1,217 / 1,557
第13章 新たな世代
継承
しおりを挟む
ひんやりとした空気が水干を着込んだ嵯峨の体を包む。建物の中庭には枯山水が見える。廊下の角に立っていたSPが嵯峨が室内に入ってきたのを確認すると崩れかけた直立不動の姿勢を正した。
そのまま嵯峨は一人で金鵜殿の禁殿に向かう廊下を歩き始めた。雑音も無く沈黙した空気の中、こうして禁殿に向かうことは実は嵯峨は一度も経験したことが無かった。
嵯峨家は本来年に一度のこの金鵄殿での殿上会に参加することが義務付けられている四大公家の当主である。だが、彼は当主になってすぐに軍務で遼に向かい、そのまま地球軍の捕虜となった後は政治取引でアメリカ陸軍に引き渡された。三年後ネバダの砂漠から帰還した嵯峨は殿上会に所在の確認などを届け出ることもせず、三年の雌伏の後、一人娘の嵯峨茜を連れて東和に去ってしまった。
そんな自分と無縁の晴れ舞台。嵯峨の視線の先にあるのは太刀持ちに副官である渡辺リンを引き連れて静々と歩いているのは彼の姪、日野かえでの凛々しい姿だった。
「柄じゃあねえんだけどな」
誰に言うと言うわけでもなく、嵯峨の口から自然と漏れた言葉。そして嵯峨は自分の瞳から涙がこぼれていることに気がついた。
一瞬、かえでの視線が嵯峨に注がれる。思わず嵯峨はうろたえ、自然と顔に赤みが差すのを自覚する。それでもすぐにかえでは視線をまっすぐと向けて静々と歩き続ける。狂気と暴力が支配したかつての甲武。その政治闘争の見せた武力的側面のテロが嵯峨から妻を奪った。その事実は変えられないことは嵯峨もわかっていた。そしてそんな世界でしか生きられない自分のことも。
嵯峨はそのまましばらく目頭を抑えたまま、かえでに続いて歩いていた家裁の渡辺要の後に続いて禁殿へと足を向けた。
廊下は果てしなく続いた。
嵯峨もこの建物の内部についてはほとんど知識が無かった。ただ姪を先導する女官についていくだけ。そして自分の目の前で彼から見ても凛々しく見える姪の姿に再び涙が出るのを堪えての歩みは重いものだった。幸い嵯峨の控え室に当たるである『茶臼の間』に至るまで誰一人として殿上会に出る公卿達とすれ違うことは無かった。
静かに部屋の前に立っていた女官が正座をしてゆるゆると襖を開いた。部屋に入ろうとしたかえでが立ち止まったのを見て、嵯峨はそのまま部屋を覗き込んだ。
五十畳はあろうと言う嵯峨家のためだけにあるはずの『茶臼の間』には先客がいた。
「遅いな、新三郎」
そう言って扇子で嵯峨を指していたのは宰相としての礼装を見に纏った兄、西園寺義基だった。
「ご無沙汰しております。父上」
そう言うとそのまま部屋の中央で座っている父の前へとかえでは歩み出る。嵯峨もその後をついて部屋に入って中の様子をうかがった。
壁には金箔を豪勢に使った洛中図が描かれ、黒い柱は鈍い漆の輝きを放っている。正直、嵯峨はこのような場所にこれまで足を踏み入れなかった自分の決断が正しかったと思い、皮肉めいた笑みを浮かべながら西園寺義基の正面に座った。
「そこはお前の場所ではないんじゃないか?」
そう言う兄の声に気づいたように嵯峨は三歩後ずさった。そしてかえでは空気を察したように叔父の正面に腰を下ろした。
「この度の家督相続。祝着である」
その西園寺義基の一言を聞いた屏風の後ろに控えていた白い直垂の下官が三宝に乗せた杯と酒を運んでくる。その様子を見て、嵯峨はこれもまた家督相続の儀式であると言うことを初めて知った。戦中の嵯峨自身の家督相続はすべて書面だけで行われ、儀式をしようにも嵯峨の身柄は内乱の気配が漂う遼南の地にあってこのような舞台は用意されることも無かった。
下官に注がれた杯を飲み干す西園寺義基。そして彼は静かにその杯を正面に座る娘のかえでに差し出した。かえでの手が震えているのが嵯峨の視点からも見て取れた。
受けた杯をかえでは飲み干した。
「藤原朝臣楓子。三位公爵大納言に叙する」
「ありがたくお受けいたします」
西園寺義基の言葉を聞くとかえでは拝礼した。それを見ながらそのまま三宝に置かれた酒器を持って下官は部屋を出る。
完全に下官達が去ったのを確認するように伸びをした後、義基は突然足を投げ出した。
「ああ、待たせるなよ。つい地がでるところだったじゃねえか!」
そう言いつつ義基は手にした扇子を右手にばたばたと仰ぐ。嵯峨も兄の間延びした顔を見て足を投げ出す。
「これで新三郎はめでたく甲武の枷から外れたわけだ。しかし……」
義基の顔が緩んでいたのは一瞬のことだった。すぐに生臭い政治の世界の話が始まるだろうと嵯峨は覚悟を決めた。
「醍醐のとっつぁんの話なら無駄ですよ」
まだ緊張から固まったように座っている楓の肩を叩く嵯峨はそう言い切った。家督相続の儀式を半分終えた安心感から、大きくため息をついた彼女を見て嵯峨は少し自分を取り戻して兄の顔を見つめた。
「そうは言うがな。少しばかり話を聞いてくれないかね」
そう言いながら笑みを浮かべる兄を前にして仕方が無いと言うように嵯峨はタバコを取り出す。
「この部屋は禁煙だ」
そう言う西園寺義基に嵯峨は悲しげな目を向ける。
「こいつは俺の代に作った法律なんだがな。まあ新三郎対策とでも言うべきかな?ヤニで汚れたら甲武の伝統が汚れるだろ?」
そう言いながら西園寺義基はにやけた顔で嵯峨を見つめる。仕方なく嵯峨はタバコを仕舞う。
「僕は席をはずした方がいいですか?」
重い政治向きの話がなされるのを察したかえでが席を立とうとするが嵯峨は首を横に振った。
「お前も今から、嵯峨家の当主だ。それなりの責任は果たす必要があるんじゃないか?」
そう言いながら西園寺義基は弟に向かい合って座りなおした。
「醍醐君の気持ちも汲んでやってくれよ。あの人もそれなりに考えて今回のバルキスタンへの介入作戦を提案してきたんだからな」
兄の言葉に空々しさを感じて嵯峨は思わず薄ら笑いを漏らした。
「まあそうでしょうね。あの人が有能な官吏で軍人だって事は私も十分承知していますよ。確かにあの人の立場に俺がいたら……そう、今回の作戦と変わらない作戦を提案するでしょうから」
『今回の作戦』と言う嵯峨の言葉に、西園寺義基は少し表情を強張らせた。
義基は外交官の出身である。戦時中はゲルパルトとの同盟に罵詈雑言をマスコミで繰り返し官職を取り上げられ飼い殺しにされていた彼は、戦局が敗北の色を帯び始めた時点で講和会議のために再登用された。地球軍に多くのコロニーを占領され、死に体であった甲武だが、そんな中で西園寺が目をつけたのは戦争遂行能力に限界の見えてきた遼北人民国だった。
素早く遼北の最高実力者、周衛首相を密かに訪れ電撃的な休戦協定を締結する方向に動く。遼北の停戦宣言で地球軍は甲武の首都、鏡都のある第四惑星降下作戦発動のタイミングを失った。そして地球軍は渋々講和のテーブルに付き戦争は終結へと向かった。その勲功により終戦を待たずして世を去った父重基を継ぐようにして政界へ西園寺義基を押し上げるきっかけを作った実績は誰も否定することが出来なかった。
嵯峨が『今回の作戦』と言う言葉を使ったことが、醍醐陸相から首相である西園寺義基に受けている作戦要綱以上の情報を嵯峨が手に入れていると言う意味であることを義基は聞き逃すことは無かった。
「それなら今の立場。遼州同盟司法局の実力部隊の隊長としてはどう動くんだ?」
その言葉に嵯峨は思わず笑みを漏らしていた。
「それは醍醐さんにも話しときましたよ。実力司法組織として、でき得る最高レベルの妨害工作にでると。加盟国の独走を許せば同盟の意味が無くなりますからね」
西園寺義基の表情は変わらなかった。そして、そのままかえでへと視線を移す。
父に見つめられたかえでは首を横に振った。もとより西園寺義基はかえでには嵯峨の説得が不可能なことはわかっていた。だが、とりあえず威圧をしておくことが次の言葉の意味を深くする為には必要だと感じていた。
「そうか。なら同盟の妨害工作が動き出すと。その命令はどのレベルからの指示だか教えてもらいたいな」
甲武も遼州星系同盟機構の構成国家である。比較的緩い政治的結合により地球圏からの独立を確保する。その目的で成立した同盟機構には超国家的な権限は存在しない。そのことを言葉の裏に意識しながら西園寺義基は血のつながらない弟に詰め寄った。
「同盟機構の最高レベル。そう言うことにしておきますかね」
嵯峨のその言葉は西園寺義基の予想の中の言葉だった。しかし、それは最悪に近い答えだった。
この甲武国は『鏡の国』と呼ばれる帝国だった。遼州独立戦争。この星系に棄民同然に送られた人々と、先住民族『リャオ族』の同盟が地球の支配に反抗して始まった戦争で甲武の祖先達は独立派の中で数少ない正規部隊として活躍し、『リャオ族』の巫女であった遼薫と言うカリスマを引き立てることで独立を手に入れることになった。
当時の遼州の各国家の意識はどれも国家意識と呼べるようなものではなく、独立の象徴として祭り上げられた巫女、遼薫を皇帝として元首に据えることを甲武は選んだ。そしてその名代として一枚の『鏡』をここ金鴉殿に設置してその国の柱石とした。
しかし、初代皇帝遼薫は国を閉ざして両国は決別し、甲武国は『皇帝不在の帝国』として今度は遼州内国家でのパワーゲームの一つの極をなす国家となった。
そしてその空位の皇帝の座の前で行われる今日の殿上会。
にやりとその意味を悟って笑う弟の姿に西園寺義基は背筋の凍る思いがした。
「それじゃあ、失礼するよ。ああ、そうだった康子が帰りには必ずうちに寄るようにって言ってたぞ」
そう言って西園寺義基は立ち上がる。彼は兄の発した彼の妻からの伝言に次第に青ざめていく弟を見ながら笑顔で『茶臼の間』を後にした。
そのまま嵯峨は一人で金鵜殿の禁殿に向かう廊下を歩き始めた。雑音も無く沈黙した空気の中、こうして禁殿に向かうことは実は嵯峨は一度も経験したことが無かった。
嵯峨家は本来年に一度のこの金鵄殿での殿上会に参加することが義務付けられている四大公家の当主である。だが、彼は当主になってすぐに軍務で遼に向かい、そのまま地球軍の捕虜となった後は政治取引でアメリカ陸軍に引き渡された。三年後ネバダの砂漠から帰還した嵯峨は殿上会に所在の確認などを届け出ることもせず、三年の雌伏の後、一人娘の嵯峨茜を連れて東和に去ってしまった。
そんな自分と無縁の晴れ舞台。嵯峨の視線の先にあるのは太刀持ちに副官である渡辺リンを引き連れて静々と歩いているのは彼の姪、日野かえでの凛々しい姿だった。
「柄じゃあねえんだけどな」
誰に言うと言うわけでもなく、嵯峨の口から自然と漏れた言葉。そして嵯峨は自分の瞳から涙がこぼれていることに気がついた。
一瞬、かえでの視線が嵯峨に注がれる。思わず嵯峨はうろたえ、自然と顔に赤みが差すのを自覚する。それでもすぐにかえでは視線をまっすぐと向けて静々と歩き続ける。狂気と暴力が支配したかつての甲武。その政治闘争の見せた武力的側面のテロが嵯峨から妻を奪った。その事実は変えられないことは嵯峨もわかっていた。そしてそんな世界でしか生きられない自分のことも。
嵯峨はそのまましばらく目頭を抑えたまま、かえでに続いて歩いていた家裁の渡辺要の後に続いて禁殿へと足を向けた。
廊下は果てしなく続いた。
嵯峨もこの建物の内部についてはほとんど知識が無かった。ただ姪を先導する女官についていくだけ。そして自分の目の前で彼から見ても凛々しく見える姪の姿に再び涙が出るのを堪えての歩みは重いものだった。幸い嵯峨の控え室に当たるである『茶臼の間』に至るまで誰一人として殿上会に出る公卿達とすれ違うことは無かった。
静かに部屋の前に立っていた女官が正座をしてゆるゆると襖を開いた。部屋に入ろうとしたかえでが立ち止まったのを見て、嵯峨はそのまま部屋を覗き込んだ。
五十畳はあろうと言う嵯峨家のためだけにあるはずの『茶臼の間』には先客がいた。
「遅いな、新三郎」
そう言って扇子で嵯峨を指していたのは宰相としての礼装を見に纏った兄、西園寺義基だった。
「ご無沙汰しております。父上」
そう言うとそのまま部屋の中央で座っている父の前へとかえでは歩み出る。嵯峨もその後をついて部屋に入って中の様子をうかがった。
壁には金箔を豪勢に使った洛中図が描かれ、黒い柱は鈍い漆の輝きを放っている。正直、嵯峨はこのような場所にこれまで足を踏み入れなかった自分の決断が正しかったと思い、皮肉めいた笑みを浮かべながら西園寺義基の正面に座った。
「そこはお前の場所ではないんじゃないか?」
そう言う兄の声に気づいたように嵯峨は三歩後ずさった。そしてかえでは空気を察したように叔父の正面に腰を下ろした。
「この度の家督相続。祝着である」
その西園寺義基の一言を聞いた屏風の後ろに控えていた白い直垂の下官が三宝に乗せた杯と酒を運んでくる。その様子を見て、嵯峨はこれもまた家督相続の儀式であると言うことを初めて知った。戦中の嵯峨自身の家督相続はすべて書面だけで行われ、儀式をしようにも嵯峨の身柄は内乱の気配が漂う遼南の地にあってこのような舞台は用意されることも無かった。
下官に注がれた杯を飲み干す西園寺義基。そして彼は静かにその杯を正面に座る娘のかえでに差し出した。かえでの手が震えているのが嵯峨の視点からも見て取れた。
受けた杯をかえでは飲み干した。
「藤原朝臣楓子。三位公爵大納言に叙する」
「ありがたくお受けいたします」
西園寺義基の言葉を聞くとかえでは拝礼した。それを見ながらそのまま三宝に置かれた酒器を持って下官は部屋を出る。
完全に下官達が去ったのを確認するように伸びをした後、義基は突然足を投げ出した。
「ああ、待たせるなよ。つい地がでるところだったじゃねえか!」
そう言いつつ義基は手にした扇子を右手にばたばたと仰ぐ。嵯峨も兄の間延びした顔を見て足を投げ出す。
「これで新三郎はめでたく甲武の枷から外れたわけだ。しかし……」
義基の顔が緩んでいたのは一瞬のことだった。すぐに生臭い政治の世界の話が始まるだろうと嵯峨は覚悟を決めた。
「醍醐のとっつぁんの話なら無駄ですよ」
まだ緊張から固まったように座っている楓の肩を叩く嵯峨はそう言い切った。家督相続の儀式を半分終えた安心感から、大きくため息をついた彼女を見て嵯峨は少し自分を取り戻して兄の顔を見つめた。
「そうは言うがな。少しばかり話を聞いてくれないかね」
そう言いながら笑みを浮かべる兄を前にして仕方が無いと言うように嵯峨はタバコを取り出す。
「この部屋は禁煙だ」
そう言う西園寺義基に嵯峨は悲しげな目を向ける。
「こいつは俺の代に作った法律なんだがな。まあ新三郎対策とでも言うべきかな?ヤニで汚れたら甲武の伝統が汚れるだろ?」
そう言いながら西園寺義基はにやけた顔で嵯峨を見つめる。仕方なく嵯峨はタバコを仕舞う。
「僕は席をはずした方がいいですか?」
重い政治向きの話がなされるのを察したかえでが席を立とうとするが嵯峨は首を横に振った。
「お前も今から、嵯峨家の当主だ。それなりの責任は果たす必要があるんじゃないか?」
そう言いながら西園寺義基は弟に向かい合って座りなおした。
「醍醐君の気持ちも汲んでやってくれよ。あの人もそれなりに考えて今回のバルキスタンへの介入作戦を提案してきたんだからな」
兄の言葉に空々しさを感じて嵯峨は思わず薄ら笑いを漏らした。
「まあそうでしょうね。あの人が有能な官吏で軍人だって事は私も十分承知していますよ。確かにあの人の立場に俺がいたら……そう、今回の作戦と変わらない作戦を提案するでしょうから」
『今回の作戦』と言う嵯峨の言葉に、西園寺義基は少し表情を強張らせた。
義基は外交官の出身である。戦時中はゲルパルトとの同盟に罵詈雑言をマスコミで繰り返し官職を取り上げられ飼い殺しにされていた彼は、戦局が敗北の色を帯び始めた時点で講和会議のために再登用された。地球軍に多くのコロニーを占領され、死に体であった甲武だが、そんな中で西園寺が目をつけたのは戦争遂行能力に限界の見えてきた遼北人民国だった。
素早く遼北の最高実力者、周衛首相を密かに訪れ電撃的な休戦協定を締結する方向に動く。遼北の停戦宣言で地球軍は甲武の首都、鏡都のある第四惑星降下作戦発動のタイミングを失った。そして地球軍は渋々講和のテーブルに付き戦争は終結へと向かった。その勲功により終戦を待たずして世を去った父重基を継ぐようにして政界へ西園寺義基を押し上げるきっかけを作った実績は誰も否定することが出来なかった。
嵯峨が『今回の作戦』と言う言葉を使ったことが、醍醐陸相から首相である西園寺義基に受けている作戦要綱以上の情報を嵯峨が手に入れていると言う意味であることを義基は聞き逃すことは無かった。
「それなら今の立場。遼州同盟司法局の実力部隊の隊長としてはどう動くんだ?」
その言葉に嵯峨は思わず笑みを漏らしていた。
「それは醍醐さんにも話しときましたよ。実力司法組織として、でき得る最高レベルの妨害工作にでると。加盟国の独走を許せば同盟の意味が無くなりますからね」
西園寺義基の表情は変わらなかった。そして、そのままかえでへと視線を移す。
父に見つめられたかえでは首を横に振った。もとより西園寺義基はかえでには嵯峨の説得が不可能なことはわかっていた。だが、とりあえず威圧をしておくことが次の言葉の意味を深くする為には必要だと感じていた。
「そうか。なら同盟の妨害工作が動き出すと。その命令はどのレベルからの指示だか教えてもらいたいな」
甲武も遼州星系同盟機構の構成国家である。比較的緩い政治的結合により地球圏からの独立を確保する。その目的で成立した同盟機構には超国家的な権限は存在しない。そのことを言葉の裏に意識しながら西園寺義基は血のつながらない弟に詰め寄った。
「同盟機構の最高レベル。そう言うことにしておきますかね」
嵯峨のその言葉は西園寺義基の予想の中の言葉だった。しかし、それは最悪に近い答えだった。
この甲武国は『鏡の国』と呼ばれる帝国だった。遼州独立戦争。この星系に棄民同然に送られた人々と、先住民族『リャオ族』の同盟が地球の支配に反抗して始まった戦争で甲武の祖先達は独立派の中で数少ない正規部隊として活躍し、『リャオ族』の巫女であった遼薫と言うカリスマを引き立てることで独立を手に入れることになった。
当時の遼州の各国家の意識はどれも国家意識と呼べるようなものではなく、独立の象徴として祭り上げられた巫女、遼薫を皇帝として元首に据えることを甲武は選んだ。そしてその名代として一枚の『鏡』をここ金鴉殿に設置してその国の柱石とした。
しかし、初代皇帝遼薫は国を閉ざして両国は決別し、甲武国は『皇帝不在の帝国』として今度は遼州内国家でのパワーゲームの一つの極をなす国家となった。
そしてその空位の皇帝の座の前で行われる今日の殿上会。
にやりとその意味を悟って笑う弟の姿に西園寺義基は背筋の凍る思いがした。
「それじゃあ、失礼するよ。ああ、そうだった康子が帰りには必ずうちに寄るようにって言ってたぞ」
そう言って西園寺義基は立ち上がる。彼は兄の発した彼の妻からの伝言に次第に青ざめていく弟を見ながら笑顔で『茶臼の間』を後にした。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~
和田真尚
ファンタジー
戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。
「これは神隠しか?」
戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎
ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。
家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。
領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。
唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。
敵対勢力は圧倒的な戦力。
果たして苦境を脱する術はあるのか?
かつて、日本から様々なものが異世界転移した。
侍 = 刀一本で無双した。
自衛隊 = 現代兵器で無双した。
日本国 = 国力をあげて無双した。
では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――?
【新九郎の解答】
国を盗って生き残るしかない!(必死)
【ちなみに異世界の人々の感想】
何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!
戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?
これは、その疑問に答える物語。
異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。
※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる