虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

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23 公爵の城1

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 レクオンが住む城は、王都の端にある古城だった。何年も打ち捨てられていたのを改装して住めるようにしたらしい。王宮からかなり離れているし、周囲は深い森なので、小鳥の声だけが響く静かな城だ。

 広大な庭には薔薇園があり、ルターナが好きだった薄桃色のニュードーンが柵に絡まるようにして咲いている。
馬車を降りて玄関までの道をレクオンと一緒に歩いていると、見覚えのある老人が落ち葉の掃除をしているのに気づいた。

「あっ、ティム爺さん!」

「おお、お帰りなさい。無事じゃったか」

 駆け寄ってティムに抱きつくと、皺だらけの手が優しくシーナの肩をぽんぽんとたたく。しばらく懐かしい話で盛り上がったあと、城内に入ったレクオンが言った。

「ケルホーン伯のもとで働いていた使用人を、何人かここへ呼んだんだ。マリベルに話を聞いて、きみに害のない人物だけ来てもらった」

「ありがとうございます」

「きみに会わせたい人がいるんだ」

 レクオンはそう言って、ひとつの部屋にシーナを案内した。女性らしい花柄の壁紙や家具で品良く飾られた部屋だ。室内で待っていた人物が、ゆっくりと頭を下げる。

「お帰りなさいませ」

「ま……マリベル……!」

 マリベルの顔をみた途端、ぼろぼろと涙がこぼれた。シーナは泣きながら駆け寄って、マリベルのふくよかな体に抱きついた。ふっくらした手が頭をよしよしと撫でてくれる。

「あらあら、シーナったら……。泣き虫なんだから」

 泣き虫なんて言いながら、マリベルの声も震えている。シーナは満足するまで彼女の胸で泣き、三年間のことをぽつぽつと話した。

「マリベルが無事でよかった……。クビにされたって聞いて、心配だったの」

「うふふ、私は強いからね。どんな場所だって生き抜いてみせるわよ。シーナも無事でよかったわ……。レクオン様、本当にありがとうございます」

「俺は大したことはしていない。マリベルが事情を教えてくれたお陰だ。マリベル、今後はシーナに侍女として仕えてくれ」

「かなり年取った侍女ですけどね。喜んでお仕えしますよ」

「で、でもわたし……お仕えされるような身分じゃないです。貴族でもないし……」

 以前はグレッグが義理の父親として一応シーナを屋敷に置いていたが、正式に養子になったわけではないので、シーナの身分はあやふやなままだ。しかしレクオンは全く気にする様子もない。

「きみとルターナの母アグネスは、男爵家の娘だったんだ。フェラーズ男爵家の子はアグネスだけだったが、彼女を妻にした際にグレッグが領地も引き継いだ。領主を失った今、アグネスの娘であるシーナが受け継ぐのが筋というものだろう。きみは今日からフェラーズ男爵バロネスを名乗るといい」

「わたしが……貴族に……」

 今までメイドにしかすぎなかった自分が、男爵バロネス。全く実感がわかない。18歳で突然貴族になるなんて予想もしておらず、シーナは所在なさげに首をかしげた。

「大丈夫、これから貴族らしくなればいいのよ。今までだって、ルターナ様として練習してきたでしょう。あれを続ければいいの」

「うん……」

「令嬢のなかには、かなりきつい言葉で相手をいじめる者もいる。今後そういう女性と会うこともあるだろう。マリベル、シーナに色々と教えてやってくれ」

「畏まりました」

 いじめるという言葉に怯えそうになったが、考えてみればすでにグレッグからもイザベルからもさんざん虐められてきたのだ。今さら過度に怯えなくても大丈夫な気もする。

 日が落ちてきたので、マリベルが晩餐の部屋へと案内した。歪みのない大きな窓から、沈んで行く橙色の夕日が見える。レクオンが領地のことは自分に任せ、シーナにはこの城で暮らすようにいうので素直にお礼を伝えた。

 本当はフェラーズ男爵となったのだから、領地に行くべきなのだろう。でも自分に領地経営が出来るとは思えないし、シーナにはまだ罪悪感があった。

 グレッグ達は罪に問われて投獄されたが、自分はなんの罰も受けずに自由に過ごしている。レクオンのそばにいる事こそが、贖罪になるのではと思った。
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