「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始

文字の大きさ
13 / 36

風が通り抜ける、静かな屋上

しおりを挟む
昼休みのチャイムが鳴った瞬間、教室の喧騒を背にして、神城凪は静かに席を立った。

廊下に出ると、空気は春の陽に温められていて、ほんのりとした風が制服の袖を揺らす。階段を一段ずつ上りながら、凪は特に目的もないまま、なんとなく足を屋上へと向けていた。

屋上のドアは少し重く、開けると金属がきしむ音が小さく響いた。その向こうには、春の空が広がっていた。

風が通り抜ける音と、遠くから聞こえてくる運動場の歓声。それ以外には何の音もなかった。人の気配も、視線もない、完全な空間。そういう場所が今は少し、必要だった。

凪は手にしたコンビニ袋から、小さなサンドイッチの包みを取り出した。朝にコンビニで買ったまま、机に入れておいたものだ。屋上の隅にあるベンチに腰を下ろし、包装を剥がしながら、空を見上げる。

白くゆるやかに流れる雲。その向こうに広がる、やわらかな青。

「……」

ひと口かじる。パンの味は淡白で、何の感情も起こさない。だが、それがちょうどよかった。

昼休みのこの時間は、生徒会室は意外と賑やかになる。後輩たちが自主的に集まって作業したり、相談に来たりするから、黙っていたい気分のときは、少し落ち着かない。今日はその“静かになれなさ”が妙にひっかかった。

理由は考えたくなかった。けれど、考えずにはいられなかった。

もう一口食べようとしたとき、屋上の扉が開く音が響いた。

凪は視線を上げないまま、その音の主を認識する。

気配が軽く、足音は迷いがなく、そしてどこか整っている。

振り向かずともわかる。誰よりもよく知っている、あの歩き方。呼吸のリズム。空気の温度。

「こんなとこにいるとは思わなかった」

聞き慣れた低く静かな声が、少し風に揺られて届いた。

凪は横目でちらりと結翔を見た。制服の袖が風に揺れ、乱れのない黒髪が日差しにかすかに光っている。彼は凪の隣ではなく、少し離れた位置に立ち、視線だけをこちらに寄越していた。

「生徒会室、今日はにぎやかだったから」

凪はそう答えてから、サンドイッチを口に運んだ。声の調子は淡々としていた。特別な意味を含めないように。

結翔は返事をせず、ただしばらくその場に立っていた。凪は少しだけ目を閉じ、会話が続かないままでもいいと思っていた。

だが、すぐに気配が動いた。足音が近づいてきて、凪の隣にある空いていたベンチに、結翔が腰を下ろした。横並び。背もたれのないベンチだから、肩と肩の間には微妙な距離ができる。

それでも、その距離は今のふたりにとって、最適だった。

沈黙が流れる。

けれど、不思議と重くない。むしろ、言葉を必要としないことが心地よくすらあった。

風が吹き抜ける。凪の前髪が揺れる。隣からは、かすかに制服が擦れる音がした。何も話さないまま、それぞれが空を見ていた。

ふと、凪は問いを浮かべる。

――なぜ、ここに来たのか。  
――どうして、彼は自分を見つけられたのか。

けれど、その問いに答えを求めることはしなかった。

結翔が凪を探したとは、彼の口からは言わないだろう。凪もまた、それを聞こうとはしなかった。けれど、ふたりがここにいるという事実は、静かな確信としてそこに存在していた。

「…天気、いいね」

ぽつりと凪が言った。結翔は少し顔を上げる。

「昼寝したくなるくらいには」

「うん」

また会話が止まる。

だけど、それは“終わった”のではなく、“続いている”という感覚だった。

日差しが傾き、雲の切れ間から眩しい光が差し込んだ。凪は目を細めながら、もう一口サンドイッチをかじった。

何も話さなくても、何かが伝わる。

何も約束しなくても、なぜか同じ場所にいる。

それが今のふたりにとって、最も自然な在り方だった。

けれど、それはあくまで、今この瞬間の話でしかない。

この沈黙のまま、どこまで進めるのだろう。

そう思ったとき、凪の胸の中にふと、言葉にできない感情が生まれた。

それはまだ“恋”とは呼べないものだった。けれど、“恋ではない”と否定するには、あまりにも近すぎる距離だった。

春の風がまた一度、ふたりのあいだを通り抜けていった。  

その風は、どちらのほうが先に揺れたのかも、もうわからないほど静かだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不幸の手紙に“男に告白される”って書いてあったんだが?

すもも
BL
磯城亮輔のもとに、毎日「不幸の手紙」が届く。 書かれた内容はなぜか必ず当たるが、だいたいが地味に嫌なだけの不幸。 亮輔はすっかり慣れきっていた。 しかしある日、こう書かれていた。 「男に告白されるだろう」 いや、ちょっと待て。 その翌日から手紙は呪詛じみていき、命の危機すら感じ始める。 犯人を探し始めた亮輔だが、周囲は頼りにならず——。 これは、少し性格に難ありな主人公が、不幸と告白に振り回される青春BL。 他のサイトにも掲載していますが、こちらは修正したものとなっています。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったら引くほど執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

処理中です...