地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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きみの傷を、ちゃんと知りたい

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夜の街が、雨上がりの湿気をまとって静まっていた。

オフィスビルの前、街灯の光が路面の水たまりに反射して、足元をぼんやりと照らしている。  
その下に、ひとり傘も差さずに立つ影があった。

梅田だった。

スーツのまま、濡れたアスファルトの上に立ち尽くしていた。  
胸元のネクタイは少し緩められ、ワイシャツの袖もくしゃくしゃになっていた。  
けれど、そんなことはどうでもよかった。  
頭の中はひとつのことでいっぱいだった。

今日、イベント準備の最終日を終え、  
皆が達成感と緊張を胸に帰っていったそのあと。

ひとり、ビルの出口で天王寺を待っていた。

何を言えばいいのか、どう言えば届くのか、  
ずっと考えていたけれど、答えは出なかった。

だからもう、考えるのをやめた。

伝えたい気持ちだけを、ぶつけることにした。

ほどなくして、自動ドアが開く音がして、  
黒い鞄を手にした天王寺が現れた。

一瞬、足が止まる。  
その視線が梅田を捉え、次の瞬間、少しだけ身を引いた。

「……天王寺」

声が震えていた。

けれど、その震えすら嘘ではなかった。

「待ってた。話、したくて」

天王寺は何も言わない。  
けれど、その場から逃げようとはしなかった。

それだけで、もう十分だった。

梅田は少し近づき、けれど真正面には立たず、斜めに立ち位置を取った。  
目を合わせるのが、天王寺にとってどれだけ負担か、もう分かっていた。

「……この前のこと、ごめん。  
びっくりさせたんやと思う」

ゆっくりと言葉を選びながら、声にする。

「俺、ああいうふうに気持ちぶつけて、  
自分の中ではちゃんと伝えたつもりやったけど……  
今思えば、押しつけやったかもしれん」

天王寺は、視線を足元に落としたままだった。

沈黙が降りる。  
梅田は、それを遮るように、もう一歩踏み込んだ。

「でもな、今でも思ってる」

息を吸う。  
深く、確かに。

「俺は、顔やなくて、あんたのことが知りたいねん」

その言葉に、天王寺の肩が微かに揺れた。

「黙ってるのが癖になってて、  
感情見せへんようにしてて、  
誰にも期待せんようにしてる、  
そういうとこも、ぜんぶ含めて知りたいって思ってる」

夜風が吹き抜け、ビルのガラスをかすかに揺らす。  
天王寺はその場で静かに立ち尽くし、やがて、ゆっくり顔を上げた。

驚いたような顔をしていた。

目が合った。  
初めて、何も隠していないその瞳を、梅田は真正面から受け止めた。

「……なんで、そんなこと言うんですか」

低い、でも確かに震えた声だった。

「そんなふうに、俺のこと、知ろうとする人……初めてで」

言葉の途中で、声がかすれた。

けれど、次の言葉は出てこなかった。

天王寺はそのまま、目を伏せた。

「……ごめん。今は、まだ答えられない」

そう言って、背を向けた。

去っていく背中は、もう遠ざかるだけのものではなかった。  
どこか、立ち止まりそうな気配を残していた。

梅田は追いかけなかった。

答えがすぐに欲しいわけじゃない。  
ただ、聞いてほしかった。  
伝えておきたかった。

心の底から、彼のことを思っているということを。

濡れた地面に、天王寺の足音が遠のいていく。

その音が消えるまで、梅田は動かなかった。

けれど、心のどこかでは、  
またきっと会えると、そう信じていた。

あの目が、拒絶ではなかったことだけが、  
今のすべての救いだった。
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