レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』 第一章 祭りの予感

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「あー!こんなところにいた!」 

 小夏と同級生達が神前達の前に立ちはだかる。

「小夏ちゃん。誠君が話があるそうよ」 

 そう言ってアメリアは軽く小夏の頭を叩いて立ち去ろうとする。

「お話?何ですか?兄貴」 

 小柄な小夏は不思議そうに誠を見上げている。

「別にそんな……なんでもないです!」 

 そう言うと誠はアメリアの後に続いた。

「待ってくださいよ!アメリアさん!カウラさん!」 

 誠は二人を追って走り出す。振り向けば小夏達も走ってついてくる。一本の社へ向かう道の両脇には店が並び、広場には屋台が出ている。カウラは珍しそうにあたりを見渡した。

「別に珍しくないでしょ。私達ももう慣れてきても良い頃よ」 

 そう言うアメリアに追いついた誠は少し心が動いた。アメリア、カウラ。二人とも普通にこの世に生を受けた存在では無かった。

 全地球圏とかかわりを持つ国家が争った第二次遼州大戦。その中で国力に劣る遼州星系外惑星の国家ゲルパルト帝国が発動した人工兵士製造計画。それがアメリア達を生み出した。戦うため、人を殺す兵器として開発された彼女達だが、結局大戦には間に合わず戦勝国の戦利品として捕獲されることになった。

 この誠が生まれ育った国、東和はその戦争では中立を守ったがそれゆえに大戦で疲弊しなかった国力を見込まれて彼等の引き受けを提案されてもそれを拒むことができなかった。そしてそれ以上に疲弊した国家の内乱状態を押さえつけることで発言権を拡大しようとする東和政府は即戦力の兵士を必要としていた。

 そんな経歴の二人のことを考えていた誠だが、すっかり東和色に染められたアメリアはいつの間にかニヤニヤ笑いながらお面屋の前に立っている。

「ねえ、誠君。これなんて似合うかしら」 

 そう言って戦隊モノの仮面をかぶるアメリア。妙齢の女性がお面を手にしてはしゃいでいるのが珍しいのか、お面を売っているおじさんも少しばかり苦笑いを浮かべている。

「あのなあ、クラウゼ。一応お前も佐官なんだから……」 

 説教を始めようとするカウラの唇に指をかざすとアメリアは大きく首を横に振った。

「違うわよ……市民とのふれあい、協力、そして奉仕。これが新しい遼州同盟司法局の取るべき……」 

 アメリアがそこまで言ったところで飛んできた水風船が顔面にさく裂した。その投げた先には両手に水風船を買い込んだ小夏が大笑いしている姿があった。

 アメリアの流麗な顎のラインから水が滴る。山越えの乾いて冷たい冬の風が彼女を襲う。そしてその冷たい微笑は怒りの色に次第に変わっていった。

「小夏ちゃん……これはなんのつもり?」 

 アメリアは一語一語確かめるようにして話す。基本的に怒ることの少ない彼女だが、闘争本能を強化された戦闘用人工人間であるアメリアの怒りが爆発した時の状態はかなめとのいさかいの場面で何度も見ている。そんな彼女を怒らせた小夏が無事では済まないだろうことは誠にもわかっていた。誠とカウラはいつでもこの場を離れる準備を整えた。

「水風船アタック!」 

 二月前、熟れた柿をアメリアに思い切り投げつけた時と同じように小夏は無邪気な表情で笑う。

「お仕置きなんだけど……かなめちゃん風に縛って八幡宮のご神木に逆さに吊るすのとかえでちゃんがかなめちゃんにして欲しがっているみたいに鞭か何かでしばくのとどっちがいい?」 

 アメリアは指を鳴らしながら小夏に歩み寄る。ここまできて小夏もアメリアの怒りが本物だとわかってゆっくりと後ずさる。

「ああ、アメリア。そいつの相手は頼むわ。行くぞ神前」 

 いつの間にか追いついてきていたかなめが誠の肩を叩く。カウラも納得したような表情で小夏とアメリアをおいて立ち去ろうとした。

「えい!」 

 小夏の叫び声と同時にかなめの背中で水風船が破裂する。すぐに鬼の形相のかなめが振り返る。

「おい、こりゃあ!なんのつもりだ!」 

 突然の攻撃と背中にしみるような冷たい水。瞬間核融合炉の異名を持つかなめである。だが今回は隣に同志のアメリアがいることもあって彼女にしては珍しくじりじりと小夏との距離をつめながら残忍な笑みを浮かべる。

「ちょっとこれは指導が必要ね」 

「おお、珍しく意見があうじゃねえか」 

 振り向いて逃げようとする小夏の首をかなめは押さえつけた。アメリアはすばやく小夏が手にしている水風船を叩き落す。

「あっ!」 

「ったく糞餓鬼が!」 

 かなめは小夏の顔面をつかんで締め上げる。アメリアは小夏の両脇を押さえ込んでくすぐる。

「くすぐったい!死んじゃう!アタシ死んじゃう!」 

 小夏は笑いながら叫ぶ。彼女の同級生達はじっとその様を見つめていた。

「おい、オメー等。いい加減遊んでないでパーラ達の手伝いに行けよ」 

 小夏の友達に隠れていた小さい上司のランが声をかける。だが、かなめとアメリアは小夏への制裁をとめるつもりは無い様だった。

「仕方ねーなあ。カウラ、神前。行くぞ」 

 そう言うとカウラと誠の前に立ってランは参道を下っていく。

「おい!勝手に仕切るんじゃねえよ!」 

 小夏をしっかりとベアクローで締め上げながらかなめが叫ぶ。

「かまうからつけあがるんだ。無視しろ、無視」 

 そう言いながらランは立ち去ろうとする。かなめとアメリアは顔を見合わせると小夏を放り出してラン達に向かって走り出した。

「遅いですよ!クバルカ中佐!」 

 叫んでいるのは司法局実働部隊運行部の総舵手のルカ・ヘス中尉だった。いつもの愛車のがっちりとした旧車の窓からロングの濃紺の髪を北から吹き降ろす冷たい風にさらしている。その遺伝子操作で作られた髪の色が彼女もまた普通の人間でないことを示している。

「また冬に水浴びて楽しいんですか?」 

 後部座席から顔を出す技術部整備班長島田正人准尉の姿が見える。彼と付き合っていることが公然の秘密のサラ・グリファン中尉は車内から手を振っていた。島田の言葉にむっとするかなめだが、アメリアが肩に手を置いたので握ったこぶしをそのまま下ろす。

「何人乗れるんだ?この車」 

 広い後部座席を背伸びをして覗き込もうとするランだが、その120センチそこそこの身長では限界があった。

「一応5人乗りですけど?」 

 ルカの言葉にランは指を折る。

「ルカとサラ、それにアタシと小夏にカウラ……」 

「俺は降りるんですか?」 

 後部座席から身を乗り出して島田が叫ぶ。

「お前のはあそこだろ?」 

 ランが指をさす先には技術部火器管理担当の西高志兵長のおんぼろの軽自動車が止まっていて、すでにアン・ナン・パク軍曹が助手席に座っていた。

「それなら私もそっち行くわね」 

 そう言ってサラが降りる。だが島田は小さい西の車の後部座席が気に入らないのか、しばらく恨めしそうにランを見つめた後、静かに車から降りる。

「残りはカウラの車だな。頼むわ。アタシ等はかえでは渡辺が来るのを待ってるから」 

 そう言いながらランは明らかに低い車高の車に乗り込む。思わず笑いそうになったかなめをその普通にしていても睨んでいるように見える眼で睨みつけた後、ランはそのまま後部座席にその小学生のような小さな体をうずめた。

「じゃあ……ってタオル確か持ってきてたよな、アメリア」 

 手に車のキーを持っているカウラが髪の毛を絞っているアメリアに声をかける。

「ああ、持ってきてたわね。じゃあ急ぎましょう」 

 そう言うとアメリアは小走りにカウラのスポーツカーを目指す。

「西園寺さんも……」 

 誠が振り向こうとするとかなめは誠の制服の腕をつかんだ。

「神前……」 

 しばらく熱い視線で見つめてくるかなめに誠の鼓動が早くなるのを感じる。だが、かなめはそのまま誠の制服の腕の部分を髪の毛のところまで引っ張ってくると、濡れた後ろ髪を拭き始めた。

「あのー」 

「動くんじゃねえ。ちゃんと拭けねえだろ?」 

 誠は黙って上官の奇行を眺めていた。

「なにやってんのよ!そんな誠ちゃんの制服で拭くなんて……こっちにちゃんとタオルあるから!」 

 奇行に走るかなめを見つけてアメリアが叫んだ。仕方なくかなめは誠から手を放すとカウラの車に向けてまっすぐ歩き始める。

「それにしても、アタシ等はセットで扱われてねえか?特にあの餓鬼!かなりムカつくんですけど!」 

 そこまで言ったところでランのことを思い出して、かなめは右手を思い切り握り締める。

「まあ良いじゃないの。あのおちびちゃんもかなめちゃんを注意することでなんとか威厳を保っているんだから。それより誠ちゃん。さっきので制服の袖、油臭くなってない?」 

 そう言いながらアメリアは誠の腕を持ち上げる。

「油ってなんだよ?アタシはロボか?」 

 いつもなら食って掛かるところだが、かなめは黙ってカウラのスポーツカーの後部座席に乗り込んだ。

「殴らないのか?」 

 カウラはそう言いながら誠とアメリアが乗り込んだのを確認するとエンジンをかける。

「餓鬼とは違うからな」 

 そう言いながらかなめはシートベルトを締める。確かにランが正式配属になった去年の晩秋から、かなめが誠を殴る回数は確実に減っていた。車は駐車場から出て、石畳の境内をしばらく走った後、駅に続く大通りに行き着いた。

「いつもの駐車場でいいでしょ?」 

 そう言うアメリアにカウラはうなづく。

「市民会館か。そう言えば場所は知ってるけど入ったことないな……どんなだ?」 

 かなめはそう言って後部座席の隣に座っている誠を見つめる。

「普通ですよね、アメリアさん」 

 誠の言葉にアメリアは黙ってうなづく。それを見てカウラが怪訝そうな顔をする。

「カウラ誤解すんなよ。こいつ等のアイドル声優のコンサートチケットをアタシが確保しておいたことがあっただけだ。それに当然小夏も一緒だったからな」 

 ハンドルをカウラが握っていると言う事実がかなめを正直にした。節分の祭りを見に来た観光客でごった返す駅から続く道を進み、銀座通り商店街を目指す。

「そう言えば今日は歩行者天国じゃないの、市民会館前の道」 

 そう言うアメリアにカウラはにやりと笑みを浮かべる。いつもの道の手前で車を右折させ路地裏に車を進める。

「このルートなら大丈夫だ。普段は高校の通学路で自転車が多いから使わないんだがな」 

 車がすれ違うのが無理なのに一方通行の標識の無い路地裏を進む。アメリアとかなめはこれから起きることが予想できた。

 軽トラックが目の前に現れる。今乗っているのが西の軽自動車なら楽にすれ違えただろう。あいにくカウラの車は普通自動車のハコスカである。カウラはため息をつくとそのまま車をバックさせた。軽トラックのおじいさんはそのまま車を近づけてくる。

 結局、もとの大通りまで出たところで軽トラックをやり過ごした。

「大回りすればいいじゃないの……」 

 呆れたように言うアメリアだが、意地になったカウラは再び車を路地へと進めた。

「ああって私達いつ着くのかしら」

 目を血走らせるカウラを横目にアメリアが大きなため息をついた。
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