805 / 1,557
第17章 極道の矜持
極道の矜持
しおりを挟む
赤松の指示は愚直に実行に移された。丸腰の自分達を襲撃するものが無いのは陸軍・海軍の憲兵隊の監視によるものだと明石は気づいていた。現にいつもどおりの訓練を終え帝都西城基地でアサルト・モジュールから降りてそのまま着替えをするために更衣室にたどり着く間に憲兵章をつけた兵士と5人もすれ違うことになった。
「父上の配慮でしょうか?」
更衣室から出てきた明石を迎えた楓はそう言うとにこりと笑う。あまり笑顔と縁がないと思っていた少女の表情の変化に明石も苦笑いを浮かべた。
「ワレの親父さんが憲兵隊に在籍していた時期があったのは知っとるけど……今でも影響とかあるんか?」
そんな明石の言葉にあいまいな笑みを浮かべる楓。
「おう!いたか!タコ!」
「誰がタコやねん!」
突然背後から声をかけられて明石はその声の主の魚住の頭を思い切り押し付けた。2メートルを超える長身を誇る明石の手を載せられてもがく魚住。
「魚住中佐。何か事件でも?」
「ああ、正親町三条の嬢ちゃんも一緒か?なら話は早いな。端末を起動してくれ」
明石の手を振り解いた魚住の言葉に二人は腕の端末を開いた。休憩所にたどり着き、各種のデータを検索したがそこに出てくるのは一人の男の話題だった。
「とうとう腹を決めてくれはりましたな」
画面で演説をする男。西園寺基義の姿に明石は安堵しているようなため息をついた。
「そうだな。とうとう本命が出てきたわけだ。しかしタイミングが……こりゃあ荒れるかもしれないな」
じっと画面を見つめている楓を一瞥すると魚住がそう言って明石を見上げる。巨漢の明石から比べればかなり小柄な魚住。そんな魚住の向こう側にも広がるパイロットの待機室には数多くの先客がいる。誰も彼も自分の端末に目をやり緊迫した状況に頬を震わせている。
『……であるからして。同盟諸国との連携を図る必要があると考えるわけです』
「ふざけるな!」
一人のパイロットスーツの将校が腕の端末を取り外すと床に投げ捨てた。周りの人々は彼に目をやる。同調するようなそぶりを見せるもの、嫌悪の念を視線に乗せるもの。
明石はすでに矢が放たれたのを感じながら呆然と自分を見つめている魚住の方に向きなおった。赤松提督の子飼いの士官として名の売れている明石と魚住。明石は教導部隊の隊長としてこの場にいても自然だったが、その明石に魚住が会いに来ていることがこの場にいる烏丸派の将校達の視線を厳しいものにした。
「同盟との連携だ?なんであんな連中と手を組まにゃならんのだ?」
「やってられるか馬鹿野郎。とっとと政治犯扱いで刑務所に放り込めよ」
端末を壊した士官の肩を叩いていた同僚達が明石達を見ながらつぶやいているのを聞いてこぶしを握り締める明石の背中を魚住が叩いた。
「挑発には乗るな。分かってるだろ?」
心配そうな楓の表情を見て明石は勤務服の胸のポケットからサングラスを取り出してかける。
「そやな。年金頼みの貴族連の腰巾着の……」
そこまで言ったところで端末を壊した士官は明石に走り寄ってきていた。彼が振りかぶった右のこぶしはすでに殴る体制のできていた明石には無意味だった。明石のストロークの短い左のジャブがパイロットスーツの士官の腹にめり込んだ。彼は何もできずにその一撃で意識を失い倒れこんだ。
「弱い犬ほど良く吼える……真理やなあ……」
さっと背筋を伸ばした明石。仲間を一撃で倒されて烏丸派の残りの二人の将校は後ずさりながら明石を見上げた。もともと闇屋から裏家業での生活の長い明石はこういう時の喧嘩の仕方は良く心得ている。そしてそれ以外にも二人の将校が読み間違えていることがあった。
「どこで喧嘩をしてるか分かっているのかねえ」
「やっちまって良いですか?」
「赤松公の慈悲で丸腰なんだよ俺らは。ついてるなお前等」
自動販売機に並んでいた技術士官やエアカーテンの中でタバコを吸っていたパイロット達。彼らも多くは赤松恩顧の兵士達だった。倒れた同僚を助け起こすこともできずに取り囲まれる二人。
「止めや!リンチはいかんで。なあ」
余裕の笑みで明石が二人を見下ろす。冷や汗を掻きながら状況を見守っている二人に魚住は気を利かせて気絶をしている最初に手を出した将校を抱えて手渡した。
「すまないねえ。明石は極道モンだから加減を知らなくて……」
そう言ってにやりと笑う魚住を見るとすぐに二人はようやく意識を取り戻して唸り始めたパイロットスーツの士官の肩を取るとそのまま引きずって廊下へと消えた。
周りの西園寺派の将校達は納得したようにあたりに散る。そんな様子を楓はただ呆然と見守っていた。
「お嬢。このくらいでびびっとったらいくら心臓が丈夫でもおかしくなるで」
「いえ、殴っても良かったんですか?ああ言う手合いは。僕はその……判断がつかなくて……」
そう言って笑いながら指の関節を鳴らす楓に明石は改めて彼女があの嵯峨惟基の娘であることを確認していた。
「父上の配慮でしょうか?」
更衣室から出てきた明石を迎えた楓はそう言うとにこりと笑う。あまり笑顔と縁がないと思っていた少女の表情の変化に明石も苦笑いを浮かべた。
「ワレの親父さんが憲兵隊に在籍していた時期があったのは知っとるけど……今でも影響とかあるんか?」
そんな明石の言葉にあいまいな笑みを浮かべる楓。
「おう!いたか!タコ!」
「誰がタコやねん!」
突然背後から声をかけられて明石はその声の主の魚住の頭を思い切り押し付けた。2メートルを超える長身を誇る明石の手を載せられてもがく魚住。
「魚住中佐。何か事件でも?」
「ああ、正親町三条の嬢ちゃんも一緒か?なら話は早いな。端末を起動してくれ」
明石の手を振り解いた魚住の言葉に二人は腕の端末を開いた。休憩所にたどり着き、各種のデータを検索したがそこに出てくるのは一人の男の話題だった。
「とうとう腹を決めてくれはりましたな」
画面で演説をする男。西園寺基義の姿に明石は安堵しているようなため息をついた。
「そうだな。とうとう本命が出てきたわけだ。しかしタイミングが……こりゃあ荒れるかもしれないな」
じっと画面を見つめている楓を一瞥すると魚住がそう言って明石を見上げる。巨漢の明石から比べればかなり小柄な魚住。そんな魚住の向こう側にも広がるパイロットの待機室には数多くの先客がいる。誰も彼も自分の端末に目をやり緊迫した状況に頬を震わせている。
『……であるからして。同盟諸国との連携を図る必要があると考えるわけです』
「ふざけるな!」
一人のパイロットスーツの将校が腕の端末を取り外すと床に投げ捨てた。周りの人々は彼に目をやる。同調するようなそぶりを見せるもの、嫌悪の念を視線に乗せるもの。
明石はすでに矢が放たれたのを感じながら呆然と自分を見つめている魚住の方に向きなおった。赤松提督の子飼いの士官として名の売れている明石と魚住。明石は教導部隊の隊長としてこの場にいても自然だったが、その明石に魚住が会いに来ていることがこの場にいる烏丸派の将校達の視線を厳しいものにした。
「同盟との連携だ?なんであんな連中と手を組まにゃならんのだ?」
「やってられるか馬鹿野郎。とっとと政治犯扱いで刑務所に放り込めよ」
端末を壊した士官の肩を叩いていた同僚達が明石達を見ながらつぶやいているのを聞いてこぶしを握り締める明石の背中を魚住が叩いた。
「挑発には乗るな。分かってるだろ?」
心配そうな楓の表情を見て明石は勤務服の胸のポケットからサングラスを取り出してかける。
「そやな。年金頼みの貴族連の腰巾着の……」
そこまで言ったところで端末を壊した士官は明石に走り寄ってきていた。彼が振りかぶった右のこぶしはすでに殴る体制のできていた明石には無意味だった。明石のストロークの短い左のジャブがパイロットスーツの士官の腹にめり込んだ。彼は何もできずにその一撃で意識を失い倒れこんだ。
「弱い犬ほど良く吼える……真理やなあ……」
さっと背筋を伸ばした明石。仲間を一撃で倒されて烏丸派の残りの二人の将校は後ずさりながら明石を見上げた。もともと闇屋から裏家業での生活の長い明石はこういう時の喧嘩の仕方は良く心得ている。そしてそれ以外にも二人の将校が読み間違えていることがあった。
「どこで喧嘩をしてるか分かっているのかねえ」
「やっちまって良いですか?」
「赤松公の慈悲で丸腰なんだよ俺らは。ついてるなお前等」
自動販売機に並んでいた技術士官やエアカーテンの中でタバコを吸っていたパイロット達。彼らも多くは赤松恩顧の兵士達だった。倒れた同僚を助け起こすこともできずに取り囲まれる二人。
「止めや!リンチはいかんで。なあ」
余裕の笑みで明石が二人を見下ろす。冷や汗を掻きながら状況を見守っている二人に魚住は気を利かせて気絶をしている最初に手を出した将校を抱えて手渡した。
「すまないねえ。明石は極道モンだから加減を知らなくて……」
そう言ってにやりと笑う魚住を見るとすぐに二人はようやく意識を取り戻して唸り始めたパイロットスーツの士官の肩を取るとそのまま引きずって廊下へと消えた。
周りの西園寺派の将校達は納得したようにあたりに散る。そんな様子を楓はただ呆然と見守っていた。
「お嬢。このくらいでびびっとったらいくら心臓が丈夫でもおかしくなるで」
「いえ、殴っても良かったんですか?ああ言う手合いは。僕はその……判断がつかなくて……」
そう言って笑いながら指の関節を鳴らす楓に明石は改めて彼女があの嵯峨惟基の娘であることを確認していた。
10
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
れすとあ ─モンキーガール、風になる─
海凪ととかる
キャラ文芸
中学女子の100㍍走の記録保持者で、天才スプリンターとして将来を嘱望されていた大倉香奈 《おおくらかな》はスポーツ特待生として陸上強豪校への進学が決まっていたが、競技中の怪我で引退を余儀なくされ、燃え尽き状態で日々を過ごしていた。
香奈のクラスメイトで同じ中学出身である宮本佑樹《みやもとゆうき》は母子家庭で、パン屋に勤める姉の紗羅《さら》、不登校である小学生の妹の咲良《さくら》と一緒に暮らしている。ミニバイク『モンキー』を姉共々愛しており、整備を一手に引き受け、高校にもモンキーでバイク通学している。
ある日、登校直前までモンキーを整備していた佑樹は、学校の玄関で電車通学している香奈と会い、オイルで汚れた手を見られ、バイクの整備ができることを明かす。その時は特にバイクに関心はなかった香奈だったが、その日の放課後、偶然に紗羅の勤めるパン屋に寄り、そこにあった沙羅のモンキーに一目惚れしたことで、モンキーに乗るために二輪免許を取ることにする。
すでに廃番となっている旧車のモンキーをどうやって手に入れたらいいか佑樹に相談した香奈に、佑樹は自宅にある壊れた廃車のモンキーを自分の手で再生《レストア》してみることを提案する。自分の目でそのモンキーを目にした香奈は、自分の足で走れなくなった自分自身と乗り手に見捨てられたモンキーの境遇を重ね、再び一緒に走れるようにモンキーのレストアに着手していく。
これは、自分の足で前へ進めなくなって俯いていた少女が新たな足を得て再び顔を上げて前へ踏み出すまでの"再生"の物語。
これは、乗り手から見捨てられて朽ちつつあった旧車のバイクが新たな乗り手によってレストアされて再び走り出す"再生"の物語。
※この物語の本文にはAIは使用していません。表紙イラストおよび作中挿絵はAI生成です。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる