「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始

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投稿は、もう戦じゃない

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校舎の西側に面した渡り廊下のガラス窓が、夕日をそのまま取り込んでいた。  
空は初冬の小春日和。あたたかく澄んだ薄桃色に染まり、ところどころ雲が金色の縁取りをして浮かんでいた。  
風が強くも弱くもない程度に吹いていて、木々の葉がさらさらと鳴る音が、放課後の静けさを引き立てていた。

昇降口の外、校門へ向かう石畳の途中に設けられたベンチに、凪がひとり腰を下ろしていた。  
制服の上着を脱いで膝に掛け、シャツの袖を二つ折りにして、肘まで露出させている。  
春らしい空気が腕を撫でていくたびに、皮膚がほんのり赤く染まった。  
手にはスマートフォン。画面の中のカメラアプリを立ち上げ、空に向けてレンズを向けていた。

一度シャッターを切る。音は設定で消してある。  
もう一枚。画面の明るさを調整しながら、構図を確認する。  
三枚目でようやく、凪の表情がわずかに和らいだ。

そのまま、投稿画面を開く。  
文を書き出すまでに少し時間がかかった。画面に浮かんでいる文字はまだ空白で、  
凪は親指をゆっくりと動かし、何度か打っては消し、言葉を探していた。

最終的に選んだのは、簡潔な言葉だった。

「今日の空は、君のまなざしみたいだった」

添付する写真を選ぶ。  
その中から、ほんのりと水色が残る空に、オレンジの光が滲む一枚を選んだ。  
写真の隅には、ほんのわずかに写り込んだ黒い制服の肩のライン。  
結翔の存在が、説明なくそこにいた。

投稿ボタンを押したあと、凪はスマートフォンを伏せ、膝の上に置いた。  
空を見上げたまま、深く息を吐く。

心臓の鼓動が早くなるのを感じたが、顔には出さなかった。  
どんな反応があるか、ないか、それすらどうでもよくなるほど、  
今この空と、自分の気持ちが静かに交差しているのを感じていた。

校舎裏の小さな階段に座っていた結翔は、凪の投稿通知を受け取ったスマートフォンを手に取った。  
画面を開き、目を通す。  
文と写真を確認したあと、指が一度だけ止まる。  
表情はほとんど動かない。  
けれど、手の甲に力が入り、画面を持った指先がわずかに震えた。

そのまま投稿画面を開く。  
数秒間、画面に言葉を打ち込んだあと、彼はまぶたを閉じた。  
深く吸い込んだ息を、ゆっくりと吐き出す。  
再び目を開け、打ち込んだ文字を確認し、アップロードを完了させた。

「誰にも気づかれなくていい。ただ、君だけがわかってくれれば」

添付された写真は、凪が撮ったものとほぼ同じ空。  
だが構図は逆方向。  
凪の位置から撮った写真とは明らかに“対”になっていて、  
ふたりの投稿がまるで会話のように成り立っていた。

スマートフォンをポケットにしまった結翔は、ゆっくりと顔を上げた。  
空の光が強くなっていた。  
淡い風に髪が揺れ、頬にかかった前髪の奥の目が、少しだけ柔らかくなる。

「……これで十分だろ」

誰に言ったわけでもないその言葉を、風が攫っていった。

一方そのころ、教室の隅。  
まゆが机の上にスマートフォンを置き、画面を見ながら両手で口元を押さえていた。

「ちょっと…来た…これは……尊死案件……」

その横で御堂筋はすでにタブレットを取り出し、ふたりの投稿を並べて表示している。  
ペンで画面の上に線を引きながら、淡々と呟いた。

「文体のテンション、時間差、構図の連動性、すべてが会話構造。  
これは明確な『返答型投稿』です。よって、内容は相思相愛で確定」

「なに冷静に論文みたいに言ってんの! これは魂の交信なんだってば!」

まゆは声を上げたが、誰もそれを咎める者はいなかった。  
クラスメイトの一部は、それぞれのスマホで同じ投稿を確認しており、  
小さな歓声や、ほっとしたようなため息が広がりつつあった。

そして、職員室。

都島先生は自分のデスクで、教師用タブレットを開いていた。  
個人的な“教材研究”という名目で、ふたりのSNSを観察していたのだ。  
画面には凪と結翔の投稿が並べられ、その表現の繊細さに、思わず頬が緩む。

ペンを取り、手帳にさらりとメモを書く。

「一×神、無言の相思相愛へ。進行確定」

そして、ボールペンを閉じながら、微笑む。

「供給、ごちそうさまでした」

春の夕空が、校舎全体を柔らかく包み込んでいた。  
静かに、でも確かに、ふたりの物語はこの空の下で完結していた。  
言葉にすれば壊れてしまいそうだった気持ちが、  
ようやく、ひとつのかたちを持って、そこに息づいていた。

【完】
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