しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない

千堂みくま

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4 軟禁の始まり

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「公爵さま……わたしを殺す前に、少しだけ話を聞いてください。信じてもらえないかも知れませんが、わたしとあなたに血の繋がりはありません。血液型が違うので―――」

「あぁそう。それで?」

 ジオルドの反応はあまりにも淡白だった。予想もしていなかった彼の態度に、わたしは呆然と美しい顔を見ているしかなかった。

「だからなんだ。血の繋がりはないから安心しろとでも? 父親が浮気している家族がどれだけ惨めかお前に分かるか。無念のままに死んだ母の気持ちが、お前に分かるってのか」

「…………」

「お前たち親子に罪が無いことぐらい知っている。だが許すかどうかはまた別の話だ。簡単に口にするな」

 わたしは目を閉じて両手を体の横に降ろした。もう何を言っても通じる気がしない。
 ジオルドの言い分が理解できないわけじゃない。彼と彼の母親も、わたし達と同じように苦しかったのだろうと思う。

 でもわたしと母が何をしたと言うの。
 公爵という、とんでもない身分の人物相手に何が出来たと言うのよ。
 そんなに許せないならさっさと殺せばいい!

 武骨な手がわたしの首に触れた。絞め殺すつもりなんだろうか。どうせなら剣で首を切り落として欲しい、苦しみながら死ぬのは嫌だ。

 手は首から鎖骨へ移り、体の輪郭をなぞるように動いている。気持ち悪い……。

「痩せたな。15歳の頃の方が、まだ肉付きが良かったんじゃないか? まともな食事をしていないんだろう。薬師として生きるのも楽じゃなさそうだな」

「……早く殺してもらえませんか。肉付きの悪い女なんか興味ないでしょう」

「馬鹿を言うな、せっかく見つけたのに。この三年どれだけ探したと思ってるんだ……俺の人生を狂わせた女を」

 低い声だった。汚泥のような恨みと妄執にまみれた声だった。

 あんたの人生なんか知る訳がない。地位も名誉もあって、お金にも困っていないくせに。わたしの事なんか忘れて豊かな人生を過ごせばよかったでしょう。

 だいたい女遊びにふけっているような奴に、「俺の人生を狂わせた女」なんて言われる筋合いはない。

「お前を殺すのは簡単だが、それでは俺の気分は晴れない。お前には俺のために働いてもらう」

「……は?」

 ジオルドはベッドから降り、部屋の中心に向かって声を張り上げた。

「シュウ!」

「はい、ここに」

 部屋の中に小さなつむじ風が巻き上がり、中から一人の青年が姿を現した。鷹のように鋭い目つきの、執事服を着込んだ男性だ。

 わたしはベッドに転がったままぽかんとシュウと呼ばれた青年を見ていた。出現の仕方から考えて、彼は恐らく風の精霊だ。しかも人間に化け、言葉まで話せるのなら下位ではないはず。

 これが母から聞いていた上位精霊か。すごい……!

「ノアをあの部屋に案内してやってくれ。屋敷に住まわせる」

「えっ?」

「分かりました。ノア様、こちらへ」

 ジオルドがわたしの腕を引っ張って無理やり立たせる。
 この馬鹿力、握力が強すぎるのよ。痛いじゃないか。

 ほとんど追い出されるように城主の部屋を出て、シュウの後を付いて行く。後ろからだと人間にしか見えない。シュウは廊下を右に曲がったり左に曲がったりした後、わたしを一つの部屋に案内した。

「どうぞ」

「……どうも……」

 室内には女性用の家具や調度品が揃っていた。女性客向けの部屋なのかもしれない。

「クローゼットに服飾品が入っております。自由にお召しになってください」

 シュウが部屋から出て行ったあと、クローゼットを開けてみた。下着から普段着、寝間着まで入っている。品揃えが豊富すぎて不気味だ。
 とりあえず今夜のところは着替えなくてもいいだろう。

 はぁ、とため息をつき寝台へ横になる。あと数時間で朝を迎えてしまうだろうけど、少しでも寝ておきたい。
 怒涛のような一日だった。仕事は失敗して剣で刺されて死ぬところだったし、家には帰れなくなってしまった。

 つまみ上げた髪の毛は長さがバラバラだ。本当に死んでもおかしくなかった。今さらながら怖くなり、震えながら毛布の中で丸くなる。

 わたしの体温であたためられた毛布は心地よかった。
 大丈夫。まだ、生きている。

 わたしはいつしか眠りに落ちていた。
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