転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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阿波座の一言、紬の詩

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図書室の隅にある、使い込まれた木製の机。  
その上にスケッチブックとノート、数本のカラーペンが広がっている。  
放課後のこの時間帯、いつものように“オタ部”三人の活動がひっそりと始まっていた。

ページをめくるたびに紙の匂いがふわりと立ち上り、鉛筆の芯が擦れる音が空気の中に穏やかに溶けていく。

阿波座が眼鏡を押し上げながら、手元のスケッチを覗き込んだ。  
悠翔は、黙ってその視線を受けるしかなかった。

「ねえ、悠翔くんの絵、前より“熱”があるよ」  
低く、けれど確かなトーンで阿波座が言う。

「対象が動いて見える。たとえば、ここ」

指で示されたのは、京橋のスケッチの瞳だった。  
ほんの少し光を入れたその部分が、紙の中に生命を宿したかのように見えるという。  
言われてみれば、その光は悠翔自身が“描こうとした”ものではなく、“見えたから”描いたものだった。

「気のせいじゃなかったんだ…」  
心の中で、何かが小さく震える。

「この笑顔……恋の始まりの顔って感じがする~」  
紬がふんわりとノートを抱きしめるようにして、そう言った。

その声には悪意も照れもなく、ただ嬉しさと共感がにじんでいた。

「すごくやさしくて、でもどこか切ない感じ。好きって、きっとこういうことなんだよね~」  
紬はそう言いながら、自分のSSノートにさらさらと何かを書き加え始める。  
言葉が浮かんで、溢れて、止まらない様子。

悠翔は、どう返事をしていいかわからなかった。

ただ、曖昧に笑うことしかできなかった。  
視線を逸らして、スケッチブックの隅を見つめる。  
心臓が、また音を立てて跳ねていた。

あの絵は、確かに、自分が“見た”ものだった。

「この絵は、ただの“模写”じゃない」

心の中で、静かに呟く。  
机の上のスケッチは、ただの記録ではない。  
誰かが決めたキャラデザインに沿って再現した図ではない。

「俺が見た“京橋くんの一瞬”を、忘れたくなくて、描いたんだ」

ふと顔を上げると、阿波座と紬は、それぞれ自分の創作に集中していた。  
その姿に、なぜかほっとする。

誰も、自分を責めていない。  
誰も、「違う」とは言わなかった。  
むしろ、その感情を“真実”として受け取って、肯定してくれた。

それが、どこまでも優しくて、どこまでもこわい。

だって、自分の中で膨らんでいるこの気持ちが、もう“推し”という言葉では包みきれなくなっているのだと、気づいてしまったから。

机の端に手を置く。  
少しだけ震えていた。  
それを押し留めるように、そっと指を丸めた。

あの時、京橋が笑った。  
自分を見て、名を呼び、微笑んだ。  
その声が、表情が、肌の温度までもが、絵に染み込んでしまった。

「……まだ、言葉にはできない」

でも、それでも描きたいと思った。  
次は、あのときの後ろ姿を描こう。  
廊下でふと振り返った、夕日の中の横顔を描こう。

描くことで、自分の気持ちが何かに輪郭を持ち始めていく。

そして、きっといつか。

「“好き”って言葉を選ぶとき、俺はこの線を思い出すんだろうな」

そう思いながら、悠翔はもう一度ペンを取った。  
誰に見せるでもない、自分だけのスケッチを、そっと、丁寧に描き続けた。
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