レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第9章 銃とかなめと模擬戦と

認められた青年

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「勝った……」

 誠は何が起きたのかよくわからないまま静かにシートに身を沈めていた。勝つはずのない模擬戦に勝った誠はただ何も言えずに押し黙っていた。シートに身を投げている誠の目の前で全天周囲モニターの隙間が広がった。

「すげえな!オメエ!あの西園寺さんに勝ちやがった!」

 満面笑みの島田の叫びがこだまし、ひよこの尊敬の念を含んだ笑顔が顔をのぞかせた。

「はっ……はっ……勝ちました……」

 誠は薄ら笑いを浮かべて二人の賞賛に答えた。誠は伸ばしてきた島田の手につかまってそのまま地面に降り立った。

「糞ったれ!」

 かなめの絶叫がシミュレータールームに響く。明らかに不機嫌そうにシミュレーターから這い出た彼女は誠の前に立って苦笑いを浮かべつつ、長身の誠を見上げた。

「オメエ……結構やるじゃん。あの一撃でアタシを仕留めなきゃ……」

「分かってます。あそこは攻め時でした」

 はっきりとした調子で言い切る誠にかなめは頭を掻きながら背を向ける。

「認めてやる。オメエはこれまでのカスとは違うタイプだ……うちの水に合うといいな」

 そう言うとかなめはまっすぐに出口に向かった。

「西園寺さん!」

「タバコだよ……ちょっと熱くなったからクールダウンだ」

 誠の問いかけにそれだけ答えるとかなめは出て行った。気が付くと誠は整備班員や運航部の女子士官に囲まれていた。

「凄いのね。西園寺さんに勝つなんて!」

「下手だって聞いてたけど嘘じゃねえかよ」

「すげーよ!やっぱオメエはすげーよ!」

 数々の賞賛の声が室内に響いた。誠がアサルト・モジュールの操縦を褒められるのは初めての経験だった。

「そんなこと無いですよ。偶然ですって偶然。格闘戦は偶然の要素が強いですから。射撃ができるかなめさんには勝てませんよ」

 照れ笑いを浮かべながら誠はそう言って頭を掻いた。

「そーだな。今回、勝てたのはハンデと偶然。それが分かってりゃー次も勝てるかも知れねーな」

 入り口の方でそんな厳しいランの寸評が響いた。ちっちゃな彼女の隣には長身のアメリアとエメラルドグリーンのポニーテールのカウラの姿があった。

「でも……あのなんだか壁みたいなのはなんなんですか?」

 誠は正気に戻るとそう言ってランに歩み寄った。

「あれか?システムエラーじゃねーの?」

 そう言ってランはとぼけてみせる。

「エラーにしてはしっかり画面に再現されてましたね。あれは明らかに『仕組まれた』ものです」

 誠は下手だがプライドはそれなりにあった。そう言って真剣な表情でランの前に立つ。

「じゃあ、オメーの使える超能力かも知れねーな」

「超能力?」

 あまりに突飛なランの言葉に誠は少し呆れながらそうつぶやいた。

「遼州人には地球人には無い能力がある。そんな噂がある。地球人が生まれるはるか以前から『焼き畑農業』を続けていた民族だ。それ以上の文明を持たなかった理由がそこにあるんじゃねーかっていう学者もいる」

「はあ、そんな話聞いたことがあるんですが……僕、歴史は苦手で」

 ランの教養についていくには勉強不足なことは分かっているので誠は苦笑いを浮かべてそう言って逃げようとした。

「パイロットとしての技量だけならただの使い捨ての駒だ。ちゃんと自分で考えて行動する。そのために必要な知識を自ら得る努力をする。それが士官てーもんだ。少尉候補生だろ?」

 厳しいランの指摘に誠は何も言えずに立ち尽くした。

「まあいいじゃないですか!今日は暇か?」

 助け舟を出すという雰囲気で島田が誠に声をかけてきた。

「ええ、まあ……でも今日は僕はどこに泊まれば?」

「もう寮にオメエの部屋が用意してあんだ。さっき非番の奴にベッドと布団は用意させた。飲むぞ!」

『オー!』

 島田の叫びに合わせてシミュレーションルームになだれ込んできていた隊員達が一斉に雄たけびを上げた。

「ちょっとまってね……」

 そこに水を差したのはアメリアだった。紺色の髪をかき上げながら感情の読めない糸目でじっと誠を見つめてくる。

「なんですか……」

「今日は私達と飲みましょう。私とカウラちゃんとかなめちゃん。他の五人も一緒に呑んだのよ。まあ連中はいなくなったけど他のとは違って誠ちゃんはきっとうちに居つきたくなるから……ね?」

 誠と同じくらいの185㎝前後の長身のアメリアはそう言ってにっこり笑った。

「そんな……今日はこいつを称えて吐くまで飲ませるんだって……」

 強気そうな島田がおずおずとアメリアに申し出る。

「シャラップ!これはうちの新人パイロット教育の一環なの。二人の先輩パイロットと運用艦の艦長のアタシ。新人を仕込むにはいいメンツでしょ?」

 アメリアの言うことがあまりにもっともなので、島田達も何も言えずに黙り込むしかなかった。

「じゃあ、とりあえず機動部隊の詰め所で終業時間まで潰したらカウラちゃんの車で出発ね」

 笑っているような顔の作りのアメリアはそう言ってシミュレーションルームを去っていった。

 アメリアを見送った誠の視線にカウラのエメラルドグリーンの髪が飛び込んできた。誠が見下ろすと、真面目そうなカウラの瞳が誠を捉えた。

「貴様。なかなか面白い奴だな」

 誠を見上げるカウラの瞳は深い緑色で誠は思わず飲み込まれそうな感覚にとらわれた。

「最初に言った言葉は訂正する。貴様には残って欲しい……私の個人的な意見だが」

 そう言うとカウラはアメリアが去っていったのと同じようにまっすぐにシミュレータールームを出て行った。

「残って……いいのかな?」

 誠は不安ばかりだった心の中に希望の灯がともっていることに気づきながらカウラの後姿を見送っていた。
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