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第96話 テイムマスター
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「ルナレーン様。ご、ご報告致します。」
背が高くスタイルの良い女性がサイズが合っていないと思わせる程の執事服を着こなし一礼する。その目線の先には身長はそれほど高くはなく蒼黒いリボンドレスを着た女の子が身体には似合わない大きな黒ピンクの椅子にちょこんと座っていた。
「うん!どうだったー?マグちゃんいた?」
女の子は笑顔で急かすように足をばたつかせていた。
「・・・はい。マグリアル様の件ですが・・・手を尽くしましたが魔力感知の黒水晶にマグリアル様の魔力波動が感知出来ませんでした。」
「えっ?どういう事?」
女の子の顔が笑顔が消え蒼黒いオーラを滲ませる。そしてその意味を薄ら分かった上で質問する。
「は、はい。マグリアル様の魔力波動は黒水晶に記録してあります。何処にいても生きていれば感知出来ます。つまり感知出来ないという事は・・・マグリアル様は既にこの世界から消滅してしまったという事です。」
「えぇ?!何で?!どうして?!マグちゃんと新しいお友達くれるって約束したのにぃぃぃぃ!!!」
ルナレーンの全身から途轍もない蒼黒いオーラが爆発的に広がる。その波動で女性が吹き飛び石の壁に打ち付けられる。
どぉんっ!!
「あぐっ・・・」
そしてルナレーンはいつの間にか女性の目の前に現れる。女性はルナレーンの見た目とはかけ離れた恐ろしさを知っていた。
「あ・・・お、お許しを・・・」
「ねぇ・・・セラビー・・教えて?誰れがマグちゃんを消したの?」
女性の言葉を無視してルナレーンの全身から溢れる殺気の籠った蒼黒いオーラが立ち登る。
「あ・・・そ、それは・・・ま、まだ・・分かりません・・・で、ですが!!北の大地にあるセルバイヤ王国の領土の中でマグリアル様の魔力が途切れています!!お、おそらく・・・そこで勇者の卵に消されたのではないかと・・・」
一気に捲し立てたセラビーが恐る恐る上目遣いでルナレーンの目を見た。
「ふーーん・・・そっかーー・・・マグちゃんは私のお友達のなかで一番弱々だけど普通の人間になんか負けないもんねーー・・・負けるとしたら皆んなが一生懸命お話ししてる噂の勇者の卵って事かーー・・・ふふっ・・・いいわ!!この三魔将ルナレーンのコレクションに入れちゃおーーう!!うん!そうしようーー!!よーーし!!出ておいでーー!!」
ルナレーンが床に手を翳し魔力を注ぐと大きな魔法陣が描かれる。そして展開された魔法陣からエンペラーデスグリズリーが姿を現した。
「ごふぅぅ・・・ルナレーン様・・何なりとお申し付け・・・ください・・ぐふぅぅぅ・・・」
「うん!ベアちゃんお願いがあるの!!えっとね、勇者の卵を見つけたいの!だからねセルバイヤ王都の近くでベアちゃんのお友達が暴れたら勇者の卵が来ると思うの!!」
エンペラーデスグリズリーは少し怯えた表情で頭を下げる。
「ごぶぅぅ・・・か、かしこまりました。それならば我が眷属を行かせましょう。そして我が眷属を倒した人間が・・・勇者の卵・・・くぶぅぅぅ・・・」
「うん!ベアちゃん!勇者の卵を連れて来るまで帰って来ないでねーー・・・もし・・・失敗し・た・ら・・・えへっ!!じゃあよろしくねーー!!」
「ぐぶっ・・・?!」
ルナレーンは屈託のない笑顔の中に本気の殺気を織り交ぜる。
「・・・ぶふっ・・・は、はい・・お、お任せ・・ください・・・」
エンペラーデスグリズリーはルナレーンの殺気に戦慄する。そしてやはり今回も命懸けの命令になるのだと覚悟を決めるのだった。
「お、お前ら・・・こ、答えろ。我が眷属を倒したのは誰だ!?」
エンペラーデスグリズリーは少し焦りを覚えながらそれを隠すようにゼノア達を見下ろす。
しかしゼノアとフェルネスはその焦りを見逃さなかった。
(・・様子が変だよね・・・何かに怯えてるみたい・・・)
(ふふ・・・大方察しはつきますわ。ここは私にお任せください。同じ従魔としてどちらの主が格上か教えてあげますわ。)
(うん。任せたよ。)
フェルネスは嬉しそうに頷くと深紫のオーラを立ち昇らせゆっくりとエンペラーデスグリズリーの前に歩を進める。
「ふっ・・・誰があの雑魚を倒したか知りたいですって?」
フェルネスは歩みを止めると殺気を漲らせエンペラーデスグリズリーを見据えた。
「ぐっ・・ぐぶっ?!こ、この力は・・・お、お前が・・・わ、我が眷属を・・・?!」
フェルネスの圧倒的な存在感にエンペラーデスグリズリーは後退る。
「私の名はダークネス・フェンリルのフェルネス。ここにいらっしゃる我が主ゼノア様の忠実な僕。あのような雑魚ものの数ではありませんわ。それに我が主様は勇者の卵などと小さき存在ではない。そして主様のご友人を襲った事・・・万死に値する!!」
「ご、ごぶぅぅ?!・・・ば、馬鹿な・・・あ、あり得ない・・・あ、あの幻獣ダークネス・フェンリルを・・・そ、その小さな人間が?!」
エンペラーデスグリズリーが改めてゼノアに目を向ける。すると全身の毛が逆立つ程の寒気に襲われた。
「ぶふっ・・・こ、こ、この力の波動は・・・ま、まさか・・・わ、我が主より・・・」
「ふふっ・・・気付いたようね。我が主様のお力に。この通り私は主様と契約して人化出来る程の力を頂きました。お前の姿を見れば主様との格の違いは一目瞭然ですわ。さあ、お喋りは終わりですわ。我が主様への無礼を死を以て償いなさい!!」
フェルネスが誇らしげに戦闘体制を取る。
(ごぶふっ・・・こ、この存在を・・・ルナレーン様に報告・・しなければ・・・)
エンペラーデスグリズリーは戦闘体制のフェルネスの前でが動きを止め目の光が消える。しかしその瞬間、エンペラーデスグリズリーの身体から今にも爆発しそうな魔力の波動が溢れ出した。
「んっ?!フェルネス!何か来るよ!気を付けて!!」
ゼノアは巨大な魔力を感じて咄嗟に叫んだ。何故ならゼノアはその魔力の波動を知っていた。
「はい!主様!私も感じていますわ!!」
フェルネスも飛び退き警戒して構える。
「この魔力の波動は・・・間違いない!魔人だ!」
二年前、ゲイブルの街を襲ったマグリアルの魔人特有の魔力の波動そのものであった。
「むっ!?魔人?!」
「そうです!僕は魔人の魔力の波動を知っています。間違いありません!アルバンさん!ここは危険です!!ここから離れてください!」
「む、むう・・・だ、だが・・ゼノア君はどうするんだ?」
「僕とフェルネスでアルバンさん達が逃げる時間を稼ぎます!」
「い、嫌よ!ゼノア様を置いて逃げるなんて!!」
「お嬢様。私達がここに居てはゼノア殿の邪魔になるのです。」
「うむ。イリア。ここはゼノア君とフェルネス殿を信じて任せる他ないんだ。」
アルバンとキメルはゼノアが見せる緊迫した表情を見てここがもう直ぐ危険地帯になり自分達がここに残れば足手纏いにしかならないと悟ったのだ。
「・・・そうだけど・・で、でも・・・」
イリアは二人が言う事に納得しつつも割り切れずに動けなかった。そんなイリアの前にゼノアが近づく。
「イリアちゃん。僕は大丈夫。必ずあいつをぶっ飛ばして戻るから!だから今はここから離れるんだ。いいね?」
「・・・う、うん。や、約束だよ?ちゃんと戻って来てよ?」
「うん。約束するよ。あ・・そうだ!もし道中で何か危険な事があったらこれを使って。」
ゼノアは鞄の中から赤と青のマジックポーションを取り出しイリアに差し出した。
「えっ・・・これは?」
「うん。簡単に言うと赤いのは攻撃魔法で青いのは防御魔法だよ。マジックポーションって言うんだ。」
「・・・あ、うん。分かったわ・・・気を付けてね・・・」
イリアが後ろ髪を引かれながらもアルバンの近くまで後ずさる。
「主様。冒険者ギルドの方々が到着したようです。」
フェルネスが街道の方角に視線を向ける。フェルネスの鼻と耳にギルドの救援隊の馬車の音とギルドマスターのデルマの臭いを捉えていた。
「主様。ご友人方を街道まで私の眷属を護衛につけましょう。街道まで出ればギルドの方々に保護して頂けますわ。」
「うん!フェルネスお願い!」
「はい。かしこまりました。」
「・・・来なさい。」
フェルネスが魔力を滲ませると目の前に大きな魔法陣が描かれ体長5メートルはあるブラット・ガルムが2体召喚されフェルネスの目の前で地面に顎を付け嬉しそうに大きな尻尾を振っている。
「ふんっ、ふん、ふん。」
「ぬをぉぉぉ?!な、何だこの大きな魔獣は?!」
「こ、この魔獣は・・・この黒く美しい毛並み・・・大きく深紫な目・・・まさか・・ブラット・ガルムか!?」
「・・・凄く綺麗・・・それに可愛い・・・」
アルバン達は2体のブラット・ガルムに見惚れていた。
「さあ!ご友人方!この子に乗ってください!街道まで御連れ致しますわ!」
「ふえっ?!乗っていいの?!」
イリアが目を輝かせる。
「えぇ。もちろんですわ。さあ、早く。」
「うんっ!!」
イリアは臆する事もなく走り出しブラット・ガルムに抱きつきよじ登って行く。
「あっ、こら!イリア!!」
「さあ!貴方方も早く乗ってください。」
「うわーーっ!!ふっかふか!もっふもふーー!!お父さん!キメル!早く乗ってーー!!」
イリアが危機的状況にも関わらずブラット・ガルムの背中ではしゃいだ声を上げる。
「う、うむ。そ、それでは失礼する。」
アルバンとキメルは恐る恐るブラット・ガルムに近付き背に登った。
「ほう!こ、これは・・・心地よいな。」
「はい。まさか生きているうちにブラット・ガルムの背に乗る日が来るとは・・・」
フェルネスはアルバン達がブラット・ガルムの背に乗ったのを確認すると魔力を滲ませながら2体のブラット・ガルムを見据えた。
「お前達。この方々は主様の大切なご友人です。間違いがないように御守りするように。」
「ごるぅぅ!」
「がるぅぅ!」
フェルネスの言葉に2体のブラット・ガルムはゆっくりと立ち上がると目付きが変わり頷いた。
「ゼノア君!フェルネス殿!無事に戻ってくれ!!待っているぞ!!」
アルバンも後ろ髪を引かれる思いを押し殺し二人に声を掛ける。
「うん!アルバンさんも気を付けて!」
ゼノアもアルバン達を安心されるようににニッと笑う。
そしてアルバン達を乗せたブラット・ガルムは脱兎の如く森の中に消えていくのであった。
「へぇーー!本当にダークネス・フェンリルを従魔にしてるんだーー!!人間の癖に生意気なテイマーね!」
突然エンペラーデスグリズリーの風貌からは似つかわしくない幼女の声が響き渡る。そして同時にエンペラーデスグリズリーの全身から荒れ狂う魔力の波動が森の木々を激しく震わせた。
「こ、これは、従魔に憑依するテイマーの上位スキルですわ!」
「うくっ・・・これが本職のテイマーの能力か・・・それにこの魔力・・・ゲイブルの街を襲った魔人より遥かに強い・・・」
ゼノアとフェルネスは魔力を纏いエンペラーデスグリズリーから放たれる魔力の波動を受け流す。
(・・・んっ?!な、なんで人間如きが私の魔力に当てられて平気で立っていられるの?!・・・まあ、取り敢えずいいわ・・・)
「ねえ!あんた!その話だと魔人に会って生きて帰ったって事なのーー?」
「・・・そうさ、会ったよ。二年前にゲイブルの街が魔人に襲われたんだ!その魔人は街の皆んなで何とか倒したけどね。それよりお前は誰?」
「はぁぁーーー?!?!人間如きが魔人を倒したーー?!あーー・・もしかしてその魔人の名前ってーー・・マグリアルって言ってなかった?」
「・・・あぁ、確かそんな名前だったよ!だから何?!お前は誰?!あの魔人の仲間?!何しにここに来た?!」
(・・・信じられないけど・・本当みたいね・・・確かにマグちゃんは弱々だったけど・・・まさか、ただの人間に負けちゃうなんて・・・まぁ、良いけど。だって私の目的は・・・うふふ。)
「まーまー、落ち着いてぇーー!そうね自己紹介がまだだったねーー!いい?私はーーっ!魔人王グラバルガ様の直属配下!三魔将の一人!テイムマスターのルナレーン様よぉーー!よろしくねー!」
エンペラーデスグリズリー姿で腰に両手を添えて胸を張りドヤ顔を決める。いまだに声と姿のギャップに慣れないゼノアとフェルネスの頬が引き攣る。
「因みにねさっきの質問だけど、マグちゃんは私の配下の一人なのーー!そのマグちゃんを消した勇者の卵を探しに来たらぁ・・・ベアちゃんがダークネス・フェンリルを従えた人間が居るって言うからぁーー会いに来たんだよぉーー!!」
(・・・テイムマスターが会いに来た?何のために・・・はっ?!こいつ・・まさか・・・)
ゼノアはルナレーンの目的に朧げながら気付く。そしてゼノアは答え合わせとばかりにルナレーンが憑依するエンペラーデスグリズリーに先制攻撃を決断した。
「アースジャベリン!!」
ずどどどどどっ!!!
ゼノアが放った魔法はエンペラーデスグリズリーの足元から無数の尖った岩が突き出だしエンペラーデスグリズリーの身体を貫きその場に縫い付けた。
「主様。御見事ですわ!魔人には隙を見せず先制攻撃。理に叶っていますわ!」
「うん。だけどね・・・テイムマスターのこいつの目的は多分・・・フェルネスなんだよ。」
「えっ?!私ですか?!」
「あはははぁぁぁーー!!せいかーーい!!人間のお子ちゃまと思っていたけど私の目的に気付くなんて凄いねぇーー!!ちょっとだけ褒めてちゃうよーー!!だってぇーー!マグちゃんから新しいお友達を貰う約束してたのにぃーー、あんた達がマグちゃんを殺しちゃったからお友達が貰えなかったんだよーー!!うふふっ・・・だ・か・ら・・・その子・・・頂戴!!!」
「やっぱりか!!」
ルナレーンの楽しそうな声と共に串刺しになったエンペラーデスグリズリーの身体から魔力が溢れ出しフェルネスを中心に魔法陣が展開するのであった。
背が高くスタイルの良い女性がサイズが合っていないと思わせる程の執事服を着こなし一礼する。その目線の先には身長はそれほど高くはなく蒼黒いリボンドレスを着た女の子が身体には似合わない大きな黒ピンクの椅子にちょこんと座っていた。
「うん!どうだったー?マグちゃんいた?」
女の子は笑顔で急かすように足をばたつかせていた。
「・・・はい。マグリアル様の件ですが・・・手を尽くしましたが魔力感知の黒水晶にマグリアル様の魔力波動が感知出来ませんでした。」
「えっ?どういう事?」
女の子の顔が笑顔が消え蒼黒いオーラを滲ませる。そしてその意味を薄ら分かった上で質問する。
「は、はい。マグリアル様の魔力波動は黒水晶に記録してあります。何処にいても生きていれば感知出来ます。つまり感知出来ないという事は・・・マグリアル様は既にこの世界から消滅してしまったという事です。」
「えぇ?!何で?!どうして?!マグちゃんと新しいお友達くれるって約束したのにぃぃぃぃ!!!」
ルナレーンの全身から途轍もない蒼黒いオーラが爆発的に広がる。その波動で女性が吹き飛び石の壁に打ち付けられる。
どぉんっ!!
「あぐっ・・・」
そしてルナレーンはいつの間にか女性の目の前に現れる。女性はルナレーンの見た目とはかけ離れた恐ろしさを知っていた。
「あ・・・お、お許しを・・・」
「ねぇ・・・セラビー・・教えて?誰れがマグちゃんを消したの?」
女性の言葉を無視してルナレーンの全身から溢れる殺気の籠った蒼黒いオーラが立ち登る。
「あ・・・そ、それは・・・ま、まだ・・分かりません・・・で、ですが!!北の大地にあるセルバイヤ王国の領土の中でマグリアル様の魔力が途切れています!!お、おそらく・・・そこで勇者の卵に消されたのではないかと・・・」
一気に捲し立てたセラビーが恐る恐る上目遣いでルナレーンの目を見た。
「ふーーん・・・そっかーー・・・マグちゃんは私のお友達のなかで一番弱々だけど普通の人間になんか負けないもんねーー・・・負けるとしたら皆んなが一生懸命お話ししてる噂の勇者の卵って事かーー・・・ふふっ・・・いいわ!!この三魔将ルナレーンのコレクションに入れちゃおーーう!!うん!そうしようーー!!よーーし!!出ておいでーー!!」
ルナレーンが床に手を翳し魔力を注ぐと大きな魔法陣が描かれる。そして展開された魔法陣からエンペラーデスグリズリーが姿を現した。
「ごふぅぅ・・・ルナレーン様・・何なりとお申し付け・・・ください・・ぐふぅぅぅ・・・」
「うん!ベアちゃんお願いがあるの!!えっとね、勇者の卵を見つけたいの!だからねセルバイヤ王都の近くでベアちゃんのお友達が暴れたら勇者の卵が来ると思うの!!」
エンペラーデスグリズリーは少し怯えた表情で頭を下げる。
「ごぶぅぅ・・・か、かしこまりました。それならば我が眷属を行かせましょう。そして我が眷属を倒した人間が・・・勇者の卵・・・くぶぅぅぅ・・・」
「うん!ベアちゃん!勇者の卵を連れて来るまで帰って来ないでねーー・・・もし・・・失敗し・た・ら・・・えへっ!!じゃあよろしくねーー!!」
「ぐぶっ・・・?!」
ルナレーンは屈託のない笑顔の中に本気の殺気を織り交ぜる。
「・・・ぶふっ・・・は、はい・・お、お任せ・・ください・・・」
エンペラーデスグリズリーはルナレーンの殺気に戦慄する。そしてやはり今回も命懸けの命令になるのだと覚悟を決めるのだった。
「お、お前ら・・・こ、答えろ。我が眷属を倒したのは誰だ!?」
エンペラーデスグリズリーは少し焦りを覚えながらそれを隠すようにゼノア達を見下ろす。
しかしゼノアとフェルネスはその焦りを見逃さなかった。
(・・様子が変だよね・・・何かに怯えてるみたい・・・)
(ふふ・・・大方察しはつきますわ。ここは私にお任せください。同じ従魔としてどちらの主が格上か教えてあげますわ。)
(うん。任せたよ。)
フェルネスは嬉しそうに頷くと深紫のオーラを立ち昇らせゆっくりとエンペラーデスグリズリーの前に歩を進める。
「ふっ・・・誰があの雑魚を倒したか知りたいですって?」
フェルネスは歩みを止めると殺気を漲らせエンペラーデスグリズリーを見据えた。
「ぐっ・・ぐぶっ?!こ、この力は・・・お、お前が・・・わ、我が眷属を・・・?!」
フェルネスの圧倒的な存在感にエンペラーデスグリズリーは後退る。
「私の名はダークネス・フェンリルのフェルネス。ここにいらっしゃる我が主ゼノア様の忠実な僕。あのような雑魚ものの数ではありませんわ。それに我が主様は勇者の卵などと小さき存在ではない。そして主様のご友人を襲った事・・・万死に値する!!」
「ご、ごぶぅぅ?!・・・ば、馬鹿な・・・あ、あり得ない・・・あ、あの幻獣ダークネス・フェンリルを・・・そ、その小さな人間が?!」
エンペラーデスグリズリーが改めてゼノアに目を向ける。すると全身の毛が逆立つ程の寒気に襲われた。
「ぶふっ・・・こ、こ、この力の波動は・・・ま、まさか・・・わ、我が主より・・・」
「ふふっ・・・気付いたようね。我が主様のお力に。この通り私は主様と契約して人化出来る程の力を頂きました。お前の姿を見れば主様との格の違いは一目瞭然ですわ。さあ、お喋りは終わりですわ。我が主様への無礼を死を以て償いなさい!!」
フェルネスが誇らしげに戦闘体制を取る。
(ごぶふっ・・・こ、この存在を・・・ルナレーン様に報告・・しなければ・・・)
エンペラーデスグリズリーは戦闘体制のフェルネスの前でが動きを止め目の光が消える。しかしその瞬間、エンペラーデスグリズリーの身体から今にも爆発しそうな魔力の波動が溢れ出した。
「んっ?!フェルネス!何か来るよ!気を付けて!!」
ゼノアは巨大な魔力を感じて咄嗟に叫んだ。何故ならゼノアはその魔力の波動を知っていた。
「はい!主様!私も感じていますわ!!」
フェルネスも飛び退き警戒して構える。
「この魔力の波動は・・・間違いない!魔人だ!」
二年前、ゲイブルの街を襲ったマグリアルの魔人特有の魔力の波動そのものであった。
「むっ!?魔人?!」
「そうです!僕は魔人の魔力の波動を知っています。間違いありません!アルバンさん!ここは危険です!!ここから離れてください!」
「む、むう・・・だ、だが・・ゼノア君はどうするんだ?」
「僕とフェルネスでアルバンさん達が逃げる時間を稼ぎます!」
「い、嫌よ!ゼノア様を置いて逃げるなんて!!」
「お嬢様。私達がここに居てはゼノア殿の邪魔になるのです。」
「うむ。イリア。ここはゼノア君とフェルネス殿を信じて任せる他ないんだ。」
アルバンとキメルはゼノアが見せる緊迫した表情を見てここがもう直ぐ危険地帯になり自分達がここに残れば足手纏いにしかならないと悟ったのだ。
「・・・そうだけど・・で、でも・・・」
イリアは二人が言う事に納得しつつも割り切れずに動けなかった。そんなイリアの前にゼノアが近づく。
「イリアちゃん。僕は大丈夫。必ずあいつをぶっ飛ばして戻るから!だから今はここから離れるんだ。いいね?」
「・・・う、うん。や、約束だよ?ちゃんと戻って来てよ?」
「うん。約束するよ。あ・・そうだ!もし道中で何か危険な事があったらこれを使って。」
ゼノアは鞄の中から赤と青のマジックポーションを取り出しイリアに差し出した。
「えっ・・・これは?」
「うん。簡単に言うと赤いのは攻撃魔法で青いのは防御魔法だよ。マジックポーションって言うんだ。」
「・・・あ、うん。分かったわ・・・気を付けてね・・・」
イリアが後ろ髪を引かれながらもアルバンの近くまで後ずさる。
「主様。冒険者ギルドの方々が到着したようです。」
フェルネスが街道の方角に視線を向ける。フェルネスの鼻と耳にギルドの救援隊の馬車の音とギルドマスターのデルマの臭いを捉えていた。
「主様。ご友人方を街道まで私の眷属を護衛につけましょう。街道まで出ればギルドの方々に保護して頂けますわ。」
「うん!フェルネスお願い!」
「はい。かしこまりました。」
「・・・来なさい。」
フェルネスが魔力を滲ませると目の前に大きな魔法陣が描かれ体長5メートルはあるブラット・ガルムが2体召喚されフェルネスの目の前で地面に顎を付け嬉しそうに大きな尻尾を振っている。
「ふんっ、ふん、ふん。」
「ぬをぉぉぉ?!な、何だこの大きな魔獣は?!」
「こ、この魔獣は・・・この黒く美しい毛並み・・・大きく深紫な目・・・まさか・・ブラット・ガルムか!?」
「・・・凄く綺麗・・・それに可愛い・・・」
アルバン達は2体のブラット・ガルムに見惚れていた。
「さあ!ご友人方!この子に乗ってください!街道まで御連れ致しますわ!」
「ふえっ?!乗っていいの?!」
イリアが目を輝かせる。
「えぇ。もちろんですわ。さあ、早く。」
「うんっ!!」
イリアは臆する事もなく走り出しブラット・ガルムに抱きつきよじ登って行く。
「あっ、こら!イリア!!」
「さあ!貴方方も早く乗ってください。」
「うわーーっ!!ふっかふか!もっふもふーー!!お父さん!キメル!早く乗ってーー!!」
イリアが危機的状況にも関わらずブラット・ガルムの背中ではしゃいだ声を上げる。
「う、うむ。そ、それでは失礼する。」
アルバンとキメルは恐る恐るブラット・ガルムに近付き背に登った。
「ほう!こ、これは・・・心地よいな。」
「はい。まさか生きているうちにブラット・ガルムの背に乗る日が来るとは・・・」
フェルネスはアルバン達がブラット・ガルムの背に乗ったのを確認すると魔力を滲ませながら2体のブラット・ガルムを見据えた。
「お前達。この方々は主様の大切なご友人です。間違いがないように御守りするように。」
「ごるぅぅ!」
「がるぅぅ!」
フェルネスの言葉に2体のブラット・ガルムはゆっくりと立ち上がると目付きが変わり頷いた。
「ゼノア君!フェルネス殿!無事に戻ってくれ!!待っているぞ!!」
アルバンも後ろ髪を引かれる思いを押し殺し二人に声を掛ける。
「うん!アルバンさんも気を付けて!」
ゼノアもアルバン達を安心されるようににニッと笑う。
そしてアルバン達を乗せたブラット・ガルムは脱兎の如く森の中に消えていくのであった。
「へぇーー!本当にダークネス・フェンリルを従魔にしてるんだーー!!人間の癖に生意気なテイマーね!」
突然エンペラーデスグリズリーの風貌からは似つかわしくない幼女の声が響き渡る。そして同時にエンペラーデスグリズリーの全身から荒れ狂う魔力の波動が森の木々を激しく震わせた。
「こ、これは、従魔に憑依するテイマーの上位スキルですわ!」
「うくっ・・・これが本職のテイマーの能力か・・・それにこの魔力・・・ゲイブルの街を襲った魔人より遥かに強い・・・」
ゼノアとフェルネスは魔力を纏いエンペラーデスグリズリーから放たれる魔力の波動を受け流す。
(・・・んっ?!な、なんで人間如きが私の魔力に当てられて平気で立っていられるの?!・・・まあ、取り敢えずいいわ・・・)
「ねえ!あんた!その話だと魔人に会って生きて帰ったって事なのーー?」
「・・・そうさ、会ったよ。二年前にゲイブルの街が魔人に襲われたんだ!その魔人は街の皆んなで何とか倒したけどね。それよりお前は誰?」
「はぁぁーーー?!?!人間如きが魔人を倒したーー?!あーー・・もしかしてその魔人の名前ってーー・・マグリアルって言ってなかった?」
「・・・あぁ、確かそんな名前だったよ!だから何?!お前は誰?!あの魔人の仲間?!何しにここに来た?!」
(・・・信じられないけど・・本当みたいね・・・確かにマグちゃんは弱々だったけど・・・まさか、ただの人間に負けちゃうなんて・・・まぁ、良いけど。だって私の目的は・・・うふふ。)
「まーまー、落ち着いてぇーー!そうね自己紹介がまだだったねーー!いい?私はーーっ!魔人王グラバルガ様の直属配下!三魔将の一人!テイムマスターのルナレーン様よぉーー!よろしくねー!」
エンペラーデスグリズリー姿で腰に両手を添えて胸を張りドヤ顔を決める。いまだに声と姿のギャップに慣れないゼノアとフェルネスの頬が引き攣る。
「因みにねさっきの質問だけど、マグちゃんは私の配下の一人なのーー!そのマグちゃんを消した勇者の卵を探しに来たらぁ・・・ベアちゃんがダークネス・フェンリルを従えた人間が居るって言うからぁーー会いに来たんだよぉーー!!」
(・・・テイムマスターが会いに来た?何のために・・・はっ?!こいつ・・まさか・・・)
ゼノアはルナレーンの目的に朧げながら気付く。そしてゼノアは答え合わせとばかりにルナレーンが憑依するエンペラーデスグリズリーに先制攻撃を決断した。
「アースジャベリン!!」
ずどどどどどっ!!!
ゼノアが放った魔法はエンペラーデスグリズリーの足元から無数の尖った岩が突き出だしエンペラーデスグリズリーの身体を貫きその場に縫い付けた。
「主様。御見事ですわ!魔人には隙を見せず先制攻撃。理に叶っていますわ!」
「うん。だけどね・・・テイムマスターのこいつの目的は多分・・・フェルネスなんだよ。」
「えっ?!私ですか?!」
「あはははぁぁぁーー!!せいかーーい!!人間のお子ちゃまと思っていたけど私の目的に気付くなんて凄いねぇーー!!ちょっとだけ褒めてちゃうよーー!!だってぇーー!マグちゃんから新しいお友達を貰う約束してたのにぃーー、あんた達がマグちゃんを殺しちゃったからお友達が貰えなかったんだよーー!!うふふっ・・・だ・か・ら・・・その子・・・頂戴!!!」
「やっぱりか!!」
ルナレーンの楽しそうな声と共に串刺しになったエンペラーデスグリズリーの身体から魔力が溢れ出しフェルネスを中心に魔法陣が展開するのであった。
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自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
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日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
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「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
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それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
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