香奈に、佑樹は自宅にある壊れた廃車のモンキーを自分の手で再生《レストア》してみることを提案する。自分の目でそのモンキーを目にした香奈は、自分の足で走れなくなった自分自身と乗り手に見捨てられたモンキーの境遇を重ね、再び一緒に走れるようにモンキーのレストアに着手していく。  これは、自分の足で前へ進めなくなって俯いていた少女が新たな足を得て再び顔を上げて前へ踏み出すまでの"再生"の物語。  これは、乗り手から見捨てられて朽ちつつあった旧車のバイクが新たな乗り手によってレストアされて再び走り出す"再生"の物語。   ※この物語の本文にはAIは使用していません。表紙イラストおよび作中挿絵はAI生成です。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...