レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,300 / 1,557
第20章 鋼の巨人

闖入者

しおりを挟む
 頭をさすりながら長身を折り曲げてどうにか借り物の軽自動車から降りた嵯峨は、運転席から降り立った。

「あー疲れた。技術部の若いのに『一番安いので』ってことで借りたはいいが……もっといい車にすりゃあいいのに」 

 そう言って嵯峨は東和陸軍の裏庭に停めた車から裏門へと向かった。

「ここに来ると聞いてから……大体の今回の事件の大枠が見えてきたがやっぱり東和陸軍のはねっかえりが絡んでたか」 

 嵯峨は一人そう言って胸のポケットのタバコを取り出しかけてやめた。

「法術の軍事利用はどこの国も密かに行っていた。今回の厚生局だって東和陸軍に研究成果を引き渡すことで陸軍の虎の子の07式を手に入れたにきまってるんだ。まあ東和陸軍としては厚生局がやけになって07式を起動させるとまでは思っていなかっただろうけどな」

 嵯峨は自分に言い聞かせるようにそう言ってうなづきながら立っている二人の歩哨の背の低い方に身分証を渡した。

「司法局の方ですか……誰とご面会ですか?」 

「決まってるだろ?面会だ。細野陸幕長だ……今いるんだろ?あ?」 

 そう叫んだ嵯峨を見て長身の歩哨の顔がゆがんだ。しかし、身分証を見ていた兵士が彼に耳打ちするとその顔色は水銀灯の光のせいばかりではなく明らかに青ざめていく。

「しばらくお待ちください」 

「え?同盟厚生局前の一件……東和軍も関係してるんだから。一刻を争う事態だぜ。場合によってはこの建物の……」 

 嵯峨の穏やかな声の調子がさらに二人の兵の恐怖を煽った。

「しばらくお待ちください」 

 長身の兵士がドアを開いて消えていく。その様子を満足げに眺めた後、嵯峨は今にも失禁しそうな表情を浮かべている小柄な兵士を見下ろした。

「司法局実働部隊の隊長をやってるんですよね」 

 嵯峨はそう言うとタバコの箱をいじりながらにやりと笑った。

「まあ隊長なんていうのはなるもんじゃねえぞ。面倒ばっかりだって言うのに感謝もされないどころか友達が少なくなる。損ばっかりだよ。なあ、兵隊さん」 

 嵯峨がタバコを手に取ると何を思ったのか歩哨はポケットからライターを取り出した。

「あのー俺も持ってるんだけど」 

 そう言って嵯峨がライターを取り出すと同時に先ほどの長身の兵士が手に通信端末を持って飛び出してきた。

「ほう、直接話すのは嫌なんですか……シャイだねえ」 

 嵯峨は兵士に見えるように肩をすぼめて見せた後、兵士に両手でタブレット端末を持たせたまま画像を開いた。

「引き際を間違えると大変だねえ」 

 嵯峨は画面に映る憔悴した細野陸幕長を眺めた。明らかに会議漬けと言う髪は乱れ、口の前に手を組んだまま目だけが画面を見つめていた。

『引き際?私達がいつ君達と対立したのかね?』 

 ようやく開かれた口には明らかに力強さが欠けていた。それを満足げに見つめる上司を見て、アメリアも白髪交じりの司令官に同情を感じてしまっていた。

「07式の厚生局への導入。あれはやりすぎましたよ。薬物シンジケートの重武装化の問題を司法局抜きで解決しようって言うのはどうもねえ。わざとらしいというか……」 

 そう言いながら嵯峨はタバコをくわえる。

『導入を決めたのは厚生局と同盟機構だ。私達は機種選定の資料を提出しただけで何もやましいことは無い』 

 ぼそぼそとつぶやくように東和陸軍のトップである細野幕僚長は話す。それをあざ笑うような下卑た笑顔で追及しようと嵯峨は画面のをにらみ付けた。

『やっぱり敵に回したくない人物一位になるわけだわ』 

 そう思いながら間を計る嵯峨を兵士は見つめた。

 しばらく沈黙した後、嵯峨は肩からかけているコートのポケットから一枚のディスクを取り出して兵士が持つ端末のスロットに差し込んだ。

「じゃあ、コイツを見てからはどうお答えになりますか?ああ、セキュリティー解除のキーワードはHISHIKAWA323ですよ」 

 嵯峨の目に狂気が浮かんでいるように見えたのは気のせいだろうか?そう思いながら兵士の見ている画面では手元の別画面に目を移してすぐに驚きの表情を浮かべる初老の男の姿があった。

『これは……どこにも出していないだろうね?』 

 急に陸幕長の声が穏やかになったのを見て嵯峨の笑みが顔全体に広がるのを兵士は見つめている。

「当然!信用第一が司法局の売りですからねえ……そりゃあもう……租界の物資がこんなところに流れてるなんて……」 

 嵯峨はゆっくりとも見てをしながら将官の映された画面に擦り寄る。幕僚長の顔は嵯峨に対する不快感で歪んでいた。

『これは俺の専売特許。そりゃあもうゆすりまくるよ……俺は』 

 そう思いながら嵯峨は画面をにらみつけた。そのディスクの中身が先日のベルルカン大陸での独裁者エミール・カント将軍波政府の壊滅作戦の時に入手した情報が入っている。

 同盟加盟国の中での離脱運動を支持する政治家、軍人、官僚、ジャーナリスト。彼等の活動資金としてばら撒かれるカント将軍がため込んだ非合法取引で得られた莫大な資金の裏づけを目の前の悪党としか表現できない男、嵯峨惟基が握っている。

『それでは……大事な話だ。来てくれ給え』 

 しぶしぶ、不承不承、細野幕僚長は歩哨に目をやった。

 歩哨は任務を完全に忘れたように立ち尽くしていた。その姿は不思議な生き物に遭遇したようなぽかんと口をあけているただの若者に過ぎなかった。

「案内。頼むよ」 

 嵯峨の一言にようやく気がついた背の低い兵士が扉を開けた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

れすとあ ─モンキーガール、風になる─

海凪ととかる
キャラ文芸
 中学女子の100㍍走の記録保持者で、天才スプリンターとして将来を嘱望されていた大倉香奈 《おおくらかな》はスポーツ特待生として陸上強豪校への進学が決まっていたが、競技中の怪我で引退を余儀なくされ、燃え尽き状態で日々を過ごしていた。  香奈のクラスメイトで同じ中学出身である宮本佑樹《みやもとゆうき》は母子家庭で、パン屋に勤める姉の紗羅《さら》、不登校である小学生の妹の咲良《さくら》と一緒に暮らしている。ミニバイク『モンキー』を姉共々愛しており、整備を一手に引き受け、高校にもモンキーでバイク通学している。  ある日、登校直前までモンキーを整備していた佑樹は、学校の玄関で電車通学している香奈と会い、オイルで汚れた手を見られ、バイクの整備ができることを明かす。その時は特にバイクに関心はなかった香奈だったが、その日の放課後、偶然に紗羅の勤めるパン屋に寄り、そこにあった沙羅のモンキーに一目惚れしたことで、モンキーに乗るために二輪免許を取ることにする。  すでに廃番となっている旧車のモンキーをどうやって手に入れたらいいか佑樹に相談した香奈に、佑樹は自宅にある壊れた廃車のモンキーを自分の手で再生《レストア》してみることを提案する。自分の目でそのモンキーを目にした香奈は、自分の足で走れなくなった自分自身と乗り手に見捨てられたモンキーの境遇を重ね、再び一緒に走れるようにモンキーのレストアに着手していく。  これは、自分の足で前へ進めなくなって俯いていた少女が新たな足を得て再び顔を上げて前へ踏み出すまでの"再生"の物語。  これは、乗り手から見捨てられて朽ちつつあった旧車のバイクが新たな乗り手によってレストアされて再び走り出す"再生"の物語。   ※この物語の本文にはAIは使用していません。表紙イラストおよび作中挿絵はAI生成です。

軸─覇者

そふ。
ファンタジー
就職か、進学かー ありふれた現実の岐路に立つ青年は、ふとした瞬間、滅び去った王国の跡地に立っていた。 そこを支配するのは、数億年の歴史と、星々が刻んだ理。 草原を渡る風、崩れた城壁、そして「まだ語られていない物語」の声。 かっての文明を知る者たち、秘められた叡智、そして人々を 脅かす影。 それらすべてが折り重なり、ひとつの空席を呼び覚ます。 問いはひとつーー なぜ、ここに立つのか? 何を背負うべきなのか? この世界は何を望んでいるのか? ーこれは、まだ誰も知らぬ異世界創世記。 すべてはこご"ゲアの地"で

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...