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第76話 キベリアード伯爵
しおりを挟む「・・・ふふっ・・流石ゼノア様・・・ん?」
メーリアが満足気に大きな木の枝に立ち笑みを浮かべていると森の中から男の話し声が聞こえる。
(あ、あのガキ・・・聖魔法を・・・それに・・・〈ダークバインド〉は魔族しか使えない筈の暗黒魔法だ・・・)
(バルガー様・・で、では・・・やはりあの少年は異端者・・・人間の皮を被った魔族・・・)
(うむ。そう言う事だ・・・くくっ・・丁度良い・・リズナー枢機卿も聖教会の崩壊を目論む異端者として認定されている・・・ここで纏めて排除してやる・・)
聖教会の異端審問官バルガーの一団が森の中からゼノア達の行動の一部始終を監視していた。
(・・・あの紋章は聖教会の・・・ふん。暴利を貪る金の亡者共・・・ゼノア様の手を煩わせるまでも無いわ・・・)
メーリアが懐から黒い玉を取り出し黒塗りの短剣を構えると平原の方から馬の蹄の音が聞こえて来る。
(ん?あれは・・・)
メーリアが平原に目を向けると武装した男達を乗せた三十騎程の騎馬がゼノア達に近付いて行くのが見えた。
(バルガー様。あれは・・・)
(・・・分からん。様子を見るぞ・・・)
バルガー達も身を潜めて成り行きを見る事にした。
騎馬隊の先頭を走る黄金の鎧を纏ったガルバド・キベリアード伯爵と私兵団団長のサリバル・ギリアードの目に大きく黒い獣を捉える。そしてその獣が何かを捕食しているように見えた・・・
「キベリアード伯爵様!あれは!」
「くっ・・・さ、最悪の予感が当たったか・・・あれは南の森の主・・・魔狼ブラッドガルム・・・既に誰か襲われているようだ・・・」
「どうされますか?」
(こんな事が陛下に知れれば私の人生は終わる・・・私はこの国に必要な存在なのだ・・多少の犠牲はやむを得ん・・・)
キベリアード伯爵家は元来戦場で武功を挙げ剣一本で成り上がった貴族であった。代々その地位を守り築き上げて来たのだ。その道のりは長く険しいものであった。その地位を自分の代で失うわけにはいかなかった・・・
「・・・ブラッドガルムの討伐を最優先だ。その後、ラグベルを探せ・・魔物玉の箱を持っている筈だ。後は・・・ブラッドガルムに襲われて死ぬのだ・・・」
「・・そ、それはどういう・・・」
サリバルは耳を疑い聞き返すがガルバドは二度も言わすなと言わんばかりにサリバルに鋭い眼光を飛ばす。
「言葉の通りだ・・いいな?!」
「・・・はっ!」
サリバルは口元を歪ませる。ガルバドの言葉の意図を理解し胸の奥が騒めき心拍数が上がるのを感じる。
(・・・これは命令だ・・仕方ないのだ・・・俺の意思ではない・・・くくっ・・・)
ゼノアとひとしきり戯れていたブラッドガルムが蹄の音に気付き耳を立てて首を擡げる。そして威嚇する様に姿勢を引く構える。
「ぐるるぅぅぅ・・・」
「・・・あの黄金の鎧は・・キベリアード伯爵か!?私兵団を引き連れて何故こんな所に・・・」
リズナーが物々しい武装で向かって来る騎馬の集団に胸騒ぎを覚える。
「リズナーさん!あの人達は誰ですか?」
ゼノアがブラッドガルムから解放され向かってける騎馬集団に首を傾げる。
「あれはガルバド・キベリアード伯爵とその私兵団だ・・・」
リズナーは不穏な空気を感じながら口を開く。
「キベリアード伯爵・・・ラグベル君のお父さん・・・」
「な、何?!・・な、成程・・少し読めて来たぞ・・・」
リズナーはゼノアの言葉に胸騒ぎの原因を悟った。
「ゼノア君・・・」
「は、はい!」
「落ち着いて聞いてくれ。君はその魔物玉を隠して持っていてくれ。私は伯爵と話をする。」
「えっ?どういう事ですか?!」
ゼノアはリズナーの真剣な表情を見て立ち上がる。
「うむ。おそらくこの魔物玉はキベリアード伯爵家の物だ。そして禁止区域でキベリアード伯爵家の魔物玉が使われたのだ。これはスタンピードになり得る事態だ。この事が国王陛下の耳に入れば厳しく処罰される事になる・・・」
ゼノアはリズナーの含みを帯びた言葉の意味を探り答えに到達する・・・
「・・・えっ・・まさか・・・」
「囲め!!」
「あっ・・・」
ゼノアがリズナーに言葉を続けようとしたその時、キベリアード伯爵が率いる騎馬隊に囲まれた。
(・・まさか・・・自分の保身のためにそこまでするのか・・・)
ゼノアは警戒心を高めキベリアード伯爵を見据える。
そしてリズナーは平静を装い作り笑いを浮かべた。
「これはキベリアード伯爵。何故、伯爵自らこんな所へ?」
「むっ!貴様は・・聖教会のリズナー枢機卿か!貴様こそ何を呑気にこんな所に居る?!」
(ちっ・・・厄介な奴が・・・)
「はい。私は少々興味がありましてサーメリア学院の郊外実習に同行しているのです。キベリアード伯爵は何故ここへ?」
「・・・知れた事。報告を受け・・そこのブラッドガルムの討伐に馳せ参じたのだ!」
リズナーはキベリアード伯爵の歯切れの悪い話し方に目を細める。
(・・嘘だな。こんなに早く知る事は出来まい。魔物玉の紛失に気付いて息子に当たりを付けて来たのだろう・・・)
「ほう。さすがセルバイヤ王国で剣技随一と謳われるキベリアード伯爵!・・ですが・・・ブラッドガルムはあの通り大人しくなっておりますのでご安心ください。」
見ればゼノアに頭を撫でられ地面に顎を付けているブラッドガルムがいた・・・
「ぐるぉぉぉぉ・・・」
「な、なんと・・・襲われていたのではないのか!?それに・・あのブラッドガルムが・・・人間に懐くだと・・・」
サリバルは気持ち良さそうに撫でられているブラッドガルムを目を丸くして見ていた。
(・・・こ、こ奴ら・・・まさか魔物玉の事を知らぬのか・・・ん?)
キベリアードがリズナーの右肩の袖口が血に染まっているのに気付く。
「リズナー枢機卿よ。その肩の傷はどうしたのだ?相当な傷に見えるぞ?」
次はリズナーが歯切れが悪くなる。
「あ・・あぁ・・だ、大丈夫です。ブラッドガルムが興奮して私の肩に戯れついただけです・・・私も聖魔法の使い手です。この程度なんでもありません。」
(・・・ブラッドガルムが戯れついただと?しかしあの出血は相当な傷だったはずだ・・・・むっ・・あれは・・・)
キベリアードがふと森の方に目を向けるとイーシアとナルメーラに引率された上級生達が森から出て来るのが見えた。
森から出て来たイーシアの目に黄金の鎧を纏った男が映る。
「あ、あれは・・あの黄金の鎧・・・キベリアード伯爵の私兵団よ!!」
「み、皆んな待って!!あれは・・まさか・・魔狼ブラッドガルム?!」
ナルメーラは遠目にも大きなブラッドガルムを見て立ち止まる。しかしラグベルが黄金の鎧を見て走り出した。
「父様!!」
「あっ!!待ちなさい!!」
咄嗟にイーシアがラグベルを追って走り出す。
「ナルメーラ先生はここで子供達を見ていてください!私が行きます!!」
「は、はい!」
ラグベルは父親のキベリアード伯爵の元まで辿り着くと必死許しを乞うように脚にしがみつく。
「と、父様!!ほ、僕が悪いんじゃない!!僕は悪くないんだ!!あ、あいつが全部悪いんだ!!あ、あいつが!!あいつが!!!」
(ラグベル君・・・何を言って・・・)
ラグベルは必死にゼノアを指差し言い訳を並べる。しかしキベリアード伯爵はそんなラグベルを頬を震わせて見下ろしていた。
「黙れ!!ラグベル!口を閉じろ!!」
「はひっ!!」
ラグベルは父親の迫力に息が詰まる・・
「お前とは後でじっくりと話をしてやる・・・先に帰って覚悟しておけ・・・」
「うぐっ・・・」
キベリアード伯爵は怒りを滲ませラグベルを睨み付けると部下の一人に顎で合図し項垂れるラグベルを連れて行かせた。
「キベリアード伯爵様!」
ラグベルを追って来たイーシアが息をきらしながも丁寧に一例する。
「お前は?」
「はい。私はサーメリア学院の教師イーシアでございます。」
「そうか。イーシアよ。この度の事・・どこまで知っているのだ?」
キベリアード伯爵の言葉に一瞬その場の空気が張り詰めた気がした。
「・・・は、はい。申し上げにくいのですが・・・ご子息のラグベル様が〈魔物玉〉を使用したのです。この事は報告しなければなりません。」
「・・そうか・・・残念だ・・・」
キベリアード伯爵は話を聞き終わると馬から降りた。そして次の瞬間、まるでそれが当然のように躊躇無くキベリアードの剣がイーシアの胸を貫いたのであった・・・
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