鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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おまけの小話(ヴァルタ視点)

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 その日。私は薄暗い霊安室に独り寝かされ、最早死を待つばかりとなっていた。

 当時ガリアフールは、隣国との争いで劣勢に立たされていた。長引く戦争に騎士達も疲弊し、王都の陥落も間近とすら囁かれていた程である。

 愛する国と国の民を守るべく、騎士として私は無我夢中で剣を振るった。血に染まる荒野を駆け抜け、敵の前で決して倒れることは無かった。その戦いぶりで味方を鼓舞し、敵を恐怖へ陥れるために。

 しかし、それも奇襲攻撃の前には無力であった。私は一瞬の隙を突かれ、砲撃を受けたのだった。

 その時の怪我の様子を一言で表すならば、両手両足が揃っているのがまるで奇跡であるような惨憺たるものであった。

 当然ながら、傷口を縫合したり軟膏を塗る程度のことで快方に向かわないのは目に見えていた。野戦病院に運び込まれた後に助からないとすぐに判断され、私は霊安室へと移されたのだった。

 見切りをつけられたことに、不満は何も無かった。死への恐れも無かった。

 しかし、守るべきものを守れず死ぬのだけが心残りであった。自分が死んだ後、果たしてガリアフールはどうなるのか。痛みの最中、ひたすらに祖国の行く末を案じていた。

 そんな折、霊安室の扉の向こうで誰かが言い争っているのに気付いた。片耳の鼓膜は破れていたが、もう片方は無事だったので薄らと聞こえてきたのだった。

「どうしてですか!? まだ息があるのに、こんな暗くて空気の悪い部屋に移動させるなんて、あんまりではないですか!?」

「彼はもう助かる見込みはありません!! ベッドの空きも無い今、仕方ないでしょう!!」

 どうやら、小娘が看護婦長に食ってかかっているらしい。

 確か婦長は、看護師皆から恐れられているような存在だった筈だ。そんな人物に楯突くなど、小娘は余程の怖いもの知らずか、阿呆に違い無い。

「確かに、皆が助かるのが最善ではあるわ。でもこの状況で、そんなことは言ってられないのよ!!」

「どうか、私の力を使わせて下さい!! 一度でも試す価値はあると思います!!」

「いけません!! 力を無駄遣いする余裕なんて無い程に、患者様は山のようにいるでしょう? まず貴女は、確実に助けられる人を助けて頂戴!!」

 それ以上怒鳴り声は聞こえてこなかった。察するに、婦長が小娘の手を引いて追い出したのだろう。

 そう。この戦時下、生ぬるい綺麗事は何一つ通用しない。それは至極当たり前のことだ。助かる見込みが無いということを、受け入れる覚悟はもう出来ていた。

 霊安室は地下にあり窓も時計も無いので、どれ程時間が経ったかも全く分からない。無音のかび臭い空間は居心地が良いとは言い難いので、出来るならば早く安らかな眠りにつきたいものだ。

 自分の呼吸の数でも数えていたら、そのうち事切れるだろうか。

 そう思い、私は目を閉じて、自らの呼吸の数を数え始めた。

+

 しかし、安らかな死は中々訪れ無かった。それどころか、傷口の痛みで目が冴えてしまい、眠るどころではなかった。中途半端な死に損ないである自分が許せず、私は舌打ちした。

 そんな時、包帯で覆われた目の端で、部屋の扉が開くのが見えた。

 医者が死亡確認にでも来たのだろうか。だが申し訳無いが、まだ死んでない。申し訳なくなり、私は心の中で謝った。

 しかし、部屋に入ってきたのは医者では無かった。

「こんばんは。こんな夜更けに、ごめんなさい」

 それは、婦長と言い争っていた小娘であった。手にはバケツと火の灯ったランプ、それに水の入った硝子のボトルを持っていた。

 申し訳なさそうな表情で、彼女は続けた。

「さっきは部屋の外でうるさくして、ごめんなさい。驚きましたよね?」

「……別に、気にしてない」

「ふふっ、なら良かったです。夜の見回りの子達以外が寝るのを見計らってたら、すっかり遅くなってしまいましたわ」

 素っ気なく言うが、小娘は大して気にしていないようだった。

 そして彼女は、手に持ったランプで私の身体を順番に部分ごとに照らし、怪我の状態を見始めたのだった。

「一番傷が深いのはお腹みたいですね。だったら、そこから始めましょうか。あ、言い忘れてましたが、これでも私、傷口を癒すことができるんですよ」

「……」

「あら、信用してらっしゃいませんね?」

「別に。ただ、勝手なことをして婦長に折檻を食らっても知らんぞ」

「大丈夫ですよ。私、並の人よりも沢山力を持ってるんです。だから、皆に一目置かれてますの」

 魔力が使える場合、年齢や役職に限らず、力の大きさで決まるヒエラルキーが暗黙のうちに存在する。察するに、小娘は並外れた力を持っており、婦長も強く出れないのだろう。

 小娘が自己申告しているだけなので、本当かどうかは分からないが。

「それに、どれだけでも怒られる覚悟は出来てますから」

 そう言って彼女は、血の滲んだ包帯が巻かれた私の腹に両手を置いた。

「お前、正気か?」

「ええ、ばっちり正気ですわ」

 強い魔力により、酷い怪我も治すことが可能な者がいるとは聞いたことがある。どうやら彼女は、それができるようだった。

 しかし怪我を癒す対価として、力を使った者は相応の痛みを身体に受けるはずだ。

 大の男である自分が歯を食いしばって耐えている程の苦痛を、やわな小娘が耐えられるとは到底思えなかった。

「やめておけ。痛みで気分が悪くなるか、泣き喚くのが関の山だ」

「大丈夫です。夕食も抜いてきましたし、バケツとお水もちゃんと持ってきましたし……私、痛いの好きなので!!」

 何故か溌剌とした口調で、小娘はそう言ってのけたのだった。

「……ふっ」

「い、今笑いましたね!!」

 痛みに強いと言うならまだしも、痛いのが好きと言う奴が何処の世界にいると言うのか。私はとうとう耐えられなくなり、傷口に響くのも構わず吹き出した。

 死ぬ間際にこんな風に笑うとは、思ってもみなかった。

「もう、勝手にしてくれ」

 知らぬ間に、小娘に少しだけ心を許している自分がいた。

「ありがとうございます。じゃあ、失礼しますね」

 彼女は目を瞑り、私の腹を撫で始めた。

 すると撫でられる度、断続的に襲ってきた痛みの荒波が、少しずつ凪いでいくのを感じた。

「……っ、う、っ……!!」

 しかし痛みが伝わり始めたのか、彼女は苦しげに呻いた。

 相当耐えているのか、歯を食いしばるような苦悶の表情となり、細い指もガクガクと震え出した。けれども小娘は、腹から手を離そうとはしなかったのだ。

 私の痛みが和らぐのに反比例するように、彼女の苦しみは増していく。苦痛のあまりその頬には、汗が滴り落ちていた。

「……っ、う、ぇ」

「もう良い。……十分だ」

 小娘の顔色が目に見えて悪くなり、嘔吐くような声が聞こえ始めたところで、私は口を開いた。

「これ以上、お前が無理することは無い」

 仮に小娘が無理に力を使って傷が治ったならば、私は得でしかない。だがしかし、彼女は痛みを分け合って、何になると言うのか。

 瀕死を半殺し程度に回復させたとしても、その先快方に向かうかは分からない。そして何より、彼女は苦痛を身に受けるだけではないか。

 意味の無い道連れを伴う気は、私には無かった。

「止めるなんて、そんなの、絶対に嫌です!!」

 急に目を見開き、小娘は強い口調でそう言った。

「何故だ? 力を使っても、お前は苦痛を受けるだけだ。それだけの対価を払って、一体何になる?」 

「……っ、力を持つならば、それを皆のために使う、義務があります」

 苦しげに呼吸しながら、彼女は途切れ途切れに言った。

「私は、その義務を果たしたいのです。それに……」

「?」

 苦しさをかき消すように、彼女は微笑んだ。

「目の前に苦しんでる人がいるのを放っておくなんて、私にはできませんもの」

 きっと、相手が誰であっても彼女はこう言ったに違い無い。それは見返りを求めるものではなく、無償の愛であった。

 目の前のことしか見えてなくて、視野が狭い。国や周囲の利益を、まるで考えていない。目の前の娘をそう言い捨てることもできる。

 けれども私は、その真っ直ぐな心に強烈に惹き付けられていた。

「人を助けることに、貪欲なのだな」

「ふふっ、お褒めの言葉ありがとうございます」

 そして息も絶え絶えになりながら、彼女は治療を続けた。

 治療は左脚、右腕、右脚と進み、最後に左腕が残った。

 痛みが和らいだことで、私は意識がぼやつき始めていた。それが単なる眠気なのか、死への誘いなのかは分からなかった。

 しかし、これで死んだとしても、自分にとって、安らかで幸福な死であるに違い無かった。

「あら、眠くなってきましたか?」 

「ああ、……済まない」

「いいえ、私に構わず、どうぞゆっくりお休みください」

 その会話を最後に、私は眠りへと落ちていった。

+

「ん……う?」

 どれ程寝たのか分からない。しかし私は、穏やかな死後の世界ではなく、薄暗い霊安室で目を覚ましたのだった。

 慌てて起き上がり彼女の姿を探したものの、娘の姿は無かった。

「もしや、夢……なのか?」

 しかし全身の怪我はどれも、かなり浅いものとなっていた。それはあの一夜が夢でないことを物語っていた。

「……?」

 ふと左手を見ると、薔薇の花弁が握らされていることに気付く。枯れないよう魔法がかけられているようで、摘み取ったばかりのように瑞々しいものであった。

 それを握らせたのは、きっとあの娘だろう。

 しかしそれは、彼女がもうこの病院にはいないのを暗に示していたのである。

+

「はーい、ヴァルタ様、優しく笑ってくださいな」

 私の両頬に手を添えて、エミリアは言った。

「……ん、こうか?」

「それは優しい笑顔じゃないです、悪いことを思いついたときの顔ですわ」

 湯の中で、私を跨ぐように向かい合って座った彼女は、呆れたように言った。

 結婚後の休暇が明けた後、やはり夫婦でゆっくり過ごす時間は削られてしまった。そこで私達は、入浴と就寝の時は二人で過ごすことにしたのだった。かれこれ一ヶ月程続けているが、それはすっかり日常の楽しみの一つとなっていた。

 入浴も一糸まとわぬ互いの身体を寄せ合って、夫婦二人和やかに過ごす一時……のはずが、近頃は''笑顔の特訓の場''となっていた。

 これまで夜会などでエミリアの悪口を言う人間を容赦無く睨みつけていたのを、少し前に彼女にバレてしまったのだ。

「良いですか? 私の悪口を言った人を睨みたくなっても、絶対に止めてください。ムッとする代わりに、笑って受け流してください」

「嫌味を聞いて笑っていられないだろ。どうせ碌でもない奴らばかりなのだから、睨み付けて追い払った方が得策だと思うが?」

「ほら、また物騒なことを……そんなことしたら、ヴァルタ様の評判に関わってしまいますから」

 彼女としては、陰口を叩く輩に対してやり返す気は無いらしい。そして私の世間での評価が下がるのを純粋に心配しているようだった。

 私としては他人からの評価にさほど興味は無いが、エミリアを悲しませる訳にはいかないので、渋々特訓に付き合っているのだった。

「うーん、二人でいる時は優しく笑ってらっしゃるのに」

 私の頬を撫でながら、エミリアは呟く。

「特に意識したことは無いが……例えば、どんな時に?」

「えーっと、その、ベッドの上で、とか」

 少し躊躇いがちに、視線を外して彼女は言った。頬が紅潮しているのは、入浴で身体が温まったからなのか、情事を思い浮かべてなのかは分からない。

「そうか。だったら、場所を変えた方が、上手くいくんじゃないか?」

「え、あっ……!!」

 彼女を横抱きにして、一気に持ち上げる。そして私は、浴室の出口へと足を向けた。

「続きの話は、ベッドの上で聞こうか」

「ち、ちょっと!! 適当に誤魔化さないでください!!」

 胸板を叩いて抗議してくるエミリアに構うことなく、私は歩みを進めた。

+

「……っ、ぁ、ん、ヴァルタ様、ぁ」

「は……エミリア……っ、」

「あっ、あああっ、」

 彼女の名前を呼びながら、片脚を担いでひたすらに抜き差しを繰り返す。覚え込ませた甲斐もあり、胎内は牡茎をすんなりと受け入れて、最奥を突く度甘えるように抱きしめてくるのだった。

 エミリアは時折恥じらうように身体を捩るものの、繋いだ片手を離すことはない。

 そんな可愛らしさを目にして、興奮は高まるばかりであった。

「ひっ!? っああ、んっ」

「ん。こっちも大分、悦くなってきたな」

 空いた方の手で蜜濡れとなった秘種を撫でてやると、彼女は一際甲高い嬌声を上げた。

 愛する女が段々と自分の物になっていくのは、何物にも代えられない充足感をもたらしていた。

 抽挿しながら秘種をぐいぐいと責めると、エミリアは涙目であられも無い喘ぎを漏らした。

「あっ、ヴァルタ様、私っ、もう……っ、だ、め、っ、ああああ!!」

「ん、良いぞ、私も、……っ、ぁ、……っぐ……!!」

 最奥を突いた瞬間、ほぼ同じタイミングで胎内で熱が爆ぜる。

 腰を緩く動かすと、淫道が痙攣するのを感じた。どうやら、少し刺激が強すぎたらしい。

「は、……ぁ、……っ」

 肩で息をしながら、エミリアを抱きしめて何度も口付けを交わす。二度目をするにしても、こうして一旦抱き合うのがいつの間にか流れとなっていた。

「ヴァルタ、様……ぁ」

「どうした? 疲れたか?」

「ううん、……ヴァルタ様、……私、貴方とこうしてるだけで、凄く幸せですの。それ以外、何もいらないんです」

 彼女の瞳は、涙で潤んでいた。

「だから……、誰に何言われても、私、大丈夫ですから、……っ、」

 仕返ししようだなんて、考えないで。エミリアは呟いた。

「別に、仕返ししたいのではない。ただ、お前を傷つけたくないんだ」

 病院でのあの夜、エミリアは私を助けるために痛みを分け合ってくれた。悪口を言われる彼女を慰め、悲しみを分け合うことも選択肢としてはあるだろう。

 しかし残念ながら、悲しむ彼女をただ見守るだけの忍耐力も、悪意を向けてきた他者を許す優しさも、私は持ち合わせてはいないのだ。

「傷ついてなんて、いませんもの」

「はっ、どの口が言ってるんだか」

 形の良いエミリアの唇を指でなぞりながら、私は続ける。

「どういう形でも、お前を守りたいんだ」

「……っ、もう力だって、殆ど使えないのに、貴方に守られる価値なんて……っ、」

「力があろうが無かろうが、関係の無い話だ。私にとって、お前は特別な存在なんだ……あの日からずっと」

 エミリアの心に押し寄せたであろう暗い気持ちを押し留めるように、私は彼女をきつく抱き締めた。

 彼女が、私の不変の愛を分かってくれるのが何時になるかは分からない。しかし、受け入れられるまで、どれだけでも愛を伝えようではないか。

「これからもずっと愛してる、エミリア」

 そう言って、私は彼女の眦に口付けた。
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