レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,309 / 1,557
第21章 かすかな希望

エピローグ

しおりを挟む
 老人は笑い始めた。その場の面々に笑顔が伝染していく。

「本当に素敵な方たちですねえ。西園寺様。あの人たちはあなたの身分を……」 

「身分?そんなものここじゃ関係ないですよ。それにアイツとあった頃のアタシもそう言う状況じゃなかったですから」 

 かなめは思わず照れて頭を掻く。その後ろにじりじりとアメリアは迫る。

「なに気取った口調でしゃべってるのよ。いつも通りの方がうどん食べに行くとき気が楽でしょ?」 

「オメエは食うことしか頭に無いのか!」 

 そう言って頭に当てていた手をアメリアに振り下ろすが、アメリアはそれを素早くかわして親父さんのところに顔を出す。

「怖いわよねえ……あんな化け物相手に怖かったですよね?」 

「おい、アメリア。一遍死んでみるか?」 

 じりじりと指を鳴らしながら近づくかなめをアメリアが振り返る。老人はそんな光景を笑顔で見つめていた。

「良いですね……仲間って感じがしますよ」 

 後頭部を殴られたせいでじっとその光景を離れてみていた誠に老人がつぶやいた。

「確かにうちはコンビネーションが売りですから」 

 そう言って苦笑いを浮かべる誠を老人は羨望の目で見つめる。

「こういう仲間がいれば……あいつも道を踏み違えたりしなかったでしょうね」 

 老人の目に再び涙が光る。どうすることも出来ずに誠はただ老人のそばでかなめと怒鳴りあいをはじめるかなめを見つめていた。

 カウラまでも巻き込んで広がるどたばた。うなづきながら老人はかなめ達を見守る。

「おい!暴れんじゃないよー!」 

 ドアが開いて入って来たのは嵯峨だった。さらに部外者である安城までもが部屋に入ってきた。

安城は顔を見合わせてその頼りない隊長を見つめている。

「すいませんねえ。うちの餓鬼共は躾がなってなくて……」 

 頭を掻きながらそう言う嵯峨に痛々しい視線が集中する。嵯峨の浮かべた苦笑いは老人にも伝染した。

「でも楽しそうでいいじゃないですか。東都警察の仏頂面に比べたらずっとましですよ」 

 老人の言葉に東都警察との出動が多い同盟司法局機動隊の隊長である安城が大きくうなづいている。

「まあ人間味あふれる部隊と言えば格好が付きますかね」 

「あまり自慢にはならないんじゃ無いの?そのキャッチフレーズ」 

 自分の言葉を安城に一言で否定されて嵯峨は泣きそうな顔をする。彼らを無視してかなめとアメリアの口論は続いていた。

「勤務中に銃を携帯する必要なんて無いんだからね!」 

「そりゃお前がぼけてるだけだろ?常在戦場がアタシ等の気概として必要なんだよ。当然敵が出てくりゃ鉛弾の一発もくれてやるのが礼儀って奴だ」 

「お前は一発じゃすまないだろ……」 

「カウラちゃん。良いこと言ったわね」 

「お前等は黙ってろ!」 

 三対一。銃に手をやるかなめを島田が抑え込んだ。

「さてと……これで失礼しますね」 

 老人の一言にようやくかなめは視線を上げる。

「あ!……ああ……」 

 自分の隠していた地がばれたことに気づいてかなめがうろたえる。それをニヤニヤしながら嵯峨が見上げる。この見慣れた光景を見ている老人の表情に、安心したような表情が浮かんだのを見て軽く頭を下げた。

 誠の行動ににこりと笑って老人は笑う。

「本当にすいません。西園寺はこういう奴なので……」 

 抗議するような視線のかなめを無視してカウラが老人に頭を下げる。

「いえいえ、素敵な人達ばかりで……アイツもあなた達に見送られて逝ったなら幸せだったんでしょう……」
 
 再び老人の目に涙が浮かぶ。そんな彼の肩を叩く明華の姿にそれまでの騒がしい応接室は沈黙に包まれていた。

「ああ、湿っぽいのはここには似合いませんよね。じゃあ、西園寺大尉には一つだけお願いをしたいのですけど……」 

 老人は涙を拭うと笑顔を作って黙り込むかなめを見つめる。

「ああ、できることなら何でもしますよ」 

 嵯峨を折檻するのをやめてかなめが立ち上がった。真剣なタレ目が見える。

「うちの店に……新港で営業始めますから。是非来てください」 

 かなめは大きくうなづくがすぐに誠達を振り返った。

「かなめちゃんのおごりだもんね!」

「違うだろ!」 

 アメリアを怒鳴りつけるかなめだが、隣のカウラやランは大きく頷いてアメリアのそばに一歩近づく。

「わかりました。新港に行くときは西園寺のおごりでうかがいます」 

「何勝手に決めてんだよ!カウラ!」 

 真剣な顔でカウラにまでそう言われて今度はかなめが泣きそうな顔になる。そんな光景を老人はうれしそうに見守る。

「では、お世話になりますね。これからも」 

 そう言うと一礼して老人は出て行った。

「たいへんだなあ……かなめ坊」 

 タバコの箱をポケットから取り出しながら応接室のソファーに座っている嵯峨がニヤニヤと笑う。

「まあうどんは嫌いじゃないからな。仕方ねえけど一回分くらいはおごってやるよ」 

 そのかなめの言葉にアメリアは目を輝かせる。

「たいへんですね……西園寺さん」 

 誠は思わずそう言うが振り向いたかなめの笑顔の中で目が笑っていないことに気がついて口をつぐんだ。

「おう!それじゃあ練習するか」 

 かなめはそう言って立ち上がる。誠もカウラもその言葉の意味が分からずにいた。

「そうね、おじいちゃんはパーラに連絡とって駅まで送らせるから」 

 アメリアの一言に察して立ち上がったパーラはそう言うと腕の端末を掲げている。

「ランニングからですか?いつもどおり」 

 ようやくかなめが言い出した練習が野球サークルのものだとわかって誠は嵯峨に目をやる。

「いいんじゃないのか?俺もしばらく運動してなかったしなあ」 

 立ち上がって伸びをする嵯峨に安城は冷たい目を向ける。その厳しい表情を見て嵯峨は諦めて腰を下ろす。

「安城隊長。ランニングくらいならいいんじゃないですか?どうせ隊長の運動不足解消の必要があるのは事実ですから」 

 小さなランが含み笑いを浮かべて嵯峨を見やる。

「そうね、十キロ走の訓練があるんでしょ?それに隊長自ら参加するのも悪くない話かもね」 

「秀美さん……それは無いですよ」 

 そう言いながら嵯峨は苦笑いを浮かべる。

「じゃあ全員着替えてハンガーに集合!」 

 かなめはそう言って足早に応接室を後にする。

「しゃあねえなあ……」 

 諦めたように嵯峨は立ち上がって屈伸運動を始める。

「それじゃあお先に失礼します!」 

 誠はそう言うとそのまま応接室を後にした。そこには彼を待っていたかなめの姿があった。

「西園寺さん……」 

「なんだ?」 

 問いかけにかなめはぶっきらぼうに答える。そこにはいつものかなめがいる。先ほどまでの飾った姿ではなく、アメリアが言う『底意地の悪そうな表情』のかなめに誠は安心感を覚えた。

「とりあえず十キロ走って……お前は本庄を立たせて50球ぐらい投げるか?」 

「やっぱり走るんですね」 

「そりゃそうだろ?安城隊長が見てるんだ。叔父貴も嫌とは言わねえだろ」 

 そう言うとかなめは女子更衣室に向かう。

「ご愁傷様!」 

「お前も走るんだよ」 

 遅れて出てきたアメリア、それにカウラが声をかける。ただ黙ってうつむいて男子更衣室へ嵯峨はとぼとぼと歩く。

「隊長」 

「ああ、気にするなって。運動不足を何とかしたかったのは事実だしなあ」 

 そう言った後嵯峨は大きなため息をつく。再び取り戻した日常に誠はただ半分呆れながら足を突っ込んでいく自分を感じているだけだった。


                                              了
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...