地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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笑って、壊された

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ラウンジの空気は、夕方の光で少し柔らいでいた。

窓から射す橙の陽射しが、壁や床に淡い色を落としている。  
カウンターのコーヒーマシンが、低く唸る音を立てる。  
誰もいないソファスペースに、天王寺が立っていた。

会議室を出てすぐのことだった。  
梅田は足早に追いかけて、声をかけた。

天王寺は振り返った。

一歩、近づく。  
彼は逃げるような素振りはしなかった。

ラウンジの片隅、曇りガラス越しに外の空が沈んでいく。

「さっきの話やけど」

梅田は、できるだけ穏やかに言った。  
緊張を隠すように、口元に微笑を浮かべようとしたが、うまくいかなかった。

「ほんまに、俺は──」

そこまで言ったとき、天王寺が静かに口を開いた。

「……なんで、そういうことを言うんですか」

その声は小さく、けれどはっきりしていた。

「俺のこと、どれくらい知ってるっていうんですか」

一歩だけ、距離を詰めるようにして彼は言葉を続けた。

「どうせ、“顔”からでしょ。  
あなたも。結局は」

その瞬間、梅田の心に何かがひび割れたような気がした。

「今まで、みんなそうだったから」

目の前の天王寺は、笑っていた。  
だが、その笑みには体温がなかった。  
かすかに歪み、乾いた諦めを含んだ、拒絶の笑みだった。

その笑いは、何よりも痛かった。

梅田は、言葉を探そうとする。

「……違う、そんなつもりちゃう。俺は──」

でも、声はうまく出なかった。  
喉が乾いて、胸の奥が詰まっていた。

何を言えばいい?  
どうしたら、信じてもらえる?

けれど、天王寺はもう視線を外していた。  
梅田の目を見ようとしなかった。

まるで、これ以上受け取るつもりはないと、  
はじめから決めているような態度だった。

「すみません」

その言葉だけが、はっきりと聞こえた。

天王寺はそのまま、背を向けた。

細い肩越しに夕陽が射して、シルエットを長く伸ばしている。  
それが、やけに遠く見えた。

梅田は動けなかった。

脚が、感覚を失っていた。  
心臓が、痛いほどに静かだった。

どうにかソファに腰を下ろしたとき、手がかすかに震えているのに気づいた。

自分の体が、思っていたより深く傷ついていたことに、ようやく気づいた。

笑われたわけじゃない。  
責められたわけでもない。  
ただ、信じてもらえなかった。

それだけのことが、こんなにも苦しいのかと思った。

自分は、あいつを笑顔にしたかっただけだ。  
誰にも見せない心を、知りたかっただけだ。

でも、それが「あの笑み」に変わった。

乾いた声と一緒に、遠ざかっていった。

初めての本気が、初めて真正面から否定された。

恋って、こんなふうに壊れるものだったか。  
思いをぶつけることが、誰かの傷口をまた開くことになるなんて。

梅田は、椅子の背に体を預けた。

空気が重い。  
呼吸が浅い。

言葉も、涙も出なかった。  
ただ、彼の背中と、あの笑顔のかけらだけが、視界の奥に残っていた。
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