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あの人に、見透かされてしまった
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昼下がりの会議室は、いつもよりざわついていた。
壁際に並べられたパネル、プリントアウトされたスケジュール、ケータリング会社との確認事項──
梅田はその中心に立っていたはずなのに、指示を出す声が妙に上ずっているのが、自分でも分かった。
「え、これ、会場サイドにはもう送ってたって話ちゃいました?」
ひとりの若手が言う。
その言葉に、背中が汗ばむ。
「いや、それ……俺、まだ確認してへんかったかも」
そう答えながら、内心はひやりとしていた。
確かに、自分が送るはずだった。
でも、何をどう取り違えたのか、頭の中の段取りがぼやけている。
上司が書類を手に寄ってくる。
「梅田、これミスやぞ。イベント直前やのに、どうしたんや」
普段なら、軽く頭を下げて「すみません、すぐリカバーします」と笑って返せる場面だ。
なのに、その言葉が、やけに胸に突き刺さった。
天王寺が、すぐそばの席で資料をまとめているのが見えた。
こちらを見ようともしない。
目が合わないどころか、梅田の存在そのものを避けているようにさえ感じた。
少し前までは、たとえ言葉がなくても、
背中から彼の呼吸のリズムを感じられた気がした。
隣にいるという事実だけで、なんとなく空気が穏やかに整っていた。
けれど今は違う。
彼が差し出した「境界線」の外側に、自分が追いやられているのが分かる。
打ち合わせが終わっても、気持ちは浮上しなかった。
取引先に送るべきファイルに誤ったデータを貼り付け、
校正前のまま送信してしまったことにも気づかず、再び上司に呼び出された。
「お前らしくないな。どうかしたか?」
そのひと言に、梅田はただ曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。
どうかしてる。
その通りだった。
心が、どうしようもなく乱れている。
何を見ても、何を聞いても、
あの時の天王寺の笑顔が浮かんでしまう。
無表情の奥に潜んでいた、乾いた拒絶。
「あなたもどうせ、“顔”からでしょ」
あの一言が、耳の奥に何度もこだまする。
本気だった。
遊びじゃなかった。
いつもの調子で口説いていたわけでもない。
ほんとうに、ほんとうに、彼を好きになってしまっていた。
それを、笑って否定された。
そう思った瞬間、胸の内側が崩れるような感覚がした。
夜、自宅の部屋に戻ると、足元がふらついた。
玄関で靴を脱ぐのも忘れたまま、リビングのソファに倒れ込む。
シャツの第一ボタンも、ネクタイもそのまま。
乱れたままの格好で、天井を見上げた。
暗い部屋の中、時計の針の音だけが響いている。
ふと、手のひらに力が入らないことに気づいた。
(……俺、本気やったのに)
言葉が、心の中に落ちた。
深く、鈍く、沈んでいくような感覚。
(なんで信じてもらわれへんねん……)
こんなに、ちゃんと誰かを見ようとしたのに。
過去の自分を脱いで、誰かを大切にしたいと思ったのに。
ただまっすぐに、好きになっただけだった。
それを、見透かされた。
否定された。
違う、そうじゃないって言いたかった。
でも彼はもう、何も聞いてくれなかった。
ソファのクッションに顔を伏せる。
目を閉じても、あの目の奥の影が焼きついて離れない。
今までの恋は軽かった。
遊びだったから、痛みも薄かった。
でも、今回は違った。
本気だったから、拒まれた痛みが深い。
あたたかくなりかけた場所を、自分の手で壊してしまったような気がしてならなかった。
胸の奥が、音を立てずに軋んでいる。
信じてもらえなかった事実が、何よりも苦しかった。
自分の中の大切なものを、笑顔で切り捨てられたその記憶だけが、
今も、静かに傷口のように疼いている。
壁際に並べられたパネル、プリントアウトされたスケジュール、ケータリング会社との確認事項──
梅田はその中心に立っていたはずなのに、指示を出す声が妙に上ずっているのが、自分でも分かった。
「え、これ、会場サイドにはもう送ってたって話ちゃいました?」
ひとりの若手が言う。
その言葉に、背中が汗ばむ。
「いや、それ……俺、まだ確認してへんかったかも」
そう答えながら、内心はひやりとしていた。
確かに、自分が送るはずだった。
でも、何をどう取り違えたのか、頭の中の段取りがぼやけている。
上司が書類を手に寄ってくる。
「梅田、これミスやぞ。イベント直前やのに、どうしたんや」
普段なら、軽く頭を下げて「すみません、すぐリカバーします」と笑って返せる場面だ。
なのに、その言葉が、やけに胸に突き刺さった。
天王寺が、すぐそばの席で資料をまとめているのが見えた。
こちらを見ようともしない。
目が合わないどころか、梅田の存在そのものを避けているようにさえ感じた。
少し前までは、たとえ言葉がなくても、
背中から彼の呼吸のリズムを感じられた気がした。
隣にいるという事実だけで、なんとなく空気が穏やかに整っていた。
けれど今は違う。
彼が差し出した「境界線」の外側に、自分が追いやられているのが分かる。
打ち合わせが終わっても、気持ちは浮上しなかった。
取引先に送るべきファイルに誤ったデータを貼り付け、
校正前のまま送信してしまったことにも気づかず、再び上司に呼び出された。
「お前らしくないな。どうかしたか?」
そのひと言に、梅田はただ曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。
どうかしてる。
その通りだった。
心が、どうしようもなく乱れている。
何を見ても、何を聞いても、
あの時の天王寺の笑顔が浮かんでしまう。
無表情の奥に潜んでいた、乾いた拒絶。
「あなたもどうせ、“顔”からでしょ」
あの一言が、耳の奥に何度もこだまする。
本気だった。
遊びじゃなかった。
いつもの調子で口説いていたわけでもない。
ほんとうに、ほんとうに、彼を好きになってしまっていた。
それを、笑って否定された。
そう思った瞬間、胸の内側が崩れるような感覚がした。
夜、自宅の部屋に戻ると、足元がふらついた。
玄関で靴を脱ぐのも忘れたまま、リビングのソファに倒れ込む。
シャツの第一ボタンも、ネクタイもそのまま。
乱れたままの格好で、天井を見上げた。
暗い部屋の中、時計の針の音だけが響いている。
ふと、手のひらに力が入らないことに気づいた。
(……俺、本気やったのに)
言葉が、心の中に落ちた。
深く、鈍く、沈んでいくような感覚。
(なんで信じてもらわれへんねん……)
こんなに、ちゃんと誰かを見ようとしたのに。
過去の自分を脱いで、誰かを大切にしたいと思ったのに。
ただまっすぐに、好きになっただけだった。
それを、見透かされた。
否定された。
違う、そうじゃないって言いたかった。
でも彼はもう、何も聞いてくれなかった。
ソファのクッションに顔を伏せる。
目を閉じても、あの目の奥の影が焼きついて離れない。
今までの恋は軽かった。
遊びだったから、痛みも薄かった。
でも、今回は違った。
本気だったから、拒まれた痛みが深い。
あたたかくなりかけた場所を、自分の手で壊してしまったような気がしてならなかった。
胸の奥が、音を立てずに軋んでいる。
信じてもらえなかった事実が、何よりも苦しかった。
自分の中の大切なものを、笑顔で切り捨てられたその記憶だけが、
今も、静かに傷口のように疼いている。
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