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第26話 王宮の終わりはどこ!?
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「ふぁぁ……」
絵本をそーっと閉じて、ぼくは知らないあいだにつめていた息をはいた。
「すごぉぉぉい!」
ソファの上でぴょんぴょんしそうになるのをおさえて、絵本の表紙をじっと見返す。
「オルゴールくん、ほんとにじぶんでじぶんをなおしちゃった!」
あんなにボロボロだったのに! 部品もたりなくて、音もでなくなって、もうすぐ捨てられるところだったのに!
「じぶんで、ぶひんを見つけて、じぶんで直して……すごぉい!」
ねぇねぇ、と言いかけて、侍女さんが今ちょっといないのを思い出す。
しかもじぶんでそうしたんだった。たまにはぁ、3人でいっしょにごはん食べたらいいのにぃって。姉妹と従姉妹なんだからぁ、ゆっくりお話しておいでぇ、っていったんだった。
ちょっとカッコつけた結果、話す相手いなくなってる。
「でもまぁよし」
ぼくにはあの子がいるからへーき!
「きいて、うさたん!」
寝室のベッドにかけあがると、ふわふわのうさぎさんが、まんまる目でこっちを見る。
「あのねぇ、こわれたオルゴールくん! ぼうけんして、じぶんでしゅうりしたんだって! すごいねぇ!」
うさたんを抱きあげて、ふわふわをぎゅっとする。
「音が出るようになったんだよ! 前とはちがう、べつのとくべつな音なんだって!」
うさたんの長い耳にすりすり。
「じぶんでできるの、すごいよねぇ……ぼくなんか――」
ぼくなんか、なぁんにもできなくて。そう言おうとしてハッと気がつく。
「ちょっとぉ、なにぃ、ぼく」
ぼくは、なにをただのふつうの5才みたいなことをしているの?と急にわれにかえる。
「ぼくはぁ、ただの子どもじゃないでしょぉ?」
どうにも、5才のメンタルにひっぱられがちで、ちょこちょこ肝心なことを忘れている。
「ぼくは、前はぁ、15才まで生きてたじゃぁないぃ?」
しかも、前世で読んだこの世界のこと、ここでこれから起こること、今世のぼく、サファの未来も知ってる。
「今のぼくだってぇ、できること、ぜったいあるでしょぉ」
たとえ、今は幼児ボディでも。さっぱり口がまわらなくて、しゃべり方がどうにもホニャホニャしてても。
……ついでに、気持ちがどうも5才にひっぱられがちでも。
前世からひきついだ知識を忘れたらダメ。これはほんとうに、今後のぼくの命にかかわるので!
「えほんの中のオルゴールくんより、ちしきをもってるぼくのほうが、たくさんできることあるはず!」
ここでじーっと、10年後にビクビク待つんじゃなくって!
「そぉだ!」
もっとじぶんで、サイアクな未来をかえる方法をさがさなくちゃ!
「よぉぉし!」
ここを出て、どこかとぉーいところで、平和にひっそり、それなりに楽しくくらすんだ!
一応人質のぼくがいなくなっっちゃったら、ぼくの国の人が困るかもぉだけど……それはぁ、後でなんとか考えよっ!
とにかくとにかく、ここから出る方法だけでもぉ、探しておかないとねっ!
出てからどぉぉするとか、国のこととかはぁぁ、あと。
はぁぁ……どうにかしなきゃなこと多すぎるけど、命がかかってるんだから、なんとかしないと。
うん。
「がんばろぉぉね!」
うさたんのまんまるお目々にやくそく。
そしてぼくはさっそく、かんがえはじめた。
「うぅーーん、まずは――」
将来の、へいおんな生活のために!
***
「まずはぁ――」
とにかく、ここから出る方法を知っておかないとね。じゃないと話にならないよね、うん。
だけど、
「どぉぉやって、みつけよぉぉ……?」
ファランさまと会ったときに、王宮の外に出る門まで案内して!って頼む……ってダメダメ。ぜんぜんありえない! あやしすぎるでしょ。
変に思われたらどおするのぉぉぉ!?
「となるとぉ、やっぱり……」
ぼくはぴょん、とソファから立ち上がる。
「ここは、じりきでなんとか」
ちょうど今は、侍女さんたちお昼ごはん中。
かわりについててくれる人もいるけど、ふふん、ぼくには作戦があるんですねー。
「あのねー、ぼくお庭にでるねー」
「はい、では私もご一緒――」
すかさずついてこようとする、お部屋の人を両手でストップ。
「だいじょーぶ! お花つんだら、すぐもどるから!」
「そうですか……?」
「どんなお花つんでくるか、ないしょだから、楽しみにしててぇ」
ふふーん、どうだ! これで着いてこれまい!
「そうですか? では、遠くまでいかないようになさってくださいね?」
「は、――い!」
はっきりウソをついちゃうことになるので、ちょびっと心がジクっとする。ごめんね、ちゃんとすぐ帰ってくるから、うん。たぶん。
「いってきまーーす!」
ひとりで庭をでるミッションに成功!
ぼくの作戦はこう。
「とにかく、外に行くほうっぽい道をさがしてみよぉぉ!」
……作戦っていうか、無策?
「だって、どっちのほうが外にいく道なのか、わかんないからしょーがないしぃ」
自分で自分にいいわけ。
「もし見つかったらぁ、迷子になったふり。これ、だいじ!」
まずは、ちゃーんとお花をさがしてるかんじで。
ほらほら、部屋の中から、まだこっち見てるもんね。
お花を探しながらぁ、あっちこっち。
「あっちのお花も見よぉぉ」
とか言ったりして!
「おおお、このお花きれぇぇ!」
って、ほんとにお花に見とれてどーするのぉ。ちゃんと目的をはたせないと!
なのでぇ、
「あっちも咲いてるかなぁ」
とかつぶやきながら、庭の花の間を歩いて、さりげなく奥へ奥へ。
ちらっと部屋の方を見ると――
「……! まだ、こっち見てるぅ」
お部屋の人、責任感つよすぎぃ。
「そーっと、ばれないようにしないとぉ」
あやしまれないように、ちょっとだけ花をながめてから、またじわ~り前進。
「わぁぁ、水がキラキラ……!」
すると、きれいな水が吹き出す、ふんすいに到着!
「ちょっとだけ休憩~」
のふりをして、部屋から見えない方へ、っと。
さりげなく横へずれて、奥の道へ向かう。
「いそげぇぇぇ!」
ここからは、おおいそぎ! あんまりおそくなったら、心配されちゃうし不審がられちゃう!
「えぇと、こっち……?」
道を進むと、おっきな道に出た。なんか、人がいっぱい通ってる!
「おお、これ、行ってだいじょうぶなやつ……?」
こそーっと見てると、みんな忙しそうでそんなに周りを見てない……気がする、たぶん。ここで働いてる人の子どもなのかな?小さい子もいなくはない。
「よ、よーし。しらない顔でいけば、おっけー」
見とがめられたら、例の迷子作戦を実行すれば問題なしだ。
「うーん、どっちいこぉぉぉ……?」
とはいえ、迷ってるヒマはなし。時間もないし、目立っちゃうもんね。
「こそーっとめだたないようにぃ……」
王宮の建物のかべ沿いに、そっと進んでいく。建物の影と一体化した気持ちで!
できるだけ目立たないように、でも不自然にならないように、かつ急いで。侍女さんたちが帰ってくる前、騎士さんやお部屋の人があれ?ってなる前に……!
そして――
「ん……? あれなんだぁ?」
遠くにそびえ立つ、おーっきな……かべ?
じゃない! あれは――
「門……!」
お外にでる門だ!
すごい! ぼくって天才なのでは?
てきとーに進んで、門にたどり着くなんて、すごい!
「やったぁぁぁ!」
あ、大きな声ダメ。ぼくは今、迷子中なので(作戦)。ちょっと不安そうな顔も忘れずに!
「えぇ、ここどこかなぁ……」
ちょっとつぶやいてみたりして。キョロキョロして、あたりも見回しつつ。今にも走り出しそうになるのを、ぐっとこらえて。
「わぁぁ、おっきな門があるう」
と、これもひとり芝居。うん、なかなかいい感じ。
ちょっとなんとなーく見てるだけですよ、みたいな感じでしれっと近づく。
ふぁぁぁぁぁ! すごい!
近くまで来てみると、ほんとうにおっきい!
きょだい!立派!そして――
……すごーーく厳重に守られてる。
さすが王宮の外にでる門。ただじゃ通さないぞ、ってかんじ。
「これが……王宮の外へ出る門……!」
ここを抜けさえすれば、王宮の外へ行けるはず。でも、どうやって通るかだよなぁぁ。
うーーーーん。
「……あれ?」
なんか、急に暗くなった?
「これは……サファさま?」
「ひぃぃぃ!?」
びくぅぅぅっ!
いったん飛びはねてから前を見ると、門番の騎士さん。
「な、な……」
い、いつのまに!?
「こんなところで、どうされました? おひとりですか?」
あわわわ。会ったことない騎士さんなのに、正体ばれてるぅぅ。
どどど、どうしようぉぉ!
「あの、あの……」
「迷われたのですか?」
「そう、それぇ!」
「……?」
それだーってなって食い気味に答えた結果、不審がられるという始末。
なんで迷子作戦、大事な時に一瞬忘れたのぉ、ぼくぅ。
「ひ、ひとりでお庭でお花見てたら、迷っちゃってぇ……」
と、とにかくここから挽回だ。
「それで帰ろーと思って歩いてたら、ここにきちゃってぇ……」
不安な子どもっぽく、困った顔を忘れずに! まぁ、実際困ってるのでそこは問題なさそぉ。
「それでこんなところまで……大変でしたね」
あれぇ、騎士さんやさしぃぃ。
「あの、ここはどこぉ?」
「ここは王宮の一番奥、王族の皆さまが住まわれる宮廷と政務区域の境目です」
騎士さんはピシぃと姿勢よくして、元気に答えてくれる。
「へぇぇ! きゅうていとせいむ区域のさかい――」
あれ? 境目?
「じゃあ、この門は――」
「はい。区域を分ける大門でございます」
「…………」
な、なんだって……。
「じゃあ、この門の先に王宮の外がある、とかではなく……?」
「はい。さらにその先に王宮の使用人たちの居住区域があり、そこを抜けると貴族の居住区」
「え、え……」
「その先に、職人街、商業区があり、それから――」
「え、待っ……」
「そこを抜けると王宮外郭の関門があり、その先は市民の暮らす町につながっています」
「………………」
ちょっとまって、落ちついて。
えっとぉ……ぼくがいるのが王宮のいちばん奥。
この門の外が政治の場所、その先が働いてる人たち、その向こうが貴族さんの屋敷、えっとそれから――
「サファさま? どうかされましたか?」
「あ、う、ううん……だいじょぉぶ。ありがとぉ……あはは」
と――遠すぎぃぃぃぃ!
お外、遠すぎじゃない? え?
え、ぜんぜんダメじゃん! そんなたくさんの門、どうやって通る? そもそも、そんな遠くまで歩けないかも……
わぁぁぁん! 王宮脱出計画、前途多難すぎるよぉぉぉぉ!!
「あの、サファさま?」
「あ……うん、なぁに?」
ダメダメ、ちょっと泣きそうな顔とかしない!
「迷われたんですよね? お部屋までお送りしますよ」
「え!? あ、そう。あの……」
騎士さんが優しく心配してくれる。
でも、このまま送られたら、いろいろマズい。なんか大ごとになっちゃうし、下手したらお庭にもひとりででられなくなるかも!
「あ……だ、だいじょうぶ! なんか、帰る道、方向だけ教えてもらえたらぁ平気!」
「そうですか? 方向ならあちらです。ですがー―」
困惑する騎士さん。だよねぇ……言い訳、下手すぎちゃった。
しかーし、ここはなんとか押し通さないとぉ!
「だいじょぉぶ! あっちだね! 行ったらきっとぉわかるから!」
なんか、自信ありそうに言ってみる。
「そうですか? でも、念のため――」
なんと! 親切かつ責任感のあるいい騎士さん!
しかーし、ここはなんとか(以下略)。
「ほんとにだいじょーぶだよ! ありがとねぇぇ! ばいばーい!」
ここはゴリ押しの無理やりだ。なんか雰囲気で押し通そう。
「あ、はい」
「ばいばーい! お仕事、がんばってねぇぇ!」
元気な感じで手を振って、門から離れる。
「はい! ありがとうございますっ!」
ニコッとなった騎士さんが、律儀にお辞儀をして控えめに手を振ってくれる。
はぁ、よかったよかった。
じゃなくて――
「えぇぇぇ、むりなんだけどぉぉぉ!」
全然、脱出できそうにない! ムリ! かなりムリ! 絶望的にムリ!
はぁぁぁぁ。
もうため息しか出ない、足もトボトボ。
今日はもぉいいやぁ。とにかくはやく帰ろ。
それで、お花つんで――
「あ、れ……?」
ピタッと止まる。
「で……ここ、どこ?」
キョロキョロ。
「あれ? こっちの方向だったよね? あれ? まって、ぼく、こんなとこ通ったっけ!?」
えっとこっちの道……じゃなくて、あっち?
いや、もしかして――
「あれ?」
え、これって……
「えぇぇぇぇぇ!? ぼく、迷子ぉぉぉぉ!!」
どうしよぉぉぉぉ!!!
迷子作戦しっぱい! ただの本物迷子!
わぁぁぁん、どぉぉやって帰ろぉぉぉ!
絵本をそーっと閉じて、ぼくは知らないあいだにつめていた息をはいた。
「すごぉぉぉい!」
ソファの上でぴょんぴょんしそうになるのをおさえて、絵本の表紙をじっと見返す。
「オルゴールくん、ほんとにじぶんでじぶんをなおしちゃった!」
あんなにボロボロだったのに! 部品もたりなくて、音もでなくなって、もうすぐ捨てられるところだったのに!
「じぶんで、ぶひんを見つけて、じぶんで直して……すごぉい!」
ねぇねぇ、と言いかけて、侍女さんが今ちょっといないのを思い出す。
しかもじぶんでそうしたんだった。たまにはぁ、3人でいっしょにごはん食べたらいいのにぃって。姉妹と従姉妹なんだからぁ、ゆっくりお話しておいでぇ、っていったんだった。
ちょっとカッコつけた結果、話す相手いなくなってる。
「でもまぁよし」
ぼくにはあの子がいるからへーき!
「きいて、うさたん!」
寝室のベッドにかけあがると、ふわふわのうさぎさんが、まんまる目でこっちを見る。
「あのねぇ、こわれたオルゴールくん! ぼうけんして、じぶんでしゅうりしたんだって! すごいねぇ!」
うさたんを抱きあげて、ふわふわをぎゅっとする。
「音が出るようになったんだよ! 前とはちがう、べつのとくべつな音なんだって!」
うさたんの長い耳にすりすり。
「じぶんでできるの、すごいよねぇ……ぼくなんか――」
ぼくなんか、なぁんにもできなくて。そう言おうとしてハッと気がつく。
「ちょっとぉ、なにぃ、ぼく」
ぼくは、なにをただのふつうの5才みたいなことをしているの?と急にわれにかえる。
「ぼくはぁ、ただの子どもじゃないでしょぉ?」
どうにも、5才のメンタルにひっぱられがちで、ちょこちょこ肝心なことを忘れている。
「ぼくは、前はぁ、15才まで生きてたじゃぁないぃ?」
しかも、前世で読んだこの世界のこと、ここでこれから起こること、今世のぼく、サファの未来も知ってる。
「今のぼくだってぇ、できること、ぜったいあるでしょぉ」
たとえ、今は幼児ボディでも。さっぱり口がまわらなくて、しゃべり方がどうにもホニャホニャしてても。
……ついでに、気持ちがどうも5才にひっぱられがちでも。
前世からひきついだ知識を忘れたらダメ。これはほんとうに、今後のぼくの命にかかわるので!
「えほんの中のオルゴールくんより、ちしきをもってるぼくのほうが、たくさんできることあるはず!」
ここでじーっと、10年後にビクビク待つんじゃなくって!
「そぉだ!」
もっとじぶんで、サイアクな未来をかえる方法をさがさなくちゃ!
「よぉぉし!」
ここを出て、どこかとぉーいところで、平和にひっそり、それなりに楽しくくらすんだ!
一応人質のぼくがいなくなっっちゃったら、ぼくの国の人が困るかもぉだけど……それはぁ、後でなんとか考えよっ!
とにかくとにかく、ここから出る方法だけでもぉ、探しておかないとねっ!
出てからどぉぉするとか、国のこととかはぁぁ、あと。
はぁぁ……どうにかしなきゃなこと多すぎるけど、命がかかってるんだから、なんとかしないと。
うん。
「がんばろぉぉね!」
うさたんのまんまるお目々にやくそく。
そしてぼくはさっそく、かんがえはじめた。
「うぅーーん、まずは――」
将来の、へいおんな生活のために!
***
「まずはぁ――」
とにかく、ここから出る方法を知っておかないとね。じゃないと話にならないよね、うん。
だけど、
「どぉぉやって、みつけよぉぉ……?」
ファランさまと会ったときに、王宮の外に出る門まで案内して!って頼む……ってダメダメ。ぜんぜんありえない! あやしすぎるでしょ。
変に思われたらどおするのぉぉぉ!?
「となるとぉ、やっぱり……」
ぼくはぴょん、とソファから立ち上がる。
「ここは、じりきでなんとか」
ちょうど今は、侍女さんたちお昼ごはん中。
かわりについててくれる人もいるけど、ふふん、ぼくには作戦があるんですねー。
「あのねー、ぼくお庭にでるねー」
「はい、では私もご一緒――」
すかさずついてこようとする、お部屋の人を両手でストップ。
「だいじょーぶ! お花つんだら、すぐもどるから!」
「そうですか……?」
「どんなお花つんでくるか、ないしょだから、楽しみにしててぇ」
ふふーん、どうだ! これで着いてこれまい!
「そうですか? では、遠くまでいかないようになさってくださいね?」
「は、――い!」
はっきりウソをついちゃうことになるので、ちょびっと心がジクっとする。ごめんね、ちゃんとすぐ帰ってくるから、うん。たぶん。
「いってきまーーす!」
ひとりで庭をでるミッションに成功!
ぼくの作戦はこう。
「とにかく、外に行くほうっぽい道をさがしてみよぉぉ!」
……作戦っていうか、無策?
「だって、どっちのほうが外にいく道なのか、わかんないからしょーがないしぃ」
自分で自分にいいわけ。
「もし見つかったらぁ、迷子になったふり。これ、だいじ!」
まずは、ちゃーんとお花をさがしてるかんじで。
ほらほら、部屋の中から、まだこっち見てるもんね。
お花を探しながらぁ、あっちこっち。
「あっちのお花も見よぉぉ」
とか言ったりして!
「おおお、このお花きれぇぇ!」
って、ほんとにお花に見とれてどーするのぉ。ちゃんと目的をはたせないと!
なのでぇ、
「あっちも咲いてるかなぁ」
とかつぶやきながら、庭の花の間を歩いて、さりげなく奥へ奥へ。
ちらっと部屋の方を見ると――
「……! まだ、こっち見てるぅ」
お部屋の人、責任感つよすぎぃ。
「そーっと、ばれないようにしないとぉ」
あやしまれないように、ちょっとだけ花をながめてから、またじわ~り前進。
「わぁぁ、水がキラキラ……!」
すると、きれいな水が吹き出す、ふんすいに到着!
「ちょっとだけ休憩~」
のふりをして、部屋から見えない方へ、っと。
さりげなく横へずれて、奥の道へ向かう。
「いそげぇぇぇ!」
ここからは、おおいそぎ! あんまりおそくなったら、心配されちゃうし不審がられちゃう!
「えぇと、こっち……?」
道を進むと、おっきな道に出た。なんか、人がいっぱい通ってる!
「おお、これ、行ってだいじょうぶなやつ……?」
こそーっと見てると、みんな忙しそうでそんなに周りを見てない……気がする、たぶん。ここで働いてる人の子どもなのかな?小さい子もいなくはない。
「よ、よーし。しらない顔でいけば、おっけー」
見とがめられたら、例の迷子作戦を実行すれば問題なしだ。
「うーん、どっちいこぉぉぉ……?」
とはいえ、迷ってるヒマはなし。時間もないし、目立っちゃうもんね。
「こそーっとめだたないようにぃ……」
王宮の建物のかべ沿いに、そっと進んでいく。建物の影と一体化した気持ちで!
できるだけ目立たないように、でも不自然にならないように、かつ急いで。侍女さんたちが帰ってくる前、騎士さんやお部屋の人があれ?ってなる前に……!
そして――
「ん……? あれなんだぁ?」
遠くにそびえ立つ、おーっきな……かべ?
じゃない! あれは――
「門……!」
お外にでる門だ!
すごい! ぼくって天才なのでは?
てきとーに進んで、門にたどり着くなんて、すごい!
「やったぁぁぁ!」
あ、大きな声ダメ。ぼくは今、迷子中なので(作戦)。ちょっと不安そうな顔も忘れずに!
「えぇ、ここどこかなぁ……」
ちょっとつぶやいてみたりして。キョロキョロして、あたりも見回しつつ。今にも走り出しそうになるのを、ぐっとこらえて。
「わぁぁ、おっきな門があるう」
と、これもひとり芝居。うん、なかなかいい感じ。
ちょっとなんとなーく見てるだけですよ、みたいな感じでしれっと近づく。
ふぁぁぁぁぁ! すごい!
近くまで来てみると、ほんとうにおっきい!
きょだい!立派!そして――
……すごーーく厳重に守られてる。
さすが王宮の外にでる門。ただじゃ通さないぞ、ってかんじ。
「これが……王宮の外へ出る門……!」
ここを抜けさえすれば、王宮の外へ行けるはず。でも、どうやって通るかだよなぁぁ。
うーーーーん。
「……あれ?」
なんか、急に暗くなった?
「これは……サファさま?」
「ひぃぃぃ!?」
びくぅぅぅっ!
いったん飛びはねてから前を見ると、門番の騎士さん。
「な、な……」
い、いつのまに!?
「こんなところで、どうされました? おひとりですか?」
あわわわ。会ったことない騎士さんなのに、正体ばれてるぅぅ。
どどど、どうしようぉぉ!
「あの、あの……」
「迷われたのですか?」
「そう、それぇ!」
「……?」
それだーってなって食い気味に答えた結果、不審がられるという始末。
なんで迷子作戦、大事な時に一瞬忘れたのぉ、ぼくぅ。
「ひ、ひとりでお庭でお花見てたら、迷っちゃってぇ……」
と、とにかくここから挽回だ。
「それで帰ろーと思って歩いてたら、ここにきちゃってぇ……」
不安な子どもっぽく、困った顔を忘れずに! まぁ、実際困ってるのでそこは問題なさそぉ。
「それでこんなところまで……大変でしたね」
あれぇ、騎士さんやさしぃぃ。
「あの、ここはどこぉ?」
「ここは王宮の一番奥、王族の皆さまが住まわれる宮廷と政務区域の境目です」
騎士さんはピシぃと姿勢よくして、元気に答えてくれる。
「へぇぇ! きゅうていとせいむ区域のさかい――」
あれ? 境目?
「じゃあ、この門は――」
「はい。区域を分ける大門でございます」
「…………」
な、なんだって……。
「じゃあ、この門の先に王宮の外がある、とかではなく……?」
「はい。さらにその先に王宮の使用人たちの居住区域があり、そこを抜けると貴族の居住区」
「え、え……」
「その先に、職人街、商業区があり、それから――」
「え、待っ……」
「そこを抜けると王宮外郭の関門があり、その先は市民の暮らす町につながっています」
「………………」
ちょっとまって、落ちついて。
えっとぉ……ぼくがいるのが王宮のいちばん奥。
この門の外が政治の場所、その先が働いてる人たち、その向こうが貴族さんの屋敷、えっとそれから――
「サファさま? どうかされましたか?」
「あ、う、ううん……だいじょぉぶ。ありがとぉ……あはは」
と――遠すぎぃぃぃぃ!
お外、遠すぎじゃない? え?
え、ぜんぜんダメじゃん! そんなたくさんの門、どうやって通る? そもそも、そんな遠くまで歩けないかも……
わぁぁぁん! 王宮脱出計画、前途多難すぎるよぉぉぉぉ!!
「あの、サファさま?」
「あ……うん、なぁに?」
ダメダメ、ちょっと泣きそうな顔とかしない!
「迷われたんですよね? お部屋までお送りしますよ」
「え!? あ、そう。あの……」
騎士さんが優しく心配してくれる。
でも、このまま送られたら、いろいろマズい。なんか大ごとになっちゃうし、下手したらお庭にもひとりででられなくなるかも!
「あ……だ、だいじょうぶ! なんか、帰る道、方向だけ教えてもらえたらぁ平気!」
「そうですか? 方向ならあちらです。ですがー―」
困惑する騎士さん。だよねぇ……言い訳、下手すぎちゃった。
しかーし、ここはなんとか押し通さないとぉ!
「だいじょぉぶ! あっちだね! 行ったらきっとぉわかるから!」
なんか、自信ありそうに言ってみる。
「そうですか? でも、念のため――」
なんと! 親切かつ責任感のあるいい騎士さん!
しかーし、ここはなんとか(以下略)。
「ほんとにだいじょーぶだよ! ありがとねぇぇ! ばいばーい!」
ここはゴリ押しの無理やりだ。なんか雰囲気で押し通そう。
「あ、はい」
「ばいばーい! お仕事、がんばってねぇぇ!」
元気な感じで手を振って、門から離れる。
「はい! ありがとうございますっ!」
ニコッとなった騎士さんが、律儀にお辞儀をして控えめに手を振ってくれる。
はぁ、よかったよかった。
じゃなくて――
「えぇぇぇ、むりなんだけどぉぉぉ!」
全然、脱出できそうにない! ムリ! かなりムリ! 絶望的にムリ!
はぁぁぁぁ。
もうため息しか出ない、足もトボトボ。
今日はもぉいいやぁ。とにかくはやく帰ろ。
それで、お花つんで――
「あ、れ……?」
ピタッと止まる。
「で……ここ、どこ?」
キョロキョロ。
「あれ? こっちの方向だったよね? あれ? まって、ぼく、こんなとこ通ったっけ!?」
えっとこっちの道……じゃなくて、あっち?
いや、もしかして――
「あれ?」
え、これって……
「えぇぇぇぇぇ!? ぼく、迷子ぉぉぉぉ!!」
どうしよぉぉぉぉ!!!
迷子作戦しっぱい! ただの本物迷子!
わぁぁぁん、どぉぉやって帰ろぉぉぉ!
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なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
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