地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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始まったのに、手応えがない

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会議室の空調は、少し強めに設定されている。  
梅田はスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖をまくり上げながら、ホワイトボードの前に立った。

「でな、こっからが本題やねんけど」

手に持ったペンを回しながら、明るい声で話す。  
プロジェクトの進行スケジュール、ターゲット設定、地域密着型のイベント案。  
次々とアイディアを口にしていく。  
話しながら、自分でも悪くない手応えを感じていた。

「たとえば商店街で、健康ウォークラリーみたいなやつやってな。参加者に特製タオル配るとか。  
大阪のおばちゃんパワー、巻き込んだら絶対おもろなるやろ」

ホワイトボードに簡単な図を描きながら笑う。  
同席している別チームの若手たちも、何人かが「いいっすね」と反応してくれる。  
手応えは、ある。  
そう思った。

だが。

天王寺悠だけは、ひとことも発さなかった。

会議室の隅、窓際の席。  
膝の上に開いたノートに、黙々とメモを取り続ける姿。  
顔を上げず、表情も変えず。  
手元だけが機械のように動いている。

「……天王寺も、なんか思うことあったら言うてな」

一応、軽く声をかけてみる。  
だが天王寺は、ペンを止めることもなく、小さく頷くだけだった。

梅田は内心でため息をついた。

(まあ、ええけど)

会議が終わったあと、資料作成を分担することになった。  
梅田は「大枠の構成」と「イベントプランの概要」、  
天王寺は「市場データの整理」と「参考事例の収集」。

本当は、まとめ役の自分が全体を取り仕切るべきだった。  
けれど、天王寺に任せたら、やたらと話がスムーズに進んだ。

翌朝、共有フォルダに上がっていた資料を見て、梅田は目を見張った。

整理された市場分析。  
ターゲット層ごとの嗜好傾向。  
イベント施策別のコストシミュレーション。

文面も、構成も、図表も、何もかもが完璧だった。

「……なにこれ」

思わず声が漏れた。

プレゼンに必要な裏付けが、もうほぼ整っている。  
自分がざっくり描いた企画に、骨と肉を与えるように、天王寺が一晩で作り上げたのだ。

(……なんやこいつ、めっちゃ支えてくれてるやん)

驚きと、そして素直な感動が胸に広がった。

普段、誰にでもフラットに接する梅田だったが、これだけの仕事をしてもらったら、  
ちゃんと礼くらい言わなあかんと思った。

昼休み、天王寺が一人でコンビニ帰りのコーヒーを片手にデスクへ戻るところを捕まえた。

「なあ、天王寺」

天王寺は立ち止まり、無言でこちらを見る。

「資料、めっちゃよかったわ。  
おかげで俺、プレゼンめっちゃやりやすなった。  
ほんま、ありがとうな」

心からの言葉だった。  
営業トークでも、建前でもない。

だが。

天王寺は、小さく首を傾けただけだった。

「……当然です」

それだけ。

声にも、表情にも、何の起伏もなかった。  
眼鏡の奥の瞳は、ただ静かだった。

(当然、って……)

拍子抜けというより、少し胸が痛んだ。  
せっかく言葉を尽くしたのに、何も届かなかったような気がして。

それでも、天王寺は悪気があってそんなふうに返しているわけじゃないことくらい、分かる。  
彼にとっては、これが普通なのだ。  
感謝されることも、期待されることも、たぶん望んでいない。

そう思うと、余計に、胸のどこかが寂しくなった。

梅田は苦笑して、軽く手を振った。

「そっか。  
まあ、これからも頼りにしてるわ」

天王寺はまた、無表情で頷き、デスクに戻っていった。

背中を見送りながら、梅田は不思議な感覚に襲われていた。

別に、懐かれたいわけじゃない。  
媚びられたいわけでもない。

ただ――  
せめて、少しぐらい、笑ってくれたらいいのに。

そんなことを、思ってしまった自分に気づいて、  
梅田は自分でも驚いていた。  

(……あかんな。なんで、こんなに気になるんやろ)

天王寺悠。  
地味で、無口で、何を考えているか分からないやつ。

けれど、なぜか目が離せない。

そんな違和感だけが、静かに、確実に、胸の奥に根を下ろし始めていた。
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