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第8話 廃屋での出会い
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「【癒しの極意】……?」
聞き慣れないスキルに、優志は首を捻った。それはリウィルも同じようで、
「なんでしょうか……ニュアンス的に回復系ですかね?」
「だよなぁ」
優志とリウィルの声は無意識にトーンダウン。リウィルが指摘したように、「癒し」という言葉が頭に来ている以上、これを攻撃系スキルと捉えるには無理がある。
――だが、スキルであるには違いない。
「このスキルじゃダメか?」
「ダメというか……回復系スキルはもっとも人口が多いんです」
「ふむぅ……もっと詳細なスキルの情報はないのか?」
「これまで発見されたスキルの一覧表というのがありますが……【癒しの極意】なんてスキルは聞いたことがありません」
つまり、代わりはいくらでもいるということ。
「なら、これをネタに城へ戻るって線は……」
「望み薄ですね……」
やはりか、と優志は天を仰いだ。
いくらスキルを得ても、詳細な情報がない上にその字面から数の多い回復系スキルが濃厚とあっては門前払い必至か。
「効果は手探りするしかないってわけか」
「そうなりますね」
「すまない。役立たずなスキルで」
「そ、そんな! あなたは何も悪くありません! すべては私が……私の勝手で……」
リウィルは深く責任を感じているようだった。
優志としては天性のいい加減さというかポジティブさですでにこの異世界でどう生きていこうかということにのみ焦点を合わせているが、リウィルとしてはひとりの男性の人生を台無しにしてしまったという感覚が拭えないでいる感じだ。
リウィルの心情をなんとなく察した優志は、
「気にする必要はないよ」
「え?」
「最初は驚いたけど、こっちの世界はこっちの世界で面白そうだし、もしかしたら前にいた世界よりも暮らしやすいのかもしれない。まあ、文化面ではこれから慣れていかなければいけないところも多いだろうけど」
特に優志が衝撃だったのは湯船のないバスルームだ。
あと、愛用していたサプリなどもこの世界では手に入らないだろうし、その他の健康グッズも入手は絶望的――そう思うと、やはりこの世界で生きていくのは大変かもしれないと考え直してしまうが、そこは持って生まれた天性のポジティブさを発揮し、
「ないならないで、この世界にある物を使って代用すればいいだけの話だ」
「? なんの話ですか?」
「なんでもないよ。とにかく、そう落ち込むなってことだ」
誤魔化すように笑ってから、優志は立ち上がった。
「俺はこれからガレッタさんが紹介してくれた職業斡旋所へ行くけど……君はどうする?」
「私、ですか?」
「新しい仕事を探さなくちゃいけないだろ?」
「そうですね……」
口ではそう言っているが、リウィルは神官という仕事に未練があるのは明白だった。
なんとかしてあげたい。
そう願いはするが、叶えてやれる手段が思いつかない。この世界に来てまだ間もない優志には、神官と呼ばれる職業がどのような立ち位置にあるかさえわかっていないのだから無理もない話である。
「あの、ユージさん」
「な、なんだ?」
「職業斡旋所へは……私も同行してよろしいでしょうか」
「え?」
「恥ずかしながら……私はそのような場所に行ったことがなくて……その……ちょっと不安なんです」
「あ、ああ、いいとも」
すがるようなリウィルの視線を浴びてしまうと、断るわけにはいかなかった。この世界の常識を知らない、赤子同然の優志だが、今のリウィルにはそんな赤子同然の優志しか頼れる者がいなかった。
ふたりは店主に出かける旨を伝え、宿屋をあとにした。
◇◇◇
王都の中央広場から北へ進むことおよそ10分。
それまで二車線道路並みの広さがあった道幅はだんだんと狭まり、周りもお店が立ち並ぶ商業区から居住区へと移り変わったようで、子どもたちの遊ぶ声や近所の主婦たちの井戸端会議などが聞こえてくる。
そうした日常の風景は現代日本となんら変わらないのに、外観だけが圧倒的にファンタジー色が強い。なんというか、
「ギャップを感じるな……」
ゲームのような世界観にありきたりな世間話や笑い声。本当に、異世界転移したというよりも、普段生活している場所がファンタジーという名のウィルスに浸食されてしまい、このような状態になったのではと思えてきた。
細い路地をふたりで並んで歩いていると、
「ぐぅ……」
どこかから呻き声のようなものが。
「なんだ、今の声は」
「何か聞こえましたか?」
「いや……誰かの声がしたような」
「あっ!? どこへ行くんですか!?」
聴力には自信がある。
優志は目の前まで迫っていた職業斡旋所を横切って、さらに狭い路地へと入り込んでいく。
「たしかこの辺りから――お?」
目に留まったのは一軒の廃屋。
その中から、例の小さな呻き声が聞こえた。
「誰かいるんですか?」
恐る恐る入ってみる。
あの呻き声は相当な苦しみを抱えている者から発せられる微弱なサイン。それを感じ取った優志は放っておけず、ここまで足を運んだのだ。
声の主はすぐに見つかった。
「……誰だ?」
弱々しくそうたずねたのは――その声質とは裏腹に屈強な肉体を誇る顎鬚を蓄えた大柄な男であった。誰かと戦ったのか、鈍色の鎧は所々欠けており、額からは出血もしていた。よく見ると、脇腹部分を手で押さえている。そこはかなりの深手らしく、押さえている手は血で真っ赤に染まっていた。
「だ、大丈夫か!?」
出血を見た優志は慌てて駆け寄る。
「大丈夫そうに……見えるか?」
大柄な男は呆れたように掠れた声で言い返した。
「あ、ああ、全然大丈夫そうじゃないな。待っていてくれ、すぐに医者へ――」
「よしてくれ。薬代なんてとてもじゃねぇが出せねぇよ。ただでさえ嵩んじまった借金がさらに膨れ上がるだけだ」
「でも――」
男は優志からの救いの手を拒否した。
借金で怪我が治せないなんて――そんなバカな話が、
「……そんなバカな話があるか」
「何?」
「怪我を治してまた働けばいいだろ。そうすれば、借金なんて返せる」
「そうは言うがよ……」
「体は資本だ。それを生かすも殺すも己次第――俺が一番好きな言葉だ」
「あんた……」
「とにかく、少しだけ待っていてくれ」
優志はそう言い残して廃屋を出た。
医者に診せられないと言うなら、
「俺が治すしかない」
医療技術も知識もない。
あるのは、
「【癒しの極意】……あの時、リウィルの酔いを醒まして二日酔いを防いだ力が、本当に俺のスキルの効果だとするなら、もしかしたら」
あの深い傷と二日酔いではベクトルが違い過ぎるが、【極意】というからにはそれなりの万能性があるはずだ。
「水だ。とにかく水を」
リウィルを回復させた時と同じ条件を満たすため、優志は水を探して来た道を戻る。
聞き慣れないスキルに、優志は首を捻った。それはリウィルも同じようで、
「なんでしょうか……ニュアンス的に回復系ですかね?」
「だよなぁ」
優志とリウィルの声は無意識にトーンダウン。リウィルが指摘したように、「癒し」という言葉が頭に来ている以上、これを攻撃系スキルと捉えるには無理がある。
――だが、スキルであるには違いない。
「このスキルじゃダメか?」
「ダメというか……回復系スキルはもっとも人口が多いんです」
「ふむぅ……もっと詳細なスキルの情報はないのか?」
「これまで発見されたスキルの一覧表というのがありますが……【癒しの極意】なんてスキルは聞いたことがありません」
つまり、代わりはいくらでもいるということ。
「なら、これをネタに城へ戻るって線は……」
「望み薄ですね……」
やはりか、と優志は天を仰いだ。
いくらスキルを得ても、詳細な情報がない上にその字面から数の多い回復系スキルが濃厚とあっては門前払い必至か。
「効果は手探りするしかないってわけか」
「そうなりますね」
「すまない。役立たずなスキルで」
「そ、そんな! あなたは何も悪くありません! すべては私が……私の勝手で……」
リウィルは深く責任を感じているようだった。
優志としては天性のいい加減さというかポジティブさですでにこの異世界でどう生きていこうかということにのみ焦点を合わせているが、リウィルとしてはひとりの男性の人生を台無しにしてしまったという感覚が拭えないでいる感じだ。
リウィルの心情をなんとなく察した優志は、
「気にする必要はないよ」
「え?」
「最初は驚いたけど、こっちの世界はこっちの世界で面白そうだし、もしかしたら前にいた世界よりも暮らしやすいのかもしれない。まあ、文化面ではこれから慣れていかなければいけないところも多いだろうけど」
特に優志が衝撃だったのは湯船のないバスルームだ。
あと、愛用していたサプリなどもこの世界では手に入らないだろうし、その他の健康グッズも入手は絶望的――そう思うと、やはりこの世界で生きていくのは大変かもしれないと考え直してしまうが、そこは持って生まれた天性のポジティブさを発揮し、
「ないならないで、この世界にある物を使って代用すればいいだけの話だ」
「? なんの話ですか?」
「なんでもないよ。とにかく、そう落ち込むなってことだ」
誤魔化すように笑ってから、優志は立ち上がった。
「俺はこれからガレッタさんが紹介してくれた職業斡旋所へ行くけど……君はどうする?」
「私、ですか?」
「新しい仕事を探さなくちゃいけないだろ?」
「そうですね……」
口ではそう言っているが、リウィルは神官という仕事に未練があるのは明白だった。
なんとかしてあげたい。
そう願いはするが、叶えてやれる手段が思いつかない。この世界に来てまだ間もない優志には、神官と呼ばれる職業がどのような立ち位置にあるかさえわかっていないのだから無理もない話である。
「あの、ユージさん」
「な、なんだ?」
「職業斡旋所へは……私も同行してよろしいでしょうか」
「え?」
「恥ずかしながら……私はそのような場所に行ったことがなくて……その……ちょっと不安なんです」
「あ、ああ、いいとも」
すがるようなリウィルの視線を浴びてしまうと、断るわけにはいかなかった。この世界の常識を知らない、赤子同然の優志だが、今のリウィルにはそんな赤子同然の優志しか頼れる者がいなかった。
ふたりは店主に出かける旨を伝え、宿屋をあとにした。
◇◇◇
王都の中央広場から北へ進むことおよそ10分。
それまで二車線道路並みの広さがあった道幅はだんだんと狭まり、周りもお店が立ち並ぶ商業区から居住区へと移り変わったようで、子どもたちの遊ぶ声や近所の主婦たちの井戸端会議などが聞こえてくる。
そうした日常の風景は現代日本となんら変わらないのに、外観だけが圧倒的にファンタジー色が強い。なんというか、
「ギャップを感じるな……」
ゲームのような世界観にありきたりな世間話や笑い声。本当に、異世界転移したというよりも、普段生活している場所がファンタジーという名のウィルスに浸食されてしまい、このような状態になったのではと思えてきた。
細い路地をふたりで並んで歩いていると、
「ぐぅ……」
どこかから呻き声のようなものが。
「なんだ、今の声は」
「何か聞こえましたか?」
「いや……誰かの声がしたような」
「あっ!? どこへ行くんですか!?」
聴力には自信がある。
優志は目の前まで迫っていた職業斡旋所を横切って、さらに狭い路地へと入り込んでいく。
「たしかこの辺りから――お?」
目に留まったのは一軒の廃屋。
その中から、例の小さな呻き声が聞こえた。
「誰かいるんですか?」
恐る恐る入ってみる。
あの呻き声は相当な苦しみを抱えている者から発せられる微弱なサイン。それを感じ取った優志は放っておけず、ここまで足を運んだのだ。
声の主はすぐに見つかった。
「……誰だ?」
弱々しくそうたずねたのは――その声質とは裏腹に屈強な肉体を誇る顎鬚を蓄えた大柄な男であった。誰かと戦ったのか、鈍色の鎧は所々欠けており、額からは出血もしていた。よく見ると、脇腹部分を手で押さえている。そこはかなりの深手らしく、押さえている手は血で真っ赤に染まっていた。
「だ、大丈夫か!?」
出血を見た優志は慌てて駆け寄る。
「大丈夫そうに……見えるか?」
大柄な男は呆れたように掠れた声で言い返した。
「あ、ああ、全然大丈夫そうじゃないな。待っていてくれ、すぐに医者へ――」
「よしてくれ。薬代なんてとてもじゃねぇが出せねぇよ。ただでさえ嵩んじまった借金がさらに膨れ上がるだけだ」
「でも――」
男は優志からの救いの手を拒否した。
借金で怪我が治せないなんて――そんなバカな話が、
「……そんなバカな話があるか」
「何?」
「怪我を治してまた働けばいいだろ。そうすれば、借金なんて返せる」
「そうは言うがよ……」
「体は資本だ。それを生かすも殺すも己次第――俺が一番好きな言葉だ」
「あんた……」
「とにかく、少しだけ待っていてくれ」
優志はそう言い残して廃屋を出た。
医者に診せられないと言うなら、
「俺が治すしかない」
医療技術も知識もない。
あるのは、
「【癒しの極意】……あの時、リウィルの酔いを醒まして二日酔いを防いだ力が、本当に俺のスキルの効果だとするなら、もしかしたら」
あの深い傷と二日酔いではベクトルが違い過ぎるが、【極意】というからにはそれなりの万能性があるはずだ。
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