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22 王都へ2
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「これは失礼を致しました。しかし殿下、今さら何の御用ですかな? ルターナの偽者まで連れて来て……その娘は卑しい男の血を引く、殿下には相応しくない女ですよ。最初の妻が庭師と通じて産んだ子だ。貴族とはいえませんよ」
「そのシーナを卑怯な手で脅してルターナの代わりをさせていたくせに、よくもそんな事が言えるものだな。卑しいのはおまえ達のほうではないか? ルターナが亡くなっても、おまえ達の罪が消えるわけではない」
「ルターナの代わりをさせていたという証拠なんか、どこにも無いでしょう。言いがかりはよしてください」
グレッグは全く反省する様子もなく、にやにやとレクオンとシーナを見ている。後ろに控えていた従者がレクオンに歩み寄り、彼になにかの書類を渡した。
「入れ替わりの証拠はなくとも、おまえ達がルターナを死に追いやったという証拠はある。この屋敷には、ケインという医者が出入りしていたな」
ケインの名が出た途端、グレッグの顔が蒼白になった。彼の後ろに立つイザベルとジェレミーまで、グレッグと同じように慌てた様子を見せる。
(お姉さまを死に追いやったって、どういうこと……?)
姉は病気で死んだのではなかったのか。シーナは祈るように首の指輪をギュッと握った。知りたいような知りたくないような、言葉にできない気持ちが胸に渦まく。
レクオンは書類をグレッグに見せびらかすようにしながら話を続けた。
「ケインは金を受け取る代わりに、薬に毒物を混ぜていたと証言した。なにをどれだけ入れたのかも記録に残っている。当時のルターナの様子はマリベルが日記に詳しく書いていたが、ルターナの病状と毒による作用は完全に一致した」
「そんなっ……お姉さまは、病気で死んだのではないんですか!?」
レクオンにすがりつくと、彼は悲しげな表情でシーナの肩を撫でた。そして、小さな声で「すまない」とつぶやく。
「本当はもっと早く話しておこうと思ったんだが、きみが悲しむと思って……言い出せなかった。でもいま話したことは本当だ。ルターナは実の父親から毒を盛られていた。ルターナは死ぬ数ヶ月前から、急に病状が重くなったんだろう?」
「え、ええ……。それまでは散歩ぐらいは出来たのに、急に疲れやすくなって……。ドレスを着て歩くだけでも、息が切れるようになったんです」
「ケインが混ぜた毒物は、呼吸が苦しくなる作用があるんだ。だからルターナはしょっちゅう喘息の発作を起こすようになった。すぐに死んだら不審に思う人間もいるだろうから、少しずつ毒を盛って弱らせたんだ。そうだろう、グレッグ」
レクオンが厳しい口調で尋ねると、グレッグは気まずそうに顔を背けた。イザベルとジェレミーも同じ様子で、シーナは強いショックを受ける。
この人たちがルターナを殺したのだ。レクオンと婚約させてさんざん利用したくせに。ルターナがどれだけ苦しんで死んだかも知らないくせに……!
「よくも……! お姉さまを返して! あなた達なんか、人間じゃない! 人の皮をかぶった悪魔よ!」
「うるさい! ルターナが死んだ途端、逃げ出したおまえが偉そうに言うな! だいたいおまえが逃げなければ全てうまく行ってたんだ……おまえがルターナになれば全てが!」
グレッグは大声で叫ぶと、素早い動きで背中から鞭を取り出した。シーナ目掛けて黒くしなりのある鞭が振り下ろされる。
「きゃあっ!」
「無礼者め。身の程をわきまえろ」
目を閉じて衝撃に耐えようとした瞬間、すぐそばをひゅっと風が通り抜けた。レクオンの低い声で目を開けると、床にすっぱりと切られた鞭が落ちている。いつの間にかレクオンが剣を抜いて鞭を切り落としたのだ。
レクオンは長い脚でグレッグとの距離を一気につめると、義父のみぞおちを剣の柄で叩いて気絶させた。あまりにも速かったので、誰も動けないままだ。
(……え? 何が起こったの?)
気が付いたらグレッグが倒れている。きょときょとと周囲を見渡すと、ジェレミーが腰に刺した剣を抜いているのが見えた。グレッグが鞭を取り出したときに便乗しようとしたのだろう。だがレクオンの強さを目の当たりにし、動けなくなったようだ。
「抵抗する気なら、容赦なく潰すが」
「……っ、くそっ!」
レクオンが剣を向けると、ジェレミーは悔しそうにつぶやいて剣を取り落とした。かしゃん、と金属質な音が響く。レクオンは彼に剣を向けたまま、にいっと口角を上げた。
「ティムという老人に聞いたんだが、おまえはシーナを手篭めにしようとした事があるそうだな」
「えっ!? 何よ、それ!」
声を上げたのはジェレミーではなく、彼の妻だった。怒りのためか頬を赤く染め、ジェレミーの服を引っ張っている。
「ねえ、本当なの!? 義理の家族だったんでしょう。それを手篭めにするって……」
「うるせぇな! おまえには関係ないだろうが!」
「関係あるわよ! お姉さんに毒を盛った上に、義理の姉まで襲おうとするなんて人間のクズだわ! そんな人だなんて知らなかった……あなたとは離縁させて頂きます!」
ぽかんとするジェレミーを置き去りにして、彼の妻は屋敷を出て行ってしまった。
「ケルホーン伯爵家の者を全て捕らえろ。娘を殺した容疑だ」
いつの間にか背後に騎士が控えていて、気絶したグレッグがずるずると引きずられて行く。イザベルとジェレミーも手を拘束されて同じように連れて行かれたが、二人ともシーナに向かって「裏切り者」だの、「卑しい娘め」だの叫び続けていた。
「そのシーナを卑怯な手で脅してルターナの代わりをさせていたくせに、よくもそんな事が言えるものだな。卑しいのはおまえ達のほうではないか? ルターナが亡くなっても、おまえ達の罪が消えるわけではない」
「ルターナの代わりをさせていたという証拠なんか、どこにも無いでしょう。言いがかりはよしてください」
グレッグは全く反省する様子もなく、にやにやとレクオンとシーナを見ている。後ろに控えていた従者がレクオンに歩み寄り、彼になにかの書類を渡した。
「入れ替わりの証拠はなくとも、おまえ達がルターナを死に追いやったという証拠はある。この屋敷には、ケインという医者が出入りしていたな」
ケインの名が出た途端、グレッグの顔が蒼白になった。彼の後ろに立つイザベルとジェレミーまで、グレッグと同じように慌てた様子を見せる。
(お姉さまを死に追いやったって、どういうこと……?)
姉は病気で死んだのではなかったのか。シーナは祈るように首の指輪をギュッと握った。知りたいような知りたくないような、言葉にできない気持ちが胸に渦まく。
レクオンは書類をグレッグに見せびらかすようにしながら話を続けた。
「ケインは金を受け取る代わりに、薬に毒物を混ぜていたと証言した。なにをどれだけ入れたのかも記録に残っている。当時のルターナの様子はマリベルが日記に詳しく書いていたが、ルターナの病状と毒による作用は完全に一致した」
「そんなっ……お姉さまは、病気で死んだのではないんですか!?」
レクオンにすがりつくと、彼は悲しげな表情でシーナの肩を撫でた。そして、小さな声で「すまない」とつぶやく。
「本当はもっと早く話しておこうと思ったんだが、きみが悲しむと思って……言い出せなかった。でもいま話したことは本当だ。ルターナは実の父親から毒を盛られていた。ルターナは死ぬ数ヶ月前から、急に病状が重くなったんだろう?」
「え、ええ……。それまでは散歩ぐらいは出来たのに、急に疲れやすくなって……。ドレスを着て歩くだけでも、息が切れるようになったんです」
「ケインが混ぜた毒物は、呼吸が苦しくなる作用があるんだ。だからルターナはしょっちゅう喘息の発作を起こすようになった。すぐに死んだら不審に思う人間もいるだろうから、少しずつ毒を盛って弱らせたんだ。そうだろう、グレッグ」
レクオンが厳しい口調で尋ねると、グレッグは気まずそうに顔を背けた。イザベルとジェレミーも同じ様子で、シーナは強いショックを受ける。
この人たちがルターナを殺したのだ。レクオンと婚約させてさんざん利用したくせに。ルターナがどれだけ苦しんで死んだかも知らないくせに……!
「よくも……! お姉さまを返して! あなた達なんか、人間じゃない! 人の皮をかぶった悪魔よ!」
「うるさい! ルターナが死んだ途端、逃げ出したおまえが偉そうに言うな! だいたいおまえが逃げなければ全てうまく行ってたんだ……おまえがルターナになれば全てが!」
グレッグは大声で叫ぶと、素早い動きで背中から鞭を取り出した。シーナ目掛けて黒くしなりのある鞭が振り下ろされる。
「きゃあっ!」
「無礼者め。身の程をわきまえろ」
目を閉じて衝撃に耐えようとした瞬間、すぐそばをひゅっと風が通り抜けた。レクオンの低い声で目を開けると、床にすっぱりと切られた鞭が落ちている。いつの間にかレクオンが剣を抜いて鞭を切り落としたのだ。
レクオンは長い脚でグレッグとの距離を一気につめると、義父のみぞおちを剣の柄で叩いて気絶させた。あまりにも速かったので、誰も動けないままだ。
(……え? 何が起こったの?)
気が付いたらグレッグが倒れている。きょときょとと周囲を見渡すと、ジェレミーが腰に刺した剣を抜いているのが見えた。グレッグが鞭を取り出したときに便乗しようとしたのだろう。だがレクオンの強さを目の当たりにし、動けなくなったようだ。
「抵抗する気なら、容赦なく潰すが」
「……っ、くそっ!」
レクオンが剣を向けると、ジェレミーは悔しそうにつぶやいて剣を取り落とした。かしゃん、と金属質な音が響く。レクオンは彼に剣を向けたまま、にいっと口角を上げた。
「ティムという老人に聞いたんだが、おまえはシーナを手篭めにしようとした事があるそうだな」
「えっ!? 何よ、それ!」
声を上げたのはジェレミーではなく、彼の妻だった。怒りのためか頬を赤く染め、ジェレミーの服を引っ張っている。
「ねえ、本当なの!? 義理の家族だったんでしょう。それを手篭めにするって……」
「うるせぇな! おまえには関係ないだろうが!」
「関係あるわよ! お姉さんに毒を盛った上に、義理の姉まで襲おうとするなんて人間のクズだわ! そんな人だなんて知らなかった……あなたとは離縁させて頂きます!」
ぽかんとするジェレミーを置き去りにして、彼の妻は屋敷を出て行ってしまった。
「ケルホーン伯爵家の者を全て捕らえろ。娘を殺した容疑だ」
いつの間にか背後に騎士が控えていて、気絶したグレッグがずるずると引きずられて行く。イザベルとジェレミーも手を拘束されて同じように連れて行かれたが、二人ともシーナに向かって「裏切り者」だの、「卑しい娘め」だの叫び続けていた。
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