地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

文字の大きさ
18 / 25

あの人に、見透かされてしまった

しおりを挟む
昼下がりの会議室は、いつもよりざわついていた。  
壁際に並べられたパネル、プリントアウトされたスケジュール、ケータリング会社との確認事項──  
梅田はその中心に立っていたはずなのに、指示を出す声が妙に上ずっているのが、自分でも分かった。

「え、これ、会場サイドにはもう送ってたって話ちゃいました?」

ひとりの若手が言う。  
その言葉に、背中が汗ばむ。

「いや、それ……俺、まだ確認してへんかったかも」

そう答えながら、内心はひやりとしていた。  
確かに、自分が送るはずだった。  
でも、何をどう取り違えたのか、頭の中の段取りがぼやけている。

上司が書類を手に寄ってくる。

「梅田、これミスやぞ。イベント直前やのに、どうしたんや」

普段なら、軽く頭を下げて「すみません、すぐリカバーします」と笑って返せる場面だ。  
なのに、その言葉が、やけに胸に突き刺さった。

天王寺が、すぐそばの席で資料をまとめているのが見えた。

こちらを見ようともしない。  
目が合わないどころか、梅田の存在そのものを避けているようにさえ感じた。

少し前までは、たとえ言葉がなくても、  
背中から彼の呼吸のリズムを感じられた気がした。  
隣にいるという事実だけで、なんとなく空気が穏やかに整っていた。

けれど今は違う。

彼が差し出した「境界線」の外側に、自分が追いやられているのが分かる。

打ち合わせが終わっても、気持ちは浮上しなかった。  
取引先に送るべきファイルに誤ったデータを貼り付け、  
校正前のまま送信してしまったことにも気づかず、再び上司に呼び出された。

「お前らしくないな。どうかしたか?」

そのひと言に、梅田はただ曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。

どうかしてる。  
その通りだった。

心が、どうしようもなく乱れている。  
何を見ても、何を聞いても、  
あの時の天王寺の笑顔が浮かんでしまう。

無表情の奥に潜んでいた、乾いた拒絶。  
「あなたもどうせ、“顔”からでしょ」  
あの一言が、耳の奥に何度もこだまする。

本気だった。  
遊びじゃなかった。  
いつもの調子で口説いていたわけでもない。

ほんとうに、ほんとうに、彼を好きになってしまっていた。

それを、笑って否定された。

そう思った瞬間、胸の内側が崩れるような感覚がした。

夜、自宅の部屋に戻ると、足元がふらついた。  
玄関で靴を脱ぐのも忘れたまま、リビングのソファに倒れ込む。

シャツの第一ボタンも、ネクタイもそのまま。  
乱れたままの格好で、天井を見上げた。

暗い部屋の中、時計の針の音だけが響いている。

ふと、手のひらに力が入らないことに気づいた。

(……俺、本気やったのに)

言葉が、心の中に落ちた。  
深く、鈍く、沈んでいくような感覚。

(なんで信じてもらわれへんねん……)

こんなに、ちゃんと誰かを見ようとしたのに。  
過去の自分を脱いで、誰かを大切にしたいと思ったのに。

ただまっすぐに、好きになっただけだった。

それを、見透かされた。  
否定された。

違う、そうじゃないって言いたかった。  
でも彼はもう、何も聞いてくれなかった。

ソファのクッションに顔を伏せる。  
目を閉じても、あの目の奥の影が焼きついて離れない。

今までの恋は軽かった。  
遊びだったから、痛みも薄かった。

でも、今回は違った。

本気だったから、拒まれた痛みが深い。  
あたたかくなりかけた場所を、自分の手で壊してしまったような気がしてならなかった。

胸の奥が、音を立てずに軋んでいる。

信じてもらえなかった事実が、何よりも苦しかった。  
自分の中の大切なものを、笑顔で切り捨てられたその記憶だけが、  
今も、静かに傷口のように疼いている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...