12 / 38
12 自室にて(ジオルド)
しおりを挟む
自屋に戻ったジオルドは盛大に笑い出していた。先ほどのやり取りが滑稽すぎて、笑わずにはいられなかったのだ。
一人で笑う彼をディアンジェスは静かに見ている。
「どうしたんだい、ジオ。何かおかしかった?」
「っはは! おかしいに決まってるだろ。ノアはきっと善意でバレンの友人になろうとする。政治的な思惑など気にもせずに」
「そうだろうね。彼女がそう思うように話したから」
この王子は穏やかそうな顔をして腹黒い。ジオルドとディアンは幼馴染で深く知り合った仲だ。ディアンの考えなど分かりきっている。
弟の応援をしているように見せかけて、第二王子を王位から遠ざけようというのだろう。表向きは弟を支えたいという良心から行動しているように見える。はっきり言って性質が悪い。
「君が考えてる通りだよ。私は弟よりも自分の方が王に相応しいと思っている。あの子は母親を亡くしてから、医師になる事だけが生き甲斐だと思い込んでいる……。王になったところで操られるだけだろう」
「まぁそうだな。バレンは人生を賭けて医師を目指しているだろうからな……」
「私はバレンが望む人生を歩ませてやりたい。それを邪魔する者たちには容赦しないつもりだ。ジオも私を手伝ってくれるんだろう?」
「ああ、勿論」
「そう言ってくれると思ったよ。計画が上手く行ったら、ノアの身分も私が何とかしてあげよう」
「――なぜ急にノアの話をする?」
「なぜって君ね。彼女の背中のあざ、君が付けたんだろう。見せつけるように背中の開いた服を着せてさ……相変わらずやる事が悪趣味だな。まぁ綺麗な子だし、独り占めしたい気持ちは分かるよ」
「…………」
「それに彼女の首のチョーカー。あれ、王宮魔術師長に作らせた物だろ。あの偏屈じいさんに仕事させるなんて、一体いくらつぎ込んだの?」
「うるさいな。俺がノアをどうこうしようとディアンには関係ないだろ」
「まぁそうだけどね……」
ディアンは呆れたような顔でジオルドを見た。彼の顔から「分かってないんだな」という無言のメッセージを感じとり、ジオルドは少しばかり不機嫌になった。
「さて、私はそろそろ城へ戻るよ。君はどうする?」
「俺は戻らない。今日の分の仕事は終えたからな」
「ジオ……。大臣という要職についていながらさっさと帰るのは君ぐらいだぞ」
「俺がするのは重要な判断と責任を取ることだけだ。事務処理など他の人間にも出来るし、俺がいない方が文官たちも早く帰れるからいいだろ」
ディアンは苦笑しながらジオルドに別れを告げ、王宮へ戻って行った。
第一王子を見送ったジオルドは、いそいそとノアの部屋に向かう。
ノアを屋敷に住まわせるようになってから妙に楽しい。日々が充実しているように感じる。
俺の人生にはやはりノアが必要なのだ。
ノアをいじくり倒している時こそ、俺の精神は満たされるのだ。
ノックもせずに無遠慮にドアを開けると、ノアは動じることなく本を読んでいた。この女は集中すると音が聞こえなくなるらしい。
寝ている間だって体中に吸い付いても起きなかった。少しイタズラしてやろうか。
ジオルドはノアの背後に回り込んで、彼女の黒髪をかき分けた。うなじにも背中にも赤い痣がついている。
それを満足そうに見たあと、痣を上書きするように唇でなぞった。ノアは一瞬だけぴく、と反応したが、やはり本に集中している。
―――面白くない。本など置いて、俺を見ろ。
ジオルドは白いうなじにがぷりと噛み付いた。
「いったぁ! えっ、何……ジオルド様!?」
「精が出るな。少し休憩したらどうだ?」
「もうちょっと普通に声をかけてくださいよ……。噛む必要ないでしょ」
ノアはぶつくさ言いながらうなじを手でさすっている。シュウに茶でも淹れさせようかと思っていると、そのシュウが部屋に入ってきた。
「ジオルド様。騎士団より魔獣討伐の支援要請が出ております。至急、現地まで来て欲しいと」
「くそっ……。いいか、ノア。俺が帰るまで寝るなよ」
「はあ」
ノアはきょとんとした顔で返事した。小首をかしげる動作が小悪魔的に可愛くて、めちゃくちゃにしてやりたくなる。ジオルドはぐっと唇を噛みしめてノアの部屋から出た。
あいつに向けるはずだった欲望は、全て魔獣にぶつけてしまおう。
帰ってきたらノアを猫にして思いっきり可愛がってやろう。
一人で笑う彼をディアンジェスは静かに見ている。
「どうしたんだい、ジオ。何かおかしかった?」
「っはは! おかしいに決まってるだろ。ノアはきっと善意でバレンの友人になろうとする。政治的な思惑など気にもせずに」
「そうだろうね。彼女がそう思うように話したから」
この王子は穏やかそうな顔をして腹黒い。ジオルドとディアンは幼馴染で深く知り合った仲だ。ディアンの考えなど分かりきっている。
弟の応援をしているように見せかけて、第二王子を王位から遠ざけようというのだろう。表向きは弟を支えたいという良心から行動しているように見える。はっきり言って性質が悪い。
「君が考えてる通りだよ。私は弟よりも自分の方が王に相応しいと思っている。あの子は母親を亡くしてから、医師になる事だけが生き甲斐だと思い込んでいる……。王になったところで操られるだけだろう」
「まぁそうだな。バレンは人生を賭けて医師を目指しているだろうからな……」
「私はバレンが望む人生を歩ませてやりたい。それを邪魔する者たちには容赦しないつもりだ。ジオも私を手伝ってくれるんだろう?」
「ああ、勿論」
「そう言ってくれると思ったよ。計画が上手く行ったら、ノアの身分も私が何とかしてあげよう」
「――なぜ急にノアの話をする?」
「なぜって君ね。彼女の背中のあざ、君が付けたんだろう。見せつけるように背中の開いた服を着せてさ……相変わらずやる事が悪趣味だな。まぁ綺麗な子だし、独り占めしたい気持ちは分かるよ」
「…………」
「それに彼女の首のチョーカー。あれ、王宮魔術師長に作らせた物だろ。あの偏屈じいさんに仕事させるなんて、一体いくらつぎ込んだの?」
「うるさいな。俺がノアをどうこうしようとディアンには関係ないだろ」
「まぁそうだけどね……」
ディアンは呆れたような顔でジオルドを見た。彼の顔から「分かってないんだな」という無言のメッセージを感じとり、ジオルドは少しばかり不機嫌になった。
「さて、私はそろそろ城へ戻るよ。君はどうする?」
「俺は戻らない。今日の分の仕事は終えたからな」
「ジオ……。大臣という要職についていながらさっさと帰るのは君ぐらいだぞ」
「俺がするのは重要な判断と責任を取ることだけだ。事務処理など他の人間にも出来るし、俺がいない方が文官たちも早く帰れるからいいだろ」
ディアンは苦笑しながらジオルドに別れを告げ、王宮へ戻って行った。
第一王子を見送ったジオルドは、いそいそとノアの部屋に向かう。
ノアを屋敷に住まわせるようになってから妙に楽しい。日々が充実しているように感じる。
俺の人生にはやはりノアが必要なのだ。
ノアをいじくり倒している時こそ、俺の精神は満たされるのだ。
ノックもせずに無遠慮にドアを開けると、ノアは動じることなく本を読んでいた。この女は集中すると音が聞こえなくなるらしい。
寝ている間だって体中に吸い付いても起きなかった。少しイタズラしてやろうか。
ジオルドはノアの背後に回り込んで、彼女の黒髪をかき分けた。うなじにも背中にも赤い痣がついている。
それを満足そうに見たあと、痣を上書きするように唇でなぞった。ノアは一瞬だけぴく、と反応したが、やはり本に集中している。
―――面白くない。本など置いて、俺を見ろ。
ジオルドは白いうなじにがぷりと噛み付いた。
「いったぁ! えっ、何……ジオルド様!?」
「精が出るな。少し休憩したらどうだ?」
「もうちょっと普通に声をかけてくださいよ……。噛む必要ないでしょ」
ノアはぶつくさ言いながらうなじを手でさすっている。シュウに茶でも淹れさせようかと思っていると、そのシュウが部屋に入ってきた。
「ジオルド様。騎士団より魔獣討伐の支援要請が出ております。至急、現地まで来て欲しいと」
「くそっ……。いいか、ノア。俺が帰るまで寝るなよ」
「はあ」
ノアはきょとんとした顔で返事した。小首をかしげる動作が小悪魔的に可愛くて、めちゃくちゃにしてやりたくなる。ジオルドはぐっと唇を噛みしめてノアの部屋から出た。
あいつに向けるはずだった欲望は、全て魔獣にぶつけてしまおう。
帰ってきたらノアを猫にして思いっきり可愛がってやろう。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます
さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。
生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。
「君の草は、人を救う力を持っている」
そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。
不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。
華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、
薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。
町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。
愛があれば、何をしてもいいとでも?
篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。
何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。
生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。
「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」
過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。
まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる