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第20話 ソワソワ一大チャレンジ!
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どうしよう……どうしよう!?
やめる? やっぱやめとく? 余計なことしないほうがいいね? ね? 迷惑かもしれないし。うん。
でも、うーーん……。
「サファ? どうかしたか?」
「あ、いえ! なにもないですっ!」
あぶないあぶない。せっかくファランさまがお散歩に連れて行ってくれてるのに、上の空はダメなやつ。失礼すぎる。
「ならいいが……気になることがあれば、言うのだぞ?」
「はい!」
ためらいなく、元気にお返事。じゃないと、なんかあるって思わせちゃうかもしれないしね。
「こっちのお庭も、お花たくさんおですねー。かわいい」
「ああ。今はこのあたりだけだが、もう少しするとあそこから……あの辺りまで、いろいろな花が咲く」
「わぁぁぁ、そんなにたくさん……」
「見頃になると、それは見事なものだ。あちこちの庭を一通り回ってみるか」
「は、はい!」
「散歩が忙しくなるな」
「ふえ……」
あ、ああ! またその頃もお散歩行こうねっていってくれてるんだ! わあ、昨日のお庭もこっちのお庭も。
「えへへ……楽しみです」
ぼくとずっと遊んでくれるつもりなの、うれしいぃなぁぁ。
「ああ」
にっこり。ファランさまのにっこりは少しわかりにくいけど、わかるようになるとわかる。今のは間違いなくにっこりの顔。
「さ、向こうまで歩こうか」
「はーい!」
るんるんでとてとて歩きながら、ふと思い出した。
――で、結局どうする? さそう? やめる?
あーーん、どうしよう~。
***
「それで、なんだ?」
「ふぇっ……?」
手を引かれて一面のそれはそれは立派な花園を眺めて、これまた豪華なガゼボについた。ガゼボってほらあれ、屋根付きの休憩所みたいなところ。
「今日はじめから、なにか言いたそうにしていただろう? 遠慮はいらない、話してほしい」
「あ、あ――」
やだー、ばれてたー。
「お茶を飲んで落ち着いてからでいい。菓子も好きなのをつまむといい」
「ふぁい」
えーえー、もしかしてもしかしてあれ? お散歩中に急におつきの人になにか言いつけてたのは、このお茶の準備で、それはぼくにゆっくりお話しさせるため、ってこと?
「きゃー」
察し力と気遣い力がすごい。ほんとに12才ですか? え? ほんとに? 冗談とかじゃなく?
うそじゃん……。
「菓子はどれが好きだ? 甘いものは好きだろう?」
「はい! あの、えー、ぜんぶおいしそう……えー」
「ふっ、どれでもいいぞ」
「はい!」
わー、もう。ファランさまもぼくにお菓子用意してくれるなんてー、もー。
……じゃなくてそれ! お菓子! ぼくじゃなくてファランさまはどうなの!?
「あの、ファランさまは?」
「うん?」
「ファランさまはお菓子好きですか!?」
「……ど、どうしたそんな勢いよく」
はっ、しまった。甘いものがいけるかどうか自然な流れで聞き出せるチャンスと思ったら、つい。
「あ、いえ、あのぅ……」
「菓子はまぁ、人並みに好きではあるが」
「そ、そうですか!」
よかった! お菓子嫌いかもしれない問題はクリアだ。あとは誘っても迷惑じゃないか問題。
「あのぉ……」
ぼくは、一番小さいお花の形の焼き菓子を手にとって、そーっと目の前のキラキラ王子様を見上げた。
「実はぼく、この前へいかにお菓子をたくさんいただいたんです」
「ああ、そうだったな。気に入ったか?」
「はい! それで、お部屋のみんなでお菓子いただいてたんですけど」
「ああ、なんだかとんでもない量を送ったらしいと聞いて困らせてえるのではと思っていたが……」
「いえ、そんな、ぜんぜん」
「そうか、みんなで食べていたのか。それはよかった」
「はい!」
もらいすぎたお菓子のことまで心配してくれてたの!
「あ、あの、でもまだたくさんあって――」
「父上……いったいどれだけ贈らせたんだ……」
「ぼくのお部屋の、大きいテーブルいっぱいくらいです!」
「え……あの6人ぐらい座れそうな食卓のか?」
「はい! まだ、はんぶん以上あります」
「……そうだろうな」
ファランさまは「やれやれ」な顔で言ったあと、「あっ」の顔になる。
「多すぎて困っているのか?」
「いえ! たくさんあってとってもうれしいです」
「そうか」
「でも、あの……その……」
今だ! 今こそ言い出すチャンス!
「うん?」
「ぼく、あの、ぱ――」
あああ、やっぱりダメだ! こんなこと、おこがましいし図々しい! 侍女さんたちは、きっと喜んで来てくださいますわ! なんて言ってくれたけど、でもでも、やっぱり迷惑じゃ……。
「ぱ?」
しまった。頭の文字だけ口から出てた! これはもう、言うしかないやつ……?
ええい!
「あの、ぼく、お菓子パーティをしようと思って!」
「ああ、パーティ。それは楽しそうだな」
「はい……」
「ああ……」
な、謎の沈黙と謎のソワソワ。
ぼくが盛大にソワついてる前で、ファランさまもなんかソワソワに見える。
「それで……その、パーティというのは、誰を招くのだ?」
なぜかじっと見られて、企みを持つぼくはドキーっとなる。
「あの、それはあの……」
ううう、言っちゃっていいかな? それでぼく、なんでこんなにためらってるのかな?
やっぱ、身分をわきまえないと、的な? 小国からきた人質のくせに、パーティなんて!みたいな?
「あの……」
「…………」
あああ、もういいやっ!
「ファランさま、いっしょにぱーてぃしませんかっ!?!?」
はぁはぁはぁ、言ってやった! 言ってやったぞお。
勢いつけすぎたあまり、カタコトだった気がしないでもないけど。
「ああ」
「あの、ダメなら――」
「そんなことあるわけないだろう。一緒にやるか、パーティ」
「わぁぁぁぁ」
ソワソワと心配が全部飛んでいった……気がする。今だけだけど。
「ほんとうですか!?」
「ああ、もちろんだ。いつがいい? 場所はそなたの部屋か?」
「ファランさまがお時間あるときにやります! 場所は……ぼくのお部屋でもだいじょうぶかなぁ……」
***
はぁぁぁ、無事にファランさまをパーティに招待できたし。みたかんじ、迷惑そうでもなかったし。よかったよかった、一段落。
あとは侍女さんたちと一緒にパーティの準備をして、どのお菓子をどう並べるか……それとテーブルマナー、お茶会のマナーも一応調べておいたほうがいいかな。まぁ、侍女さんたちに聞いたほうが早いけど、一応自分でも調べておかないとね。うん。
「サファさま、今日はなんのご本をお借りになるんですか? また絵本ですか?」
いつでも行っていいよ!とファランさまにお許しをもらった図書館に向かう途中、侍女のアンさんがにこにこ尋ねる。
「ううん。今日はね――」
「あれ~、おちびちゃん。おはよ~」
たんたんたん、とリズミカルに軽い足音と一緒に声がした。
「あ、ハロルドでんかー。おはようございます」
数日前、バツグンの絵本センスを発揮してくれた第2王子様は、ひらひらと手を振りながら近づいてきた。おはような時間ではない気もしたが、そこはべつにいっか。
「サファちゃん、今から図書館~?」
「あ、はい! そうなんです」
「そっかそっか。こないだの絵本は気に入った~」
「はい!……絵本、すぐ読みましたっ。すっごくよかったです! えらぶのてつだってくださって、ありがとうございました!」
そうそう、お礼がまだだった。ここはしっかりぺこーとお辞儀だ。
「ふふ、それはよかった~。また借りるときは手伝ってあげるからね~」
「わ、いいんですかっ? ありがとうございますっ!」
正直、ハロルド殿下の絵本選びはセンスがいいので、とっても助かる。
「うんうん」
ハロルド殿下は満足そうに目を細めてニコニコうなずいていた。
「それで?」
と思ったら、急にぐぐい、と身を乗り出してきた。
「えっ?」
「ほら~、僕になにか言うこととか、ないの~?」
「――えっ?」
なになになに。……何? 言うことは別にない。正直なにも。でも、なにぃぃぃ?
「えっと、あの、え……」
心当たりゼロで、ひたすらあたふた。
「はぁぁぁ~」
すると、ハロルド殿下はむむ、という顔でわかりやすいため息をついた。
ひえええ、怒ってる?
「も~、つめたいよな~おちびちゃんってば」
ん? 怒ってる……というかすねてる?
「兄さまに聞いたよ~。お菓子がいっぱいあるからパーティするって」
「あ……はいっ! そうなんですっ」
「……それで? 僕に言うことは?」
「……?」
むむむ、なんだなんだ! ハロルド殿下に言うこと? お菓子パーティの話に関係すること? そしてこのわかりやすい、すねてるアピール……。
「はっ……!」
これはもしや……。
「あのぅ、でんかはお菓子好きですか?」
「もちろん好きだよ。お菓子が嫌いな人ってそうそういないでしょ」
そっかそっか! やっぱハロルド殿下も大きく見えてもまだ11才だし、お菓子とかやっぱり好きだよね、うん。
それなら――
「じゃあ、お菓子パーティにおまねきしてもいいですか?」
「もっちろん! そうこなくっちゃ」
「わぁぁ。じゃあ、ぜひきてください!」
「ふふふ、いいよぉ~。いつなの?」
「パーティは明後日です! お時間――」
「大丈夫。空けておくよ」
「わぁ、ありがとうございます!」
こっちの侍女さんとあっちのお付きの人が横で、では詳しい話は後ほど……とやり取りしてるのが聞こえてくる。さすがスムーズ抜かりない。
「うんうん。じゃあ、楽しみにしてるよ~、またね」
「はい!」
ハロルド殿下は満足した顔でうんうん頷くと、のんびり背を向けて歩いて――
「ああ、そうだ」
行こうとして、くるんと振り向いた。
「今度から、ちゃんと、最初から、僕に声をかけるように~。いい?」
「え、あ、はい。わかりました!」
んん? まあ……なんかよくわからないけど、にこにこでうんって言っておこう。それが安全。
「わかればいいよ~じゃあね~」
「はい! さようなら」
今度こそ背を向けて歩いていく様子を、なんとなく見送りながら首を傾げる。
今の、なんだったんだろー?
なんかどうしてもお菓子パーティに来たいみたいに見えたなぁ。
「うーん」
あれかな。よっぽどお菓子が好きなのかな?
きっとそうだよね、お菓子好きって言ってたし。
【今日のメモ】
・ハロルド殿下はお菓子が好き。お菓子パーティには必ず誘う。
やめる? やっぱやめとく? 余計なことしないほうがいいね? ね? 迷惑かもしれないし。うん。
でも、うーーん……。
「サファ? どうかしたか?」
「あ、いえ! なにもないですっ!」
あぶないあぶない。せっかくファランさまがお散歩に連れて行ってくれてるのに、上の空はダメなやつ。失礼すぎる。
「ならいいが……気になることがあれば、言うのだぞ?」
「はい!」
ためらいなく、元気にお返事。じゃないと、なんかあるって思わせちゃうかもしれないしね。
「こっちのお庭も、お花たくさんおですねー。かわいい」
「ああ。今はこのあたりだけだが、もう少しするとあそこから……あの辺りまで、いろいろな花が咲く」
「わぁぁぁ、そんなにたくさん……」
「見頃になると、それは見事なものだ。あちこちの庭を一通り回ってみるか」
「は、はい!」
「散歩が忙しくなるな」
「ふえ……」
あ、ああ! またその頃もお散歩行こうねっていってくれてるんだ! わあ、昨日のお庭もこっちのお庭も。
「えへへ……楽しみです」
ぼくとずっと遊んでくれるつもりなの、うれしいぃなぁぁ。
「ああ」
にっこり。ファランさまのにっこりは少しわかりにくいけど、わかるようになるとわかる。今のは間違いなくにっこりの顔。
「さ、向こうまで歩こうか」
「はーい!」
るんるんでとてとて歩きながら、ふと思い出した。
――で、結局どうする? さそう? やめる?
あーーん、どうしよう~。
***
「それで、なんだ?」
「ふぇっ……?」
手を引かれて一面のそれはそれは立派な花園を眺めて、これまた豪華なガゼボについた。ガゼボってほらあれ、屋根付きの休憩所みたいなところ。
「今日はじめから、なにか言いたそうにしていただろう? 遠慮はいらない、話してほしい」
「あ、あ――」
やだー、ばれてたー。
「お茶を飲んで落ち着いてからでいい。菓子も好きなのをつまむといい」
「ふぁい」
えーえー、もしかしてもしかしてあれ? お散歩中に急におつきの人になにか言いつけてたのは、このお茶の準備で、それはぼくにゆっくりお話しさせるため、ってこと?
「きゃー」
察し力と気遣い力がすごい。ほんとに12才ですか? え? ほんとに? 冗談とかじゃなく?
うそじゃん……。
「菓子はどれが好きだ? 甘いものは好きだろう?」
「はい! あの、えー、ぜんぶおいしそう……えー」
「ふっ、どれでもいいぞ」
「はい!」
わー、もう。ファランさまもぼくにお菓子用意してくれるなんてー、もー。
……じゃなくてそれ! お菓子! ぼくじゃなくてファランさまはどうなの!?
「あの、ファランさまは?」
「うん?」
「ファランさまはお菓子好きですか!?」
「……ど、どうしたそんな勢いよく」
はっ、しまった。甘いものがいけるかどうか自然な流れで聞き出せるチャンスと思ったら、つい。
「あ、いえ、あのぅ……」
「菓子はまぁ、人並みに好きではあるが」
「そ、そうですか!」
よかった! お菓子嫌いかもしれない問題はクリアだ。あとは誘っても迷惑じゃないか問題。
「あのぉ……」
ぼくは、一番小さいお花の形の焼き菓子を手にとって、そーっと目の前のキラキラ王子様を見上げた。
「実はぼく、この前へいかにお菓子をたくさんいただいたんです」
「ああ、そうだったな。気に入ったか?」
「はい! それで、お部屋のみんなでお菓子いただいてたんですけど」
「ああ、なんだかとんでもない量を送ったらしいと聞いて困らせてえるのではと思っていたが……」
「いえ、そんな、ぜんぜん」
「そうか、みんなで食べていたのか。それはよかった」
「はい!」
もらいすぎたお菓子のことまで心配してくれてたの!
「あ、あの、でもまだたくさんあって――」
「父上……いったいどれだけ贈らせたんだ……」
「ぼくのお部屋の、大きいテーブルいっぱいくらいです!」
「え……あの6人ぐらい座れそうな食卓のか?」
「はい! まだ、はんぶん以上あります」
「……そうだろうな」
ファランさまは「やれやれ」な顔で言ったあと、「あっ」の顔になる。
「多すぎて困っているのか?」
「いえ! たくさんあってとってもうれしいです」
「そうか」
「でも、あの……その……」
今だ! 今こそ言い出すチャンス!
「うん?」
「ぼく、あの、ぱ――」
あああ、やっぱりダメだ! こんなこと、おこがましいし図々しい! 侍女さんたちは、きっと喜んで来てくださいますわ! なんて言ってくれたけど、でもでも、やっぱり迷惑じゃ……。
「ぱ?」
しまった。頭の文字だけ口から出てた! これはもう、言うしかないやつ……?
ええい!
「あの、ぼく、お菓子パーティをしようと思って!」
「ああ、パーティ。それは楽しそうだな」
「はい……」
「ああ……」
な、謎の沈黙と謎のソワソワ。
ぼくが盛大にソワついてる前で、ファランさまもなんかソワソワに見える。
「それで……その、パーティというのは、誰を招くのだ?」
なぜかじっと見られて、企みを持つぼくはドキーっとなる。
「あの、それはあの……」
ううう、言っちゃっていいかな? それでぼく、なんでこんなにためらってるのかな?
やっぱ、身分をわきまえないと、的な? 小国からきた人質のくせに、パーティなんて!みたいな?
「あの……」
「…………」
あああ、もういいやっ!
「ファランさま、いっしょにぱーてぃしませんかっ!?!?」
はぁはぁはぁ、言ってやった! 言ってやったぞお。
勢いつけすぎたあまり、カタコトだった気がしないでもないけど。
「ああ」
「あの、ダメなら――」
「そんなことあるわけないだろう。一緒にやるか、パーティ」
「わぁぁぁぁ」
ソワソワと心配が全部飛んでいった……気がする。今だけだけど。
「ほんとうですか!?」
「ああ、もちろんだ。いつがいい? 場所はそなたの部屋か?」
「ファランさまがお時間あるときにやります! 場所は……ぼくのお部屋でもだいじょうぶかなぁ……」
***
はぁぁぁ、無事にファランさまをパーティに招待できたし。みたかんじ、迷惑そうでもなかったし。よかったよかった、一段落。
あとは侍女さんたちと一緒にパーティの準備をして、どのお菓子をどう並べるか……それとテーブルマナー、お茶会のマナーも一応調べておいたほうがいいかな。まぁ、侍女さんたちに聞いたほうが早いけど、一応自分でも調べておかないとね。うん。
「サファさま、今日はなんのご本をお借りになるんですか? また絵本ですか?」
いつでも行っていいよ!とファランさまにお許しをもらった図書館に向かう途中、侍女のアンさんがにこにこ尋ねる。
「ううん。今日はね――」
「あれ~、おちびちゃん。おはよ~」
たんたんたん、とリズミカルに軽い足音と一緒に声がした。
「あ、ハロルドでんかー。おはようございます」
数日前、バツグンの絵本センスを発揮してくれた第2王子様は、ひらひらと手を振りながら近づいてきた。おはような時間ではない気もしたが、そこはべつにいっか。
「サファちゃん、今から図書館~?」
「あ、はい! そうなんです」
「そっかそっか。こないだの絵本は気に入った~」
「はい!……絵本、すぐ読みましたっ。すっごくよかったです! えらぶのてつだってくださって、ありがとうございました!」
そうそう、お礼がまだだった。ここはしっかりぺこーとお辞儀だ。
「ふふ、それはよかった~。また借りるときは手伝ってあげるからね~」
「わ、いいんですかっ? ありがとうございますっ!」
正直、ハロルド殿下の絵本選びはセンスがいいので、とっても助かる。
「うんうん」
ハロルド殿下は満足そうに目を細めてニコニコうなずいていた。
「それで?」
と思ったら、急にぐぐい、と身を乗り出してきた。
「えっ?」
「ほら~、僕になにか言うこととか、ないの~?」
「――えっ?」
なになになに。……何? 言うことは別にない。正直なにも。でも、なにぃぃぃ?
「えっと、あの、え……」
心当たりゼロで、ひたすらあたふた。
「はぁぁぁ~」
すると、ハロルド殿下はむむ、という顔でわかりやすいため息をついた。
ひえええ、怒ってる?
「も~、つめたいよな~おちびちゃんってば」
ん? 怒ってる……というかすねてる?
「兄さまに聞いたよ~。お菓子がいっぱいあるからパーティするって」
「あ……はいっ! そうなんですっ」
「……それで? 僕に言うことは?」
「……?」
むむむ、なんだなんだ! ハロルド殿下に言うこと? お菓子パーティの話に関係すること? そしてこのわかりやすい、すねてるアピール……。
「はっ……!」
これはもしや……。
「あのぅ、でんかはお菓子好きですか?」
「もちろん好きだよ。お菓子が嫌いな人ってそうそういないでしょ」
そっかそっか! やっぱハロルド殿下も大きく見えてもまだ11才だし、お菓子とかやっぱり好きだよね、うん。
それなら――
「じゃあ、お菓子パーティにおまねきしてもいいですか?」
「もっちろん! そうこなくっちゃ」
「わぁぁ。じゃあ、ぜひきてください!」
「ふふふ、いいよぉ~。いつなの?」
「パーティは明後日です! お時間――」
「大丈夫。空けておくよ」
「わぁ、ありがとうございます!」
こっちの侍女さんとあっちのお付きの人が横で、では詳しい話は後ほど……とやり取りしてるのが聞こえてくる。さすがスムーズ抜かりない。
「うんうん。じゃあ、楽しみにしてるよ~、またね」
「はい!」
ハロルド殿下は満足した顔でうんうん頷くと、のんびり背を向けて歩いて――
「ああ、そうだ」
行こうとして、くるんと振り向いた。
「今度から、ちゃんと、最初から、僕に声をかけるように~。いい?」
「え、あ、はい。わかりました!」
んん? まあ……なんかよくわからないけど、にこにこでうんって言っておこう。それが安全。
「わかればいいよ~じゃあね~」
「はい! さようなら」
今度こそ背を向けて歩いていく様子を、なんとなく見送りながら首を傾げる。
今の、なんだったんだろー?
なんかどうしてもお菓子パーティに来たいみたいに見えたなぁ。
「うーん」
あれかな。よっぽどお菓子が好きなのかな?
きっとそうだよね、お菓子好きって言ってたし。
【今日のメモ】
・ハロルド殿下はお菓子が好き。お菓子パーティには必ず誘う。
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