8 / 118
8話・心の傷は未だ消えず
しおりを挟む「ほんっとーにすみませんでしたァ!」
「謝ることはない」
「でも、僕またご迷惑を……」
ベッド脇の床で土下座&謝罪する僕に、ゼルドさんは苦笑いを浮かべている。
徹夜での針仕事が祟り、僕は気を失うように眠りにおちた。あろうことか、ゼルドさんの膝の上にまたがったままの状態で。
起こさないよう、ゼルドさんは僕を抱えた体勢で動かずにいてくれた。数時間後、彼の腕の中で目を覚ました時は何が起きたのか分からず、真顔で数十秒見つめあってしまったほどだ。
「もうすぐ昼だ。そろそろ起こそうかと思っていた」
「あああああ!僕のせいで朝ごはん食べ損ねちゃったんですよね?ごめんなさい!」
「……謝るなと言っている」
涙目で謝罪を続ける僕を見て、ゼルドさんが溜め息をついた。また眉間にシワが寄っている。その顔を見たくなくて、俯いて視線をそらした。
「すみません、すみません、ごめんなさい」
「…………」
困らせるだけなのに、自己満足だと分かっているのに、謝罪の言葉が口からあふれて止まらない。不安と焦りがごちゃ混ぜになって、自分でコントロールできなくなる。
──だって、役立たずは酷い目に遭う。
「ライルくん」
「は、はいっ」
青ざめる僕の両肩を掴み、グイッと上を向かせ、ゼルドさんは無理やり視線を合わせた。真剣な眼差しに射抜かれ、身体がこわばる。
「君はよくやっている。探索から帰還したばかりで疲れているのに、私のために徹夜で作ってくれたんだろう?感謝している」
「でも」
そもそも、ゼルドさんの鎧が壊れてしまったのは僕が油断したから。代わりに装備した鎧が脱げなくて不便を強いているのも元をただせば僕のせい。不便を少しでも減らせるよう努力するのは当たり前。
それなのに、ゼルドさんは一度も責めない。
言葉を選んで慰めてくれている。
「昼食を食べにいこう」
「……、……はい」
ゼルドさんは『あの人たち』とは違う。
支援役の僕を仲間として扱ってくれる。
誠実で優しい人だと分かっているのに。
おなかがふくれた頃には、さっきまでの鬱々とした気持ちがどこかへ消え失せていた。なんであんなに取り乱しちゃったんだろう、恥ずかしい。
落ち着いた僕をみて、ゼルドさんも安心したみたいだった。
定食屋のテーブルで向かい合って座り、食後のお茶を飲みながら、今後の予定を相談する。
「今日明日は休養とする」
「わかりました。その間に色々準備しておきますね」
「徹夜は禁止だ。きちんと休め」
「ウッ……」
僕が情緒不安定になったのは疲労と睡眠不足と空腹のせいだと思ったらしい。まあ、多分その通りだろう。また醜態をさらすくらいなら素直に休養したほうがいい。
「服の直しも外注してくれて構わない」
そう言いながら、ゼルドさんは鎧の下の服を指差した。僕が徹夜で改造したものだ。
「アッ、もしかして着心地悪いですか?」
肌に直接触れるものだから気を付けたつもりだけど、本職の針子さんに比べれば拙い仕上がりだ。特に、最後のあたりは半分寝ながら作業していたから縫い目が安定していない。
「そうではない。何着も手を加えるなら時間と手間が掛かるから、君が休む時間が無くなる」
「でも」
「指の傷は縫う時に負ったのだろう?」
「……はい」
指摘され、拳を握って指先の傷を隠す。
キルト生地は厚いから縫うのもひと苦労で、力加減を誤って何度か指に針を刺してしまった。
昨夜はああでもないこうでもないと悩みながら作業したので時間が掛かったが、やり方さえ決まれば後は手を動かすだけ。
針子さんに頼むと改造箇所の説明から始めないといけないし、何日で仕上げてもらえるか分からないし、何より手間賃がかかる。自分でできることに関しては余計な出費をしたくない。
ゼルドさんの身体を保護する大切な服だ。
他人任せにしたくないという気持ちもある。
「ちゃんと休憩しながら作業しますから、僕にやらせてください」
「……無理はしないと約束してくれ」
「はいっ」
定食屋を出てから雑貨屋に立ち寄り、厚手の生地を縫うための針や糸、補強用の布などを補充する。あと、吸汗性に優れた布を多めに買った。
「あ、そうだ。戦利品の精算まだでしたよね。ギルドに寄っていきましょう」
「ああ」
昨日の時点では軽く鑑定しただけで、まだ戦利品を買い取ってもらえていない。丸一日経ったし、そろそろ買い取り金額も決まった頃だろう。
しかし、すんなりとはいかなかった。
ギルドが大騒ぎになっていたからだ。
85
あなたにおすすめの小説
イスティア
屑籠
BL
ゲームの世界から、ログインした途端異世界に落ちた大島和人。
平凡よりはブサイクよりな彼は、ONIの世界では中間クラスの錬金術師だと思っていて、それなりに薬を作ってそれなりに生きていければ良いや、と思っている。
とりあえず、息抜きに書いていく感じなので更新はまちまちで遅いです。月一更新が目安です。
10話毎に、ムーンライトノベルさんで更新することにしました。
こちらは、変わらず月一目安更新です。
壱話、8000〜10000字です。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
嘘はいっていない
コーヤダーイ
BL
討伐対象である魔族、夢魔と人の間に生まれた男の子サキは、半分の血が魔族ということを秘密にしている。しかしサキにはもうひとつ、転生者という誰にも言えない秘密があった。
バレたら色々面倒そうだから、一生ひっそりと地味に生きていく予定である。
ボスルートがあるなんて聞いてない!
雪
BL
夜寝て、朝起きたらサブ垢の姿でゲームの世界に!?
キャラメイクを終え、明日から早速遊ぼうとベッドに入ったはず。
それがどうして外に!?しかも森!?ここどこだよ!
ゲームとは違う動きをするも、なんだかんだゲーム通りに進んでしまい....?
あれ?お前ボスキャラじゃなかったっけ?
不器用イケメン×楽観的イケメン(中身モブ)
※更新遅め
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)
exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】
転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。
表紙は1233様からいただきました。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
