地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

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俺のこと、ちゃんと見てくれへん?

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ホテルの打ち上げ会場を出ると、夜の空気は思いのほかひんやりしていた。  
ビルの脇にある非常階段の扉を押し開けると、コンクリートの匂いが微かに鼻をかすめた。  
鉄製の階段に足をかけ、数段降りた先にある踊り場で、梅田は足を止めた。

その隣に、天王寺が無言で腰を下ろす。  
ふたり並んで、無言のまま外の街灯を見下ろしていた。

真下の駐車場には、タクシーが数台並び、誰かの笑い声が遠くにこだましている。  
でもこの場所だけは、まるで時間が止まったように静かだった。

梅田は、ポケットの中で指を組んだまま、しばらく言葉を選んでいた。  
何を、どこから伝えるべきなのか。  
それとも、もう黙っていればいいのか。  
迷って、けれど、やっぱり飲み込めなかった。

「なあ」

ぽつりと、声を出した。

「ほんまは悔しいとか、思ってへんの?」

天王寺は少しだけ顔をこちらに向けて、それから目を伏せて笑った。

「別に。よくあることですし」

その笑みには棘もなく、反発もなかった。  
ただ淡々としていて、ひどく空虚に響いた。

声も、少しかすれていた。

梅田は思わず、天王寺の顔を覗き込んだ。  
まっすぐに、視線をたどるように。

「……俺のこと、ちゃんと見てくれへん?」

その声は震えていた。  
けれど、それでも目を逸らさなかった。

「今まで、俺が軽く見られてもしゃあないことばっかしてきたんは分かってる」  
「でもな、あんたのことは、ほんまにちゃんと見ようとしてた」  
「仕事でも、人としても、男としても」

隣で天王寺の指が、膝の上でかすかに動いた。  
それでも彼は何も言わなかった。

梅田は、さらに言葉を重ねる。

「あんたが誰にも期待せんようにしてんのも、  
誰にも触られたくないって思ってるのも、  
分かってるつもりや」

「でも俺は、今だけは……ちゃんと、あんたの顔、見てたい」

それは、願いだった。  
祈りにも似ていた。

どこにも届かなくてもいいから、  
せめて今この瞬間だけでも、心の壁を取ってほしい。

天王寺はゆっくりと顔を上げた。

まるで、深い水の底から浮かび上がってくるように。  
その視線が、梅田の目を捕えた。

無表情ではなかった。  
けれど、感情があふれているわけでもなかった。

ただ、揺れていた。

言葉ではなく、視線だけで揺らぎを伝えていた。  
それは恐れか、躊躇か、それとも…何かを期待する心だったのかもしれない。

梅田は、そのままじっと見つめた。

どこも触れず、言葉も重ねず、ただ“見る”ということだけに集中した。

天王寺は、目を逸らさなかった。

そしてその沈黙の中で、ほんのわずか、目尻が緩んだように見えた。  
それは笑みではなかった。  
けれど、拒絶でもなかった。

壁の隙間が、かすかに開いた音がした気がした。  
梅田は息を飲み、でもそのまま何も言わず、空を見上げた。

高層ビルの明かりが、夜の空を淡く照らしていた。  
天王寺の横顔に、その光が静かに落ちていた。

もう少しだけ、言葉を待とう。  
今はそれだけでいいと思った。
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