レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第7部 『殺戮機械が思い出に浸る時』 第一章 失踪

いきなり詰問する姪

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「隊長に聞くのか?」 

 不服そうにつぶやくカウラをかなめは情けなさそうな顔で見つめる。

 司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐。かなめの叔父でかえでの義父でもある喰えない中年士官の間抜けな面を思い出して誠はため息をつく。

「無駄だと思うけどな……」 

 思わず誠がつぶやくとギロリとかなめが誠を睨みつけた。

「何か言ったか?」 

 引くに引けない。そんな視線のかなめを前に、面と向かって文句を言う度胸は誠には無かった。

 廊下をただ一直線にかなめは進む。

 人気がないのが幸いだと誠は思った。もしいればまた勢い込んだかなめが尋問して回るかもしれない。隣を見れば呆れた顔のカウラが上官だからつきあうのだという顔をして歩いている。

「おい!叔父貴!いるんだろ!」 

 隊長室の前にたどり着いたかなめがしたのはノックと言うより扉を破壊しない程度にぶん殴るという感じだった。驚いて止めに入ろうとする誠だがすでにかなめは返事も待たずに勝手にドアを開けて隊長室に入っていた。

「おい!」 

「なんだよ……聞こえてるよ。でかい声出せばいいってもんじゃねえだろ?」

 いつものように手入れの行き届かない嵯峨の七三分けの髪が書類の山の向こうから顔を出した。疲れているのか、眠いのか。半開きの目が迷惑そうに詰問を始めようとするかなめを眺めていた。

「じゃあそのでかい声をださせた原因は……」 

「なんだ?吉田の話か?」 

 誠もいつものこういうときの嵯峨の察しの良さには感心させられた。かなめも図星を付かれて黙り込んでいる。それを確認すると嵯峨は制服の胸のポケットからしわくちゃのタバコの箱を取り出して一本取り出す。

「こう言う季節だ……旅にでも出たくなったんじゃないの?」 

「旅だ?許可は取ったのかよ」 

「そりゃあふと梅の頼りに誘われての一人旅に許可なんて野暮なものを求めるのは……」 

 嵯峨はそれだけ言うとタバコに火を付ける為に黙り込む。だが誠が聞いても嵯峨の言っていることは十分無茶苦茶だった。

「あいつは何か?芸術家か何かなのか?え?おい兵隊だろ?兵隊」

 かなめの頬に怒りの引きつりが走る。また面倒なことになった。誠はそう思いながらゆっくりとタバコを吹かす嵯峨に目をやった。

「あいつがいないとお前等は何か困ることがあるのかねえ……さっきからの口ぶりだと仕事が進まなくなるような被害があるみたいな感じだけど」 

「直接の被害はねえけどさあ!突然の出動とかがあったらどうするんだよ!」

 かなめが右手を振り上げて殴りかかろうとするような仕草を見せる。ただそれを見慣れている嵯峨にはまるで効果がないのは確かだった。

「アイツが出るほどの事態が起きりゃあアイツの方からのこのこ出てくるよ。それにだ……」 

 そこまで言うと嵯峨はタバコを咥えたまま隊長の椅子から立ち上がりそのまま外に向かって顔を向けた。

「コンビを組んでるシャムが困ってないから今日まで気づかなかったんだろ?シャムがアンに施している特訓の為のシミュレーションメニュー。ちゃんとシャムの提案通りに提出されてるからアイツも文句を言うこともない。部隊の管理部のメインフレームの交換作業も遅れが無いどころか予定より早く切り上がりそうだって……。仕事はしてるんだからどこにいようが俺の知ったことじゃねえよ」 

 嵯峨は静かに開いた窓の隙間からタバコの煙を吐き出す。すきま風が微かに冷たく誠達の頬をなでた。

「隊長……それは無責任じゃないですか?」 

 不意に思わぬところから声があったというように嵯峨がタバコを咥えたまま振り返った。声の主はカウラだった。その鋭い瞳が薄ぼんやりとした部隊長の顔を射すくめる。だが嵯峨も手練れだった。にやりと笑ってタバコをもみ消すとそのまま何事も無かったかのように椅子に座りなおす。

「無責任?一般的な部隊の隊員ならその言葉はまさにその通り。俺は部隊長失格だな。だが吉田は特殊な契約をしててね」 

「年俸制……事があったときは歩合で割り増し。腕の立つ傭兵の契約方式か?」

 かなめの言葉に嵯峨はにんまりと笑みを浮かべるだけで否定も肯定もしない。そして目の前の書類をぺらぺらとめくり話を続ける。

「あいつは腕利きだよ。どこの組織も欲しい人材だ。うちじゃあ三日や四日自由にしていいことにしてあいつのご機嫌を取り結んで契約を結んでいるわけだ。つまりだ。お前さん等が吉田と同じ事をすると……」 

「脱走で銃殺」 

 かなめの当然のように吐かれた言葉に誠の額に冷や汗が走る。

「まあそう言うことだ。俺は無駄な労力は使いたくないからな。探したいなら自分で探せよ」 

 突き放されたような態度でかなめもカウラも何も言えずにその場に立ち尽くした。嵯峨はようやく決意が付いたというように目の前の冊子の一ページ目を開いてペンを握る。

「まだ何かあるの?」 

「いいえ……失礼します」

 何も言えずにカウラは踵を返す。かなめも誠も従うしかない雰囲気ができあがっていた。

「ああ、一言付け加えておくと……。見つけたら教えてくれると助かるんだけどね!」 

 出て行こうとする誠達の背中に嵯峨の声が響くいた。

「おい、どうするよ」 

 かなめは扉を閉めてじっと下を向いているカウラに詰め寄る。その様子はたとえカウラが止めても自分一人で探しに出かけかねない勢いだった。

「今は勤務中だ。余計なことは考えるな」 

 それだけ言うとカウラは再び詰め所へと歩き始める。

「だけどあの様子だと叔父貴も吉田の旦那の行方は知らねえみたいだな……教えてくれなんて人にものを頼むのは叔父貴がすることじゃねえ」 

「それが分かってどうなる?明日は幸い非番じゃないか。明日考えればいい」 

 カウラはそう言うと詰め所のドアを開いた。かなめも誠もカウラの許可が出たことで探偵ごっこの真似事が始まると言うわくわくした感覚に包まれていた。
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