3 / 137
落ちこぼれが出会った『ちっちゃい英雄』
第3話 完全なる『罠』
しおりを挟む
そんな誠である。初めからパイロットになりたかったわけでもない。
嫌々始めたパイロットの教習。入隊三日後には、誠は自分の不適格を自覚して、教官に技術士官教育課程への転科届を提出した。
しかし、なんの音沙汰もない。
途中で紛失されたのかと、次から次へと、自分で思いつくかぎりのそういうものを受け付けてくれそうな部署に連絡を入れた。回答は決まって『しばらく待ってください』というものだったが、最終的に何一つ回答は無く、パイロット養成課程での訓練の日々が続いた。
そして、そういう書類を提出した日には必ずある男から電話が入った。
嵯峨惟基特務大佐。誠をこの『胃弱差別環境』に引き込んだ張本人である。古くからの母の知り合いのその男は、誠の理解を超えた男だった。
40代と言い張るが、その見た目はあまりに若かった。しかし、誠の記憶からするとやはり嵯峨の年齢は40歳から50歳であることは推測が付く。
誠がその存在に気づいた5歳くらいのころである。その時はすでに20代前半のように見えたことが思い出される。そして、現在もほとんど外見に変化が無い。昔からその言動は『おっさん風』だったが、見た目がまるで変わらないのである。実際、誠の実家の剣道場、『神前一刀流道場』には時々、この男が現れた。
誠の母で道場主の『神前薫』と嵯峨は親しげに談笑しているのをよく見かけた。嵯峨は尋ねてくると必ず、喫煙者のいない誠の実家の庭に出て、見慣れない銘柄のタバコを一服した。そして母に静かに挨拶して軽く世間話をして帰っていく。
そういう光景は何度も見た。
嵯峨惟基。この男こそ、誠を東和宇宙軍のパイロット候補の道に進ませた張本人だった。
誠が大学四年の夏、持ち前のめぐりあわせの悪さで内定の一つももらえずに四苦八苦していた。
そんな誠にちょこちょこ寄ってきて耳元で『いい話があるんだけどさあ……聞いてみない?』などと、何を考えているのか分からないにやけた面で話しかけてきたのが嵯峨だった。
その声に耳を貸さなければ、今こうしてすることもなく、地下駐車場で立ち尽くすという状況にはならなかったはずだ。その日は嵯峨に言われるまま、何の気なしに嵯峨の手にしていた『東和共和国宇宙軍幹部候補生』の応募要項を受け取った。そして、特に興味は無かったが、内定を取れない焦りから、仕方なく応募用紙に必要事項を記入してポストに投函した。本来はそれで終わりのはずだった。
しかし、そんな興味の全くなかった『東和共和国宇宙軍』から翌日の夕方には電話があった。なんでも、その次の日に一次面接があるという。今思えば完全にできすぎた話だが、当時はそれどころではなかったので仕方がない。誠は初めての好感触にそれなりに喜んで、これまで受けた民間企業と変わらない一次面接を済ませた。
家に帰ると、誠の持っていたタブレット端末に一次面接の合格と二次面接が次の日に東和宇宙軍総本部で行われるというメールが来ていた。
今、この地下駐車場で辞令を手に考えてみると明らかにおかしな話だったことは分かっている。
誘い出されて行った二次面接の場所は、この赤レンガの建物で有名な東和宇宙軍総本部だった。そのビルに呼び出されたのは誠一人だった。質問内容も説明のセリフも、一次面接と何一つ変わらないどうでもいい内容だった。
そうして誠はとりあえずの二次面接を済ませた。
この段階で誠は、この就職試験が『おかしい』ことには気づいていた。しかし、大学の同級生が次々と内定をもらっていく中、仕方なく誠は嵯峨と母が勧める『東和共和国宇宙軍幹部候補生』採用試験を辞退しない決断をして、立派な面接会場を後にした。
家に帰ると通信用タブレットにメールが入った。
その内容は内定決定。あまりの出来事にあれほど待ち望んでいた内定通知をただぼんやりと眺めていたのを覚えている。
その時それを辞退する勇気があれば……今でも誠はそのことを後悔している
その後も奇妙なことは連続で起きた。
内定者に対する最初の説明会会場では、今の時点での希望進路を記入するアンケートが配布された。自分の名前が印字されたマークシート用紙を手にした時、誠はすぐに異常に気づいた。
本来空欄であるはずの欄にはすでに、パイロット志望の印がついていた。
必死に消しゴムで消そうとしたが、完全に名前と同時に印刷されているようで全く消えない。そんな誠のマークシート用紙を会場の『東和宇宙軍』の制服を着た女子職員が誠の意思を無視して回収していった。諦めて誠はそのままパイロット養成課程に進むことになってしまった。
こんな明らかに『誰か』の意図が見え見えで新社会人生活が始まったことに、誠は両親に不安をなんとか説明しようとした。
しかし、口下手で『理系脳』の誠にそれを両親に正確に説明することなどできるはずもなく、二人とも誠の進路が決まったことにただ喜ぶばかりで、誠の『悲劇的』な社会人人生は始まってしまったのである。
嫌々始めたパイロットの教習。入隊三日後には、誠は自分の不適格を自覚して、教官に技術士官教育課程への転科届を提出した。
しかし、なんの音沙汰もない。
途中で紛失されたのかと、次から次へと、自分で思いつくかぎりのそういうものを受け付けてくれそうな部署に連絡を入れた。回答は決まって『しばらく待ってください』というものだったが、最終的に何一つ回答は無く、パイロット養成課程での訓練の日々が続いた。
そして、そういう書類を提出した日には必ずある男から電話が入った。
嵯峨惟基特務大佐。誠をこの『胃弱差別環境』に引き込んだ張本人である。古くからの母の知り合いのその男は、誠の理解を超えた男だった。
40代と言い張るが、その見た目はあまりに若かった。しかし、誠の記憶からするとやはり嵯峨の年齢は40歳から50歳であることは推測が付く。
誠がその存在に気づいた5歳くらいのころである。その時はすでに20代前半のように見えたことが思い出される。そして、現在もほとんど外見に変化が無い。昔からその言動は『おっさん風』だったが、見た目がまるで変わらないのである。実際、誠の実家の剣道場、『神前一刀流道場』には時々、この男が現れた。
誠の母で道場主の『神前薫』と嵯峨は親しげに談笑しているのをよく見かけた。嵯峨は尋ねてくると必ず、喫煙者のいない誠の実家の庭に出て、見慣れない銘柄のタバコを一服した。そして母に静かに挨拶して軽く世間話をして帰っていく。
そういう光景は何度も見た。
嵯峨惟基。この男こそ、誠を東和宇宙軍のパイロット候補の道に進ませた張本人だった。
誠が大学四年の夏、持ち前のめぐりあわせの悪さで内定の一つももらえずに四苦八苦していた。
そんな誠にちょこちょこ寄ってきて耳元で『いい話があるんだけどさあ……聞いてみない?』などと、何を考えているのか分からないにやけた面で話しかけてきたのが嵯峨だった。
その声に耳を貸さなければ、今こうしてすることもなく、地下駐車場で立ち尽くすという状況にはならなかったはずだ。その日は嵯峨に言われるまま、何の気なしに嵯峨の手にしていた『東和共和国宇宙軍幹部候補生』の応募要項を受け取った。そして、特に興味は無かったが、内定を取れない焦りから、仕方なく応募用紙に必要事項を記入してポストに投函した。本来はそれで終わりのはずだった。
しかし、そんな興味の全くなかった『東和共和国宇宙軍』から翌日の夕方には電話があった。なんでも、その次の日に一次面接があるという。今思えば完全にできすぎた話だが、当時はそれどころではなかったので仕方がない。誠は初めての好感触にそれなりに喜んで、これまで受けた民間企業と変わらない一次面接を済ませた。
家に帰ると、誠の持っていたタブレット端末に一次面接の合格と二次面接が次の日に東和宇宙軍総本部で行われるというメールが来ていた。
今、この地下駐車場で辞令を手に考えてみると明らかにおかしな話だったことは分かっている。
誘い出されて行った二次面接の場所は、この赤レンガの建物で有名な東和宇宙軍総本部だった。そのビルに呼び出されたのは誠一人だった。質問内容も説明のセリフも、一次面接と何一つ変わらないどうでもいい内容だった。
そうして誠はとりあえずの二次面接を済ませた。
この段階で誠は、この就職試験が『おかしい』ことには気づいていた。しかし、大学の同級生が次々と内定をもらっていく中、仕方なく誠は嵯峨と母が勧める『東和共和国宇宙軍幹部候補生』採用試験を辞退しない決断をして、立派な面接会場を後にした。
家に帰ると通信用タブレットにメールが入った。
その内容は内定決定。あまりの出来事にあれほど待ち望んでいた内定通知をただぼんやりと眺めていたのを覚えている。
その時それを辞退する勇気があれば……今でも誠はそのことを後悔している
その後も奇妙なことは連続で起きた。
内定者に対する最初の説明会会場では、今の時点での希望進路を記入するアンケートが配布された。自分の名前が印字されたマークシート用紙を手にした時、誠はすぐに異常に気づいた。
本来空欄であるはずの欄にはすでに、パイロット志望の印がついていた。
必死に消しゴムで消そうとしたが、完全に名前と同時に印刷されているようで全く消えない。そんな誠のマークシート用紙を会場の『東和宇宙軍』の制服を着た女子職員が誠の意思を無視して回収していった。諦めて誠はそのままパイロット養成課程に進むことになってしまった。
こんな明らかに『誰か』の意図が見え見えで新社会人生活が始まったことに、誠は両親に不安をなんとか説明しようとした。
しかし、口下手で『理系脳』の誠にそれを両親に正確に説明することなどできるはずもなく、二人とも誠の進路が決まったことにただ喜ぶばかりで、誠の『悲劇的』な社会人人生は始まってしまったのである。
1
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
Pomegranate I
Uta Katagi
恋愛
婚約者の彼が突然この世を去った。絶望のどん底にいた詩に届いた彼からの謎のメッセージ。クラウド上に残されたファイルのパスワードと貸金庫の暗証番号のミステリーを解いた後に、詩が手に入れたものは?世代を超えて永遠の愛を誓った彼が遺したこの世界の驚愕の真理とは?詩は本当に彼と再会できるのか?
古代から伝承されたこの世界の秘密が遂に解き明かされる。最新の量子力学という現代科学の視点で古代ミステリーを暴いた長編ラブロマンス。これはもはや、ファンタジーの域を越えた究極の愛の物語。恋愛に憧れ愛の本質に悩み戸惑う人々に真実の愛とは何かを伝える作者渾身の超大作。
*本作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる