地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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この気持ちが、重いなんて思わなかった

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会議室に漂う空気は、少しだけ重たかった。  
窓の外には曇天が広がり、午後三時過ぎの空はすでに色を落とし始めている。

プロジェクトの最終局面。  
イベント当日を目前に控えたこのタイミングで、最後のチェックとリハーサルを重ねていた。

梅田はホワイトボードの前に立ち、進行表を確認しながら各項目に目を通していく。  
広げられた資料、スライドの構成、搬入業者との連携、トラブル発生時の連絡系統──  
一つひとつに不備がないか、チーム全体で確認する。

けれど、梅田の意識は、自然と斜め後ろに座る男に引き寄せられていた。

天王寺悠。

相変わらず無表情のまま、淡々と資料に目を通していた。  
けれど、その目は一字一句を逃さず、数字の精度と論理の筋道を読み取っている。  
筆記の音が静かに響くたびに、このプロジェクトがどれだけ彼に支えられてきたのかを思い知らされる。

プレゼン資料の構成。  
市場調査とデータ分析。  
協力企業のコンタクトリスト。  
そのすべてを、彼は黙って組み上げてきた。

(こんなふうに、誰かに心から尊敬するのって、初めてかもしれへんな)

その思いは、ごく自然に胸に浮かんだ。

今までは、軽くて、表面的で、  
「相手のいいとこ探して、そこだけ見て、恋する」ような関係ばかりだった。

でも今は違う。  
彼のすべてを、知りたくなる。  
目の奥で何を見てるのか、無言の理由、隠している痛みの形まで。

そのとき、会議室の静寂を破るように、一枚の紙が滑り落ちた。

天王寺がファイルを閉じた拍子に、プリントが床に落ちたのだ。

椅子を引こうとする彼より早く、梅田はしゃがみ込み、それを拾い上げた。

「はい、これ──」

手を差し出した瞬間、天王寺の指先と触れた。

一瞬のことだった。

けれど、その指が冷たく、かすかに震えていた気がして、梅田は目を見た。

天王寺は、わずかに表情を揺らがせていた。

驚きでも、拒絶でもない。  
もっと淡く、もっと壊れやすい何か。

それが、不意に心を掴んだ。

(今なら、言ってもいいかもしれへん)

ずっと迷っていた。  
この距離感を壊してしまうのが怖くて、手を伸ばせなかった。  
でも、もう引き返せないところまで来てしまっているのも分かっていた。

会議が終わり、スタッフが一人、また一人と退出していく。  
気づけば、部屋には梅田と天王寺の二人だけが残っていた。

天王寺は机に向かい、資料をまとめている。

梅田は、ドアの前まで行って、手をかけてから、振り返った。

「……なあ、天王寺」

静かな呼びかけに、彼は手を止めて顔を上げた。

目が合う。  
無表情。  
けれど、その奥で何かを測るような、慎重な光が動いた。

梅田は、ゆっくりと息を吸った。

覚悟を込めるように。  
逃げ道を全部、塞ぐように。

「俺、天王寺のこと……好きや」

言葉が空気を切った。  
室内の時計の針が音を立てた気がした。

天王寺は、何も言わなかった。  
目も逸らさなかった。  
ただ、そこに静かに佇んでいた。

梅田は、それ以上の言葉を見つけられなかった。  
ただ、まっすぐに見つめていた。

たとえ拒まれても、  
この気持ちは嘘じゃない。

その重さを、ただ伝えたかった。  
初めて、誰かに本気で向き合いたいと願った。  
その誰かが、天王寺だった。

静寂のなか、天王寺が微かに唇を開いた。  
その返事が何であっても、受け止めるつもりだった。

でもこのとき、梅田はまだ知らなかった。

これが、「好きや」と口にすることが、  
これほど相手を追い詰める行為になることを。
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