人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ

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第39話 王宮探索、まさかの結末!?

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「さあ、どうぞ」
「……えっ!」

扉の向こうにあったのは、広い重厚な書庫。

「……!?」

そして、そこにいたのは――

「サファ……? ハロルドも! お前たち、なぜここにいる!?」

そこには机に向かい、静かに筆を持って固まっている――

「ファランさま!?」
「やっほー、あにうえ~。ここにいたんだね~」
「ハロルド、お前いったいなにを……」

やれやれを通り越してちょっとよくない気配のファランさまが、ゆーっくり席を立つ。

「まぁまぁ」
けど、ハロルドさまはおかまいなしのマイペースだ。

「ほら~、おちびちゃん。 ここが、王族の禁断の執務室~!」 
「ええっ! きんだんのっ!」
「ファラン! お前、なにを――」
「そんなすごいとこにっ、ファランさまがっ!」

ってことはなにぃ! ファランさまが「きんだんのしつむ」をやってるってことぉ?
まさに、今ここでぇ!?

「すごいっ!」
ええっ、そんなことを!? ファランさまが、ここで!?

「ちょ、サファ、そなた違うぞ、これは――」
「ひ、ヒミツですか! ぼく、なにもいいませんっ! ほんとうですっ!」

どどど、どぉぉぉしよおおお!? そだよね、ぼくが見ちゃダメなのだよね?
うぇぇぇ、しまったぁぁぁ!!

きんだんのしつむ、をいきなりのぞくなんてっ! 許されるわけないやつぅっ!!
これは、これは下手したらこのまま処される案件!?


「…………」

困った顔のファランさまが、急にじろー、とハロルドさまを見た。

「お前、適当なこと吹き込んでサファを連れ回すものではない!」
「えー、適当じゃないですぅ~」
「――はぁぁぁ」

どこ吹く風のハロルドさまに、ファランさまが盛大なため息。

「いつものようにあちこち歩き回ってるだけならともかく、サファを連れ回すなど!」
「いいじゃないですか~。ちびちゃんも楽しんでたんですから~」
「…………」

ちらー、とファランさまの目がこちらを向く。

「あわわ、ちが、あの――」

わーーん、ごめんなさいぃぃ……。
「わかっている」
ビクビクしてたら、ファランさまが、かまわん、よいよい。みたいにうんうんした。

「ハロルド! お前が好き勝手連れ回してるだけだろう! 少しは反省しろ」
「え~~」

えっと、ぼくはまだ怒られてないかんじだけど、先に謝っておいたほうがいいよね? ね?

「あの、あのファランさま……」
「どうした? 心配せずともそなたに怒ってなどおらぬぞ」
「あ、でもあの、大事なお仕事のおじゃましてごめんなさい……」
「そなた……」

サファさまはこちらにきて、肩をぽんぽん、としてくれる。

「サファはその年でそのような配慮までできて、えらいな」
「えへ……」

あ、ダメ。ぼくったら褒められるとすぐ、えへっとなっちゃう。

「それにひきかえ、ハロルド、そなたは……」

ハロルドさまに目を向けたファランさまが、はぁぁぁぁ、と、また特大ため息を放出。

「少しは落ち着いたらどうだ」
「兄様が落ち着きすぎなんですって、その年で」
「まったく……サファは連れ回されただけなのにこれほど配慮ができ、お前は好き勝手連れ回してその態度」

ハロルドさまに向けた目が、ぎろ、となる。

「これほど小さい子と、大きなお前で、この差だ。よく考えろ」
「まぁまぁ、い~じゃないですか、そんなこと~」

ハロルドさまはしらない顔で、するるー、とさっきまでファランさまがいた机に近づく。

「また、侍従もつけずに、こんなところに隠れて公務ですか~?」

書類をパラパラみながら、へらへら~っと笑う。

「兄様だって、じゅうぶん自由に――」
「黙れ」
「ぴえっ」

へらへらのままのハロルドさまの代わりに、なぜかぼくがびくっ、となる。

「ああ、驚かせてすまない」
「……?」

ファランさまはかすかににこ、としてぼくの手を取る。

「ハロルドの付き合い、ご苦労だったな」
「いえぇ、あのー……?」
「部屋まで送っていこう」
「えっ、でもでも、だいじなヒミツのしつむがっ!」
「あーいや」

ファランさま、うーん、みたいな顔、なにぃ?

「ほらハロルド、お前が適当なことをいうから、すっかり信じ込んでしまっているじゃないか」
「えー、別に間違ってないでしょ~」
「なにが秘密の執務室だ。ここはただの、予備執務室ってだけだろうが」
「えっ」

秘密、じゃない……?

「……そういうわけだ、サファ。ハロルドがすまないな」
「い、いぇぇ……」

そっかぁ、ヒミツじゃないんだぁ……。

「ほら、そのようにガッカリするな。この公務が落ち着いたら、またどこか案内してやろう」
「わ、ありがとうございます!」

安全安定の、ファランさまの楽しい王宮探索!

「ふふー、たのしみですー」
「ああ。もうすぐ落ち着くからな」

にこーのファランさまがぼくの手を握り直す。

「では行こう」
「はぁぁい!」

「あ、じゃあ、ぼくも帰ろ~っと」
「待て」
「え?」
「ハロルド、お前はその机の確認済み書類を、政務官に届けろ」
「えー、やだよー。あの人こうるさいんだもん」
「真面目な政務官にそのような言い方をするな」
「はあーい」
「わかったなら、その種類を今すぐ届けろ。いいな?」
「え~~、もうわかったよー」

「待たせたな、サファ。行こうか」
「はい!」

手を引かれて部屋の外に――

「あ、ハロルドさま! あそんでくれてありがとうございましたぁ」

まぁ、いちおうね、いちおう。遊んであげたような気もするけどね、ぼくがね。
なんていうか、立場上ね。礼儀と好感度重視でいこう、うん。

「どういたしまして~。またねえ」

ハロルドさまがひらっと手を振るので、ぼくも空いてる手をひらひら。

まぁまぁ、ぼくが遊んでもらったことになってけど、まぁね、うん。
楽しくなかったこともないからまぁ、よしだね、うん。

「では、行こうか」
「ふぁ、はぁい!」

ふいに頭をよしよしされて、ふぁっとなる。えへへ、久しぶりのファランさまと一緒~。

たくさんたくさん歩いたのに、帰り道のぼくの足はちょっとうきうきだ。


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