レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
966 / 1,557
第19章 戦士達

戦闘用人造人間

しおりを挟む
「班長! どうですか? 二式は 」 

 キーラの言葉に明華はただ手を振るだけだった。それを見ると少し微笑んだキーラはそのまま奥のコーヒーメーカーに手を伸ばした。

「飲んじゃったんですか? 」 

「あ、一応空になったら次のを作る決まりだったわね。ごめんね 」 

 明華がそう言うとキーラに軽く頭を下げた。コーヒーメーカーを開けたキーラは使い古しの粉を隣の流しに置いた。

「ホプキンスさん。とりあえずかけていてください 」 

 キーラの言葉に甘えてクリスは空いていたパイプ椅子に腰掛ける。天井を見上げてぼんやりとしている御子神。コーヒーをすすりながら何も無い空間を考え事をしながら見つめているジェナン。借りてきた猫とでも言うようにそのジェナンを見つめているライラ。

「そう言えばミルクは無かったんでしたっけ? 」 

「そうね、しばらくはどたばたが続くでしょうから、手が空いたところで発注しておいてね 」

 相変わらず上の空と言うように明華が答えた。

「許中尉 」 

 クリスの呼びかけにだるそうに顔だけ向ける明華。

「確か君は15歳……」 

「16歳ですよ」 

 強気そうな明華だが、さすがに疲れていると言うように語気に力が無い。

「私の年で出撃は人道的じゃないと言うつもりなんでしょ? 別にいいですよ 」 

 そう言いながら微笑んだ明華が惰性で目の前のマグカップに手を出した。

「すっかりぬるくなっちゃったわね。キーラ、私のもお願い 」 

 そう言うと明華はマグカップをキーラに渡す。

「それと、シャムはいつまでそこでじっとしてるの? 」 

 明華の視線をたどった先、詰め所の入り口で行ったり来たりしているシャムがクリスの目に入った。シャムは照れながら熊太郎に外で待つようにと頭を撫でた後、おっかなびっくり詰め所に入ってきた。

「ココア! 」 

 シャムの叫び声が響く。どたばたが気になったのか奥の仮眠室からレムが顔を出した。

「レム! 」 

 シャムが抱きつこうとするのを片手で額を押さえて押しとどめる。

「お嬢さん、私に触れるとやけどしますぜ! 」 

「何かっこつけてんのよ、バーカ 」 

 明華の一言に頭を掻くレム。さすがにシャムの大声を聞きつけてルーラが出てきた。

「何? 何かあったの? 」 

「何も無いわよ。コーヒー飲む? 」 

 コーヒーメーカーをセットしたキーラが二人を眺める。

「私はもらおうかしら 」 

「それじゃあ私はブルマン 」 

「レム。そんなのあるわけ無いでしょ、と言うかどこでそんなの覚えたの? 」 

 呆れる明華。

「いやあ隊長が時々言うんでつい 」 

「あの人にも困ったものよね 」 

 そう言いながら明華は手にしていた二式の整備班が提出したらしいチェックシートを眺めていた。

「なんだか軍隊とは思えないですね 」 

 クリスがそう言うと明華は頭を抱えた。
「確かにそうかもしれないわね。周同志もそのことは気にかけてらっしゃるみたいだけど 」 

 苦笑いを浮かべながら明華がコーヒーメーカーに手を伸ばす。まだお湯が出来たばかりのようで暑い湯気に手をかざしてすぐにその手を引っ込める。その様子をニヤニヤしながら見つめるレム。

「ああ、あの紅茶おばさんの言うことは聞かないことにしてますんで 」 

「レム! 」 

 口を滑らせたレムを咎めるキーラ。レムは舌を出しておどけて見せる。

「紅茶おばさん? 」 

「ああ、周少将のイギリス趣味は有名だから。紅茶はすべてインド直送。趣味がクリケットと乗馬と狐狩り。まあ遼北の教条派が粛清に動いたのもその辺の趣味が災いしたんでしょうね 」

 明華はそう言うと再びチェックリストに集中し始めた。

「なんかにぎやかだな 」 

 そう言いながら入ってきたのはセニアだった。

「コーヒーなら予約は一杯よ 」 

 キーラの言葉にセニアは淡い笑みを浮かべる。

「シャムも飲むのか? 」 

「アタシはココア! 」 

「だからココアはもう無いの! 」 

 やけになって叫ぶキーラの声にシャムは困ったような顔をしてクリスを見上げた。

「あのー静かにしてくれないかな? 」 

 そう言ったのは一人二式の仕様書を読み続けていた御子神だった。ジェナンとライラと言えば、呆然と人造人間と明華、シャムのやり取りを見つめていた。

「はい! 入ったわよ 」 

 そう言うとキーラは明華、クリス、レム、ルーラ、御子神、ジェナン、ライラそして自分のカップを並べた。

「私のココアは? 」 

「だから無いんだって! 」 

 しょんぼりと下を向くシャム。

「すみませんねえ 」 

 ジェナンはそう言うとコーヒーをすすった。

「あの…… 」 

 ライラはカップを握ったまま不思議そうにキーラを見つめた。

「そう言えば東モスレムにはあまり私達みたいなのはいないらしいわね 」 

 キーラのその言葉にレム、ルーラ、そしてセニアがライラに視線をあわせる。

「確かにあまり見ないですし、もっと感情に起伏が無いとか言われていて…… 」 

「酷いわねえライラちゃん。私達だって人間なのよ。うれしいことがあれば喜ぶし、悲しいことがあれば泣くし、まずいコーヒーを飲めば入れた人間に文句を言うし…… 」 

「レム。文句があるならもう入れないわよ 」 

 カップを置いてキーラがレムをにらみつける。

「レムさんの言うとおりだ。ライラ。偏見で人を見るのはいけないな 」 

 ジェナンはそう言うと静かにコーヒーをすする。

「いいこと言うじゃないの、ジェナン君。それに良く見ると結構かっこいいし…… 」 

「色目を使うなレム! 」 

「なに? ルーラちゃんも目をつけてたの? 」 

「そう言う問題じゃない! 」 

「あのーもう少し静かにしてもらえませんか? 」 

 レムとルーラのやり取りとそれにかみつくタイミングを計っているライラの間に挟まれた御子神が懇願するように言った。

「無駄じゃないの。こんなことはいつものことじゃないの 」 

 平然と機体の整備状況のチェックシートをめくりながら明華はコーヒーをすすっていた。

 そこにドスンと引き戸が叩きつけられる音が響く。

「ぶったるんでるぞ! 貴様等! 」 

 そう叫んで入ってきたのは飯岡だった。ランニング姿のまま机の上のタオルで汗を拭う。

「あ! それ私の! 」 

 レムの言葉にタオルを眺める飯岡。

「別にいいだろうが! ランニングから帰ってきたところだ。汗をかくのが普通だろう! 」 

「それじゃあ雑巾にしましょう 」 

「リボンズ! 俺に喧嘩売ってるのか! 」 

 怒鳴りつけた飯岡だが、彼を見つめる視線の冷たさに手にしたタオルを戻した。

「それじゃあシャワーでも浴びるかな…… 」 

「ここにもシャワーあるよ 」 

 シャムの一言に口元を引きつらせる飯岡。

「うるせえ! 俺は本部のシャワーを浴びたくなったんだ! 」 

 そう言うとそのまま飯岡は出て行った。

「全く何しにきたんだか…… 」 

 コーヒーをすすりながらチェックリストの整理が終わった明華が立ち上がる。

「すいません、ちょっと聞きたいんですけど……皆さんは何で戦ってるんですか? 」 

 突然のジェナンの言葉に明華は視線を彼に向けた。

「私は任務だからよ 」 

 そう言うと明華はチェックリストを手に出て行く。

「私は何かな…… 」 

 言われた言葉の意味を図りかねて天井を見上げるレム。ルーラも答えに窮してとりあえずコーヒーを啜っている。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

れすとあ ─モンキーガール、風になる─

海凪ととかる
キャラ文芸
 中学女子の100㍍走の記録保持者で、天才スプリンターとして将来を嘱望されていた大倉香奈 《おおくらかな》はスポーツ特待生として陸上強豪校への進学が決まっていたが、競技中の怪我で引退を余儀なくされ、燃え尽き状態で日々を過ごしていた。  香奈のクラスメイトで同じ中学出身である宮本佑樹《みやもとゆうき》は母子家庭で、パン屋に勤める姉の紗羅《さら》、不登校である小学生の妹の咲良《さくら》と一緒に暮らしている。ミニバイク『モンキー』を姉共々愛しており、整備を一手に引き受け、高校にもモンキーでバイク通学している。  ある日、登校直前までモンキーを整備していた佑樹は、学校の玄関で電車通学している香奈と会い、オイルで汚れた手を見られ、バイクの整備ができることを明かす。その時は特にバイクに関心はなかった香奈だったが、その日の放課後、偶然に紗羅の勤めるパン屋に寄り、そこにあった沙羅のモンキーに一目惚れしたことで、モンキーに乗るために二輪免許を取ることにする。  すでに廃番となっている旧車のモンキーをどうやって手に入れたらいいか佑樹に相談した香奈に、佑樹は自宅にある壊れた廃車のモンキーを自分の手で再生《レストア》してみることを提案する。自分の目でそのモンキーを目にした香奈は、自分の足で走れなくなった自分自身と乗り手に見捨てられたモンキーの境遇を重ね、再び一緒に走れるようにモンキーのレストアに着手していく。  これは、自分の足で前へ進めなくなって俯いていた少女が新たな足を得て再び顔を上げて前へ踏み出すまでの"再生"の物語。  これは、乗り手から見捨てられて朽ちつつあった旧車のバイクが新たな乗り手によってレストアされて再び走り出す"再生"の物語。   ※この物語の本文にはAIは使用していません。表紙イラストおよび作中挿絵はAI生成です。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...