転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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幻想絵巻、始動

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図書室の窓際、放課後の光が傾きかけた時間。  
すでに一般生徒の姿はほとんどなく、静まり返った空間に、三つの影が机に向かっていた。

オタ部の定位置。  
教科書よりも分厚いノートや創作メモ、鉛筆、消しゴム、プリントアウトされた資料が乱雑に広がっている。  
その中心に置かれた画用紙に、悠翔は黙々と鉛筆を走らせていた。

机に顔を寄せるようにして描きながら、彼の頬には柔らかな陰が落ちている。  
髪が少し乱れ、前髪の隙間からのぞくまなざしは真剣そのもので、どこか痛々しいほど。  
手元にあるのは、「黒髪の騎士と従者の幻想絵巻」というタイトルが印字された台紙。  
文化祭で展示する、オタ部のオリジナルファンタジー企画だった。

あくまで“創作”として描く物語。  
だが、悠翔が描こうとしている騎士の姿には、レオ様の影が自然と滲み込んでしまっていた。  
無意識に指がなぞる線の角度、表情の奥に込める静けさ――それらは、心の奥に焼きついて離れない“推し”の記憶だった。

「なにそれ……もう泣ける……」

紬がぽつりと呟いた。  
手にしているのは、小さなノートと、ふんわりとした文字で書かれた短編SS。  
まだ書きかけの物語に、もうすでに感情が入り込んでいるのか、紬の瞳は少しうるんでいた。

「従者が、剣を預かっているの、意味あると思うんだ。  
ただ守られてるんじゃなくて、ちゃんと…心を託されてる感じ。そういうの、私すごく好きで…」

その言葉に悠翔の指先が一瞬止まった。  
だが彼は何も言わず、また静かに線を引き始める。  
細く、そして微かに震える線。  
集中しすぎたせいか、指が冷たくなっていることにさえ気づかない。

阿波座は、無言でノートをめくっていた。  
冷静な目線の奥に宿っているのは、確かな熱意だった。  
徹底的に調べ上げた「騎士文学」と「従者モチーフ」の参考資料が整然とまとめられている。  
「モチーフにするなら徹底的に」とは彼女の信条であり、同時に“守るべき線”を見定める彼女なりの誠実さでもあった。

「設定、確認していい?」

静かに、しかし確かな声で阿波座が口を開いた。

「黒髪の騎士は“記憶を持たない英雄”。  
従者は彼に仕えながら、彼の“前の物語”を探っていく。  
でも、それを伝えるかどうかは、従者自身に任されている。…あってる?」

悠翔は黙って頷いた。  
その設定は、まるで自分自身が生きている物語の縮図のようだった。  
“前の物語”――それはまさしく、レオ様という過去。  
“伝えるかどうか”という選択は、今の悠翔が直面している葛藤そのものだった。

「いい設定。繊細で、揺れる。そういう話って、読む側の想像が追いつかないくらい深くなるから」

阿波座が言ったその言葉に、悠翔の胸が一瞬だけきゅっと縮んだ。  
それは称賛であり、同時に、自分の中にある迷いを見透かされたようでもあった。

描き続けながら、悠翔は心の中で思う。  
これは“創作”だ。あくまでも。

だけど、その中に自分の“感情”が混じってしまうことは止められなかった。

ペンの先に、確かに宿るものがある。  
それはレオ様への未練なのか、京橋くんへの揺らぎなのか。  
はっきりとはわからない。  
でも、止まらない。描くことで、ようやく息ができる。

「朗読会、やっぱりやろうよ~」  
紬がふいに顔を上げ、笑顔を浮かべた。

「絵の前で、その物語を読んであげたい。  
騎士と従者が、静かに過ごす“日常の断片”とか…きっと、すごくいい空気になると思う」

その提案に、悠翔も阿波座も無言で頷いた。

言葉と絵、そして記憶と今。  
それらをすべて一つの展示空間に凝縮して、誰かに届ける。  
そんな試みが、オタ部の三人を確かにひとつにしていた。

図書室の時計が、午後六時を指している。  
窓の外はすっかり夜。  
カーテンの隙間からは、星が一つ、淡くまたたいていた。

悠翔はペンを置いた。  
描き上げた騎士の横顔を、じっと見つめる。

それはたしかに、“理想”ではなかった。  
でも、今の彼にとって、心から“描きたかった誰か”の姿だった。  
その線には、過去と今が重なっていた。

そして、そのすべてを、“創作”の名で包みながら、  
彼は静かに、誰にも見せない告白を続けていた。
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