【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

文字の大きさ
2 / 137
落ちこぼれが出会った『ちっちゃい英雄』

第2話 『特殊な部隊』への誘い(いざない)

しおりを挟む
遼州同盟会議りょうしゅうどうめいかいぎ遼州同盟司法局りょうしゅうどうめいしほうきょく 実働部隊 機動部隊、第一小隊に配属する……ってなんだよ、遼州同盟司法局って?」

 神前誠しんぜんまこと少尉候補生は目の前の配属辞令を手にして、一人ブツブツつぶやいていた。

 周りに人がいないのを確認すると、再びそれを読み上げる。

「遼州同盟司法局……司法局って何?」

 誠は『司法』と聞いて『司法試験』を思い出す。

 『司法試験』と言えば『弁護士』を思い出す。

 『弁護士』と言えば『サスペンスドラマ』で犯人を追い詰める人だと思った。

 誠は大卒のわりに社会常識の欠如した偏差値教育の生み出した『理系脳』の持ち主だった。

「公務員で『司法』関係者と言えば『警察』か『裁判所』じゃん。どっちもパイロットはいらないと思うんだけどな……」

 そう言って誠は周りを見回した。

 朝の出勤時間と言うこともあり、通り過ぎる人も少なくはない。それでも誠を気にかけることなく、大柄の誠をかわして自動ドアを出たり入ったりしていた。

 誠は再び辞令に目をやった。

「それに、実働部隊……って……『実働』って何?意味が分かんないんですけど」

 そう言いながら誠はただ困惑していた。

「東和共和国宇宙軍総本部の人事課まで、出てこいって言われて、来たのに。辞令を渡されて地下三階の駐車場入り口で女の人が迎えに来るから待ってろって言われても……」

 誠は先ほどの東和宇宙軍の総本部の人事課の中での出来事を思い出しながら独り言を続けた。

「それに、人事の担当者の司法局実働部隊は『特殊な部隊』だって説明……なんだよ、それ。『特殊な部隊』って」

 そんな誠の愚痴は続いた。

「『「特殊部隊」ですか?』って聞いたら『「特殊部隊」じゃなくて、「特殊な部隊」だよ』って……なんで、『な』が入るんだよ……エロゲか?嫌いじゃないけど。僕はパイロットじゃなくて、絵がうまいからキャラデザインで呼ばれたのか?あのスダレ禿の眼鏡の人事課長の大尉……木刀があったら、ぼこぼこにしてやったのに……」

 今、誠がいるのは地球から一千光年以上離れた植民第24番星系、第三惑星『遼州りょうしゅう』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。

 その首都の『東都とうと』の都心。そこにたたずむ赤レンガで知られる建物が東和宇宙軍総本部だった。

 地下三階駐車場。目の前には駐車場と言うだけあり、どこを見ても車だらけ。9時の開庁直後とあって、車の出入りが激しく、呆然と立ち尽くす誠の横を人が頻繁に本部建物と駐車場の間を行き来している。

 そんな中、神前誠少尉候補生は呆然と一人、利き手の左手に辞令、右手に最低限の身の回りの荷物を持って立ち尽くしていた。

 7月半ば過ぎ。そもそも大学卒業後、幹部候補教育を経てパイロット養成課程を修了した東和宇宙軍の新人パイロットが、この時期に辞令を持っていることは実は奇妙なことだった。

 前年の3月から始まる大卒全入隊者に行われる幹部候補教育は半年である。その後、志望先に振り分けられ、各コースで教育が行われるわけだが、パイロット志望の場合はその期間は一年である。

 本来ならばその時点、6月に配属になるのだが、そもそも人手不足のパイロットである。教育課程の半年を過ぎたあたりから、見どころのある候補生は各地方部隊に次々と引き抜かれていく。一人、一人と減ってゆき、課程修了時点では全志望者の半数が引き抜きで消えていく。それが普通なら6月の出来事である。

 普通ならそこで残った全員の配属先が決まる。それ以前に東和軍の人事の都合上、その時点ですでに配属先は決まっていて、個別の内示などがあるのが普通である。実際、誠の同期も全員が教育課程修了後、各部隊へと散っていった。

 しかし、誠にはどの部隊からも全くお呼びがかからなかった。

 教育課程の修了式で教官から誠が伝えられたのは、『自宅待機』と言う一言であった。

 誠にもその理由が分からないわけではなかった。

 誠は操縦が下手である。下手という次元ではない。ド下手。使えない。役立たず。無能。そんな自覚は誠にもある。

 運動神経、体力。どちらも標準以上。と言うよりも、他のパイロット候補生よりもその二点においては引けを取らないどころか絶対に勝てる自信が誠にもあった。

 しかし、兵器の操縦となるとその『下手』さ加減は前代未聞のものだった。すべてが自動運転機能で操縦した方が、『はるかにまし』と言うひどさ。誠もどう考えても自分がパイロットに向いているとは思えなかった。

 それ以前に誠には生きていくには不都合な癖があった。それは『乗り物酔い』である。

 最悪『ゲロを吐く』と言う結果が多くあった。当然のように小さいころから『乗り物』に酔う傾向が強かった。パイロット養成課程に進んだ後にもその症状は悪化を続けた。遼州星系では一般的なロボット兵器『アサルト・モジュール』に至っては、最初のうちは見ただけで吐くというありさまだった。

 それなのに、なぜかトラックの運転は得意だった。クレーンも得意。パワーショベルなどの特殊重機の操縦も得意だった。クレーンのワイヤーを結ぶ技術である『玉掛け』の資格もある。指導の教官から『港湾関係の仕事ならすぐできる』と太鼓判を押されたほどのものだった。

 操縦する機体に載っているのが荷物なら何でもないが、人が乗っているとまるで駄目だった。胃がしくしく痛み、運転どころではなくなる。トラックもバスも自家用車も、確実にハンドルを誤ったりして。めちゃくちゃである。自動車の免許は軍の入隊時に取ったが、完全なペーパードライバーである。

 その結果、同期のパイロット候補達は誠を『胃弱君』と呼んで、完全に馬鹿にしていた。幼稚園時代からのその『胃弱の呪い』は、見た目はさわやかなスポーツマン風の誠から友達と彼女を奪い続けることになった。

 そんな『乗り物に乗ることすら無茶』な誠である。

 東和共和国宇宙軍に入隊して以来、誠は『胃薬』と『乗り物酔い止め』が手放せなくなった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

愛するということ

緒方宗谷
恋愛
幼馴染みを想う有紀子と陸の物語

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

Pomegranate I

Uta Katagi
恋愛
 婚約者の彼が突然この世を去った。絶望のどん底にいた詩に届いた彼からの謎のメッセージ。クラウド上に残されたファイルのパスワードと貸金庫の暗証番号のミステリーを解いた後に、詩が手に入れたものは?世代を超えて永遠の愛を誓った彼が遺したこの世界の驚愕の真理とは?詩は本当に彼と再会できるのか?  古代から伝承されたこの世界の秘密が遂に解き明かされる。最新の量子力学という現代科学の視点で古代ミステリーを暴いた長編ラブロマンス。これはもはや、ファンタジーの域を越えた究極の愛の物語。恋愛に憧れ愛の本質に悩み戸惑う人々に真実の愛とは何かを伝える作者渾身の超大作。 *本作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...