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物語って、書き直してもいいんだよ
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図書室の窓際、午後の陽がゆっくりと机の上に傾いていた。放課後の静寂に包まれたその空間は、まるで時間が少しだけ止まっているかのようだった。
阿波座玲奈は、自分の観察ノートを開きながら、まっすぐ悠翔を見つめていた。手元には、なにスタに投稿された詩のコピーが挟まれている。それは、悠翔が書いた「星屑の詩」の一つだった。
「ねえ、あれ、前に言ってた“黒星騎士団”がベースでしょ」
玲奈の声は静かで、けれど一切の曖昧さを許さない確信に満ちていた。
「でも、“今”が混ざってる」
その一言が、悠翔の心に微かな衝撃を与えた。
「……え?」
ページの上に視線を落としたままの悠翔は、小さく問い返した。顔は伏せたままだったが、その頬がほんのりと紅くなっているのが分かった。
「キャラの言葉遣いが変わってる。前に読ませてもらった設定資料だと、レオ様はもっと重たい言葉を使ってた。でもあの詩では、すごく“今の日本語”になってる。しかも、それが自然に読める。だから、これはもう、“今のあなた”が書いた言葉なんだと思う」
玲奈は淡々と言葉を重ねながら、ノートに何かを書き込んでいた。
「思い出って、誰かを好きになった時間そのものだよね~」
昭和町紬が、ふんわりとした声で続けた。彼女は自分のSSノートを開いたまま、ペンをくるくると回している。
「過去の記憶でも、そこにちゃんと“気持ち”があったなら、今の自分と地続きなんだよ。きっと、あのとき感じたものが、今のあなたの言葉になってるんじゃないかな」
悠翔は、机の端をそっと撫でた。視線はまだノートの罫線の上をさまよっている。
「でも……その物語は、もう存在しないんだよ」
ぽつりと落とされたその言葉に、玲奈が手を止めた。
悠翔の声はかすれていた。まるで、それを口にするだけで胸が痛むようだった。
「黒星騎士団も、レオ様も、あの世界も……もう俺の記憶の中にしかない。あれを語っても、誰も知らない。ただの妄想になる。そう思ったら、なんか……また一人になった気がして」
その言葉に、紬が小さく眉をひそめた。でも、玲奈はゆっくりと、ノートを閉じて言った。
「存在しないって、誰が決めたの?」
その声は、柔らかいのに、芯が通っていた。
「ネットの海に流されて埋もれたって、書店から消えたって、あなたが“そこにいた”って感じてるなら、その物語は、まだここにある。あなたが語る限り、それは“今、生きてる物語”なんだよ」
悠翔は、顔を伏せたまま固まっていたが、少しずつ顔を上げていった。その目に、じわりと光が戻っていくのがわかった。
玲奈は、机の中央に創作用の自由帳を置いた。そして、手早くタイトルを書き込む。
「じゃあ、今日からこの企画やろう。“もし星屑の騎士が転生して、誰かを好きになったら”」
「えっ、突然そんな話に?」
悠翔は慌てて椅子に座り直し、ノートを覗き込む。
紬が満面の笑みで頷いた。
「いいと思う~!転生したら現代にいて、剣は持ってないけど、ノートを差し出す騎士。
クラスメイトを好きになるっていう新しい物語、書けるよ!」
「自分の感情をそのまま入れてもいい。隠したければ、仮面をかぶせればいい。
でも、“好きかもしれない”って気持ちがそこにあれば、それはもう、物語になる」
玲奈がゆっくりと言った。
悠翔は、机の上に開かれたノートを見つめていた。手を伸ばしかけ、そしてふと、ためらいがちに言った。
「……俺、自分の気持ち、まだ“好き”って言えるほどじゃないかも」
「じゃあ、“かもしれない”で書けばいい。
好きになる前の気持ちって、いちばん物語になると思うよ」
紬が、柔らかく笑いながらそう言った。
その言葉に、悠翔はふっと笑った。
小さく、小さく。けれど、その笑顔は確かにそこにあった。
そして静かに、ペンを取った。
ノートの最初の行に、丁寧に書き込む。
「星屑の騎士、転生記録 第一章
名前も知らない誰かを、守りたいと思った瞬間から、物語が始まる」
外はすっかり夕暮れだった。
けれど、その言葉が書かれた瞬間、図書室の片隅に、小さな物語の火が灯ったようだった。
それは確かに、消えたはずの物語の続きだった。
そしてきっと、誰かを好きになってしまう物語の、始まりでもあった。
阿波座玲奈は、自分の観察ノートを開きながら、まっすぐ悠翔を見つめていた。手元には、なにスタに投稿された詩のコピーが挟まれている。それは、悠翔が書いた「星屑の詩」の一つだった。
「ねえ、あれ、前に言ってた“黒星騎士団”がベースでしょ」
玲奈の声は静かで、けれど一切の曖昧さを許さない確信に満ちていた。
「でも、“今”が混ざってる」
その一言が、悠翔の心に微かな衝撃を与えた。
「……え?」
ページの上に視線を落としたままの悠翔は、小さく問い返した。顔は伏せたままだったが、その頬がほんのりと紅くなっているのが分かった。
「キャラの言葉遣いが変わってる。前に読ませてもらった設定資料だと、レオ様はもっと重たい言葉を使ってた。でもあの詩では、すごく“今の日本語”になってる。しかも、それが自然に読める。だから、これはもう、“今のあなた”が書いた言葉なんだと思う」
玲奈は淡々と言葉を重ねながら、ノートに何かを書き込んでいた。
「思い出って、誰かを好きになった時間そのものだよね~」
昭和町紬が、ふんわりとした声で続けた。彼女は自分のSSノートを開いたまま、ペンをくるくると回している。
「過去の記憶でも、そこにちゃんと“気持ち”があったなら、今の自分と地続きなんだよ。きっと、あのとき感じたものが、今のあなたの言葉になってるんじゃないかな」
悠翔は、机の端をそっと撫でた。視線はまだノートの罫線の上をさまよっている。
「でも……その物語は、もう存在しないんだよ」
ぽつりと落とされたその言葉に、玲奈が手を止めた。
悠翔の声はかすれていた。まるで、それを口にするだけで胸が痛むようだった。
「黒星騎士団も、レオ様も、あの世界も……もう俺の記憶の中にしかない。あれを語っても、誰も知らない。ただの妄想になる。そう思ったら、なんか……また一人になった気がして」
その言葉に、紬が小さく眉をひそめた。でも、玲奈はゆっくりと、ノートを閉じて言った。
「存在しないって、誰が決めたの?」
その声は、柔らかいのに、芯が通っていた。
「ネットの海に流されて埋もれたって、書店から消えたって、あなたが“そこにいた”って感じてるなら、その物語は、まだここにある。あなたが語る限り、それは“今、生きてる物語”なんだよ」
悠翔は、顔を伏せたまま固まっていたが、少しずつ顔を上げていった。その目に、じわりと光が戻っていくのがわかった。
玲奈は、机の中央に創作用の自由帳を置いた。そして、手早くタイトルを書き込む。
「じゃあ、今日からこの企画やろう。“もし星屑の騎士が転生して、誰かを好きになったら”」
「えっ、突然そんな話に?」
悠翔は慌てて椅子に座り直し、ノートを覗き込む。
紬が満面の笑みで頷いた。
「いいと思う~!転生したら現代にいて、剣は持ってないけど、ノートを差し出す騎士。
クラスメイトを好きになるっていう新しい物語、書けるよ!」
「自分の感情をそのまま入れてもいい。隠したければ、仮面をかぶせればいい。
でも、“好きかもしれない”って気持ちがそこにあれば、それはもう、物語になる」
玲奈がゆっくりと言った。
悠翔は、机の上に開かれたノートを見つめていた。手を伸ばしかけ、そしてふと、ためらいがちに言った。
「……俺、自分の気持ち、まだ“好き”って言えるほどじゃないかも」
「じゃあ、“かもしれない”で書けばいい。
好きになる前の気持ちって、いちばん物語になると思うよ」
紬が、柔らかく笑いながらそう言った。
その言葉に、悠翔はふっと笑った。
小さく、小さく。けれど、その笑顔は確かにそこにあった。
そして静かに、ペンを取った。
ノートの最初の行に、丁寧に書き込む。
「星屑の騎士、転生記録 第一章
名前も知らない誰かを、守りたいと思った瞬間から、物語が始まる」
外はすっかり夕暮れだった。
けれど、その言葉が書かれた瞬間、図書室の片隅に、小さな物語の火が灯ったようだった。
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そしてきっと、誰かを好きになってしまう物語の、始まりでもあった。
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