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13 踏み台にしてしまおう
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ジオルドが外出した後、ようやく本の二巻目に入ることが出来た。奴がいない間が勝負だ。今のうちにページを稼いでおかないと。
シュウがお茶のセットを置いて行ってくれたので、魔石ランプでお湯を沸かして紅茶を淹れた。さすが公爵家だ、最高級の茶葉を使っている。せっかくだからミルクも入れてしまおう。
温かいミルクティーで休憩。
ジオルドがいなくなったせいか、急に部屋の中が静かになったように感じた。
魔獣は基本的に森に住んでいるが、時おり人里に下りて来て作物や家畜を食い散らかす。その場合には騎士団が討伐に当たるらしい。実際に見たことがないので、詳しくは知らないけれど。
ジオルドは公爵という立場ながら体が筋肉質でどうしてなのかと不思議だったが、ようやくその理由が分かった。先ほどの様子から察するに、彼は日常的に討伐へ行っているのだろう。
わたしは自身の太ももを触ってみた。当然ながらジオルドよりもかなり柔らかい。
今日のカーツィは酷かったし、わたしも運動しておこうかな。
ディアンジェス様は優しいから許してくれたのだ。礼儀作法にうるさい人にあのカーツィを見せていれば、情け容赦なく注意されていたかもしれない。
しゃがんだり立ち上がったりしながらふと思った。
今、屋敷の中にはジオルドもシュウもいない。もしかして逃げるチャンスなのでは―――。
でも何故なのか、逃げたいとは思わなかった。
確かにジオルドには酷い目に会わされている。でも大学に入る事はわたしにも利点が多い話だ。薬師としての仕事にも活かせるだろうし、人脈を広げることにもなるし。
王子さまと知り合いになるなんて普通の人生ではあり得ない。ジオルドが公爵だったからこそ、ディアンジェス様と出会い、しかも頼みを聞くことになったのだから。
こうなったらとことんジオルドを利用してしまおう。
彼は今すぐわたしを殺そうとはしないはず。むしろ、殺すのが惜しいと思えるぐらいの人間になってしまえばいいんだ。
俄然やる気が出たわたしは、時間を計って数学の問題を解いた。制限時間内に何とか解き終え、採点する。得点は大丈夫そうだけど本番では時間が足りないかもしれない。単純な計算問題は最後に回そう。
暗くなり始めた部屋に明かりが灯った。魔術回路が自動的に部屋の明かりまで調節してくれているようだ。
ジオルド達が出かけてからかなり時間が経ち、わたしも少し心配になってきた。怪我でもしたんだろうか。何かあって帰りが遅いのかな……。
不安に思っていると、突然窓の外からドォン!と言う、重たい物でも落下したかのような音が響いた。地面から屋敷に揺れが伝わり、部屋の中の家具がビリビリと小さく震えている。
「な、なに今の。地震?」
怖くなってベッドで毛布を被っていたら、部屋のドアが乱暴に開く音がした。ああ、この開け方、ジオルドかな。
「ノア! 何を隠れている!」
毛布をべりっと剥ぎ取られた。
恐々と顔を上げると、ジオルドが肩で息をしながらわたしを見ている。ずい分と急いだらしい。
「じ、地震があったから、隠れてたんです」
「地震だと? ―――ああ、あれは俺とシュウが着地したせいで揺れたんだ。結界のまま高速移動するのはいいんだが、速度を緩めるのが難しくてな……。ほら、食事にするぞ」
ジオルドはわたしの手を引っ張ってテーブルに連れ戻した。よく見れば、彼が着ている黒い上着に血が染み付いている。生臭いにおいも漂ってきた。
「ジオルド様、食事の前に着替えましょう」
「別に構わんが。どのドレスにする?」
クローゼットを開けようとするジオルド。
「わたしの着替えじゃなくて! あなたの上着に血がついてるんです!」
「ああそうか。そう言えば着替えていなかった」
ジオルドは上着を脱いで廊下にばさっと放り投げた。白いシャツの襟を緩め、ふう、とため息をついている。
わたしは彼の喉仏を見ていた。男にチョーカーを付けたら苦しいだろうな。喉が出っ張っているし。でもいつかジオルドにも首輪をつけてやりたい気持ちはある。
「……何だよ、じっと見て。俺に見惚れてるのか?」
「別に。そんなんじゃないです」
あなたの喉仏をチョーカーで締め付けてやりたいだけです。
ニヤついているジオルドを無視してテーブルに視線を移すと、シュウが料理を並べ終わったところだった。ジオルドが指示したのか、わたしの分の食事は蛋白質が多くなっている。サーモンとか鳥の胸肉とか。
向かい側に座っている男が「もっとふくよかな方が抱き心地がいい。頑張って食え」などと言った。以前は確かに粗食だったけど、わたしはガリガリに痩せているわけじゃない。ジオルドの認識がおかしいんだ。
この男は娼館にいるような豊満な女性とわたしを比べているに違いない。失礼極まりない話だわ―――と思いつつ、しっかり食べたけれども。
ジオルド踏み台化計画は始まったばかりなのだ。ちゃんと食べて体力もつけておこう。
シュウがお茶のセットを置いて行ってくれたので、魔石ランプでお湯を沸かして紅茶を淹れた。さすが公爵家だ、最高級の茶葉を使っている。せっかくだからミルクも入れてしまおう。
温かいミルクティーで休憩。
ジオルドがいなくなったせいか、急に部屋の中が静かになったように感じた。
魔獣は基本的に森に住んでいるが、時おり人里に下りて来て作物や家畜を食い散らかす。その場合には騎士団が討伐に当たるらしい。実際に見たことがないので、詳しくは知らないけれど。
ジオルドは公爵という立場ながら体が筋肉質でどうしてなのかと不思議だったが、ようやくその理由が分かった。先ほどの様子から察するに、彼は日常的に討伐へ行っているのだろう。
わたしは自身の太ももを触ってみた。当然ながらジオルドよりもかなり柔らかい。
今日のカーツィは酷かったし、わたしも運動しておこうかな。
ディアンジェス様は優しいから許してくれたのだ。礼儀作法にうるさい人にあのカーツィを見せていれば、情け容赦なく注意されていたかもしれない。
しゃがんだり立ち上がったりしながらふと思った。
今、屋敷の中にはジオルドもシュウもいない。もしかして逃げるチャンスなのでは―――。
でも何故なのか、逃げたいとは思わなかった。
確かにジオルドには酷い目に会わされている。でも大学に入る事はわたしにも利点が多い話だ。薬師としての仕事にも活かせるだろうし、人脈を広げることにもなるし。
王子さまと知り合いになるなんて普通の人生ではあり得ない。ジオルドが公爵だったからこそ、ディアンジェス様と出会い、しかも頼みを聞くことになったのだから。
こうなったらとことんジオルドを利用してしまおう。
彼は今すぐわたしを殺そうとはしないはず。むしろ、殺すのが惜しいと思えるぐらいの人間になってしまえばいいんだ。
俄然やる気が出たわたしは、時間を計って数学の問題を解いた。制限時間内に何とか解き終え、採点する。得点は大丈夫そうだけど本番では時間が足りないかもしれない。単純な計算問題は最後に回そう。
暗くなり始めた部屋に明かりが灯った。魔術回路が自動的に部屋の明かりまで調節してくれているようだ。
ジオルド達が出かけてからかなり時間が経ち、わたしも少し心配になってきた。怪我でもしたんだろうか。何かあって帰りが遅いのかな……。
不安に思っていると、突然窓の外からドォン!と言う、重たい物でも落下したかのような音が響いた。地面から屋敷に揺れが伝わり、部屋の中の家具がビリビリと小さく震えている。
「な、なに今の。地震?」
怖くなってベッドで毛布を被っていたら、部屋のドアが乱暴に開く音がした。ああ、この開け方、ジオルドかな。
「ノア! 何を隠れている!」
毛布をべりっと剥ぎ取られた。
恐々と顔を上げると、ジオルドが肩で息をしながらわたしを見ている。ずい分と急いだらしい。
「じ、地震があったから、隠れてたんです」
「地震だと? ―――ああ、あれは俺とシュウが着地したせいで揺れたんだ。結界のまま高速移動するのはいいんだが、速度を緩めるのが難しくてな……。ほら、食事にするぞ」
ジオルドはわたしの手を引っ張ってテーブルに連れ戻した。よく見れば、彼が着ている黒い上着に血が染み付いている。生臭いにおいも漂ってきた。
「ジオルド様、食事の前に着替えましょう」
「別に構わんが。どのドレスにする?」
クローゼットを開けようとするジオルド。
「わたしの着替えじゃなくて! あなたの上着に血がついてるんです!」
「ああそうか。そう言えば着替えていなかった」
ジオルドは上着を脱いで廊下にばさっと放り投げた。白いシャツの襟を緩め、ふう、とため息をついている。
わたしは彼の喉仏を見ていた。男にチョーカーを付けたら苦しいだろうな。喉が出っ張っているし。でもいつかジオルドにも首輪をつけてやりたい気持ちはある。
「……何だよ、じっと見て。俺に見惚れてるのか?」
「別に。そんなんじゃないです」
あなたの喉仏をチョーカーで締め付けてやりたいだけです。
ニヤついているジオルドを無視してテーブルに視線を移すと、シュウが料理を並べ終わったところだった。ジオルドが指示したのか、わたしの分の食事は蛋白質が多くなっている。サーモンとか鳥の胸肉とか。
向かい側に座っている男が「もっとふくよかな方が抱き心地がいい。頑張って食え」などと言った。以前は確かに粗食だったけど、わたしはガリガリに痩せているわけじゃない。ジオルドの認識がおかしいんだ。
この男は娼館にいるような豊満な女性とわたしを比べているに違いない。失礼極まりない話だわ―――と思いつつ、しっかり食べたけれども。
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