鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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選ばれなかった薔薇、逃亡す

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 夜会の会場である宮殿の大広間は、華やかに着飾った男女で賑わっていた。

 とりわけ今日は、同盟国の皇太子夫妻が参加するということもあり、国中の貴族の殆どが参加していた。

「歓談は相手に適当に合わせていれば良い。相槌さえ打てば何とかなる」

「……承知しましたわ」

 夫の隣で、私はこの上無く顔を引き攣らせていた。貴族と言えど大した家柄でも無かったので、国の要人が参加するような大夜会にこれまで参加したことが無かったからだ。

 それに、結婚してから夫婦で行事に参加するのはこれが初めてであった。結婚した次の日に大きな夜会に参加するなど、思ってもみなかった。

「何だ、緊張しているのか?」

 相当焦りが顔に出ていたのか、ヴァルタが私の顔を覗き込みながら問うた。

 目深に軍帽を被っている時は隠れている灰色がかった青色の瞳は、肉食獣の眼のような何処か危うい光を孕んでいた。その視線から逃げるようにして、私は慌てて俯いた。
 
「はい。……申し訳ございません」

「これから、こういう機会は沢山あるだろう。ゆっくり慣れていけば良い」

「あ、ありがとうございます」

 我が国ガリアフールは、つい三年前まで隣国と戦争を繰り広げていた。大国の仲裁により停戦合意に至ったものの、復興は道半ばであった。今でも、戦いの痕は街の至る所に残っている。

 隣国からの侵攻を防ぐため、ガリアフールは強国と同盟を結び、保護国となった。そのため、国の代表同士の懇親を目的とした夜会やお茶会が度々開催されるのだった。

 夫が王立騎士団長という立場にある以上、私も呼ばれることが多々あるのだろう。

「こういう場は苦手か?」

「い、いえ、そんなことは……」

「そうか。なら良い」

 私が口ごもると、ヴァルタは言葉を遮って会話を終わらせてしまった。その淡々とした口調は、事務的と言う他無かった。

 正直、私は夫のことがあまり好きでは無かった。

 彼は、仕事に関しては非常に優秀な男なのだろう。事実、戦時下での功績を認められ、王立騎士団長に抜擢されている。将来は宰相にまで上り詰めるのでは、と噂される程だ。

 その反面、持ちかけられた縁談を全て断るが故、彼は陰で''鉄壁''と呼ばれていた。女嫌いなのか、酷い潔癖症なのか、と、様々な憶測が飛び交っていたが、真偽は定かでは無い。

 とはいえ、初夜が''出して終わり''で呆気なく終わったのも事実である。女嫌いとまではいかなくとも、その手のことに興味が薄い可能性は高い。単に私に魅力が無くがっかりしたから……かもしれないが。

 どういう風の吹き回しでそんな男との縁談が持ち上がったのかは、分からない。ただ私と彼の両親は、不思議な程に乗り気だったのだ。

「彼と結婚したならば、間違いない筈だ」

「とても素敵な方じゃない」

 嬉しそうに声を弾ませる両親の姿を見て、断れるはずも無かった。そして私は、婚約を受け入れたのである。

 実際、義両親はとても優しい人達で、私のことをとても気にかけてくれている。ヴァルタに対しても、私を嫁にもらってくれたという恩はある。

 だから結婚したからには、良き妻になれるよう努力しようとは思う。しかし、彼とのこの先の生活に不安しか無いのが本音であった。

「皇太子夫妻が来られたみたいだな」

 ハッと気が付くと、ホールの扉が開き、同盟国の皇太子夫妻が入場するところだった。

 銀髪の皇太子と、彼と腕を組む皇太子妃。周りを圧倒するような存在感を放っており、畏れを抱かずにはいられない。

 不意に、王太子とリリスの姿が重なる。きっと結婚したら、彼等もあのような素敵な夫婦になるに違い無い。

「綺麗……」

 皇太子夫妻の片腕は、ぴたりと組まれている。それは、二人の仲睦まじさを如実に表していた。

 不慣れなため上手く腕が組めず、見るからにぎこちない私達とは大違いだ。

 不意に、誰かがヒソヒソ話をしていることに気付く。

「騎士団長殿のお隣は、もしかして……《選ばれなかった薔薇》の……?」

 何処からか、そんな一言が聞こえた。それは、私に対する言葉であるのに間違い無かった。

 反射的に声の方へ顔を向けると、皆に顔を背けられてしまった。

 聖女候補は、聖女選びの間《薔薇の蕾》と呼ばれる。それは、尊敬の意味が込められた呼び名である。

 そして聖女に選ばれた場合は《選ばれし薔薇》の称号を授かり、将来王妃となった時《永遠の薔薇》の称号が授与される。

 しかし聖女に選ばれなかった者は、表向きには名誉とされるが、《選ばれなかった薔薇》という非公式の不名誉な呼び方をされることもあるのだった。

「エミリア、どうした?」

「いえ、何でもございません。失礼しました」

 ヴァルタに呼ばれ慌てて彼に顔を向けると、鋭い視線で睨まれてしまった。

 やはりどうしたって、私は彼のことが苦手だ。

 視線を前に戻すと、丁度リリスと王太子が皇太子夫妻に挨拶を交わしているところだった。結婚はもう少し先だが、将来の王太子妃として紹介しているのだろう。

 不意に、リリスと目が合ってしまった。

 彼女も私に気付いたようで、嬉しそうに笑っていた。きっと、夫妻への挨拶が終われば話しかけにくるに違い無い。

 けれども、今この場で彼女と話す気にはなれなかった。私が後ろ指を指されている姿など、彼女だって見たくない筈だ。

 リリスが歓談に気を取られている間に、私は姿をくらますことにした。

「……ヴァルタ様。気分が悪いので、少しだけ外の空気を吸って来ますわ」

「構わないが、大丈夫か?」

「おや。これはこれは、騎士団長殿ではないですか」

 すると背の低い禿げた男性が、歩いてきて私達に声をかけてきた。

 この場を離れる、良いチャンスである。

「宰相殿、お久しぶりです」

「ええ、何時ぶりか分からないもので。そう言えば……」

 彼が捕まってる間に、私は宰相殿に軽く挨拶してから、バルコニーへと向かったのだった。
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