異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

文字の大きさ
71 / 168

第71話  優志の計画

しおりを挟む
「エアーの魔鉱石? あの空気を生み出すという? そんなものをどうしようって言うんだい?」

 本来、エアーの魔鉱石は水中探索などに使用されることが多い。
 フィルス国王からの依頼は風呂の建設。
 これまでの経緯から、必要となる魔鉱石といえばヒートとアクアだと思っていたのだが、城には働き手が大勢いるので風呂焚きや排水作業は人力でも可能。なので、ベルギウスは魔鉱石は必要ないものと考えていた。

 だが、優志の発想は違った。

 おまけに、必要としているのはまったく予想もしていなかったエアーの魔鉱石だと言う。
 
「風呂を造るのにどうしてエアーの魔鉱石なんだい?」
「ちょっと仕掛けがありましてね」

 ニヤリと含みのある笑みを浮かべた優志。
 自信あり、と見たベルギウスは「ふっ」と小さく笑って前髪をサラッとかき上げた。

「その様子なら勝算はありそうだね」

 激励に来たベルギウスとしては、優志の表情から「やってくれそうだ」という手応えを感じ取ったようだった。

「わざわざ足を運んでいただきありがとうございます」
「いやいや、君には入浴剤の件で世話になったからね。王からの提案に関して行き詰まっているようなら何か協力でも思ったが――杞憂だったようだな」
「せっかくですから、足湯にでも浸かっていきますか?」
「アシユ? それは表にあったあの小さな風呂かい?」
「ええ。あれなら短時間で疲れを取れますからオススメですよ」
「それはいいね。ではお言葉に甘えて利用させもらおうかな」

 途端に、ベルギウスの瞳はキラキラと輝き始めていた。
 優志にはわかっていた。
 ベルギウスの性格上、あの足湯に興味を抱かないわけがない、と。

「はあ……もう少しご自分の立場をわきまえていただきたいものですが」

 大きくため息を漏らしたのはリウィルだった。
 すでに神官を辞めさせられているリウィルにとってベルギウスはもうなんの関係もない人物ではあるが、言う通り、国家としては「次期国王候補」という立場の要人。そうした事情を知っているリウィルからすると、例えもう無関係とはいえ、その言動は気にかかるところであった。

 しかし、当のベルギウスはリウィルのそんな心配を知ってか知らずか、すでに足を無防備に晒して湯に浸けており、たまたま居合わせたギャレット爺さんと談笑を始める始末。

「……あれで能力はピカイチだというのだから信じられません」

 次期国王候補だけあって有能なのは事実。
 だが、リウィルにはあの軽いノリがいまひとつ気に入らない様子だ。

「まあ、国民に近い目線で語れるっていう感性は大事なんじゃないかな」

 優志はかつて住んでいた世界の政治家たちとベルギウスを比較していた。
 政治に対してそこまで特別な関心があったわけではないが、連日のように報道されるよろしくない話題を振り返ると、あのように裏表なく自分を表現できるベルギウスのような人間が国政にいるというのは貴重なのではないかと思えていた。

「それはそうなんですけどね……」

 優志に言われて、リウィルの硬かった表情は少しだけ和らいでいた。
 その時、

「おーい、来たぜ」
「今度は何をしようってんだ?」

 買い取り屋へ行った際に声をかけておいた職人たちが店をたずねてきた。

「待っていましたよ」

 優志は職人たちを会議室(という名目の空き部屋)へ通し、そこで正式に国王からの依頼で風呂を造ることを告げた。
 その反応は、


「「「「お、おぉ……」」」」


 職人たちは皆驚きに目を丸くしていた。
 冒険者にも負けず劣らずの屈強な肉体は丸く縮こまり、誰も言葉を発せられなくなってしまった。
 それほどまでに強烈なプレッシャーを感じているようだ。

「お、俺たちが国王様の入る風呂を造るなんて……」

 思わず、ひとりの職人から本音が漏れた。
 その負の感情はまるで連鎖するように次から次へと伝染。いつもだったら絶対に聞けない弱気な発言が続く。

「みんな――大丈夫だ」

 そんな職人たちを勇気づけようと、優志が口を開く。

「みんなはこれまで俺の注文をしっかり聞き、望みの風呂を造ってきてくれた。今度もやることは変わらない。国王陛下が気に入るだろう風呂の案を用意したから、まずはそいつを聞いてもらいたい」

 ぶれることのない優志の声に後押しされて、職人たちの目つきが変わる。
 もう大丈夫――そう判断した優志はエアーの魔鉱石を使った新しい風呂のプランを職人たちに語った。

「なるほど!」
「そいつは新しいな!」
「どんな風呂になるか想像はつかないが――あんたが言うなら間違いない!」

 職人たちは優志の案に賛同してくれた。――というより、いまひとつ効果が想定できていないようだったが、これまでもいろんな風呂を発案して見事大成功をおさめている優志の案だから大丈夫だと判断したのだろう。

 とりあえず、優志の発案した風呂を造るのに必要な材料や工具を取りに職人たちは一旦街へ戻ることにした。
 それだけでなく、今回は仕事場が広いため、ある程度の役割分担をしなければならないと優志が提案したことにより、それも順次決めていくこととなった。

 会議が終り、優志が職人たちと共に会議室から出ると、廊下で腕を組んだまま一点を見つめるベルギウスに遭遇した。

「…………」

 珍しく、真剣な眺めていたのは、

「あれって……」

 壁に飾られた一幅の絵画。
 それはライアンの作品だった。

「その絵が気になりますか?」

 優志が声をかけると、ベルギウスはこれまでに聞いたことのない真剣な声色で、


「ユージくん……この絵の作者を知っているかい?」

 そうたずねてきた。
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...