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再生する物語
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朝の光がカーテンの隙間から差し込み、机の上に置かれたスマートフォンの画面をぼんやりと照らしていた。まだ誰も起きていない家の中、悠翔は静かに椅子に腰掛けていた。足元には、前夜に書き散らした創作ノートが何冊も積まれている。けれど、今、彼が見つめているのは、そのどれでもなかった。
指先でそっと「なにスタ」のアプリを立ち上げる。起動画面が過ぎると、白い投稿欄が現れる。無音の中、彼の心臓の鼓動だけが、自分の存在を証明するかのように打ち続けていた。
しばらくの間、何も書き込まれない投稿欄を見つめていた。指が動くのを待つように、ただじっと。
けれど、ふいに風が窓を揺らし、カーテンが軽く踊ったその音に促されるように、悠翔はゆっくりとペンを取るような動きでスマートフォンにタップし始めた。
タイトル欄に指を滑らせる。
「存在しなかった物語を、もう一度」
その言葉を入力しただけで、胸の奥がわずかに熱くなった。ずっと封じていた気持ちに、ようやく名前を与えられたような気がした。
そして、本分へと移る。
画面に、静かに、言葉が並べられていく。
「この想いは、かつての記憶。
でも、それだけじゃなかった。
今の君を通して、また息を吹き返した。
過去にだけ存在していたはずの気持ちが、
今、目の前の笑顔に揺れた瞬間、
もう一度、物語を始めてしまった。
これは、あの人への祈りではなく、
今ここで生きている誰かへの手紙かもしれない。
もし、あなたがこの詩を読むことがあれば、
どうか、過去のどこかではなく、
今、この瞬間の誰かを思い浮かべてほしい。
きっとその人が、
あなたの物語を動かす人だから」
打ち終えたあと、しばらく指を止めたまま画面を見つめた。
送信するかどうか迷った。けれど、もう迷いきるほどの余裕はなかった。言葉は出てしまった。もう戻せない。
「……いってこい」
そう呟いて、投稿ボタンを押す。
画面が切り替わり、「投稿完了」と表示される。
何かが終わったような、始まったような不思議な感覚だった。胸の奥にあった重たいものが、少しだけ軽くなった気がする。
数分も経たないうちに、通知がひとつ、またひとつと増えていく。最初の“いいね”はすぐに、十、二十と数を重ねていった。
そして、コメントも届きはじめた。
「この詩で、また前を向ける気がしました」
「好きって気持ち、怖いけど、それでも大事にしたいって思えた」
「“今”に重なる言葉って、ほんとにあるんですね」
「あなたの物語、私の今と重なりました。ありがとう」
ひとつひとつの反応が、言葉としてではなく、心の温度として伝わってくる。
たった一人で抱えていた感情が、誰かの“今”と交差する。そんな奇跡のような現象が、画面の中で静かに起こっていた。
悠翔は、ふうっと息を吐いて、スマートフォンを机に置いた。
窓の外では、春の風が街の景色を揺らしていた。通学路を歩く学生たちの声が、かすかに聞こえる。
その音を聞きながら、心の中で言葉が浮かんでくる。
「俺が語ってきたのは、過去じゃない。
…今、この気持ちこそが、“物語”になってるんだ」
それは、かつて憧れていた世界とは違うかもしれない。
でも、いまここにしかない“想い”が、自分の中で確かに生きている。
それを形にして届けられたなら、それだけで十分だと思えた。
そして、もしもこの物語に続きがあるのなら――
それは、誰かとともに書いていく物語になるのだろう。
自分ひとりでは書けない、けれど、だからこそ美しい、名前のない章を。
指先でそっと「なにスタ」のアプリを立ち上げる。起動画面が過ぎると、白い投稿欄が現れる。無音の中、彼の心臓の鼓動だけが、自分の存在を証明するかのように打ち続けていた。
しばらくの間、何も書き込まれない投稿欄を見つめていた。指が動くのを待つように、ただじっと。
けれど、ふいに風が窓を揺らし、カーテンが軽く踊ったその音に促されるように、悠翔はゆっくりとペンを取るような動きでスマートフォンにタップし始めた。
タイトル欄に指を滑らせる。
「存在しなかった物語を、もう一度」
その言葉を入力しただけで、胸の奥がわずかに熱くなった。ずっと封じていた気持ちに、ようやく名前を与えられたような気がした。
そして、本分へと移る。
画面に、静かに、言葉が並べられていく。
「この想いは、かつての記憶。
でも、それだけじゃなかった。
今の君を通して、また息を吹き返した。
過去にだけ存在していたはずの気持ちが、
今、目の前の笑顔に揺れた瞬間、
もう一度、物語を始めてしまった。
これは、あの人への祈りではなく、
今ここで生きている誰かへの手紙かもしれない。
もし、あなたがこの詩を読むことがあれば、
どうか、過去のどこかではなく、
今、この瞬間の誰かを思い浮かべてほしい。
きっとその人が、
あなたの物語を動かす人だから」
打ち終えたあと、しばらく指を止めたまま画面を見つめた。
送信するかどうか迷った。けれど、もう迷いきるほどの余裕はなかった。言葉は出てしまった。もう戻せない。
「……いってこい」
そう呟いて、投稿ボタンを押す。
画面が切り替わり、「投稿完了」と表示される。
何かが終わったような、始まったような不思議な感覚だった。胸の奥にあった重たいものが、少しだけ軽くなった気がする。
数分も経たないうちに、通知がひとつ、またひとつと増えていく。最初の“いいね”はすぐに、十、二十と数を重ねていった。
そして、コメントも届きはじめた。
「この詩で、また前を向ける気がしました」
「好きって気持ち、怖いけど、それでも大事にしたいって思えた」
「“今”に重なる言葉って、ほんとにあるんですね」
「あなたの物語、私の今と重なりました。ありがとう」
ひとつひとつの反応が、言葉としてではなく、心の温度として伝わってくる。
たった一人で抱えていた感情が、誰かの“今”と交差する。そんな奇跡のような現象が、画面の中で静かに起こっていた。
悠翔は、ふうっと息を吐いて、スマートフォンを机に置いた。
窓の外では、春の風が街の景色を揺らしていた。通学路を歩く学生たちの声が、かすかに聞こえる。
その音を聞きながら、心の中で言葉が浮かんでくる。
「俺が語ってきたのは、過去じゃない。
…今、この気持ちこそが、“物語”になってるんだ」
それは、かつて憧れていた世界とは違うかもしれない。
でも、いまここにしかない“想い”が、自分の中で確かに生きている。
それを形にして届けられたなら、それだけで十分だと思えた。
そして、もしもこの物語に続きがあるのなら――
それは、誰かとともに書いていく物語になるのだろう。
自分ひとりでは書けない、けれど、だからこそ美しい、名前のない章を。
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