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七つの記憶
第48話:誰かの記憶 1
しおりを挟む慰霊碑の事件以降、あたしはたまに体調を崩すようになった。普段は元気なんだけど疲れ過ぎるとダメみたいで熱が出ちゃう。
新しい祠を見に行って帰ってきた途端にダウンして、そのまま寝込んでしまった。薬のおかげで頭痛は治まったけど、何故か全身が怠くて重くて起き上がれない。
せっかくの日曜なのに寝てるしか出来ないあたしを気遣い、お兄ちゃんがベッドの脇に腰を下ろして話し相手をしてくれた。看病される側になるのは初めてで、なんだか照れる。
「昔の僕みたいだね。疲れが溜まってるんだよ」
「で、でも、あたし何も特別なことしてない」
「夕月、視えるようになっただろ? 弱い霊は御水振さんたちがいるから近付けないけど、見えないはずの存在を認識してる時点でかなりの負担になるんだよ」
確かに、こうなるまでは見えなかったもの……七つの光をはじめとした不思議なものが見えるようになった。黒い靄とか神様のキラキラとか。
「お兄ちゃんも?」
「うん。物心ついた時からね」
自分がそうなってみて初めて分かる。
普通の世界プラス不思議な世界、両方の情報を処理しきれなくなるとダウンしちゃうんだ。これは地味につらい。
「これは想像以上にしんどいね。お兄ちゃん、小さい頃からコレに耐えてきたんだ。すごいよ」
「すごくなんかないよ。このせいで外で一緒に遊んだりできなかったし家族で遠出も出来なくて……こんなのが兄ちゃんでごめんっていつも思ってた」
「お兄ちゃんは何でも知ってるし、優しいし、カッコいいし、あたしの自慢だよ」
「……夕月、ありがとう」
お兄ちゃんの大きな手が何度も頭を撫でてくれて、あたしはその心地良さに目を閉じ、そのまま寝入ってしまった。
『……其方とこうしていると心が安らぐ。早く祝言の日が来ればいいのに』
『ふふ、そのように我儘を申されるなんて、貴方様らしくありませんね』
んん?
なんだこれ。
ぼんやりした空間の中にお屋敷だけが浮かんで見える。古風な感じの、社会の教科書で見たような立派なお屋敷だ。
その縁側に座り、庭を眺めながら、男の人が部屋の奥にいる女の人に話し掛けている。二十台前半くらいかな。顔はよく見えないけど、身なりや話し方、屋敷の大きさからするとどちらも身分が高い人っぽい。
『愛している、其方は私の全てだ』
うわ。聞いてるこっちが赤面するような、すごく優しくて熱のこもった愛の言葉だ!!
ていうか、ほんとに何これ。
夢? 夢かな?
お母さんがよく見てるドラマの影響かなあ。二人の男女のやりとりを映画のスクリーンを通して眺めてるような変な感覚。
それにしても、この男の人、どこかで──
場面が変わって、さっきまでのほんわかした雰囲気が吹き飛んだ。お屋敷の中をたくさんの武装した男の人たちが慌ただしく駆け回っている。遠くから大勢の人の声や悲鳴が聞こえてくる。塀の向こう側の空は赤く、黒い煙があちこちから上がっていた。
さっきの二人は大丈夫なの?
『馬鹿な! 講和の条件に姫を差し出せだと?』
『これ以上民に被害が出れば御領が立ち行かなくなります。お父様があちらと話し合ってそう決めたのです。わたくし一人で済むのでしたら喜んでこの身を捧げましょう』
『其方は私の妻となるのだ。敵方に差し出すなどあってはならん!』
『そのお言葉だけで十分でございます。今生では叶いませんでしたが、いつか、必ず……』
どうにもならない理由で引き裂かれる二人をハラハラしながら見守る。
連れて行かれた女の人は敵方の兵が引いたのを確認した後、辱められる前に自ら死を選んでしまった。
男の人は、その報せを受けて単身敵陣に飛び込んで敵将を討ち、その場で最愛の人の後を追った。
目尻から流れ落ちる涙の感触で目が覚めた。
悲しい内容だったけど、起きたら頭がスッキリして体調も良くなってた。
なんでこんな夢を見たんだろ。
変なの。
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