法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 節分と『特殊な部隊』

橋本 直

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第十章 犠牲者の上に立つ勝利

第56話 大票田の行方

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「でもあちらに島田君が居るのは痛いわね……意外と彼は厄介よ。なんと言っても彼は技術部部長代理。菱川重工との付き合いも長いわ。それに技術提携しているメーカーの営業とも付き合いがある。彼の顔の広さは一種の脅威だわ。菱川重工とその傘下の下請け企業の従業員は約20万。それに同業他社で菱川に友好的な会社の従業員も含めたらかなりの数になるわ。この票田をいかに切り崩すかが勝利の鍵ね」 

 アメリアが独り言のようにつぶやいた。カウラとかえでの顔色が変わった。

「島田先輩ですよね、問題は。納品で付き合いのある菱川重工を押さえるつもりですよ。でも菱川グループのエリートの忙しい人達がさすがにこんな遊びに全従業員が付き合うなんてことは無いでしょ?閑職に飛ばされた暇人が数人手伝って終わりじゃないですか?」 

 そんな誠の言葉にアメリアが呆れたような顔をしていた。

「菱川本体は別に気にしてないわよ。島田君がお願いしても島田君の知り合い以外はたぶんほとんど無視して来るでしょうね。それより問題は菱川グループの下請けの中小企業の方よ。そっちは菱川グループの顔色を気にしてそれこそビクビクして投票に協力して来るでしょうから。そもそも菱川本体の従業員数は1万人ちょっとよ。残りが下請けの中小企業になるわけ。資金繰りの苦しい中小企業は次の受注がかかってるから命がけで投票して来るからかなりまずいことになりそうよね。しょうがないわよ。それにあちらが軍と警察だけに限定していた範囲を広げるならこちらも攻勢をかけましょう」 

 アメリアは笑顔で菰田の耳元に何かを囁いた。

「マジですか?」 

「大マジよ!」 

 菰田の顔色が変わったのを見て誠はそちらに目を向けた。そんな彼の視線を意識しているようにわざと懐からディスクを取り出したアメリアは菰田にそれを手渡した。

「なんだそれは?」 

 場に流されるままのカウラが菰田が端末に挿入するディスクを見つめた。そのディスクのデータがすぐにモニターに表示された。数知れぬ携帯端末のアドレスが表示された。カウラはそれを見てさらに頭を抱えた。

「それって……」 

 誠はそのディスクにアメリアの悪意を感じてその中身を知りたくなった。

「ちょっとした魔法で手に入れた同志達の端末のアドレスよ」 

 何事も無いように答えるアメリアに誠は開いた口がふさがらなかった。非合法活動のにおいがぷんぷんする個人データにしか見えなかった。こういうことなら技術部の情報士官達の真骨頂が見れるのだが、さすがの彼等もこんなことではハッキング活動をするほど汚くは無かった。

「どうやって集めた?オメーの同人ゲーム買ってる顧客の個人情報でも収集したのか?それは場合によっては刑事事件モノだぞ!」 

 ようやく気が済んだと言うように機動部隊の詰め所に戻ってきていたランが厳しい顔でアメリアをにらみつけた。

「そんなに怖い顔しないでくださいよ。合法的な資料ですよ。私のサイトのメールマガジン登録者のデータですから。これもメールマガジンの一部のサービスってことで」 

 それでも一応は個人データの流用をしてはならないと言う法律がある。それを思い出して誠はため息をつくしかなかった。アメリアの趣味の一つにゲーム攻略があった。女性向けだけでなく男性向けのデータも集めたその膨大な攻略法の記されたページはその筋の人間なら一度は目にしたことがある程の人気サイトになっていた。

 そしてアメリアは隠し球はそれだけではないと言うように携帯端末から電話をかけた。

「今度は何をする気だ?」 

 カウラはそう言って誠を見つめた。

「あ、私よ。例のプロジェクトが発動したわ。今こそ中佐への忠誠を見せる時よ。情報の提供頼むわね」 

 そう言うとアメリアはすぐに通信を切った。

「誰にかけていた?」 

「あ、小夏ちゃんよ。彼女のSNSって結構人気が有るのよね。その媒体を使って宣伝してもらおうって話。宣伝媒体を増やすのも勝利への不可欠な条件だわ」 

 カウラの問いに即答するアメリアに誠は感心するより他になかった。小夏はランの手下となっていた。その上下関係をアメリアは上手く利用するつもりだった。

 サラは『人間皆友達』と言うおめでたいキャラである。だが、ランの名前をちらつかせてアメリアが小夏にアプローチをかけて寝返らせたと言う光景を想像しまった誠は、ただこの状況を見なかったことにしようと目の前の絵に没頭することにした。

「勝てるわね」 

 勝利を確信しているアメリアは満足げに頷くとそう言った。

「まあ勝つだろうな。勝ってもまったく自慢にはならないがな」 

 余裕の表情を浮かべるアメリアをカウラはあきれ果てたという感じで眺めていた。

 そんな二人をしり目に菰田はキーボードを叩いていた。

「菱川重工……なんとか陥落だけは防ぎましたよ。あっちはあっちで05式の宣伝で神前の野郎を使ってる手前、こちらにも遠慮があるんで下請けに圧力をかけるのはやめるそうです」

 そう言って菰田は伸びをした。勝利が見えてきたことに誠は喜んでいいやら悲しんでいいやら複雑な表情を浮かべていた。

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