11 / 38
11 二人の王子
しおりを挟む
翌朝、目が覚めるとやっぱりジオルドはいなかった。
体は人間に戻っていたけど変な赤い痣はない。やっぱりダニだったんだ。公爵なのにダニベッドで寝てたなんて可哀相な奴。
昨日と同じように枕元に服一式がたたんで置いてあった。わたしは起き上がってその服を身につける。毎朝ご丁寧なことだ。そんなに一匹の黒猫と一緒に寝たいだなんて……ペットでも飼えばいいのに。
朝食を取っていると、シュウが「ジオルド様は仕事へ行かれました」と報告してきた。食事のあとは数学の問題に取り掛かる。
ジオルドはまた夕方に戻ってくるかもしれない。奴に邪魔されない内にさっさと勉強しておこう。
シュウに頼んだところ、彼はあっさりと参考書を持ってきてくれた。すぐに貸してもらえたという事は、この屋敷内にもともと参考書があったのだろう。
あのひねくれ公爵は何を考えているんだ。勉強しろって言うならあんたも協力してよね、と思う。
昼食後、部屋のドアの真正面にテーブルと椅子を置いて読書した。これならジオルドの急襲に対応できるはずだ。同じ手に二度も引っ掛かりませんからね。
アレクサンドラの本は正直なにが面白いのか分からない。浮気している男と二人の女の物語という感じで、わたしからするとどうしてアレクサンドラが黙って耐え忍んでいるのか理解できない。貴族ってこういうものなんだろうか。
それにしてもこの本、何巻まであるのかな。全巻読まないとダメなのかなぁ。
はあ、とため息をついていたら、いきなり部屋のドアが開いた。ノックもせずに入ってくる無粋な奴なんて一人しかいない。ジオルドだ。
奴はドアの真正面を向いて座るわたしを見て、少しぎょっとした顔をしていた。いい気味だわ。
「ノア、今日はお前に客人を連れて来た」
「えっ。お客様ですか」
わたしは椅子から立ち上がって姿勢を正した。ジオルドの後ろから、とび色の髪を肩まで伸ばした青年が部屋に入ってくる。
服装は華美ではないが上質で、一つ一つの動作は優雅で洗練されていた。上流階級の人間かもしれない。
今こそカーツィの出番だろう。
「お初にお目にかかります。ノア・ブラキストンと申します」
「やあ、君がジオのお気に入りか。初めまして。ディアンジェス・フィー・ウォルスです」
覚えたばかりのお辞儀をするわたしに、青年はにこやかに名乗った。ぐらつく体を支えながら考える。
この人、今、ウォルスと名乗ったよね。
名前に国名が入ってるなんてどういう事だろう。何者―――と言うか、王族しかあり得ないじゃないの。
わたしは体をグラグラ揺らしながら頭を下げ続けた。
ダメだ、もう、倒れる……。
「はは、無理してカーツィしなくていいよ。慣れてないみたいだね」
「こいつは昨日カーツィを覚えたばかりだからな」
王子さまらしき人とジオルドが穏やかに話している。二人は親しい様子だけど、ジオルドは王子さま相手でも地のままだ。悪い意味でさすがだと思う。
ぼけっと立っているわたしに王子さまが言った。
「実はオルタ大学には私の弟が在籍中でね。君には彼の友人になってあげて欲しいんだ」
「え? マーガレットさんと友人になるのではないんですか?」
「マーガレットはディアンの弟の婚約者だ。ディアンは第一王子でな」
「そう。弟は第二王子、バレンティンだよ。バレンは医者を目指してるんだけど、彼を王に推す貴族たちがいい顔をしなくてね。なかなか苦労しているようだから、バレンを支えてあげて欲しい」
「お前はまず、マーガレットの友人になれ。そこからバレンに近付けば、自然と彼の友人にもなれるだろう」
「はぁ、分かりました。最終目標はバレンティン様なんですね」
「うん。よろしく頼むよ」
二人の美青年は部屋から出て行った。わたしはやれやれと椅子に座る。
なるほど。急にバレンティン様に接近したらマーガレットさんも嫌がるだろうから、まずは彼女と親しくなれと言うことだったのか。
でも友人になれと言われても、そんなに上手く行くだろうか。
小等部はともかく、中等部ではほとんど友達なんかいなかった。どこかの公子に嫌われていたせいだけど。
わたしはテーブルの上の本を手に取った。上手く行くかどうかはともかく、この仕事にわたしの命が懸かっている。失敗したら殺されるかもしれない。
今はとにかく本を読もう。どうかマーガレットさんがわたしを気に入ってくれますように。バレンティン様の手伝いが出来ますように。
体は人間に戻っていたけど変な赤い痣はない。やっぱりダニだったんだ。公爵なのにダニベッドで寝てたなんて可哀相な奴。
昨日と同じように枕元に服一式がたたんで置いてあった。わたしは起き上がってその服を身につける。毎朝ご丁寧なことだ。そんなに一匹の黒猫と一緒に寝たいだなんて……ペットでも飼えばいいのに。
朝食を取っていると、シュウが「ジオルド様は仕事へ行かれました」と報告してきた。食事のあとは数学の問題に取り掛かる。
ジオルドはまた夕方に戻ってくるかもしれない。奴に邪魔されない内にさっさと勉強しておこう。
シュウに頼んだところ、彼はあっさりと参考書を持ってきてくれた。すぐに貸してもらえたという事は、この屋敷内にもともと参考書があったのだろう。
あのひねくれ公爵は何を考えているんだ。勉強しろって言うならあんたも協力してよね、と思う。
昼食後、部屋のドアの真正面にテーブルと椅子を置いて読書した。これならジオルドの急襲に対応できるはずだ。同じ手に二度も引っ掛かりませんからね。
アレクサンドラの本は正直なにが面白いのか分からない。浮気している男と二人の女の物語という感じで、わたしからするとどうしてアレクサンドラが黙って耐え忍んでいるのか理解できない。貴族ってこういうものなんだろうか。
それにしてもこの本、何巻まであるのかな。全巻読まないとダメなのかなぁ。
はあ、とため息をついていたら、いきなり部屋のドアが開いた。ノックもせずに入ってくる無粋な奴なんて一人しかいない。ジオルドだ。
奴はドアの真正面を向いて座るわたしを見て、少しぎょっとした顔をしていた。いい気味だわ。
「ノア、今日はお前に客人を連れて来た」
「えっ。お客様ですか」
わたしは椅子から立ち上がって姿勢を正した。ジオルドの後ろから、とび色の髪を肩まで伸ばした青年が部屋に入ってくる。
服装は華美ではないが上質で、一つ一つの動作は優雅で洗練されていた。上流階級の人間かもしれない。
今こそカーツィの出番だろう。
「お初にお目にかかります。ノア・ブラキストンと申します」
「やあ、君がジオのお気に入りか。初めまして。ディアンジェス・フィー・ウォルスです」
覚えたばかりのお辞儀をするわたしに、青年はにこやかに名乗った。ぐらつく体を支えながら考える。
この人、今、ウォルスと名乗ったよね。
名前に国名が入ってるなんてどういう事だろう。何者―――と言うか、王族しかあり得ないじゃないの。
わたしは体をグラグラ揺らしながら頭を下げ続けた。
ダメだ、もう、倒れる……。
「はは、無理してカーツィしなくていいよ。慣れてないみたいだね」
「こいつは昨日カーツィを覚えたばかりだからな」
王子さまらしき人とジオルドが穏やかに話している。二人は親しい様子だけど、ジオルドは王子さま相手でも地のままだ。悪い意味でさすがだと思う。
ぼけっと立っているわたしに王子さまが言った。
「実はオルタ大学には私の弟が在籍中でね。君には彼の友人になってあげて欲しいんだ」
「え? マーガレットさんと友人になるのではないんですか?」
「マーガレットはディアンの弟の婚約者だ。ディアンは第一王子でな」
「そう。弟は第二王子、バレンティンだよ。バレンは医者を目指してるんだけど、彼を王に推す貴族たちがいい顔をしなくてね。なかなか苦労しているようだから、バレンを支えてあげて欲しい」
「お前はまず、マーガレットの友人になれ。そこからバレンに近付けば、自然と彼の友人にもなれるだろう」
「はぁ、分かりました。最終目標はバレンティン様なんですね」
「うん。よろしく頼むよ」
二人の美青年は部屋から出て行った。わたしはやれやれと椅子に座る。
なるほど。急にバレンティン様に接近したらマーガレットさんも嫌がるだろうから、まずは彼女と親しくなれと言うことだったのか。
でも友人になれと言われても、そんなに上手く行くだろうか。
小等部はともかく、中等部ではほとんど友達なんかいなかった。どこかの公子に嫌われていたせいだけど。
わたしはテーブルの上の本を手に取った。上手く行くかどうかはともかく、この仕事にわたしの命が懸かっている。失敗したら殺されるかもしれない。
今はとにかく本を読もう。どうかマーガレットさんがわたしを気に入ってくれますように。バレンティン様の手伝いが出来ますように。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる