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それでも、まだ俺のこと好きですか?
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帰り道の途中だった。
打ち上げが終わり、駅までの道をゆっくりと歩いていたとき。
舗装された歩道に雨の名残が光り、時折吹く風が、湿った空気を運んできた。
となりで黙って歩く梅田に、天王寺は何度も言葉をかけかけて、飲み込んだ。
何かを伝えたいのに、それがどういう形で出てくるのか分からない。
言葉にすれば、また壊れてしまうかもしれない。
でも、それでも伝えなければならない何かが、確かに胸の奥で脈打っていた。
立ち止まり、街灯の光が差し込む中で、ぽつりと言った。
「……うち、来ますか」
梅田は、すぐには答えなかった。
けれど、驚きの色を浮かべることもなく、ただ静かに頷いた。
それだけで、胸の奥がぐっと熱くなった。
部屋に入ると、無言のまま、天王寺は靴を脱ぎ、間接照明のスイッチを入れた。
淡い光だけが、広くも狭くもないワンルームを照らす。
壁は白く、余計な装飾は一切なかった。
家具は必要最低限。無駄がなく、整いすぎていて、どこか生活の匂いが希薄だった。
梅田は促されるまま、ソファに腰を下ろす。
天王寺はキッチンでグラスに水を注ぎ、それを差し出した。
「……ありがとう」
梅田の声に、天王寺は頷くだけで返す。
ほんとうは、今この瞬間も怖いと思っていた。
ここに彼を招いたこと。
自分の部屋を見せること。
そして何より、自分自身を見せることが。
それでも、もう引き返せなかった。
引き返したくなかった。
そっとソファの向かいに座り、目を合わせずに切り出す。
「……ひとつだけ、聞いてもいいですか」
梅田は、視線を天王寺に向けたまま、黙って頷いた。
「今の俺のままでも、まだ……好きですか」
声が震えていた。
自分でも、それを抑えられなかった。
眼鏡のつるに手をかけて、ゆっくり外す。
視界が少しぼやける中で、梅田が一瞬だけ目を見開いた気がした。
髪が額にかかり、輪郭が照明に浮かび上がる。
見られることへの恐怖と、それを越えたい気持ちがせめぎ合っていた。
天王寺は立ち上がり、ジャケットを脱ぐ。
ソファの背にそれを置くと、白いシャツの袖を静かにまくり上げた。
細く、白い腕。
手首には、もうほとんど薄れてはいるが、幾筋かの痕跡が残っていた。
「……昔、好きだった人に、自分の全部を見せようとしたことがあります」
まっすぐな声にはならなかった。
けれど、それでも言葉を継いだ。
「でも、それはだめでした。
見せた瞬間に、その人は変わりました。
優しかったのに、いつの間にか、俺を所有しようとした。
全部、自分のものにしようとするようになって、
“顔”を、愛情で包むんじゃなくて、鎖にしようとした」
記憶の中の光景が、焼きつくように浮かんでくる。
「笑ってほしいって言われて、笑ってたら……
なんで他のやつにもその顔見せるんや、って言われて。
最後は、殴られて。泣かれて。
壊れたのは、俺やったのか、相手やったのか……もう分からなかった」
手首に目を落とす。
過去の痕跡が、今なおここにあることを示している。
「見せたら、壊れると思ってました。
ずっと、そう思ってきたんです」
梅田は、何も言わなかった。
でも、その沈黙が、否定でも同情でもなく、ただそこに“いる”ことの証だと分かった。
「それでも、俺は今……見てほしいって思った。
あんたには、見せてもいいかもしれないって……初めて、思ったんです」
天王寺は、そっと顔を上げた。
表情は、うまく作れなかった。
けれど、今だけは、それでよかった。
この姿を、梅田がどう受け止めるか。
その答えを、ただ待っていた。
打ち上げが終わり、駅までの道をゆっくりと歩いていたとき。
舗装された歩道に雨の名残が光り、時折吹く風が、湿った空気を運んできた。
となりで黙って歩く梅田に、天王寺は何度も言葉をかけかけて、飲み込んだ。
何かを伝えたいのに、それがどういう形で出てくるのか分からない。
言葉にすれば、また壊れてしまうかもしれない。
でも、それでも伝えなければならない何かが、確かに胸の奥で脈打っていた。
立ち止まり、街灯の光が差し込む中で、ぽつりと言った。
「……うち、来ますか」
梅田は、すぐには答えなかった。
けれど、驚きの色を浮かべることもなく、ただ静かに頷いた。
それだけで、胸の奥がぐっと熱くなった。
部屋に入ると、無言のまま、天王寺は靴を脱ぎ、間接照明のスイッチを入れた。
淡い光だけが、広くも狭くもないワンルームを照らす。
壁は白く、余計な装飾は一切なかった。
家具は必要最低限。無駄がなく、整いすぎていて、どこか生活の匂いが希薄だった。
梅田は促されるまま、ソファに腰を下ろす。
天王寺はキッチンでグラスに水を注ぎ、それを差し出した。
「……ありがとう」
梅田の声に、天王寺は頷くだけで返す。
ほんとうは、今この瞬間も怖いと思っていた。
ここに彼を招いたこと。
自分の部屋を見せること。
そして何より、自分自身を見せることが。
それでも、もう引き返せなかった。
引き返したくなかった。
そっとソファの向かいに座り、目を合わせずに切り出す。
「……ひとつだけ、聞いてもいいですか」
梅田は、視線を天王寺に向けたまま、黙って頷いた。
「今の俺のままでも、まだ……好きですか」
声が震えていた。
自分でも、それを抑えられなかった。
眼鏡のつるに手をかけて、ゆっくり外す。
視界が少しぼやける中で、梅田が一瞬だけ目を見開いた気がした。
髪が額にかかり、輪郭が照明に浮かび上がる。
見られることへの恐怖と、それを越えたい気持ちがせめぎ合っていた。
天王寺は立ち上がり、ジャケットを脱ぐ。
ソファの背にそれを置くと、白いシャツの袖を静かにまくり上げた。
細く、白い腕。
手首には、もうほとんど薄れてはいるが、幾筋かの痕跡が残っていた。
「……昔、好きだった人に、自分の全部を見せようとしたことがあります」
まっすぐな声にはならなかった。
けれど、それでも言葉を継いだ。
「でも、それはだめでした。
見せた瞬間に、その人は変わりました。
優しかったのに、いつの間にか、俺を所有しようとした。
全部、自分のものにしようとするようになって、
“顔”を、愛情で包むんじゃなくて、鎖にしようとした」
記憶の中の光景が、焼きつくように浮かんでくる。
「笑ってほしいって言われて、笑ってたら……
なんで他のやつにもその顔見せるんや、って言われて。
最後は、殴られて。泣かれて。
壊れたのは、俺やったのか、相手やったのか……もう分からなかった」
手首に目を落とす。
過去の痕跡が、今なおここにあることを示している。
「見せたら、壊れると思ってました。
ずっと、そう思ってきたんです」
梅田は、何も言わなかった。
でも、その沈黙が、否定でも同情でもなく、ただそこに“いる”ことの証だと分かった。
「それでも、俺は今……見てほしいって思った。
あんたには、見せてもいいかもしれないって……初めて、思ったんです」
天王寺は、そっと顔を上げた。
表情は、うまく作れなかった。
けれど、今だけは、それでよかった。
この姿を、梅田がどう受け止めるか。
その答えを、ただ待っていた。
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