法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』

橋本 直

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第一章 祭りの予感

第1話 節分祭

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 神社の境内の長い参道に設けられた道を一頭の葦毛の馬が疾走していた。

 背には大鎧を着込んだ平安武将を思わせる兵(つわもの)が一人、右手に弓と左手に二本の矢を握って冷静に馬を操っていた。兵は間合いを計って矢を番(つが)え、弓を引き絞った。

 それも一瞬、番えた矢は放たれた。一の矢が木の板に命中し、すぐさま二の矢が放たれすぐ隣の板を貫いた。

 馬上の兵はすぐ背の靭(うつぼ)から矢を二本取った。集まった観衆の前に気を良くした兵はさらに手にした二本の矢を番えてしばらくおいた二つの板をみごとに矢で貫いてみせた。

 東和の西豊川八幡神社の奥の広場までたどり着いた馬上の兵は速度を緩め、境内に集まった観客がどっと沸くのに手を振って見せた。

 その兵こそが、普段は司法局実働部隊の隊長室でタバコをくゆらせながら風俗情報誌を読みふけっている『駄目人間』嵯峨(さが)惟基(これもと)特務大佐であることが司法局実働部隊機動部隊第一小隊隊員の神前(しんぜん)誠(まこと)曹長には信じることが出来なかった。

「ああ、本当に隊長は何でもできるんですね……日常生活の役に立たないことは。お茶にお華。書道もあの人は個展をやるくらいの腕前なんでしょ?なんで日常生活にそのスキルを実生活に活かせないのかな……まあ月三万円で生活してるってことは自炊は出来るし、服が匂わないってことは洗濯もできるんだろうけど……」 

 平安末期の徒歩侍を思わせる胴丸を着込み、頭には烏帽子、手には薙刀を持たされている遼州司法局実働部隊機動部隊第二小隊三番機パイロットの神前(しんぜん)誠(まこと)曹長は観客に見送られて本殿の裏へと馬を進ませる司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐を見ながらそんな不謹慎なことを考えていた。

 誠も誠の属する通称『特殊な部隊』の同僚達も遠い源平絵巻の鎧兜の姿で、警備の警察官などが観衆を見回るのをぼんやりと眺めていた。それが27世紀の地球を遠く離れた植民惑星での光景だなどとは思いもつかないものだった。

 ここ、『東和共和国』は20世紀末の日本国が完全に再現された地球人とは違う異星人である遼州人の国だった。

「ああ、流鏑馬(やぶさめ)は嵯峨家の家芸だからな。ああ見えて茜も同じことが出来るんだぜ。まあ、叔父貴は百発百中で矢を当てるが、茜の腕ではそこまでは行かねえ。それでも見世物になるくらいの腕前は有るんだ。まったく嵯峨家の人間は底知れねえよ」 

 そう言って笑うのは紺糸縅の大鎧に大きな鍬形のついた兜の女武者だった。平安武将を思わせる姿の遼州同盟司法局実働部隊第二小隊の二番機担当、西園寺かなめ大尉はそう言いながら口にくわえたタバコをくゆらせた。

「西園寺さん、ここ禁煙ですよ。いつでもどこでも勝手にタバコを吸わないでください。それにしてもさすが貴族には家芸なんて言う物があるんですね……ちなみに西園寺家の家芸は何なんですか?」

 誠はちょっとした好奇心からガサツで生活感の感じさせないサイボーグであるかなめに尋ねてみた。

「アタシの家の家芸は『琵琶(びわ)』だ。でもなあ、親父はまるでその素質がねえからな。爺さんも教えるのを諦めて叔父貴にその芸のすべてを教えたんだ。その叔父貴からアタシは琵琶の何たるかを教わって家芸にしている。だからアタシは弦楽器なら何でも弾けるんだぜ。お琴もバイオリンもどんとこいだ。まあ、アタシが好きで弾くのはフォークギターだけどな。日本の昭和のフォークギターの曲にはいい曲が多い。アタシもほとんどの曲が弾けるんだぜ。今度、一晩かけて名曲選でも弾いてやろうか?オメエの部屋で……できれば二人っきりで。雰囲気あるだろ?そのまま『許婚』のかえでの先を越して男女の一線とやらを超えてみねえか?」

 かなめがギターを弾けることは前々から誠も知ってはいたが、バイオリンや琵琶やガサツなかなめのイメージからほど遠いお琴まで弾けるとはとても信じられなかった。

「凄いですね、西園寺さん。その時はよろしくお願いします……でも一線は超えません。それはクバルカ中佐から『漢』になるまでは駄目だと強く言われているので」

 誠が社会人になってからもう二年が経とうとしていた。誠も相手を立てるぐらいの世渡り上手は身に着けていた。

 そして同時に機動部隊隊長にして実働部隊副隊長のクバルカ・ラン中佐から『恋愛禁止』の命令を強い調子で言われていた。しかし、それ以前に『恋を知らない宇宙人』と地球人から揶揄されている誠達遼州人にとって、男女の一線を越えると言うのは並大抵のものでは無かった。

「何真面目な顔して答えてんだよ。まったく冗談の分からねえ奴だな。そういう時は『ぜひお願いします!』と言うのが礼儀ってもんだぜ……純血の遼州人はこれだから困るんだよ」

 かなめは笑いながら流鏑馬の余韻に浸る観客達を眺めていた。

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