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創作活動=恋心のリハーサル
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図書室の一番奥、窓際の席に三人分の影が差していた。放課後の静かな時間、誰もいない書架の隙間から、春の夕日がオレンジ色の光をそっと落としている。
阿波座は、観察ノートと呼ばれる分厚い自由帳を机の上に広げていた。そのページは、几帳面な字と時折挿まれる図解で埋め尽くされている。たとえば「肩越しに目を合わせない会話の距離感」や、「教室内でのアイコンタクト回数統計」。文字は無感情であるはずなのに、そこに込められた熱量が伝わってくる。
「創作って、気持ちの実験でもあるから」
阿波座は、赤いメガネの奥から悠翔を一瞥して言った。
「仮想でもいい。自分が言えないことを、誰かの口を借りて言う。それが物語ってものでしょ」
その横で、紬がうんうんと頷いている。彼女の手元には、小さなノートと可愛らしいペン。すでに書き終えたばかりの短いSSを読み上げる準備をしていた。
「今日のはね、“もし教室でふたりきりになったら”っていうシチュエーションで書いてみたの。きょゆう、っていうか、ふたりがまだお互いに気づいてない段階。ちょっと切ない感じで」
「気づいてない段階のほうが刺さるよね」
阿波座が相槌を打つ。紬は照れくさそうに笑いながら、ゆっくりと朗読を始めた。
「“君の視線に気づいていないふりをした。だって、もし目が合ってしまったら、この鼓動の意味に、気づかれてしまいそうだったから”」
言葉が柔らかに部屋に広がっていく。まるで春の風のような文体だった。読む紬の声も優しく、ひとつひとつの言葉を大事に届けるように語られる。
悠翔は、それを聞きながら小さく笑った。けれど、その笑顔の奥には、ふと真顔に戻る瞬間があった。
彼は今、自分の自由帳に言葉を並べている。
それは、京橋蒼真とレオ様のちょうど中間にいる存在だった。前世の推しの記憶と、いま隣の席にいる彼。その両方を想いながら、けれどどちらにも似すぎないように、言葉の選び方に慎重になる。
書いているのは、こんな一節だった。
「剣を持たなくても、君は人を守れるんだって思った。
それは、君が何気なくノートを貸すその手に、力が宿っているから。
だから俺は、その手をもう少し見ていたいと思った」
書きながら、心の中に浮かぶのはいつもの彼だ。
教室の席で、ふと笑う顔。真剣なまなざしでノートをめくる姿。窓際の光を浴びて、髪がやわらかく揺れる。まるで、それだけで何かの物語が始まりそうな瞬間ばかりが、頭の中を支配していく。
「言えないことって、物語にしちゃえばいいんだよ~」
紬の言葉が、まるで許しのように聞こえた。
そうだ、自分は“恋”なんてまだ言えない。ただ、“気になる”とか、“目が離せない”とか、そういう言葉でしか表現できない。
だけど、それでも――物語にしてみると、なんとなく整理できる。
悠翔は、視線をノートから外して、窓の外に目をやった。夕日が校舎の壁に影を落とし、風が木々を揺らしている。静かなその光景の中で、自分の鼓動だけが、やけにはっきりと聞こえた。
そしてまた、ペンを走らせる。
「“たとえ、この距離が変わらないままでも、君の名前を心の中で呼ぶことを、今日も許してほしい”」
物語の主人公にしてしまえば、気持ちは少しだけ遠回りで言える。
本当はもっと、近づきたい。もっと、知りたい。
でも、それを言葉にするのはまだ早い。だから、いまは“創作”という名前の仮面をかぶせて、自分の気持ちを語る。
悠翔のペンは、またひとつの言葉を書き足す。
「“それが、恋じゃないと言い張るには、もう少しだけ時間が必要だった”」
書き終えたとき、阿波座が彼のノートをちらりと覗き込んだ。
「……やっぱり、あなたが“星屑の騎士”で正解だったね」
悠翔は顔を真っ赤にしながら、ノートを閉じた。
でもその手元は、確かに、少しだけ誇らしげだった。自分の想いに、ようやく輪郭がついてきた気がしていた。
阿波座は、観察ノートと呼ばれる分厚い自由帳を机の上に広げていた。そのページは、几帳面な字と時折挿まれる図解で埋め尽くされている。たとえば「肩越しに目を合わせない会話の距離感」や、「教室内でのアイコンタクト回数統計」。文字は無感情であるはずなのに、そこに込められた熱量が伝わってくる。
「創作って、気持ちの実験でもあるから」
阿波座は、赤いメガネの奥から悠翔を一瞥して言った。
「仮想でもいい。自分が言えないことを、誰かの口を借りて言う。それが物語ってものでしょ」
その横で、紬がうんうんと頷いている。彼女の手元には、小さなノートと可愛らしいペン。すでに書き終えたばかりの短いSSを読み上げる準備をしていた。
「今日のはね、“もし教室でふたりきりになったら”っていうシチュエーションで書いてみたの。きょゆう、っていうか、ふたりがまだお互いに気づいてない段階。ちょっと切ない感じで」
「気づいてない段階のほうが刺さるよね」
阿波座が相槌を打つ。紬は照れくさそうに笑いながら、ゆっくりと朗読を始めた。
「“君の視線に気づいていないふりをした。だって、もし目が合ってしまったら、この鼓動の意味に、気づかれてしまいそうだったから”」
言葉が柔らかに部屋に広がっていく。まるで春の風のような文体だった。読む紬の声も優しく、ひとつひとつの言葉を大事に届けるように語られる。
悠翔は、それを聞きながら小さく笑った。けれど、その笑顔の奥には、ふと真顔に戻る瞬間があった。
彼は今、自分の自由帳に言葉を並べている。
それは、京橋蒼真とレオ様のちょうど中間にいる存在だった。前世の推しの記憶と、いま隣の席にいる彼。その両方を想いながら、けれどどちらにも似すぎないように、言葉の選び方に慎重になる。
書いているのは、こんな一節だった。
「剣を持たなくても、君は人を守れるんだって思った。
それは、君が何気なくノートを貸すその手に、力が宿っているから。
だから俺は、その手をもう少し見ていたいと思った」
書きながら、心の中に浮かぶのはいつもの彼だ。
教室の席で、ふと笑う顔。真剣なまなざしでノートをめくる姿。窓際の光を浴びて、髪がやわらかく揺れる。まるで、それだけで何かの物語が始まりそうな瞬間ばかりが、頭の中を支配していく。
「言えないことって、物語にしちゃえばいいんだよ~」
紬の言葉が、まるで許しのように聞こえた。
そうだ、自分は“恋”なんてまだ言えない。ただ、“気になる”とか、“目が離せない”とか、そういう言葉でしか表現できない。
だけど、それでも――物語にしてみると、なんとなく整理できる。
悠翔は、視線をノートから外して、窓の外に目をやった。夕日が校舎の壁に影を落とし、風が木々を揺らしている。静かなその光景の中で、自分の鼓動だけが、やけにはっきりと聞こえた。
そしてまた、ペンを走らせる。
「“たとえ、この距離が変わらないままでも、君の名前を心の中で呼ぶことを、今日も許してほしい”」
物語の主人公にしてしまえば、気持ちは少しだけ遠回りで言える。
本当はもっと、近づきたい。もっと、知りたい。
でも、それを言葉にするのはまだ早い。だから、いまは“創作”という名前の仮面をかぶせて、自分の気持ちを語る。
悠翔のペンは、またひとつの言葉を書き足す。
「“それが、恋じゃないと言い張るには、もう少しだけ時間が必要だった”」
書き終えたとき、阿波座が彼のノートをちらりと覗き込んだ。
「……やっぱり、あなたが“星屑の騎士”で正解だったね」
悠翔は顔を真っ赤にしながら、ノートを閉じた。
でもその手元は、確かに、少しだけ誇らしげだった。自分の想いに、ようやく輪郭がついてきた気がしていた。
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