【完結】かみなりのむすめ。

みやこ嬢

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未来のはじまり

第85話:解放の条件

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 自分の徳を分配してまで全員の神格化を手助けした。お兄ちゃんはともかく、八十神やそがみくんがそうする理由が分からない。

「……榊之宮さかきのみやさんを天界の支配下から完全に解放するためだよ」

 思わぬ返答に、尋ねたお兄ちゃんも黙り込んだ。

 あたしを天界から解放するため?
 そのために八十神くんが何かしたの?

「君が危惧していた通り、君ひとりが神格化しても榊之宮さんは今後も転生する度にお役目に就く。それから完全に解放させるための条件が『七人の神格化』だった。つまり、榊之宮さんが来世以降にやるべきノルマを今世で全て終わらせるってこと」
「それで私たちまで……」
「じゃあ、おまえ、夕月ゆうづきのために?」
「君たちがちゃんと神格化してくれて良かったよ。そうでなければ、ここまで上手く事は運ばなかった」

 それを聞いて、夢路ゆめじちゃんと千景ちかげちゃんは複雑そうな表情を浮かべた。ずっと警戒してきた彼が、実はあたしのために動いていたと知ったからだ。

「まあ、最初の頃は普通に死んでもらうつもりだったからね。君たちに敵視されても仕方ないよ」
「……」

 彼の生い立ちや事情を知るうちに、みんなから怒りの感情が消えていった。代わりに戸惑いや疑問が湧き上がる。

「あのさ、結局俺らはどうなんの? 神格化したっつっても何も変わんないんだけど」
「そうだな。幽霊や妖怪が見えるようになったわけでもないし、特別な力が使えるわけでもない」

 玲司れいじさんと鞍多くらた先生の言うように、七人には特に変化が見られない。同調シンクロしたから七つの光は見えるけど、霊感に目覚めたりはしていないらしい。

「魂が成長して、あがり・・・に近付いたってことだからね。死ぬまでは関係ないよ。あ、もちろん今後悪い事をしたりしたら格が下がるからね。神格化の資格が無くなるから気を付けて」
「な、何に気を付ければいいの?」
「うーん……そうだなあ。簡単に言うと、不殺生 ふせっしょう不偸盗 ふちゅうとう不邪淫 ふじゃいん不妄語 ふもうご不綺語 ふきご不悪口ふあっく不両舌 ふりょうぜつ不慳貪 ふけんどん不瞋恚ふしんい、あと不邪見ふじゃけん。これくらいかな」

 全っ然簡単じゃない!
 聞き慣れない言葉がたくさん出てきた!

「は? 待って、何それ。どういう意味?」
「仏教に於ける『十善戒じゅうぜんかい』か。なるほど」
「じーちゃん分かるのかよ……」
「人として真っ当に生きろということだ」
「説明になってねえっつーの」

 おじいさんの解説でもよく分からない。とにかく、よそ様に恥じない生活をしたらいいのかな?

神道しんとうも仏教も他の宗教でも基本の教えは大体こんなものだよ。人間だから少しくらいは戒律を破ることもあるだろう。それも見越して多目に徳を分配してあるから安心していいよ」
「……はは、そりゃあ有り難いこった」

 苦笑いする玲司さん。
 なんだか大変なことに巻き込んじゃったんだな、と今更ながら実感する。この七人なら大丈夫だと分かっていても、先にこんな風に知らされたら窮屈に感じてしまうよね。

「ご、ごめんね、みんな。あたしのせいで」
「何言ってんの夕月。大したことないよ!」
「これで夕月ちゃんが助かるなら」
「そうよ、気にしないで」

 千景ちゃんや夢路ちゃん、叶恵かなえちゃんはあたしを囲んでそう言ってくれた。

「ま、俺は教師だからな。生徒の見本にならにゃならん立場だ。戒律くらいフツーに守るさ」
「えー、おれはちょっと心配かな~」
「おじいさんから気を付けるべきことをちゃんと教わっておけよ。おまえが一番不安だから」
「なんでだよ朝陽あさひ!」

 鞍多先生はともかく玲司さんは不安そう。

 えーと、これで完全に自由の身になるってことかぁ。みんなのおかげだね。

「いや、まだだよ」

 またあたしの考えを読んだのか、八十神くんが口を開いた。






「七つの魂との繋がりを断つこと。これが天界が出した、君を完全に解放するもう一つの条件だよ」
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