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仕草、声、まばたき…全部が知ってる誰かと重なる
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朝の教室にはまだ柔らかい光が差し込んでいた。窓際の席、いつものように机に鞄を置いた悠翔は、ちらりと隣の席を見た。そこには、すでに制服姿の京橋蒼真が座っていた。
彼は、机に一冊ずつ教科書を並べていた。国語、数学、英語。順番に、几帳面すぎず、だが自然な所作で。その指の動きが、悠翔の脳裏に何かを呼び起こす。
…まただ。
第8巻、黒星騎士団のレオ様が敵地で捕虜となった少年に教科書を差し出す場面。そこでの描写、「手の動きはまるで、物を傷つけないように触る鳥の羽のようだった」。
京橋の動きと重なる。あまりにも重なる。
次に、彼が無意識のように前髪をかき上げた。長くはない、しかし額にかかる数本を指先で整える。窓からの光が髪に当たって、ほんのわずかに艶めいた。
まただ。
第6巻。雨の中で兜を脱いだレオ様の姿。水滴を払うしぐさ。あれと、同じ。
悠翔は、目を逸らそうとした。けれど視線は動かなかった。まぶたの奥がじんじんと熱くなっていく。喉の奥がきゅうっと詰まり、呼吸が浅くなる。
京橋は気づかぬまま、ノートを一枚めくる。ページがふわりと舞い、静かに落ち着く。インクの色、ペンの握り方、力加減。すべてが、悠翔の知っている“誰か”の所作だった。
「まただ…あの第8巻の…いや、こんな再現度、もう幻覚やん…」
声にならない声が、胸の奥で呟いた。額から汗がにじむような感覚。教室の空気が急に遠ざかったような気がした。周囲の声も、椅子を引く音も、黒板を拭く音もすべてがぼんやりと輪郭を失う。
京橋が、こちらに向かって少しだけ身を乗り出した。
「ノート、見せてくれる?」
その一言に、悠翔の呼吸が止まった。
声もだ。あの落ち着いた低さ、聞き取りやすいけど、どこかくすぐったくなるような…その感じが。
悠翔はぎこちなく頷き、手元のノートを差し出した。が、そのときには指先が震えていた。ページをめくる音が大きく響いた気がして、息を呑んだ。
ノートを手にした京橋は、特に気にする様子もなく「ありがとう」と微笑んだ。その笑顔が、また、致命的だった。
笑った。その笑顔、レオ様と同じ角度で、同じ左側の口角が少しだけ先に上がるやつ。いやいや、待って、本当にやめてほしい。生きてる、無理、現実、尊い、死ぬ。頭の中の言葉が全方向に暴走していた。
悠翔の顔は、さっきまでの赤みを通り越して、もう紫がかっていたかもしれない。そして、そんな悠翔を見た京橋がふと眉を寄せた。
「熱ある?顔、赤いよ」
その言葉で、悠翔はついに臨界点を超えた。
「いっ……いや、あの、大丈夫、だと、思うんだけど、えーっと……ちょっと、トイレ!」
早口で言い捨て、立ち上がって逃げるように教室を出た。足元がややふらついたのを感じながらも、ひたすら前だけを見て歩いた。
ドアを閉めた瞬間、背中に汗がじっとりと滲んでいるのがわかった。
廊下に出た途端、風がひやりと首筋をなぞった。
…あれは、現実か?
息を吐いた。だが、呼吸は落ち着かない。鼓動は速く、喉の奥がぎゅっと詰まったままだった。
目を閉じる。思い出すのは、さっきの笑顔。教室の光の中で、淡く微笑んだ彼の顔。
まるで、夢の続きを見ているようだった。
でも、違う。これは夢じゃない。俺は目を開けて、この世界で彼と隣に座っている。
じゃあ、これは何だ?尊さの幻影?現実の罰?それとも…
わからない。ただ、今の自分には、彼の仕草一つひとつが、かつての“推し”と重なって仕方なかった。
けれど、その仕草が、誰かの模倣ではなく、「彼自身」のものだと気づく瞬間が来たら。
そのとき、自分は――本当に、恋をするのかもしれない。
そう思ってしまったことが、何より恐ろしかった。
彼は、机に一冊ずつ教科書を並べていた。国語、数学、英語。順番に、几帳面すぎず、だが自然な所作で。その指の動きが、悠翔の脳裏に何かを呼び起こす。
…まただ。
第8巻、黒星騎士団のレオ様が敵地で捕虜となった少年に教科書を差し出す場面。そこでの描写、「手の動きはまるで、物を傷つけないように触る鳥の羽のようだった」。
京橋の動きと重なる。あまりにも重なる。
次に、彼が無意識のように前髪をかき上げた。長くはない、しかし額にかかる数本を指先で整える。窓からの光が髪に当たって、ほんのわずかに艶めいた。
まただ。
第6巻。雨の中で兜を脱いだレオ様の姿。水滴を払うしぐさ。あれと、同じ。
悠翔は、目を逸らそうとした。けれど視線は動かなかった。まぶたの奥がじんじんと熱くなっていく。喉の奥がきゅうっと詰まり、呼吸が浅くなる。
京橋は気づかぬまま、ノートを一枚めくる。ページがふわりと舞い、静かに落ち着く。インクの色、ペンの握り方、力加減。すべてが、悠翔の知っている“誰か”の所作だった。
「まただ…あの第8巻の…いや、こんな再現度、もう幻覚やん…」
声にならない声が、胸の奥で呟いた。額から汗がにじむような感覚。教室の空気が急に遠ざかったような気がした。周囲の声も、椅子を引く音も、黒板を拭く音もすべてがぼんやりと輪郭を失う。
京橋が、こちらに向かって少しだけ身を乗り出した。
「ノート、見せてくれる?」
その一言に、悠翔の呼吸が止まった。
声もだ。あの落ち着いた低さ、聞き取りやすいけど、どこかくすぐったくなるような…その感じが。
悠翔はぎこちなく頷き、手元のノートを差し出した。が、そのときには指先が震えていた。ページをめくる音が大きく響いた気がして、息を呑んだ。
ノートを手にした京橋は、特に気にする様子もなく「ありがとう」と微笑んだ。その笑顔が、また、致命的だった。
笑った。その笑顔、レオ様と同じ角度で、同じ左側の口角が少しだけ先に上がるやつ。いやいや、待って、本当にやめてほしい。生きてる、無理、現実、尊い、死ぬ。頭の中の言葉が全方向に暴走していた。
悠翔の顔は、さっきまでの赤みを通り越して、もう紫がかっていたかもしれない。そして、そんな悠翔を見た京橋がふと眉を寄せた。
「熱ある?顔、赤いよ」
その言葉で、悠翔はついに臨界点を超えた。
「いっ……いや、あの、大丈夫、だと、思うんだけど、えーっと……ちょっと、トイレ!」
早口で言い捨て、立ち上がって逃げるように教室を出た。足元がややふらついたのを感じながらも、ひたすら前だけを見て歩いた。
ドアを閉めた瞬間、背中に汗がじっとりと滲んでいるのがわかった。
廊下に出た途端、風がひやりと首筋をなぞった。
…あれは、現実か?
息を吐いた。だが、呼吸は落ち着かない。鼓動は速く、喉の奥がぎゅっと詰まったままだった。
目を閉じる。思い出すのは、さっきの笑顔。教室の光の中で、淡く微笑んだ彼の顔。
まるで、夢の続きを見ているようだった。
でも、違う。これは夢じゃない。俺は目を開けて、この世界で彼と隣に座っている。
じゃあ、これは何だ?尊さの幻影?現実の罰?それとも…
わからない。ただ、今の自分には、彼の仕草一つひとつが、かつての“推し”と重なって仕方なかった。
けれど、その仕草が、誰かの模倣ではなく、「彼自身」のものだと気づく瞬間が来たら。
そのとき、自分は――本当に、恋をするのかもしれない。
そう思ってしまったことが、何より恐ろしかった。
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