レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,248 / 1,557
第2章 翌日の出来事

朝のできごと

しおりを挟む
 翌朝、誠はいつものように定時に布団から起き上がった。寮の自分の部屋。カーテン越しの日差しが一日の経過を表している。そして昨日の化け物の断末魔の声を聞いたような感覚を思い出し首をすくめた。

「しばらく見るだろうな。こんな夢」 

 そう思った誠が布団から起き上がろうとして左手を動かす。

 何かやわらかいものに触れた。誠は恐る恐るそれを見つめる。

「おう、早いな」 

 そこには眠そうに目をこするかなめの姿があった。そして彼女の胸に誠の左手が乗っていた。

「お約束!」 

 手を引き剥がすと跳ね上がってベッドから飛び出し、そのまま誠は部屋の隅のプラモデルが並んでいる棚に這っていく。

「おい、お約束ってなんだよ。アタシがせっかく添い寝をしてあげてやったっつうのによ!」 

 かなめはそう言うと自分の部屋から持ってきた布団から這い出し、枕元に置いてあったタバコに火をつける。そのまま手元に灰皿を持ってくるが、そこに数本の吸殻があることから、かなめが来てかなり時間が経っているのを感じた。

 とりあえず誠は息を整えて立ち上がり、カーテンを開けさらに窓を開けた。

「寒くないのか?」 

 タバコをふかしながらかなめは誠を見上げる。

「タバコのにおいがしたらばれるじゃないですか!」 

「誰にばれるんだ?そうすると誰が困るんだ?」 

 かなめはニヤニヤと笑う。

「あのですねえ……」 

 そう言った時に部屋のドアがいきなり開く。

「自分の部屋にいないと思ったら……西園寺!」
 
 踏み込んできたのはカウラだった。隣になぜか寮長の島田までいる。

「おう!来たか純情隊長!」 

 かなめは満足げな笑みを浮かべる。誠はその姿を見るといつもどおりブラもつけないタンクトップにタイトスカートだけと言うかなめの姿と青筋を立てている勤務服姿のカウラを見比べる。

「ああ、西園寺さん。一応……寮には寮の規律って奴がありまして……ってちょっとどいてくださいね」 

 そう言うと島田はそのまま部屋に入り誠のプラモデルコレクションのメイドのフィギュアをどかして小さな四角い箱を取り出す。

「おい、隠しカメラって奴か?なんだ、何もしなかったのがばれてたわけか」 

「かなめちゃん!」 

 カウラをからかう言葉を用意しようとしたかなめの頬にカウラ達をすり抜けて飛び込んできたアメリアのローキックが炸裂した。

 一見、グラマラスな美女に見えるかなめだが、100kgを超える軍用義体の持ち主である。そして骨格は新世代チタニュウム製と言う鋼鉄より硬い材質でできている。そのままアメリアは蹴り上げた右手を中心に回転して誠の頭に全体重をかけての頭突きをかますことになった。

「痛いじゃないの!かなめちゃん!」 

 アメリアが叫ぶがかなめは涼しい顔でタバコをくゆらせている。

「オメー等何やってんだ?」 

 入り口に現れたのは小さなランがトランクを抱えたと言うか大きなトランクに押しつぶされそうな状態で立っていた。そして隣には同じように大きな荷物を抱えた茜とラーナがいた。

「なんだ?引越しか?」 

「仕方ねーだろ?昨日の件でオメー等の監視をしなきゃならねーんだから。一応、昨日のアレについちゃ口外無用でね」 

 ランはかなめのタバコのにおいに嫌な顔をしながらそう言った。

「ごめんなさいね、皆さんを信用できないみたいな感じで。まあちょうど技術部の方が六人ほど本局に異動になって部屋が空いたと島田さんから連絡があってそれで……」 

 茜の言葉にかなめ、カウラ、アメリアの視線が島田に向いた。

「しょうがないだろ!同盟司法局の指示書を出されたら文句なんて言えないじゃないですか!」 

 島田が叫ぶとそのすねをランが思い切り蹴飛ばす。

「何か?アタシ等がいると都合が悪いことでもしてんのか?」 

 ランに弁慶の泣き所を蹴り上げられて島田はそのまま転がって痛がる。

「そう言うわけだ。しばらく世話になるぜ」 

 そう言ってランはいつの間にか同じようにトランクを持って待機していたサラの手引きで階段に向けて歩き出した。

「どうすんだよ!ちっちゃい姐御が来たら……」 

「みなの緊張感が保たれて綱紀が粛正される。問題ないな」 

「カウラ!テメエ!」 

 カウラとかなめがにらみ合う。ようやく痛みがひいたのかゆっくりと立ち上がったアメリアがすねを抱えて転げまわっていた島田の襟首をつかんで引き寄せた。

「正人ちゃん。サラも下に来てた様な気がするんだけど……それも指示書にあったの?」 

「ありました!なんならお見せましょうか?」 

 サラとの付き合いが公然の事実である島田が開き直る。そしてそのままアメリアは胡坐をかいて目をつぶり熟考していた。

「茜さんは元々仕事以外には関心が無い。問題ないわね。ラーナも同じ。そしてサラはいつも私達とつるんでいるから別に問題ない。そうすると……」 

「やっぱちびじゃねえか!問題なのは!」 

 かなめとアメリアが頭を抱える。ほとんどの隊の馬鹿な企画の立案者のアメリアとその企画で暴走するかなめにとってはそのたびに長ったらしい説教や体罰を加える元東和陸軍特機教導隊の鬼隊長の同盟司法局実働部隊副長クバルカ・ラン中佐と寝食を共にするのは悪夢以外の何者でもなかった。

「まあ、おとなしくしていることだ。というわけで西園寺。部屋に帰るぞ」 

 そう言うと立ち上がったカウラがかなめの首根っこを掴む。

「わあった!出りゃ良いんだろ!またな」 

 かなめはカウラに引き立てられるようにして立ち上がる。アメリアはぶつぶつ独り言を良いながらそれに続いた。

「まったく。面倒な話だな」 

 島田も彼女達を一瞥するとそのまま立ち上がり、誠の部屋のドアを閉めた。

『だんだん偉い人が増えるんだな』 

 そう思いながら着替えをしていた誠だが、すぐに緊張して周りを見回した。先ほどの隠しカメラの件もある。どこにどういう仕掛けがあるかは島田しか知らないだろう。そう思うと出来るだけ部屋の隅で小さくなって着替える。

「寒!」 

 思い出してみれば窓が開いたまま。とりあえず窓を閉めてたんすからジーンズを取り出した。そのまま何とか出勤できるように上着を羽織って廊下に出た。いつものようにあわただしい寮の雰囲気。夜勤明けの整備班員が喫煙所から吐き出す煙を吸いながら階段を下りて食堂に入る。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

【完結】百怪

アンミン
ホラー
【PV数100万突破】 第9回ネット小説大賞、一次選考通過、 第11回ネット小説大賞、一次選考通過、 マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ 第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。 百物語系のお話。 怖くない話の短編がメインです。

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...