地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始

文字の大きさ
24 / 25

今のあんたが、一番好きや

しおりを挟む
天王寺の言葉が終わると、部屋の中はしんと静まり返った。

窓の外で、どこか遠くの車の音が低く響いたが、それさえも幻のように思えるほど、目の前の存在だけがくっきりと浮かんでいた。

梅田は、ただ黙って天王寺を見ていた。

剥き出しの感情をさらしながら、なお立っている人間の姿を、  
見られることを恐れながら、それでも目を逸らさずにいるその顔を。

声の震えも、袖の奥に隠されていた薄い傷跡も、  
今そこにいる“天王寺悠”のすべてだった。

梅田は、ゆっくりと立ち上がった。

急がないように。  
驚かせないように。  
目の前にいる彼の呼吸のリズムに合わせて、一歩ずつ近づいていく。

天王寺は動かなかった。  
けれど、逃げもしなかった。

梅田は、そっと腕を伸ばした。

触れた瞬間、その細い肩がかすかに揺れた。  
でも、それ以上拒むことはなかった。

腕をまわし、ゆるやかに、包み込むように天王寺を抱きしめた。  
胸元に、彼の温度がじわりと伝わってくる。

「……怖がってたままでもええ」

低く、なるべく穏やかな声で言った。

「人に甘えられへんままでもええ」

言葉を重ねながら、梅田は彼の背中に手のひらを添えた。  
骨ばったその背中は、どこか頼りなく、でもどこまでも真っすぐだった。

「それでも、今のあんたが……一番好きや」

そう言ったとき、自分の声が少しだけ震えていることに気づいた。  
でも、隠さなかった。

それが本心だった。

しばらく、天王寺は何も言わなかった。  
腕の中で、呼吸だけが小さく上下していた。

やがて、そっと――ほんとうにそっと、彼の腕が梅田の背にまわされた。

抱きしめ返された瞬間、胸の奥が静かに震えた。

それは大げさな動きでも、劇的な瞬間でもなかった。  
ただ、確かに“選ばれた”のだと思った。

ずっと閉ざされていた扉が、ようやく少しだけ開かれたのだと。

天王寺の手のひらは、やわらかくて、少し冷たかった。  
でも、それは今、この瞬間にだけ与えられた体温だった。

ふたりの身体が重なることで、ようやくひとつの温もりになる。

何も言葉を交わさず、ただ、しっかりと抱き合っていた。

部屋の灯りは柔らかく、壁に二人の影を落としていた。  
ゆらゆらと揺れるその影は、まるで呼吸をしているように穏やかだった。

この夜は、何かを求め合うためのものではなかった。

触れ合うための夜ではなく、  
ただ、お互いの心の隙間に入り込む夜だった。

触れるよりも先に、互いの痛みと、温度と、願いを知るための夜。

長く続いた静けさの中で、天王寺がかすかに息を吐いた。

それが安堵の吐息であったことを、梅田は感じていた。

もう、何も証明しなくていい。  
もう、何も言い訳しなくていい。

ただこのまま、胸の奥の一番柔らかいところに、  
もうひとりをそっと迎え入れるように。

梅田は目を閉じた。  
彼の髪に、静かに額を寄せた。

天王寺は、黙ってそれを受け止めていた。

小さな鼓動が、ふたりの間でぴたりと重なっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...