レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
854 / 1,557
第45章 包囲網

激闘の始まり

しおりを挟む
「大丈夫かよ」 

 明石が青い顔をしているのに気づいた別所が声をかける。幹部のみのブリーフィングルーム。すでに羽州艦隊が先行して胡州海軍第三艦隊の待ち構えているアステロイドのデブリに向かっていた。

「ああ、ワシは考えてみると初陣やったなあ」 

「確かに」 

 振り返る魚住と黒田の顔が笑顔に染まっている。

「今度は帰りの燃料もあるからな。安心して戦えるぞ」 

 別所はそう言いながらモニターを指していたペンを振り回しながら明石の目の前まで来た。そしておもむろに明石の剃りあげられた額を触る。

「熱は無いか。なら問題ないな」 

 その動作に明石は別所もまた先の大戦で人生を狂わされた被害者であることを思い出した。そして同世代の他の艦のアサルト・モジュール部隊の部隊長達もそんな一人なのかと思うと次第に目頭が熱くなった。考えてみれば別所も魚住も戦争が無ければたぶん球場で何回か話をしたくらいでこれほどまでに近しい存在にはならなかっただろう。別所は父の跡をついで病院の内科医になり、魚住は商社か何かのサラリーマンになっていたことだろう。自分も宗教学者が務まるほどでは無かったので実家の寺で読経の日々を過ごしていたはずだった。

 しかし戦争はすべてを変えた。

 三人はそれぞれ第三艦隊の最前線に有って指揮を執る旗艦『播磨』の最前線部隊を指揮することが決定していた。お互い命を預けての戦いになるのは目に見えていた。

『俺達と同じような物語があいつ等にもあるんやろか?』 

 黙って明石は周りの熱心に作戦の要綱を伝える別所の言葉を聴いている指揮官達を眺めている。

「ぼんやりしてるんじゃないぞ!タコ」 

 あまりに別のことを考えていた明石に別所の投げたペンが飛んだ。それをすばやく交わすと明石はしてやったりというようににんまりと笑っていた。

「それでは健闘を祈る」 

 そんな別所の言葉に明石はペンをよけた感覚で目を覚ましたように顔を上げた。他の艦から出撃する部隊の隊長達は足早に会議室を出て行く。

「そんなに眠いのかよ」 

 ぼんやりとした顔の魚住。その隣では不思議そうな表情の黒田が明石の顔を覗き込んでくる。

「すまんのう。ワシはどうかしとるかもしれんわ」 

 そんな明石の言葉に魚住は不思議そうな顔をした後で立ち上がる。

「相手は『胡州の侍』安東貞盛大佐殿だ。そう簡単に話が済むはずはないからな」 

 立ち上がり伸びをする魚住。邀撃部隊の経験のある彼はある意味達観したように大きくあくびをする余裕があった。

「なんや、落ちついとるやん」 

「まあな。生きて帰れるかどうかはわからんが今のところ俺の神経はまともらしいや。それより貴様はさっきから変だぞ」 

 再び自分のことを魚住に指摘されて明石は覚悟を決めたような表情で立ち上がる。二メートルを超える巨漢の明石が立ち上がると慣れているとはいえ小柄な魚住はのけぞるように反り返る。

「明石、一つだけ助言をしてやるよ」 

 明石が立ち上がるのを見ると、艦隊付きの参謀と打ち合わせをしていた別所が駆け寄ってきてニヤリと笑った。

「なんやねん。気持ちわるいなあ」 

 そう言って胸のポケットからサングラスを取り出した明石を見上げて再び別所は笑みを浮かべる。

「これは一番大事なことだと俺は思っているんだ」 

「だからなんやねん」 

 なぜか別所の態度に明石はいらだっていた。それが初の実戦を前にした苛立ち妥当ことは明石も分かっていた。そしてそんな苛立ちを読み取らせまいと必死に強気な表情を作り上げようとするがどうせ別所にはばれるだろうと諦めた瞬間だった。

「英雄になろうとしないことだ。相手は強い。元々技量の差が大きく出るアサルト・モジュール戦じゃあ安東さん相手には勝ち目は無い。とにかく生き残れ」 

 そんな言葉に少し違和感を感じながら明石は手を振って会議室を後にした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

蒼月館の招待状

天音 翔杜
ミステリー
最初に足音を聞いたのは、夜明け前だった。 二度。間を置いて、また二度。 けれど、そのとき廊下には誰もいなかった。 招待状が届いたのは、それよりずっと前だ。 封筒の差出人は空欄で、同じ紙がほかの人にも届いていたらしい。 山の中の〈蒼月館〉に集まった顔ぶれは、互いに無関心を装っていた。 吊り橋を渡った人がいる。理由は聞きそびれた。 戻ってきたのかどうかも、誰も確かめなかった。 あの足音を聞いたのが幻だったのか、それとも——。 答えは今も、霧の中に置き去りのままだ。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

器用貧乏妃の後宮記~皇帝が行方不明になったので、身代わりを仕立て上げます~

幸路ことは
恋愛
 家計を助けるために後宮に上がった鈴花。生家である玄家は、様々な事業に手を出しまずまずの成果をあげてきたため、器用貧乏の玄家と呼ばれていた。その長女である鈴花もたいていのことは無難にこなせる器用貧乏で、頼まれたら断れないお人よしだ。  どうせなら国のために役立とうと意気込む鈴花だが、即位したばかりの皇帝は素顔を仮面の下に隠し声を聞く事すら稀という変わり者だった。その皇帝が賊の襲撃を受けたという報が入り、行方知れずとなってしまう。皇帝の不在が長引けば、政治も後宮も荒れる。鈴花は事態を収拾するため、皇帝の身代わりを立てることにするのだった。  基本的に毎日更新します。ふんわり中華です。基本は唐ですが、他の時代も参考にしています。  小説家になろうにも掲載中。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

兄の婚約解消による支払うべき代償

美麗
恋愛
アスターテ皇国 皇帝 ヨハン=シュトラウス=アスターテ アスターテ皇国は周辺国との関係も良く、落ち着いた治世が続いていた。貴族も平民も良く働き、平和で豊かな暮らしをおくっている。 皇帝ヨハンには 皇妃に男の子が一人 妾妃に女の子が一人 二人の子どもがある。 皇妃の産んだ男の子が皇太子となり 妾妃の産んだ女の子は降嫁することが決まっている。 その皇女様の降嫁先だった侯爵家の とばっちりを受けた妹のお話。 始まります。 よろしくお願いします。

処理中です...