虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

文字の大きさ
3 / 71

3 シーナとルターナ3

しおりを挟む
 ルターナもシーナも亡き者のように扱われ、12年たった頃。ディレイムの第一王子レクオンの誕生祭が開かれた。14歳になった王子のためにディレイム王家が国中の貴族を集め、舞踏会を催すという。

 口実としては単なる誕生祭だが、レクオン王子の婚約者を品定めするのだろうと誰もが気づいただろう。グレッグもその一人で、彼は娘の顔を役立てるいいチャンスだと考えた。病弱で何の役にも立たない娘だが、顔だけは群を抜いて美しい。きっと王子の目に留まることだろう――。

 グレッグの企みは成功し、レクオン王子はドレスを身にまとったルターナの可憐な容姿に一目ぼれをした。ルターナは体調が悪いのを押し隠して王子のダンスのパートナーを務めたが、屋敷に戻るなり高熱を出して寝込んだ。翌日にレクオン王子は伯爵家のタウンハウスを訪ねてきたが、その時にルターナの身代わりとなったのがシーナだった。

『おまえ達の顔を役立てるいい機会だ。王子にバレないよう、しっかり姉の代わりを務めろ』

 義父の冷酷な言葉は、今でもシーナの胸に突き刺さっている。
 ああ、この人はわたしとお姉さまのことなんか、道具としか思っていないんだ。自分のためなら王家さえ騙すような人なんだ……。

 レクオンの妻となれば、ルターナも王家の一員として迎えられる。グレッグは妃の父になるわけだ。人一倍プライドの高いグレッグには、喉から手が出るほど欲しい地位だった事だろう。

 病弱で食が細いルターナは成長が遅く、二つ下のシーナとほぼ体格が一緒だったこともグレッグには好都合だった。
 ルターナとレクオン王子は同い年だったが、グレッグは「娘は12歳になったばかりで」と平気で嘘をつき、シーナと王子が面会するのに影響が出ないよう画策した。レクオンが短時間で帰るときにはルターナが彼と面会し、外出するときにはシーナが姉の代わりを務める。

 数ヶ月たつころにはルターナもシーナも王子と会うのに慣れ、姉と王子は正式に婚約することになった。が、喜んだのはグレッグだけで、ルターナもシーナもいつまでこの状態が続くのかと怯え続けている。
 
 何年もメイドとして過ごしてきたシーナは、手に傷をつけると義母に叱られるので厨房の仕事ができなくなった。伯爵家の令嬢は手にナイフを持って野菜の皮を剥いたりしないし、竃に火をおこして料理を作ったりもしない。 それに体調を崩しやすいルターナは部屋で過ごすことが多く、肌は雪のように白いのだ。

 だからシーナも姉に似せようとなるべく日のあたらない場所で働いているが、それだと洗濯や縫い物ぐらいの仕事しかなかった。縫い物の仕事は専用のメイドがいるため、手が遅いシーナは少しの縫い物しか任せてもらえない。何とか役に立とうと洗濯物を干す仕事は隠れてやっているが、イザベルに見つかるたびに叱られた。

 本当はこの屋敷を出てしまいたい。シーナがいるからレクオン王子を騙すことになったわけで、自分さえ消えれば全て解決するのでは――とシーナは考えている。しかし姉の身代わりをするたびに、グレッグはシーナに冷たく言い放った。

『逃げようなんて思うなよ。もしおまえが逃げたら、ルターナの薬は止めるからな』

 ルターナは喘息の発作が出やすいので、いつも薬を常備している。喘息の薬がなくなったら、ルターナは発作のときに息ができなくて死んでしまう。姉を失いたくないシーナには、屋敷を出ることは出来なかった。

 義父はルターナも同じように脅したらしく、姉も不満がありながらそれをシーナに聞かせることはない。恐らく「シーナを屋敷から追い出すぞ」とでも言われたのだろう。

 シーナとしては姉を守れるなら自分はどうなっても構わなかったが、ルターナが心細い思いをするのはやはり嫌だ。だから二人はお互いに支えあうようにして、何年も生きてきた。母が名付けた、双子星のように。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...